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■ おまじないとして「ROE」に言及していますが、いったん無視で

経営管理会計トピック
三菱電機が、従来の「売上高営業利益率(ROS)」などで管理してきた事業部別の収益性を「三菱電機版ROIC」なるもので管理する! という新聞記事がありました。そして記事は次の一文で締められています。
「増配とあわせ新指標で資金を有効に活用し、継続的なROE改善を目指す。」
まあ、ROEうんぬんはある種の「おまじない」としていったん脇に置いておくとして、今回は、「三菱電機版ROIC」の計算式への理解を深めるとともに、三菱電機のねらいを、業績管理会計の格好のお手本として、ちと解説してみたいと思います。

2015/3/25|日本経済新聞|朝刊 三菱電、資本効率を事業ごとに管理 今期 資金投入にメリハリ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「三菱電機は2015年3月期から、事業部門ごとに資本の効率性を管理する仕組みを導入する。各部門の事業活動に必要なお金を節約しつつ、効率的に稼ぐことを目標とする新指標を使う。今期は2000億円規模の戦略投資を検討するなど攻めの姿勢に転じている。資金の有効活用を促す新指標で投資にメリハリを付け、今期見通しで12%程度の自己資本利益率(ROE)引き上げを目指す。」

■ まず教科書的なROICとは

「ROIC:Return On Invested Capital(投下資本利益率)」の教科書的な計算式は、
= NOPAT ÷ 投下資本 × 100
= 営業利益 × (1 - 実効税率) ÷ (有利子負債 + 純資産) × 100
となります。
どんな事業や企業に投資するべきか、投資収益性から投資判断を必要とする人が使う指標です。
分子に支払利息の影響を受けない営業利益を使っていること、かつ税金を考慮していること、分母に有利子負債と純資産の合計額を使っていることから、
① キャッシュベースのリターンを想定している
② 資金調達構成の影響を受けない
投資収益性を測る指標となります。
経営者や、企業全体を投資対象と考える投資家(広く一般的に事業会社にお金を提供して、見返りとしてキャッシュを望んでいる人たち)は、「投下資本」をB/Sの右側(貸方)で考えます。
経営管理会計トピック_投資家から見た投下資本
一方で、ある一定の事業領域におけるビジネス責任のある立場にある人たち(一般的には事業部長とかカンパニー長など)は、どれだけの資産を動員して自分が責任を有するビジネスの投資収益性を高めるか、という視点から、「投下資本(この場合は投下資産と呼ぶべきですが)」をB/Sの左側(借方)で考えます。
経営管理会計トピック_経営者から見た投下資本
今回の、「三菱電機版ROIC」は、各事業部長に対して、自分の事業における投資収益性を管理させる意図から、B/Sの左側アプローチで「投下資本」を把握することを選択しています。

■ 次に三菱電機版「ROIC」の構造をひも解きます

では、計算式から。
三菱電機版ROIC = 営業利益 ÷ 投下資本 × 100
= 営業利益 ÷ (運転資本 + 固定資産) × 100
事業部長に管理させるので、いったん実効税率は忘れさせます。厳密にいうと、三菱電機は当然グローバル企業なので、各事業部が日本以外でも事業活動をしているため、税金とか、キャッシュベースの収益とか言い出すと、世界各国の税率と、その国・地域ごとの営業利益を個別に管理しなくてはいけなくなります。それは事業部長には荷が重いということです。
そして、投下資本は、調達側で考えるのではなく、事業部長の視点に立って、資産として事業にどれだけ使用するか、運用側で考えさせることになっています。
では、図解したものを下記にお示しします。
経営管理会計トピック_三菱電機版ROIC
P/LとB/Sの世界だけで、事業部長に対して、投資収益性を管理させようとしています。まあ、極めて実務的で、成功確率はその方が高いと思われます。
事業部長が、自身の事業における投資収益性をコントロールする際にさわれるコントロールレバーは次の7つです。
P/Lからは、
① 売上高(↑)
② 売上原価(↓)
③ 販管費(↓)
B/Sからは、
④ 売上債権(↓)
⑤ 在庫(↓)
⑥ 買入債務(↑)
⑦ 固定資産(↓)
これが、従来の「売上高営業利益率(ROS)」だと、上記の①から③までが事業部長の責任範囲でした。これにB/Sからの④から⑦が加わったということになります。
責任と権利は「ウラハラ」の関係にあります。事業部長に「運転資本」の管理をさせるということは、お得意様からの売掛金の回収期間の短縮、サプライヤーへの買掛金の支払い期間の延期を、事業部長がコントロールできる、という前提が無いと、成立しません。
資金管理子会社が、CMS(Cash Management System)を運用していて、ネッティングとかプーリングとか、通貨(ドルとかユーロとか)ごとに集中管理していたり、汎用部材を「グローバル調達センター」が、集中購買管理していたりしていたら、その部署と事業部長の権限バランスをとるための制度設計が難しそうですね。

