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■ 完全子会社化の損得勘定

経営管理会計トピック
スターバックス日本法人が米国本社にTOB(株式公開買い付け)により完全子会社化される方針が報道されました。完全子会社化のコストは1000億円とのこと。これは果たしてお得なのでしょうか。

2014/9/24付 |日本経済新聞|夕刊
米スターバックス 日本法人を完全子会社化 1000億円で、上場廃止へ

2014/9/25付 |日本経済新聞|朝刊
米スタバ、日本法人完全子会社化 グループ内連携強化 紅茶店、日本導入を検討

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まず、現時点で、米国本社は日本法人からどれくらいリターンを得ているか、確認してみましょう。
(これらの分析は、全て有価証券報告書の記述、及びそこから筆者の類推が一部入っていることをお読みになられる前に了承しておいてください)
有価証券報告書にある「事業の内容」「経営上の重要な契約等」にある記載を確認すると、

  • 月次売上高の5.5%相当額のロイヤリティーを「エスビーアイ・ネバタ・インク」に支払う
  • 店舗開発・店舗運営の指導料を「スターバックス・コーヒー・インターナショナル・インク」に支払う
  • コーヒー及びコーヒーカップ等の商品は全て「スターバックス・コーポレーション」(またはその指定業者)から購入する

これらは、FY13のP/Lをベースに推定すると、次のようになります。
支払ロイヤリティー    : 6,967百万円
支払手数料        : 1,733百万円 (全額が経営指導料と推定)
原材料販売マージン: 16,486百万円 (商品売上原価:32,972百万円×マージン率(推定50%))
株主の権利としては、
同FY13の株主資本変動計算書より、次のようになります。
配当金:460百万円 (剰余金の配当:1,151百万円×持ち株比率(40%))
合計すると、25,646百万円 となります。
これに、
同FY13のB/Sから、純資産:46,777百万円なので、米国本社の持ち分比率(40%)から、
米スターバックス本社の持ち分は18,711百万円となり、
投資効率は、
ROI = 25,646百万円 ÷ 18,711百万円
    = 137%
となります。予想より高かったですか、それとも低かったですか?
仮に、原材料販売マージンを40%とした場合でも、ROIは122%になります。
上記推定計算はあくまで推定なので、甘く見積もってもROIは100%程度にはなると思います。
どうも、不採算な海外子会社を立て直すために、100%子会社にしてテコ入れすることを意図した完全子会社化とは、筆者には到底思えないのですが。。。
紅茶店を日本でも展開しないと日本法人の会社経営が本当に行き詰まるのでしょうか?

