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■ 「債権流動化」の動機

経営管理会計トピック
今回は、小稿でしたが、アルミ建材製造の三協立山株式会社が、「2015年5月期は300億円前後を流動化する。前期に流動化した手形債権は200億円強だった。早期の資金回収で運転資金を減らし、有利子負債を圧縮して金利負担を軽減する」という内容です。

2014/10/21付 |日本経済新聞|朝刊
手形債権流動化を加速 三協立山、今期300億円規模

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

ここでは、この施策の意味を再確認したいと思います。有利子負債を増額してまで資金調達額を増やす必要性があるか見てみます。2014年5月期は、売上高:2952億円で、2015年5月期第1四半期の決算短信によると、2015年5月期の業績予想は、売上高:3000億円と2%の微増なので、大きく運転資金不足が発生する事態とは思えません。キャッシュフローも見てみましたが、営業CF:220億円に対し、投資CF:▲69億円、財務CF:▲83億円と、ここでも特に大きな資金需要(設備投資や財務戦略上の返済準備)があるとは思えませんでした。
とすれば、新規の資金需要に対応するというよりは、新聞記事にある通り、現在の金利負担を軽減する方に焦点が当たっているみたいです。

■ 「債権流動化」の損得

新聞記事には、「取引先は三協立山よりも信用力が高い企業が多く、「手形債権を流動化した方が、銀行借り入れよりも金利負担が少ない」(同社)という」とあり、「前期は資金回収の早期化によって支払利息は10億円と前の期に比べて3億円減少した」と、その効果について記述がありました。
ちなみに、
手形債権の流動化とは、取引先が保有している手形債権を期日到来前に外部に売却する(=オフバランス化する)ことによって現金化(流動化)することです。
本当にその効果が3億円もあるのか、いつもの悪い癖で数字を確かめました。

■ 「有価証券報告書」から詳(つまび)らかにする

下記は、三協立山の連結F/Sからの抜粋です。
経営管理会計トピック_三協立山_FS
FY13は、棚卸資産の比率が下がったものの、売上債権比率が前年対比微増で25%を超えています。法人企業統計:全産業平均では、13.8%(平成24年度)なので、売上債権に資金が滞留していることは確かです。運転資金の対売上高比率も、前年から0.2ポイント悪化しています。資産構成から、売上債権の圧縮が求められることが分かりました。
また、FY13の有利子負債の構成比は24.2%と、こちらは法人企業統計:全産業平均では、33.5%(平成24年度)なので、特段、有利子負債の負担が過重だとは思いません。
さらに、支払利息の対売上高比率は、FY13で0.3%ですが、法人企業統計:全産業平均では、0.56%(平成24年度)なので、他社に比べて支払利息が損益に課題に影響しているとも思えません。
つまり、支払利息の負担軽減というよりかは、運転資金の内部的手当て(資金効率の向上)の効果の方が財務分析的にはインパクトが大といえそうです。

■ 支払利息の中身をチェック

連結P/Lを見てみると、「支払利息」とだけありましたが、ここには、債権流動化にかかる手数料や、ファクタリング費用、受取手形の割引と裏書譲渡の残高が前期末で合わせて856百万円もあり、その経費も含まれているとみるべきです。全額が、有利子負債に対する利息とは限りません。したがって、この金額だけを追ってみても、F/Sだけで、三協立山の負担している利率は明らかになりません。
そこで、面倒くさいかもしれませんが、連結附属明細表として「社債」と「借入金」の詳細がわかるので、そこからかなり乱暴ですが、平残方式でかつ積み上げによる有利子負債に対する支払利息額を類推してみます。
経営管理会計トピック_三協立山_社債明細表 
経営管理会計トピック_三協立山_借入金明細表
社債は少額ですが件数が多く、集計が面倒だったのですが、すべて利付債で計算しやすかったのが不幸中の幸いでした。
積み上げると、808百万円の利息を払っており、平均利率は1.354%となりました。この利率が、三協立山によると、取引先よりも信用力が落ちるせいで負担が大きいのだ、ということのようです。
では検証してみましょう。
連結P/Lの支払利息は、1033百万円。そのうち、有利子負債への支払いは808百万円。差額は、225百万円。これが、前期に流動化した手形債権:200億円にかかる手数料(利息に相当すると考える)とすると、

