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■ アクシスコミュニケーションズをTOBで完全子会社化へ

経営管理会計トピック
事業ポートフォリオの再構築ということで、新たに、ネットワークカメラ市場への参入を、当該市場におけるトップ企業であるアクシス(スウェーデン)のTOB(株式公開買い付け)による取得(完全子会社化)にて試みることになりました。
これで、国内首位であるパナソニック(世界シェア:8.4%)を断トツで抜き去り、一気に世界シェア21%に躍り出ることになります。

2015/2/11|日本経済新聞|朝刊 キヤノン、監視カメラ世界首位買収 3300億円で 欧州から成長市場攻略


(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「キヤノンは10日、街角や工場の監視などに使うネットワークカメラの世界最大手、スウェーデンのアクシスコミュニケーションズを約3300億円で買収すると発表した。同カメラはスーパーの売れ筋分析や高齢者の見守りなどにも用途が広がり、市場規模は今後4年で現状の2倍の約3兆円になる。キヤノンは主力のカメラ事業などが苦戦するなか、豊富な手元資金を使って成長市場で一気に首位に立つ。」

■ 簡単にディールの収益率をみてみる

今回は、このM&Aの損得評価が主題ではないので、ごく簡単に、想定収益率を見てみます。
今回のTOBの詳細は、当社プレスリリースの内容によります。
アクシスコミュニケーションを100%子会社とするための買付予想金額は、3337億円。
同社の2014年12月期の純利益は、76億円。
足元の投資収益性は、
ROI = 76億円 ÷ 3,337億円 = 2.28%
一方で、キヤノンの2014年12月期の決算発表資料から、
ROA:5.8%
ROE:8.6%
とあります。
今回の買収資金がすべて手元流動性から賄われるとして、預金金利が0.35%(税引後)と仮定すると、買収資金として費やす3337億円が稼いでいた受取利息は、
3337億円 × 0.35% = 12億円
2013年12月末現在の手元流動性が、7,889億円、2014年末現在の手元流動性が、8,446億円なので買収資金はすべて手元流動性から出せるので、買収資金の機会原価は12億円とみなせます。
2013年12月末現在の総資産が42,427億円、2014年12月末の総資産が44,606億円、2014年12月期の当期純利益が、2,548億円なので、
買収直後想定ROAを試算すると、
想定ROA = (2,548 - 12 + 76)÷((42,427 + 444,606) ÷ 2))
          = 2,612 ÷ 43,517
          = 6.00%
経営管理会計トピック_キヤノンのアクシス買収
新聞記事によると、3年後には、この市場規模は約2倍になると見込まれるそうで、そうすると、総資産が上記平均資産と仮定して、アクシスの純利益がそのまま2倍になると想定すると、
想定ROA2 = (2,548 - 12 + 152)÷(43,517 + 152)
          = 2,688 ÷ 43,669
          = 6.16%
まあ、豊富な手元流動性から全額買収資金を賄えば、追加コストが無いと仮定すれば、買収資金額に対する受取金利と、買収対象のROAのスプレッドがプラスだったら、放っておいても企業価値は増大します。
実は、上記計算は検算するまでもありませんでした。

■ 本当に見たかったのは、B/Sでした

今回、このディールを取り上げたのは、キヤノンのB/Sの変化について考えたかったからです。
合わせて考慮したい新聞記事は下記の通りです。

2015/1/27|日本経済新聞|朝刊 キヤノン、金庫株3割へ 20年メド 自社株買い継続 資本効率の改善狙う

「キヤノンは2020年をメドに、発行済み株式に占める自社株(金庫株)の比率を現在の18%から30%まで引き上げる方針だ。16年12月期に始まる次の5カ年経営計画期間中の達成を目指す。潤沢な手元資金をもとに自社株買いを続け、自己資本利益率(ROE)など資本効率の改善を狙う。」
今回のM&Aと、自社株買いを合わせて、キヤノンのB/Sがどのように変化するか、その様を確認するのが本日のメインテーマです。
新聞記事によると、自社株比率を30%にあげるためには、6,100億円(記事前日の株価ベース)強規模の買入が必要だそうで、そうなると、下表のように、貸借のバランスが変化します。
(ここでは、2020年までの5年間をかけて自社株取得するのを、一気に実施したらという仮定で before/after を見てみます)
経営管理会計トピック_キヤノンのBS変化
まず、借方からみてみます。
手元流動性は、8,446億円もあるのですが、アクシス買収に3,337億円、自己株取得に6,100億円を使うとすると、合計:9,437億円となり、991億円不足します。
これは、2014年12月期のフリーキャッシュフロー(FCF)が3,147億円あるので、5年にわたってこの不足分をFCFから毎年198億円ずつ捻出する形となります。ただし、売上高の5%となる1,864億円は、資金繰り上、手元流動性として残しておく必要があるとしたら、不足額は、合計して2,855億円となるので、これを5年間、571億円/年だけFCFから捻出することになります。
次に貸方を見てみます。
利益剰余金は十分に蓄積されているので、自己株取得分が控除された、純利益剰余金は、
17,636億円となり、
控除率 = (10,114 + 6,100) ÷ 33,850
        = 47.9%
まだ、52.1%は、ネットで利益剰余金が残る計算となります。
1/27の自己株式(金庫株)取得の新聞記事が出たときには、この金庫株を消却せずに、M&Aで活用するのだろうと思い、この記事を筆者の手元で温めていたのですが、3000億円超のTOBを実施するということで、併せて説明しました。
金庫株を使っての、株式交換による、、、という動きが加わるかもしれません。今後の動向を経過観察していきたいと思います。