■ 最後に「ROIC」が改善すると「ROE」が上昇するの巻

別段、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、両者には、新聞記事から引用すると、次のような関係性がある、と一般的に考えられています。
1)監視強化
「新指標では事業に必要なお金をどう節約するかをより細かくチェックする。」
2)適切な資金配分
「ROICが改善している部門には優先的に資金を投入するなどメリハリを付け、投資を収益拡大に結びつけやすくする。」
1)は、可視化あるところに管理アリ、なので、ふーん、そういうものか、とまあ納得できます。でも2)は、より儲かっているところに資金を投下して、儲からないところからはお金を引き揚げる、と言っています。
うーーん? 2)はどうなんでしょう? そんな機械的な投資判断を三菱電機ほどのビックネームがするはずがありません。ある種のPPM理論(事業の目利き)をもってして、事業内容から資金配分を考えるはずです。
この辺のPPM理論については、次の投稿をご参考下さい。
⇒「事業ポートフォリオ管理(3) - ポートフォリオ組み換え方法
2)はともかく、1)の効果から、社内でムダなお金の使い方をしなくなります(本当かな?)。そうすると、余剰資金が生まれます。となれば、記事によると、
「だが自己資本比率は足元で46%と高く、好業績でも自己資本がさらに膨む恐れもあった。日本企業のお金の使い道に対する投資家の目が一段と厳しくなる中、増配とあわせ新指標で資金を有効に活用し、継続的なROE改善を目指す。」
はぁー、増配(社外流出)による純資産の圧縮 → ROEの分母が小さくなる → ROEが改善する。。。 またその論法ですか。(-_-)
ROE改善で締めてくれるのではなく、2)のより儲かっているビジネスの成長に集中的に資金投下して、分子を大きくして、企業の利益と資金(内部留保)を増やす。その余技として、ある一定幅の増配なら許容できないこともないこともないのですが。。。
好業績の結果、内部留保が厚くなり、自己資本比率が高くなって何が悪いんですか? 次のビジネスチャンスに回すお金が増えるじゃないですか。保有する現金等価物が増えれば、放っておいてもその分は資産価値面から株価は上がるじゃないですか。倒産リスクが低くなり、よりハイリスク・ハイリターンのビジネス(一部言い換えると、より長期的な取り組みを必要とするビジネス)にも取り組めるようになるじゃないですか!!!
キャッシュ(配当)を欲しがる株式の短期保有者は無視して、本質的な企業価値増進に向けた経営をしてほしいものです。
(決して、三菱電機はそうでないと言っているわけではないですよ。最近の「ROE」を信奉する一部の人に向けて言っているだけですよ!あくまで一般論です。)

