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富士重、2期連続ROE30%超へ 今期 円安で業績上振れも 来期、配当性向引き上げ

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■ ROEが2期連続30%とは、、、

経営管理会計トピック
富士重の業績が快調です。記事では、株主還元の強化に取り組む方針が伝えられました。
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富士重工業の2015年3月期の自己資本利益率(ROE)は、2期連続で30%を超える公算が大きくなってきた。会社計画のROE見通しは20%台後半だが、足元の円安で業績の一段の上振れが濃厚なため。来期には自己資本比率が初めて50%を超える見通しで、配当性向の引き上げなど一段の株主配分強化にも取り組む方針だ。
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2014/11/29付 |日本経済新聞|朝刊
富士重、2期連続ROE30%超へ 今期 円安で業績上振れも 来期、配当性向引き上げ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

今回は、いつものいちゃもん(自分でもそう思っていますよ)ではなく、素直に新聞記事を読んで、記事内容を強化するコメントをしていきたいと思います。

■ 配当性向とROEの相関関係

完成車メーカーは7社(日野自動車やダイハツなど、上場子会社は除く)と、トヨタ自動車を筆頭に、ひしめき合っている状態なので、競合比較をどうすればよいかを考える際に、手頃な題材となります。
今回、新聞記事には、配当性向とROEの散布図が掲載されていました。筆者なりに各社の有価証券報告書等から数字を引っ張って来て、掲載された表を再現してみました。
経営管理会計トピック_完成車メーカ_資本政策_数表
経営管理会計トピック_完成車メーカ_資本政策_グラフ1
改めて、この図表を眺めてみると、「配当性向」と「ROE」はホンワカと負の相関がありそうです。
散布図を眺めるとき、右肩上がりだと「正の相関」、左肩上がりだと「負の相関」といって、縦軸の要素と横軸の要素の間に正比例または反比例の関係性を、図の提供者は視覚的に分析させたいのだと理解してください。
閑話休題。
さて、散布図に戻ると、高い配当性向の会社は、ROEが相対的に低くなります。
それは、「株主投資利回り:TRS(Total Returns to Shareholders)」という概念を考えれば、その相関関係が理解できます。株主から一定の投資魅力を維持するためには、2つの方法があります。
ひとつめは、ROEを高めて、高株価状態を作り出し、持ち株を売却すると多額の「キャピタルゲイン」が得られやすくする方法です。
ふたつめは、配当性向を高めて、「インカムゲイン」を多くする方法です。
TRSの概念からは、両者はトレードオフの関係です。だから「配当性向」と「ROE」は負の相関関係となります。
ここで注意なのですが、筆者があくまで「TRS」を「指標」と呼ばず「概念」と呼んだのには訳があります。それは、「キャピタルゲイン」は実際に持ち株を売却しなければ実現しない利益であること。売るためには株を過去に購入しておかなければならない。その保有期間は株主それぞれ違います。したがって、一律的にある会社のTRSが○○%とは言えないはずなのに、ものの本やマスメディアは堂々と具体的な数字が実(まこと)しやかに喧伝(けんでん)されています。まあ、世に出ている「指標」としての「TRS」の真贋は皆さんの方で吟味してみてください。

■ この散布図を強化する(自己資本比率を加えると)

新聞記事内では、富士重の資本政策として、「今期初めて、配当性向20~40%という株主配分政策を明示したが、自己資本比率50%までは内部留保を優先し、配当性向は下限の20%という方針だ」と高橋CFOの方針が記載されているので、新聞に掲載された図表に、「自己資本比率」の要素を加えて、もう一度、散布図を確認してみましょう。
経営管理会計トピック_完成車メーカ_資本政策_グラフ2
新聞記事でも記載がある通り、富士重のポジションは、競合他社に比べて相対的に右上なので、確かに増配余地があります。インカムゲイン狙い(によって株価上昇も)の投資家に好まれるポジションです。ただし、自己資本比率を50%目指すというのは、ちょっと慎重すぎるかもしれません。
(注:本ブログでは、特に必要が無い限り、株価には言及しませんし、特定の銘柄を推奨することもありません。富士重は既に株価が天井ならば、財務指標がよくても、短期的な売買で常に得をするとは限りません。その辺はプロの方の分析にお任せします)
日産は、ちょっと危なっかしいです。自己資本比率は、マツダと同レベルなので、自己資本充実のためには、社外流出(配当支払い)を押さえて、内部留保に回した方がよいのではないかという感じです。しかし、マツダと日産の配当性向は段違いですね。マツダの方が足元の収益性(ROE)が高いにもかかわらず。。。
日産は、トヨタ、ホンダの配当性向を意識しているのかもしれませんがものには限度が。。。
スズキは、高い自己資本比率のポジションにありながら、配当性向が下から2番目です。強い危機感があり、有事に備え、キャッシュを社内に留保する政策を採っているのでしょう。7社の中で、最もROEが低いので、さらなる開発投資やM&Aへの資金需要か、市場変動への備えを考えている様子が見て取れます。まあインド市場のことやGM、VWとの提携解消等、不安材料が。。。
最後に、統計の見方の注意です。ROEは、親会社説による純利益と自己資本から計算されています。自己資本比率はB/Sの純資産から新株予約権や少数株主持分が差し引かれた数字で計算されています。また、配当性向は、決算短信作成要領に従ったものを記載しています。ということで、三菱自動車の配当性向は種類株によって異なりますから注意してください。

■ (おまけ)販売台数と収益性の関係

以前の投稿(自動車、日本勢が快走 トヨタ、純利益首位を堅持 今年度上期、ホンダ・日産自も浮上 米韓勢は失速)で、1台当たり純利益指標を国内メーカーで比較すると興味深い、といっていました。ここで、その作図結果を披露します。
経営管理会計トピック_完成車メーカ_1台当たり純利益_日本_グラフ
やはり、ここでも富士重は、群を抜いて収益性が高くなっています。一番円が大きい(1台当たり純利益が大きい)ですからね。「集中と選択」という言葉がぴったりです。セグメンテーションでは、北米市場のSUVに特化し、技術では、トヨタのような全面展開フルラインナップ(HV、PHV、EV、FCV等)戦略ではなく、総花的でない、「EyeSight」をはじめとする衝突安全や運転支援システムに特化しているところが高い収益性の秘訣のようです。
ここでも、日産は、トヨタの背中を追っかけて規模の拡大に追随しましたが、ちょっと収益性がついてきていない様子が見て取れます。チャレンジャー戦略を採るか、フォロワー戦略に徹するかは、ゴーンCEOの戦略眼次第なのですが、今のところは上手く利益がついてきていないですね。
スズキは、軽自動車なので、1台当たりの利益が小さくて当たり前です。でも、軽の規格が税制的にも、TPP的にも、これまでの優遇がどんどん解消されていく方向にあるんですよね。スズキには向かい風が吹いています。頑張れ!
最後に、統計上仕方がないのですが、純利益で計算する以上、トヨタホームやホンダ、スズキの二輪車の損益も含まれてしまっています。また、ホンダの四輪車の台数の数え方は、形式的な連結決算ベースのものと、実質的な管理ベースのものの2種類あります。複数の新聞記事のデータを検証して、後者を採用しているようなので、上記グラフも実質的な管理ベースのものを使っています。
数字を見るときには、その背景の作られ方にまで、意識して頂ければと思います。
今回は、結局、数字やグラフ等を見るときの注意点ばかりのコメントになってしまいました。

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