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■ 日産は生産拠点のグローバル配置で為替リスクを軽減へ

経営管理会計トピック
為替リスク管理に関する投稿の第3弾となります。
第1弾:為替リスク(の内、もっぱら経済的リスクといわれるもの)管理方法の原則をお話しました
⇒「生産体制 円安で見直し キヤノン、国内比率5割超に 新製品原則日本で パナソニック、白物家電で検討(1)
第2弾:キヤノン、パナソニック、シャープ、トヨタ4社の生産拠点のグローバル立地に関する施策の背景をお話しました
⇒「生産体制 円安で見直し キヤノン、国内比率5割超に 新製品原則日本で パナソニック、白物家電で検討(2)
今回は、日産が円安を受けて国内生産へシフトできる要因を簡単に整理します。

2015/1/22|日本経済新聞|朝刊
日産、世界で生産シフト 円安対応で国内、10万台増産 設計共通化生かし補完

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日産自動車は円安を受け、国内生産を10万台以上積み増す。北米向け輸出車の生産を九州で再開し、海外の少量生産車種も一部を国内で手がける。同社は自動車の設計共通化(総合2面きょうのことば)により、同じ車型なら世界のどの工場でも生産できる体制を目指している。為替変動に応じ、販売好調で供給が追いつかない米国の増産分を日本に移すなど、世界の拠点間で補完しあう。」

■ なぜ日産は北米向け乗用車を九州で生産できるのか

第1弾で説明したことを念押ししておくと、
・P/L(損益計算書)レベルで完全に為替リスクフリーにするためには、「国内生産国内販売」「国内生産海外輸出」「海外消費地生産現地販売」「海外生産逆輸入」を25%ずつの構成にすること
第2弾で説明したことを念押ししていくと、
・為替変動に合わせて、生産立地を変えることは、順張りのスタンスであり、為替リスクフリー(逆張り)とは真反対の姿勢であること
・円安の現況下で逆輸入に振り向けるのは、一般普及品ですでに海外生産拠点への設備投資が終わった製品に限られること
・円安の現況下でも国内生産を継続・強化するものは、もとよりグローバル仕様の高級品で、日本というマザー工場(商品技術者と生産技術者のタッグが組める場所)でないとローンチできない新製品に限られること
ということになります。
その中で、どうして、日産は、「北米で販売する乗用車を国内で生産(輸出)できるのか」という基本的な仕掛けに対する要因分析ですが、それは、
同じ車種ならば、どこの工場でも生産できる環境を整備したからです。
その環境整備のやり口をさらに深掘ってみると、
① 同種車の(車台)設計の共通化
② 加工作業の標準化(作業手順の標準化、生産設備の標準化)
③ 部材のグローバル共同購入(どこでも同じ規格の部品が手に入る保証あり)
に結びつきます。