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三菱電、資本効率を事業ごとに管理 今期 資金投入にメリハリhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むROE,ROIC,三菱電機■ おまじないとして「ROE」に言及していますが、いったん無視で 三菱電機が、従来の「売上高営業利益率(ROS)」などで管理してきた事業部別の収益性を「三菱電機版ROIC」なるもので管理する! という新聞記事がありました。そして記事は次の一文で締められています。 「増配とあわせ新指標で資金を有効に活用し、継続的なROE改善を目指す。」 まあ、ROEうんぬんはある種の「おまじない」としていったん脇に置いておくとして、今回は、「三菱電機版ROIC」の計算式への理解を深めるとともに、三菱電機のねらいを、業績管理会計の格好のお手本として、ちと解説してみたいと思います。 2015/3/25|日本経済新聞|朝刊 三菱電、資本効率を事業ごとに管理 今期 資金投入にメリハリ (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「三菱電機は2015年3月期から、事業部門ごとに資本の効率性を管理する仕組みを導入する。各部門の事業活動に必要なお金を節約しつつ、効率的に稼ぐことを目標とする新指標を使う。今期は2000億円規模の戦略投資を検討するなど攻めの姿勢に転じている。資金の有効活用を促す新指標で投資にメリハリを付け、今期見通しで12%程度の自己資本利益率(ROE)引き上げを目指す。」 ■ まず教科書的なROICとは 「ROIC:Return On Invested Capital(投下資本利益率)」の教科書的な計算式は、 = NOPAT ÷ 投下資本 × 100 = 営業利益 × (1 - 実効税率) ÷ (有利子負債 + 純資産) × 100 となります。 どんな事業や企業に投資するべきか、投資収益性から投資判断を必要とする人が使う指標です。 分子に支払利息の影響を受けない営業利益を使っていること、かつ税金を考慮していること、分母に有利子負債と純資産の合計額を使っていることから、 ① キャッシュベースのリターンを想定している ② 資金調達構成の影響を受けない 投資収益性を測る指標となります。 経営者や、企業全体を投資対象と考える投資家(広く一般的に事業会社にお金を提供して、見返りとしてキャッシュを望んでいる人たち)は、「投下資本」をB/Sの右側(貸方)で考えます。 一方で、ある一定の事業領域におけるビジネス責任のある立場にある人たち(一般的には事業部長とかカンパニー長など)は、どれだけの資産を動員して自分が責任を有するビジネスの投資収益性を高めるか、という視点から、「投下資本(この場合は投下資産と呼ぶべきですが)」をB/Sの左側(借方)で考えます。 今回の、「三菱電機版ROIC」は、各事業部長に対して、自分の事業における投資収益性を管理させる意図から、B/Sの左側アプローチで「投下資本」を把握することを選択しています。 ■ 次に三菱電機版「ROIC」の構造をひも解きます では、計算式から。 三菱電機版ROIC = 営業利益 ÷ 投下資本 × 100 = 営業利益 ÷ (運転資本 + 固定資産) × 100 事業部長に管理させるので、いったん実効税率は忘れさせます。厳密にいうと、三菱電機は当然グローバル企業なので、各事業部が日本以外でも事業活動をしているため、税金とか、キャッシュベースの収益とか言い出すと、世界各国の税率と、その国・地域ごとの営業利益を個別に管理しなくてはいけなくなります。それは事業部長には荷が重いということです。 そして、投下資本は、調達側で考えるのではなく、事業部長の視点に立って、資産として事業にどれだけ使用するか、運用側で考えさせることになっています。 では、図解したものを下記にお示しします。 P/LとB/Sの世界だけで、事業部長に対して、投資収益性を管理させようとしています。まあ、極めて実務的で、成功確率はその方が高いと思われます。 事業部長が、自身の事業における投資収益性をコントロールする際にさわれるコントロールレバーは次の7つです。 P/Lからは、 ① 売上高(↑) ② 売上原価(↓) ③ 販管費(↓) B/Sからは、 ④ 売上債権(↓) ⑤ 在庫(↓) ⑥ 買入債務(↑) ⑦ 固定資産(↓) これが、従来の「売上高営業利益率(ROS)」だと、上記の①から③までが事業部長の責任範囲でした。これにB/Sからの④から⑦が加わったということになります。 責任と権利は「ウラハラ」の関係にあります。事業部長に「運転資本」の管理をさせるということは、お得意様からの売掛金の回収期間の短縮、サプライヤーへの買掛金の支払い期間の延期を、事業部長がコントロールできる、という前提が無いと、成立しません。 資金管理子会社が、CMS(Cash Management System)を運用していて、ネッティングとかプーリングとか、通貨(ドルとかユーロとか)ごとに集中管理していたり、汎用部材を「グローバル調達センター」が、集中購買管理していたりしていたら、その部署と事業部長の権限バランスをとるための制度設計が難しそうですね。 ■ 最後に「ROIC」が改善すると「ROE」が上昇するの巻 別段、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、両者には、新聞記事から引用すると、次のような関係性がある、と一般的に考えられています。 1)監視強化 「新指標では事業に必要なお金をどう節約するかをより細かくチェックする。」 2)適切な資金配分 「ROICが改善している部門には優先的に資金を投入するなどメリハリを付け、投資を収益拡大に結びつけやすくする。」 1)は、可視化あるところに管理アリ、なので、ふーん、そういうものか、とまあ納得できます。でも2)は、より儲かっているところに資金を投下して、儲からないところからはお金を引き揚げる、と言っています。 うーーん? 2)はどうなんでしょう? そんな機械的な投資判断を三菱電機ほどのビックネームがするはずがありません。ある種のPPM理論(事業の目利き)をもってして、事業内容から資金配分を考えるはずです。 この辺のPPM理論については、次の投稿をご参考下さい。 ⇒「事業ポートフォリオ管理(3) - ポートフォリオ組み換え方法」 2)はともかく、1)の効果から、社内でムダなお金の使い方をしなくなります(本当かな?)。そうすると、余剰資金が生まれます。となれば、記事によると、 「だが自己資本比率は足元で46%と高く、好業績でも自己資本がさらに膨む恐れもあった。日本企業のお金の使い道に対する投資家の目が一段と厳しくなる中、増配とあわせ新指標で資金を有効に活用し、継続的なROE改善を目指す。」 はぁー、増配(社外流出)による純資産の圧縮 → ROEの分母が小さくなる → ROEが改善する。。。 またその論法ですか。(-_-) ROE改善で締めてくれるのではなく、2)のより儲かっているビジネスの成長に集中的に資金投下して、分子を大きくして、企業の利益と資金(内部留保)を増やす。その余技として、ある一定幅の増配なら許容できないこともないこともないのですが。。。 好業績の結果、内部留保が厚くなり、自己資本比率が高くなって何が悪いんですか? 次のビジネスチャンスに回すお金が増えるじゃないですか。保有する現金等価物が増えれば、放っておいてもその分は資産価値面から株価は上がるじゃないですか。倒産リスクが低くなり、よりハイリスク・ハイリターンのビジネス(一部言い換えると、より長期的な取り組みを必要とするビジネス)にも取り組めるようになるじゃないですか!!! キャッシュ(配当)を欲しがる株式の短期保有者は無視して、本質的な企業価値増進に向けた経営をしてほしいものです。 (決して、三菱電機はそうでないと言っているわけではないですよ。最近の「ROE」を信奉する一部の人に向けて言っているだけですよ!あくまで一般論です。)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します