■ 支配権プレミアムの損得

ついでに、完全子会社化ということは、サザビーリーグから会社支配権を購入して、資本関係上も100%支配するということなので、この100%支配にこだわるために犠牲にしたコストの損得勘定を考えてみたいと思います。
M&Aの世界では、経営支配権獲得・影響力行使のために、大量の株式を購入する際に、流通市場での価格に上乗せして(プレミアムつけて)、支配権を獲得するための株式買収価格の上乗せ分を「支配権プレミアム(Control Premium)」と呼びます。
それでは、支配権プレミアムを簡易計算してみましょう。
新聞報道が9/24なので、9/22(23日は祝日で休場)の株価の終値は、1,399円。
Yahoo Finance から9/25時点の発行済株式数は144,221,400株。
ということは、9/24時点の時価総額は、201,766百万円(推定)。
これの60%がTOB対象なので、買収対象の現市場価値は121,059百万円。
一方で、新聞報道から、
ササビーリーグ社保有株(40%)を965円で買い付けるということは、
965円 × 144,221,400株 × 40% = 55,669百万円 
をササビーリーグに支払うということ。
その他の株主の保有株(20%)を1,465円で買い付けるということは、
1,465円 × 144,221,400株 × 20% = 42,257百万円
を一般株主に支払うということ。
よって、
支配権プレミアム = 121,059百万円 - (55,669百万円 + 42,257百万円)
            = 121,059百万円 - 97,926百万円
            = 23,133百万円
ということになります。
ネットで数字を考えたいので、報道の中には一株15円の配当を見送るとあったので、
配当見送りによるキャッシュ流出停止効果 = 15円 × 144,221,400株 × 60%
                           = 1,298百万円
と計算できるので、
(ネット)支配権プレミアム = 23,133百万円 - 1,298百万円
                     = 21,835百万円
となります。 
上記で、米国本社からみた日本法人からのリターンを、25,646百万円 と推計しました。
そして、(ネット)支配権プレミアムは、21,835百万円 と推計しました。
差引は3,811百万円のプラス。
なんと、
今回の米国スターバックス本社による日本法人の完全子会社化のための支配権プレミアムは、単年度の日本法人からのリターンで賄えることが分かりました。
日本企業が、「この投資は回収期間が○○年だから、この投資はGoだ!」「いや、こっちの案件の方が回収期間が○○年短いから、こっちの案件優先だ!」という会話がいまだ行われているとすれば、スタバ米国本社のCFO/CEOのほくそ笑む姿がますます目に浮かびます。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 完全子会社化の損得勘定 スターバックス日本法人が米国本社にTOB(株式公開買い付け)により完全子会社化される方針が報道されました。完全子会社化のコストは1000億円とのこと。これは果たしてお得なのでしょうか。 2014/9/24付 |日本経済新聞|夕刊 米スターバックス 日本法人を完全子会社化 1000億円で、上場廃止へ 2014/9/25付 |日本経済新聞|朝刊 米スタバ、日本法人完全子会社化 グループ内連携強化 紅茶店、日本導入を検討(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます まず、現時点で、米国本社は日本法人からどれくらいリターンを得ているか、確認してみましょう。 (これらの分析は、全て有価証券報告書の記述、及びそこから筆者の類推が一部入っていることをお読みになられる前に了承しておいてください) 有価証券報告書にある「事業の内容」「経営上の重要な契約等」にある記載を確認すると、 月次売上高の5.5%相当額のロイヤリティーを「エスビーアイ・ネバタ・インク」に支払う店舗開発・店舗運営の指導料を「スターバックス・コーヒー・インターナショナル・インク」に支払うコーヒー及びコーヒーカップ等の商品は全て「スターバックス・コーポレーション」(またはその指定業者)から購入する これらは、FY13のP/Lをベースに推定すると、次のようになります。 支払ロイヤリティー    : 6,967百万円 支払手数料        : 1,733百万円 (全額が経営指導料と推定) 原材料販売マージン: 16,486百万円 (商品売上原価:32,972百万円×マージン率(推定50%)) 株主の権利としては、 同FY13の株主資本変動計算書より、次のようになります。 配当金:460百万円 (剰余金の配当:1,151百万円×持ち株比率(40%)) 合計すると、25,646百万円 となります。 これに、 同FY13のB/Sから、純資産:46,777百万円なので、米国本社の持ち分比率(40%)から、 米スターバックス本社の持ち分は18,711百万円となり、 投資効率は、 ROI = 25,646百万円 ÷ 18,711百万円     = 137% となります。予想より高かったですか、それとも低かったですか? 仮に、原材料販売マージンを40%とした場合でも、ROIは122%になります。 上記推定計算はあくまで推定なので、甘く見積もってもROIは100%程度にはなると思います。 どうも、不採算な海外子会社を立て直すために、100%子会社にしてテコ入れすることを意図した完全子会社化とは、筆者には到底思えないのですが。。。 紅茶店を日本でも展開しないと日本法人の会社経営が本当に行き詰まるのでしょうか? ■ 支配権プレミアムの損得ついでに、完全子会社化ということは、サザビーリーグから会社支配権を購入して、資本関係上も100%支配するということなので、この100%支配にこだわるために犠牲にしたコストの損得勘定を考えてみたいと思います。 M&Aの世界では、経営支配権獲得・影響力行使のために、大量の株式を購入する際に、流通市場での価格に上乗せして(プレミアムつけて)、支配権を獲得するための株式買収価格の上乗せ分を「支配権プレミアム(Control Premium)」と呼びます。 それでは、支配権プレミアムを簡易計算してみましょう。 新聞報道が9/24なので、9/22(23日は祝日で休場)の株価の終値は、1,399円。 Yahoo Finance から9/25時点の発行済株式数は144,221,400株。 ということは、9/24時点の時価総額は、201,766百万円(推定)。 これの60%がTOB対象なので、買収対象の現市場価値は121,059百万円。 一方で、新聞報道から、 ササビーリーグ社保有株(40%)を965円で買い付けるということは、 965円 × 144,221,400株 × 40% = 55,669百万円  をササビーリーグに支払うということ。 その他の株主の保有株(20%)を1,465円で買い付けるということは、 1,465円 × 144,221,400株 × 20% = 42,257百万円 を一般株主に支払うということ。 よって、 支配権プレミアム = 121,059百万円 - (55,669百万円 + 42,257百万円)             = 121,059百万円 - 97,926百万円             = 23,133百万円 ということになります。 ネットで数字を考えたいので、報道の中には一株15円の配当を見送るとあったので、 配当見送りによるキャッシュ流出停止効果 = 15円 × 144,221,400株 × 60%                            = 1,298百万円 と計算できるので、 (ネット)支配権プレミアム = 23,133百万円 - 1,298百万円                      = 21,835百万円 となります。  上記で、米国本社からみた日本法人からのリターンを、25,646百万円 と推計しました。 そして、(ネット)支配権プレミアムは、21,835百万円 と推計しました。 差引は3,811百万円のプラス。 なんと、 今回の米国スターバックス本社による日本法人の完全子会社化のための支配権プレミアムは、単年度の日本法人からのリターンで賄えることが分かりました。 日本企業が、「この投資は回収期間が○○年だから、この投資はGoだ!」「いや、こっちの案件の方が回収期間が○○年短いから、こっちの案件優先だ!」という会話がいまだ行われているとすれば、スタバ米国本社のCFO/CEOのほくそ笑む姿がますます目に浮かびます。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します