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戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』から学べること

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ 経営戦略(基礎)
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■ 「企業経営」に「軍事学」を持ち込んでいいのか

経営戦略(基礎編)
前回は、「経営戦略論」の系譜を紹介しました。これから暫く、戦争と歴史にちなんだお話が続きます。 ― 決して、単純に筆者が歴史オタクだからではありませんよ!(^O^)
なぜなら、皆さんにはこれから、本シリーズで使用される次の5つの言葉の意味をしっかり理解しておいていただきたいからです。
「戦略」
「戦術」
「目的」
「目標」
「手段」
これらの用語には、軍事学からの借用語も含まれています。経営学には「ロジスティクス(logistics)」という立派な用語がありますが、こちらも「兵站(へいたん)」:簡単にいうと補給、という軍事用語が語源となっています。
組織を率いて競合企業(敵)と市場(戦場)で競争(戦争)することは、経営者(指揮官)としては、どうも相通じるものがあるようです。
みなさんが、「事業戦略」「年度計画」「ビジネスプラン」などをビジネスライティングされる際に、こうした用語の本来の意味と相互関係を知っていると、ドキュメントの構成が読み手によって理解されやすいものになるのではと期待しています。

 

■ 時代背景の確認

クラウゼヴィッツ(1780~1831)は、ドイツ(当時はプロイセン)の軍人で、かのナポレオンと同時代の人でした。著名な『戦争論』は彼の死後、奥様が遺稿を編集して世に出ました。ナポレオンは当時の常識を覆し、国家間の戦争を、統治者(王様)同士の私闘から、国民同士の総力戦に再定義しました。
ナポレオン登場以前のヨーロッパの戦争のルールは次の通りです。あちこちで戦闘を行いながら、相手の王様が居る首都(王都)を包囲または陥落させると、相手が降参して、賠償金や領土を勝ち取って終了するというものでした。まさしく、チェスにおけるチェックメイト状態で手詰まりになると戦争が終わります。盤上に味方の駒が残っていたとしても。
しかし、ナポレオンは、国民を総動員(徴兵制度で)し、戦争を王様同士のチェスから、国民国家間の総力戦に意味を変容させました。この場合の勝利条件は、相手国の戦力を殲滅(せんめつ)することに代わったのです。相手側の戦闘力を無力化し、相手が戦闘継続できなくなると戦争が終わります。チェスでいうと、キング以外の駒が盤上から姿を消す感じです。そして晴れて相手の王都を占拠して、戦後交渉を始めます。
クラウゼヴィッツの時代は、戦争というものは相手の戦闘力を奪い、暴力で政治的要求(領土割譲や賠償金支払いなど)を押し通すための「手段」ということになります。当時のヨーロッパの外交・政治の目的は、ある主権国家が相手国にどうやって自国のいいなりにさせるか、ということでした。

 

■ 「目的」と「手段」の関係

軍人であるクラウゼヴィッツの立場からすれば、「政治」が決めた「目的」:相手国を屈服させていうことを聞かせる、を実現するための「手段」として「戦争」で相手国の戦力を殲滅することを「目標」とする、という構造になります(しれっとキーワードを入れてみましたが、解説は後ほど)。
後世の私たちは軍人でもありませんし、その後の歴史も学んでいるので、「政治」と「戦争」の関係を下図のような全体構造の中で整理することもできます。
経営戦略(基礎編)_政治の目的と手段
ここで経営戦略論にも応用可能な示唆(しさ)は、

  1. あるひとつの「目的」を達成するには「手段」は往々にして複数ある可能性が高い
  2. 複数ある「手段」のうち、一体どれが「目的」達成に最も適切か「比較」して判断する必要がある

ということになります。
クラウゼヴィッツは、『戦争論』の中で、

「戦争はほかの手段をもってする政治の継続にすぎない」
「政治は目的をきめ、戦争はこれを達成する」

と述べていますが、それは軍人としての視野またはミッションとして政治の目的達成の手段として戦争しか考えることができなかったという限界(やさしくいうと前提)になります。
皆さんには、経営戦略立案の場面に対峙した際、是非、「目的」には「手段」は複数あることを忘れないでいただきたいと思います。そして、「比較」するというのは「管理会計」の得意分野ということです。その辺は「管理会計(基礎編)」シリーズをご確認ください。

 

■ 目的の連鎖

企業は、トップマネジメントが示した唯一の「経営目的(抽象度が高い場合が多い)」のありがたいお言葉一つだけで組織別活動方針も機能別戦略も、計数的目標値の設定もできません。そのありがたいお言葉を自分の責任領域においてより具体的に解釈して、自組織における方針を明確化する必要があります。
経営戦略(基礎編)_目的と手段の連鎖
経営者が示した「大目的」から「大目的の手段」を導き、「大目的の手段」はその実行責任者にとってはそれ自体が「目的(経営者から見たら小目的)」となり、実行責任者の責任範囲で最善と思われる「(小)目的の手段」が選択されるという「目的」-「手段」の連鎖(ブレークダウン)が形成されます。
これは、Command & Control 型(指揮統制型)のトップダウンを好む組織の経営管理手法に大変親和性がある考え方です。
つまり、企業内部において、

  1. 「目的」と「手段」という位置づけはあくまで相対的なものである
  2. 自己の責任範囲・活動範囲内からしか自分自身の「目的」と「手段」のセットを選ぶことはできない

ということです。
次回は、「目的」と「目標」の違いとその周辺のフレームワークの考え方を説明したいと思います。
ここまで、「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』から学べること」を説明しました。
経営戦略(基礎編)_戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』から学べること

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