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小林 友昭会計で経営を読む■ アクシスコミュニケーションズをTOBで完全子会社化へ 事業ポートフォリオの再構築ということで、新たに、ネットワークカメラ市場への参入を、当該市場におけるトップ企業であるアクシス(スウェーデン)のTOB(株式公開買い付け)による取得(完全子会社化)にて試みることになりました。 これで、国内首位であるパナソニック(世界シェア:8.4%)を断トツで抜き去り、一気に世界シェア21%に躍り出ることになります。 2015/2/11|日本経済新聞|朝刊 キヤノン、監視カメラ世界首位買収 3300億円で 欧州から成長市場攻略 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「キヤノンは10日、街角や工場の監視などに使うネットワークカメラの世界最大手、スウェーデンのアクシスコミュニケーションズを約3300億円で買収すると発表した。同カメラはスーパーの売れ筋分析や高齢者の見守りなどにも用途が広がり、市場規模は今後4年で現状の2倍の約3兆円になる。キヤノンは主力のカメラ事業などが苦戦するなか、豊富な手元資金を使って成長市場で一気に首位に立つ。」 ■ 簡単にディールの収益率をみてみる今回は、このM&Aの損得評価が主題ではないので、ごく簡単に、想定収益率を見てみます。 今回のTOBの詳細は、当社プレスリリースの内容によります。 アクシスコミュニケーションを100%子会社とするための買付予想金額は、3337億円。 同社の2014年12月期の純利益は、76億円。 足元の投資収益性は、 ROI = 76億円 ÷ 3,337億円 = 2.28% 一方で、キヤノンの2014年12月期の決算発表資料から、 ROA:5.8% ROE:8.6% とあります。 今回の買収資金がすべて手元流動性から賄われるとして、預金金利が0.35%(税引後)と仮定すると、買収資金として費やす3337億円が稼いでいた受取利息は、 3337億円 × 0.35% = 12億円 2013年12月末現在の手元流動性が、7,889億円、2014年末現在の手元流動性が、8,446億円なので買収資金はすべて手元流動性から出せるので、買収資金の機会原価は12億円とみなせます。 2013年12月末現在の総資産が42,427億円、2014年12月末の総資産が44,606億円、2014年12月期の当期純利益が、2,548億円なので、 買収直後想定ROAを試算すると、 想定ROA = (2,548 - 12 + 76)÷((42,427 + 444,606) ÷ 2))           = 2,612 ÷ 43,517           = 6.00% 新聞記事によると、3年後には、この市場規模は約2倍になると見込まれるそうで、そうすると、総資産が上記平均資産と仮定して、アクシスの純利益がそのまま2倍になると想定すると、 想定ROA2 = (2,548 - 12 + 152)÷(43,517 + 152)           = 2,688 ÷ 43,669           = 6.16% まあ、豊富な手元流動性から全額買収資金を賄えば、追加コストが無いと仮定すれば、買収資金額に対する受取金利と、買収対象のROAのスプレッドがプラスだったら、放っておいても企業価値は増大します。 実は、上記計算は検算するまでもありませんでした。 ■ 本当に見たかったのは、B/Sでした今回、このディールを取り上げたのは、キヤノンのB/Sの変化について考えたかったからです。 合わせて考慮したい新聞記事は下記の通りです。 2015/1/27|日本経済新聞|朝刊 キヤノン、金庫株3割へ 20年メド 自社株買い継続 資本効率の改善狙う 「キヤノンは2020年をメドに、発行済み株式に占める自社株(金庫株)の比率を現在の18%から30%まで引き上げる方針だ。16年12月期に始まる次の5カ年経営計画期間中の達成を目指す。潤沢な手元資金をもとに自社株買いを続け、自己資本利益率(ROE)など資本効率の改善を狙う。」 今回のM&Aと、自社株買いを合わせて、キヤノンのB/Sがどのように変化するか、その様を確認するのが本日のメインテーマです。 新聞記事によると、自社株比率を30%にあげるためには、6,100億円(記事前日の株価ベース)強規模の買入が必要だそうで、そうなると、下表のように、貸借のバランスが変化します。 (ここでは、2020年までの5年間をかけて自社株取得するのを、一気に実施したらという仮定で before/after を見てみます) まず、借方からみてみます。 手元流動性は、8,446億円もあるのですが、アクシス買収に3,337億円、自己株取得に6,100億円を使うとすると、合計:9,437億円となり、991億円不足します。 これは、2014年12月期のフリーキャッシュフロー(FCF)が3,147億円あるので、5年にわたってこの不足分をFCFから毎年198億円ずつ捻出する形となります。ただし、売上高の5%となる1,864億円は、資金繰り上、手元流動性として残しておく必要があるとしたら、不足額は、合計して2,855億円となるので、これを5年間、571億円/年だけFCFから捻出することになります。 次に貸方を見てみます。 利益剰余金は十分に蓄積されているので、自己株取得分が控除された、純利益剰余金は、 17,636億円となり、 控除率 = (10,114 + 6,100) ÷ 33,850         = 47.9% まだ、52.1%は、ネットで利益剰余金が残る計算となります。 1/27の自己株式(金庫株)取得の新聞記事が出たときには、この金庫株を消却せずに、M&Aで活用するのだろうと思い、この記事を筆者の手元で温めていたのですが、3000億円超のTOBを実施するということで、併せて説明しました。 金庫株を使っての、株式交換による、、、という動きが加わるかもしれません。今後の動向を経過観察していきたいと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します