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■ 「配賦基準」の決め方は永遠の課題

管理会計(基礎編)
前回」は、とあるコンサルティングファームを題材に、「割り勘」という「配賦基準」で間接費を各事業部に割り付けて、「事業部別業績管理」での数字を確認しました。間接費を業績管理単位に配賦することで、全社利益への貢献度を直接事業部単位の利益だけを見るだけで、把握することができました。
しかし、前々回とは違って、今度は「流通小売事業部」の全社利益への貢献度が少なめになるような評価結果となりました。つまり、「配賦基準」の選択次第では、間接費の割り付けを受ける管理対象の評価がまるっきり変わってしまうということです。深慮遠謀から慎重に「配賦基準」は選択したいものです。
そして、これは管理会計をやっている人に共通の悩みだと思いますが、「正しい」配賦とは何か、という命題に正解はあるのでしょうか?
筆者の個人的見解から申し上げると、「正しい」配賦基準とは存在しない、あるのは「目的合理的な」配賦基準のみである、というものです。「目的合理的」というのは、間接費を「配賦」することで、業績管理単位の損益数値を提示することで、評価者の思惑通りに、関係者が行動してくれればそれでOKというものです。

■ 「Activity Based Costing」を使って間接費を配賦する

80年代に米国でロバート・S・キャプランという大先生が、膨大に膨れ上がった間接費を上手にコントロールする方法が無いかと「ABC:Activity Based Costing(活動基準原価計算)」を考えつきました。
発生してしまった間接費を、何かの理屈をつけて全て業績管理対象に配分したい
⇒ 間接費も全て負担した後の業績管理対象の損益(原価)を把握したい
という考えから、
業績管理対象が使用している経営資源量の無駄をなくして、間接費総額を節約したい
⇒ 経営資源の使用状況に応じて、業績管理対象が使った間接費を把握したい
という考え方に180°発想が変わったのです。
従来は、
(間接費) ⇒ (配賦基準) ⇒ (業績管理対象)
という計算フローだったものが、
(経営資源) ⇒ (リソース・ドライバー) ⇒ (活動) ⇒ (アクティビティ・ドライバー) ⇒ (業績管理対象)
という計算フローになりました。

■ ABCで「事業部別業績管理」を実践してみる

では、このABCの考え方に沿って、例のコンサルファームの事業部別業績管理に工夫を加えてみましょう。
管理会計(基礎編)_ABC_リソースドライバーとアクティビティドライバー
まず、ABCの考え方によると、経営管理本部の人件費:20は、「本部メンバーの作業時間」という「経営資源」を「契約書作成支援サービス」という「活動」を消費した分だけ、各事業部に配賦されます。一方で、家賃:80は、「オフィスの作業空間」という「経営資源」を「作業空間の使用(人数分の座席の占有)」という「活動」を消費した分だけ、各事業部に配賦されます。
その結果の各事業部の利益は下表のようになります。
管理会計(基礎編)_事業部別業績管理_ABCで配賦
ここから得られるインサイトは何になるでしょうか。
まず表面的なものとして、

  1. 家賃が専有面積比例で配賦するため、予算の段階から経営管理本部に配賦されない残り(16)が最初から存在していること
  2. 流通小売事業部が今度は、目標の利益率を達成していること

が挙げられます。
これらは、次のことを意味しています。
《1.について》
「ABC」は、各業績管理単位が、どれくらい間接費発生額とひもづけられている経営資源を使ったかで、間接費を割り付ける(配賦する)ので、そもそも経営管理本部が使用しているオフィス面積(座席数にして5人分)は、各事業部に配賦されずに残ってしまいます。
《2.について》
ざっくり、割り勘でなく、流通小売事業部が消費した経営資源を細かくみたら、売上(契約書を処理すべき案件)の減少、人数(座席)の減少ぶんだけ、きちんと経営資源の使用量の減額という形で、間接費が配賦されているので、目標通りの利益率の達成となりました。

■ ABC導入の真意とは

巷でまことしやかに囁かれている「ABCを導入すると正しく間接費を配賦することができる」ということは決してありません。
強いて端的にまとめるとすると、

  1. ABCを導入すると、余計な経営資源を明確にすることができる
  2. 経営資源を効率的に活用したプロセスを明確にすることができる

の2点になります。
まず1.からですが、流通小売事業部が、本来は20時間の契約書作成支援サービスを消費する予定だからこそ、経営管理本部で5人のスタッフを用意したわけです。それが、実際にふたを開けてみると、獲得した受注案件が目標に達せず、サービス消費時間が10時間余ってしまいました。この10時間の使われなかったサービスを保有していた無駄さ加減を白日の下にさらすことができるのが「ABC」のひとつの醍醐味になります。
この保有サービス(経営資源)の無駄は、一義的には、予定通りサービスを消費することができなかった流通小売事業部長の責任となります。二義的には、全社を見渡してこういう無駄が生じてしまったことを許した経営陣の見通しの甘さということになります。
つぎに、2.ですが、製造業事業部は、目標の利益率を達成できなかったので、評価が落ちる、と判断することは早計であるということです。製造業事業部は、売上が目標の25%増し、直接利益は2割増しの達成をしました。しかも、契約書作成支援サービスを自助努力で、予算通りの10時間に抑えた(節約した)のです。
さらに、流通小売事業部が人数を予算通り増やすことができなかった分、製造業事業部で増員を果たし、家賃負担を2つの事業部合計で予算通りの「64」分を維持することに貢献しています。
「ABC」を導入することは、結果としての「利益率」「利益額」以外に、どういうプロセスで、誰が間接費や経営資源の無駄をなくすことに貢献したかも分析することが可能になることを意味するのです。
重ねて申し上げますが、「ABC」は、「正しく」「精緻な」配賦をするための道具では決してないのであります。経営者に対して、どれだけの経営資源を無駄なく用意すべきか、匕首(あいくち)を突きつける凶器なのであります。
ここまで、「事業部別業績管理 ABCで間接費の配賦」を説明しました。
管理会計(基礎編)_事業部別業績管理 ABCで間接費の配賦

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