(225百万円) ÷ (200億円) = 1.125%

先程の、有利子負債への支払い利率:1.354%に比べて、0.229%有利であることが分かり、新聞記事の「信用力の差」の分、手形債権流動化の方が有利な資金調達方法であるということは証明できました。でも、金利負担の節約分は46百万円/年 となります。かなり僅少ではないか、という印象はぬぐえませんが、商売の方で、46百万円のマージンを上げるのは大変でしょうから、こうしたちょっとした創意工夫から、企業収益を好転させようとする企業努力は肯定されるべきです。
筆者の見解としては、ここは、金利負担の節約より、調達資金量が財務指標に与えるインパクトの方を大きいと見た方がよいように思えます。
というのは、ROA(経常利益)がFY13:6.6%なのですが、手形債権流動化をせずに、200億円を新規に調達していたら、

ROA(経常利益) = 156億円 ÷ (2,342億円 + 200億円) = 6.1%

と0.5ポイント悪化します。こっちの指標に与える影響の方が大きいとみるべきでしょう。

■ 新聞記事の掲載データの検証の勧め

もし、記事にある通り、3億円の支払利息の節約が200億円の手形債権流動化の効果だとしたら、

(利率) = (3億円) ÷ (200億円) = 1.5%

となり、逆に、三協立山の実際支払利率:1.354%(類推ベース)で、新規に有利子負債による調達をした方が有利になるのです。 
ちなみに、このブログ記事を書いている時点の最新情報(2014/7/10)で、日銀のホームページから、