■ 新聞記事では上記①だけ取り上げていますが、、、

同日の紙面、「きょうのことば」で、「自動車の設計共通化」については解説があります。

2015/1/22|日本経済新聞|朝刊
(きょうのことば)自動車の設計共通化 コスト削減、車種多彩に

「形状や大きさが異なる複数の自動車で、基本構造や主要部品を統一すること。骨格部品やエンジンなどの内蔵部品が対象になることが多い。開発期間の短縮や量産効果による大きなコスト削減を実現しながら、多彩な車種を生み出せる利点がある。世界中の大手自動車メーカーが新たな開発手法として導入を競っている。」
これで最初に成功したのは、独フォルクスワーゲン(VW)グループで、エンジンや変速機、ステアリングなどで「MQB:Modulare Quer Baukasten(ドイツ語で、モジュールキットの意)」と呼ぶ共通化です。
(英語では、Modular Transverse Matrix:モジュラー・トランスバース・マトリックス)
例えば2012年以降に世界で発売したVWの「ゴルフ」とアウディの「A3」にこの手法を採用したそうです。こうすることで、すべてのエンジンを同じ位置に搭載出来るので、生産工程の標準化が図られ、組立コスト低減ができ、部品の共通化できるため、ボリュームディスカウント(規模の経済)を享受することができます。
日産も、これにならい(というか同時に)、「日産コモン・モジュール・ファミリー(CMF)」と名付けた技術でエンジンまわり、車台前部、運転席まわり、車台後部の4つの基本構造の組み合わせを変え、様々な大きさ・形の車に仕上げています。
同業の巨人、トヨタも、「TNGA:トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」ということで、遅ればせながら、車台を3つに集約し、部品も2~3割共通化し、今秋発売の次期プリウスから導入されます。
この取り組みによるVWとトヨタのコスト構造の違いとアジア新興国市場に対する攻め口の勝敗結果は、
⇒「トヨタ その先へ(3)幻の提携

■ 一方でトヨタは、、、

トヨタは、国内生産規模を「300万台」に維持することを公言しています。
その理由は、第2弾のキヤノンのところでも触れたとおり、「マザー工場」理論です。生産ライン自体は、簡単に海外移管できるのですが、その生産ラインの元をつくる「生産技術」の確立には、
① ある程度の生産ボリュームが必要
② 新製品・新技術情報の入手が速いことが必要
③ サプライヤー(1次、2次)との緊密な連携が必要
が必要であり、トヨタにとって、ケイレツを含めて、国内立地の方が最適という事情です。
一方で、レクサスについては北米工場にラインを新設して、北米向け販売としては完全に消費地先生産体制(現地部品調達含む)を構築して対応しようとしています。
このトヨタと日産の違いは、為替リスクに対する逆張りと順張りの姿勢の違いがあるのですが、こればかりは、理屈だけでどっちの方が有利か勝敗がつくことはなく、戦略目標に対するオペレーションの追随達成度が成果を左右することになります。
唯一の正解が無い中、経営者は結果で評価されます。厳しい世界ですね。