  • 短期プライムレート:1.475%(最頻値)
  • 長期プライムレート:1.15%

となっております。
そんなに、目玉が飛び出るほど、金利負担が過重とは思いませんが、元来、コンマいくつで勝負する世界。財務担当者の努力には頭が下がる思いです。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 「債権流動化」の動機 今回は、小稿でしたが、アルミ建材製造の三協立山株式会社が、「2015年5月期は300億円前後を流動化する。前期に流動化した手形債権は200億円強だった。早期の資金回収で運転資金を減らし、有利子負債を圧縮して金利負担を軽減する」という内容です。 2014/10/21付 |日本経済新聞|朝刊 手形債権流動化を加速 三協立山、今期300億円規模(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます ここでは、この施策の意味を再確認したいと思います。有利子負債を増額してまで資金調達額を増やす必要性があるか見てみます。2014年5月期は、売上高:2952億円で、2015年5月期第1四半期の決算短信によると、2015年5月期の業績予想は、売上高:3000億円と2%の微増なので、大きく運転資金不足が発生する事態とは思えません。キャッシュフローも見てみましたが、営業CF:220億円に対し、投資CF:▲69億円、財務CF:▲83億円と、ここでも特に大きな資金需要(設備投資や財務戦略上の返済準備)があるとは思えませんでした。 とすれば、新規の資金需要に対応するというよりは、新聞記事にある通り、現在の金利負担を軽減する方に焦点が当たっているみたいです。 ■ 「債権流動化」の損得新聞記事には、「取引先は三協立山よりも信用力が高い企業が多く、「手形債権を流動化した方が、銀行借り入れよりも金利負担が少ない」(同社)という」とあり、「前期は資金回収の早期化によって支払利息は10億円と前の期に比べて3億円減少した」と、その効果について記述がありました。 ちなみに、 手形債権の流動化とは、取引先が保有している手形債権を期日到来前に外部に売却する(=オフバランス化する)ことによって現金化(流動化)することです。 本当にその効果が3億円もあるのか、いつもの悪い癖で数字を確かめました。 ■ 「有価証券報告書」から詳(つまび)らかにする下記は、三協立山の連結F/Sからの抜粋です。 FY13は、棚卸資産の比率が下がったものの、売上債権比率が前年対比微増で25%を超えています。法人企業統計:全産業平均では、13.8%(平成24年度)なので、売上債権に資金が滞留していることは確かです。運転資金の対売上高比率も、前年から0.2ポイント悪化しています。資産構成から、売上債権の圧縮が求められることが分かりました。 また、FY13の有利子負債の構成比は24.2%と、こちらは法人企業統計:全産業平均では、33.5%(平成24年度)なので、特段、有利子負債の負担が過重だとは思いません。 さらに、支払利息の対売上高比率は、FY13で0.3%ですが、法人企業統計:全産業平均では、0.56%(平成24年度)なので、他社に比べて支払利息が損益に課題に影響しているとも思えません。 つまり、支払利息の負担軽減というよりかは、運転資金の内部的手当て(資金効率の向上)の効果の方が財務分析的にはインパクトが大といえそうです。 ■ 支払利息の中身をチェック連結P/Lを見てみると、「支払利息」とだけありましたが、ここには、債権流動化にかかる手数料や、ファクタリング費用、受取手形の割引と裏書譲渡の残高が前期末で合わせて856百万円もあり、その経費も含まれているとみるべきです。全額が、有利子負債に対する利息とは限りません。したがって、この金額だけを追ってみても、F/Sだけで、三協立山の負担している利率は明らかになりません。 そこで、面倒くさいかもしれませんが、連結附属明細表として「社債」と「借入金」の詳細がわかるので、そこからかなり乱暴ですが、平残方式でかつ積み上げによる有利子負債に対する支払利息額を類推してみます。   社債は少額ですが件数が多く、集計が面倒だったのですが、すべて利付債で計算しやすかったのが不幸中の幸いでした。 積み上げると、808百万円の利息を払っており、平均利率は1.354%となりました。この利率が、三協立山によると、取引先よりも信用力が落ちるせいで負担が大きいのだ、ということのようです。 では検証してみましょう。 連結P/Lの支払利息は、1033百万円。そのうち、有利子負債への支払いは808百万円。差額は、225百万円。これが、前期に流動化した手形債権:200億円にかかる手数料(利息に相当すると考える)とすると、 (225百万円) ÷ (200億円) = 1.125% 先程の、有利子負債への支払い利率:1.354%に比べて、0.229%有利であることが分かり、新聞記事の「信用力の差」の分、手形債権流動化の方が有利な資金調達方法であるということは証明できました。でも、金利負担の節約分は46百万円/年 となります。かなり僅少ではないか、という印象はぬぐえませんが、商売の方で、46百万円のマージンを上げるのは大変でしょうから、こうしたちょっとした創意工夫から、企業収益を好転させようとする企業努力は肯定されるべきです。 筆者の見解としては、ここは、金利負担の節約より、調達資金量が財務指標に与えるインパクトの方を大きいと見た方がよいように思えます。 というのは、ROA(経常利益)がFY13:6.6%なのですが、手形債権流動化をせずに、200億円を新規に調達していたら、 ROA(経常利益) = 156億円 ÷ (2,342億円 + 200億円) = 6.1% と0.5ポイント悪化します。こっちの指標に与える影響の方が大きいとみるべきでしょう。 ■ 新聞記事の掲載データの検証の勧めもし、記事にある通り、3億円の支払利息の節約が200億円の手形債権流動化の効果だとしたら、 (利率) = (3億円) ÷ (200億円) = 1.5% となり、逆に、三協立山の実際支払利率:1.354%(類推ベース)で、新規に有利子負債による調達をした方が有利になるのです。  ちなみに、このブログ記事を書いている時点の最新情報(2014/7/10)で、日銀のホームページから、 短期プライムレート:1.475%(最頻値)長期プライムレート:1.15%となっております。 そんなに、目玉が飛び出るほど、金利負担が過重とは思いませんが、元来、コンマいくつで勝負する世界。財務担当者の努力には頭が下がる思いです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します