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小林 友昭経済動向を会計で読む■ 日産は生産拠点のグローバル配置で為替リスクを軽減へ 為替リスク管理に関する投稿の第3弾となります。 第1弾:為替リスク(の内、もっぱら経済的リスクといわれるもの)管理方法の原則をお話しました ⇒「生産体制 円安で見直し キヤノン、国内比率5割超に 新製品原則日本で パナソニック、白物家電で検討(1)」 第2弾:キヤノン、パナソニック、シャープ、トヨタ4社の生産拠点のグローバル立地に関する施策の背景をお話しました ⇒「生産体制 円安で見直し キヤノン、国内比率5割超に 新製品原則日本で パナソニック、白物家電で検討(2)」 今回は、日産が円安を受けて国内生産へシフトできる要因を簡単に整理します。 2015/1/22|日本経済新聞|朝刊 日産、世界で生産シフト 円安対応で国内、10万台増産 設計共通化生かし補完 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「日産自動車は円安を受け、国内生産を10万台以上積み増す。北米向け輸出車の生産を九州で再開し、海外の少量生産車種も一部を国内で手がける。同社は自動車の設計共通化(総合2面きょうのことば)により、同じ車型なら世界のどの工場でも生産できる体制を目指している。為替変動に応じ、販売好調で供給が追いつかない米国の増産分を日本に移すなど、世界の拠点間で補完しあう。」 ■ なぜ日産は北米向け乗用車を九州で生産できるのか 第1弾で説明したことを念押ししておくと、 ・P/L(損益計算書)レベルで完全に為替リスクフリーにするためには、「国内生産国内販売」「国内生産海外輸出」「海外消費地生産現地販売」「海外生産逆輸入」を25%ずつの構成にすること 第2弾で説明したことを念押ししていくと、 ・為替変動に合わせて、生産立地を変えることは、順張りのスタンスであり、為替リスクフリー(逆張り)とは真反対の姿勢であること ・円安の現況下で逆輸入に振り向けるのは、一般普及品ですでに海外生産拠点への設備投資が終わった製品に限られること ・円安の現況下でも国内生産を継続・強化するものは、もとよりグローバル仕様の高級品で、日本というマザー工場(商品技術者と生産技術者のタッグが組める場所)でないとローンチできない新製品に限られること ということになります。 その中で、どうして、日産は、「北米で販売する乗用車を国内で生産(輸出)できるのか」という基本的な仕掛けに対する要因分析ですが、それは、 同じ車種ならば、どこの工場でも生産できる環境を整備したからです。 その環境整備のやり口をさらに深掘ってみると、 ① 同種車の(車台)設計の共通化 ② 加工作業の標準化(作業手順の標準化、生産設備の標準化) ③ 部材のグローバル共同購入(どこでも同じ規格の部品が手に入る保証あり) に結びつきます。 ■ 新聞記事では上記①だけ取り上げていますが、、、 同日の紙面、「きょうのことば」で、「自動車の設計共通化」については解説があります。 2015/1/22|日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)自動車の設計共通化 コスト削減、車種多彩に 「形状や大きさが異なる複数の自動車で、基本構造や主要部品を統一すること。骨格部品やエンジンなどの内蔵部品が対象になることが多い。開発期間の短縮や量産効果による大きなコスト削減を実現しながら、多彩な車種を生み出せる利点がある。世界中の大手自動車メーカーが新たな開発手法として導入を競っている。」 これで最初に成功したのは、独フォルクスワーゲン(VW)グループで、エンジンや変速機、ステアリングなどで「MQB:Modulare Quer Baukasten(ドイツ語で、モジュールキットの意)」と呼ぶ共通化です。 (英語では、Modular Transverse Matrix:モジュラー・トランスバース・マトリックス) 例えば2012年以降に世界で発売したVWの「ゴルフ」とアウディの「A3」にこの手法を採用したそうです。こうすることで、すべてのエンジンを同じ位置に搭載出来るので、生産工程の標準化が図られ、組立コスト低減ができ、部品の共通化できるため、ボリュームディスカウント(規模の経済)を享受することができます。 日産も、これにならい(というか同時に)、「日産コモン・モジュール・ファミリー(CMF)」と名付けた技術でエンジンまわり、車台前部、運転席まわり、車台後部の4つの基本構造の組み合わせを変え、様々な大きさ・形の車に仕上げています。 同業の巨人、トヨタも、「TNGA:トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」ということで、遅ればせながら、車台を3つに集約し、部品も2~3割共通化し、今秋発売の次期プリウスから導入されます。 この取り組みによるVWとトヨタのコスト構造の違いとアジア新興国市場に対する攻め口の勝敗結果は、 ⇒「トヨタ その先へ(3)幻の提携」 ■ 一方でトヨタは、、、 トヨタは、国内生産規模を「300万台」に維持することを公言しています。 その理由は、第2弾のキヤノンのところでも触れたとおり、「マザー工場」理論です。生産ライン自体は、簡単に海外移管できるのですが、その生産ラインの元をつくる「生産技術」の確立には、 ① ある程度の生産ボリュームが必要 ② 新製品・新技術情報の入手が速いことが必要 ③ サプライヤー(1次、2次)との緊密な連携が必要 が必要であり、トヨタにとって、ケイレツを含めて、国内立地の方が最適という事情です。 一方で、レクサスについては北米工場にラインを新設して、北米向け販売としては完全に消費地先生産体制(現地部品調達含む)を構築して対応しようとしています。 このトヨタと日産の違いは、為替リスクに対する逆張りと順張りの姿勢の違いがあるのですが、こればかりは、理屈だけでどっちの方が有利か勝敗がつくことはなく、戦略目標に対するオペレーションの追随達成度が成果を左右することになります。 唯一の正解が無い中、経営者は結果で評価されます。厳しい世界ですね。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します