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■ 簡易採算分析の実践

経営管理会計トピック
「宅配便最大手のヤマトホールディングスが24年ぶりの値上げに踏み切り、採算とシェアの両方を追求する経営姿勢に転じた」とする記事がありました。

2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊
(会社研究)ヤマトホールディングス 採算とシェア、両方を追求

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事には、単価改定と数量増減による売上(営業収益)の増減分析と一部の採算分析が記載されていました。管理会計屋としては、どうしても数字を追って裏を取りたくなるものです。(血が騒ぐというやつです)
最初は記事の数字をベースに、後半はその他の開示資料から簡単な採算分析をしてみたいとおもいます。

■ 新聞記事から収益増分分析を試みる

新聞記事には、

  • 宅配便の単価について、今期は587円と前期比13円(約2%)引き上げることが200億円の増収要因となる
  • 個数も2%増やすことで宅配便全体で約380億円の増収効果を生み出す

とありますので、
前期の宅配便の単価は、574円である (= 587円 - 13円)
宅配便の増数効果は、180億円と見込まれている (= 380億円 - 200億円)
と読み取ることができます。
ここから、いわゆる「単価・数量ボックス」を作成すると、下図のようになります。
経営管理会計トピック_ヤマトHD_収益増分分析_新聞記事
黄色のハッチングは新聞記事からの直接情報。水色のハッチングは、新聞記事の数字を2次加工して得られた情報。無色はそれらの結果、導かれる3次情報となります。
その他の2次情報は、
前期実績数量は15.4億個 (= 200億円 ÷ (587円 - 574円)
今期見込数量は15.7億個 (= 15.4億円 × 102%)
として得られます。
3次情報は、
検算の意味で、数量効果は180.6億円 (= 587円 × (15.7億個 - 15.4億個)
前期実績売上は8830.8億円 (= 573円 × 15.4億個)
今期見込売上は9211.4億円 (= 587円 × 15.7億個)
として得られます。
ただし、これらの前提とした数字である「宅配便」ビジネスが、「デリバリー事業」全体を意味しているのか、「クロネコメール便」ビジネスも含めているのか、範囲が分からないので、ちょっと自信をもって出せる数字にはなり得ません。その他の開示資料の数字との一致が見られませんでした。

■ その他の開示情報を使って収益増分分析を試みる

社外の第三者がそれ程、手間暇をかけずに、それなりに収益増分分析することにチャレンジしてみます。
データソースは、前年実績値は、5/1リリースの「決算発表資料」。ホームページから簡単に入手できます。今年度見込値は、8/1リリースの「第1四半期決算発表資料」。これも同様にホームページから入手可能です。
それらの資料から、「国内宅急便事業」と「国内クロネコメール便事業」の収益増分分析にトライしてみました。
経営管理会計トピック_ヤマトHD_収益増分分析_国内宅急便 
経営管理会計トピック_ヤマトHD_収益増分分析_国内クロネコメール便 
 
ちなみに、前年実績において、営業収益(売上)構成比として、全社売上に対し、「宅急便事業」:69.7%、「クロネコメール事業」:9.2%、合計すると78.9%となり、ヤマトホールディングスの業績を測るうえで、この2事業の数字を押さえれば8割の精度で分析ができることになります。
あらゆる財務分析に言えることですが、その分析対象が対象企業業績どれくらいのインパクトがあるか、そして担保される精度はどれくらいか、常に意識して頂きたいと思います。
上図の留意点として、「国内宅急便事業の見込売上」ですが、これを示す1次資料が無かったので、宅急便事業全体の見込売上から、前年国内分の構成比を加味して算出しています。
宅急便事業は、会社資料によると海外も伸びる見込みで、デリバリー事業では、メール便の伸びなやみと、変動費単価UPが危惧されるところです。つまり、「燃料油脂料(ガソリン代)」の動向で限界利益が影響を受けるということです。
ちなみに、新聞記事には、「個数に応じて発生する変動費は、輸送業務を任せる協力会社への委託費(今期計画:2140億円)と繁忙時に営業拠点で仕分け作業に従事するアルバイトの人件費(今期計画:300億円弱)とあり、「損益分岐点分析」まで試みようかと思いましたが、「燃料油脂料」や「傭車料」にも変動要素があるため、ブログにて皆さんにお見せできる精度にはならないのと紙面の都合でここでは割愛します。
新聞記事では、「仮に宅急便の取り扱い個数が値上げの影響で伸びなやんでも、委託費とアルバイト人件費を抑えることで増益を確保できる」とありましたが、別に意思をもってコスト抑制しなくても、取扱数量が減れば、自然減でこれらの費用は数量比例で減額されるので(だからこそ変動費)、その辺の表現をもう少し工夫して頂けると、管理会計初学者にもわかりやすくなるのかもしれません。
(蛇足)
筆者も学生時代、クロネコヤマトさんで宅急便の仕分け作業のアルバイトを経験しています。その時は、年末年始のクリスマスギフト、お歳暮、年始挨拶と、取扱量がぐーんとのびるタイミングでの短期バイト募集に応募したのであります。若いはずなのに、張り切ってしまい、腰を痛めた覚えがあります。当然主婦の長期バイトの方の懇切丁寧なご指導がありました。その節は大変ありがとうございました。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 簡易採算分析の実践 「宅配便最大手のヤマトホールディングスが24年ぶりの値上げに踏み切り、採算とシェアの両方を追求する経営姿勢に転じた」とする記事がありました。 2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊 (会社研究)ヤマトホールディングス 採算とシェア、両方を追求(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事には、単価改定と数量増減による売上(営業収益)の増減分析と一部の採算分析が記載されていました。管理会計屋としては、どうしても数字を追って裏を取りたくなるものです。(血が騒ぐというやつです) 最初は記事の数字をベースに、後半はその他の開示資料から簡単な採算分析をしてみたいとおもいます。 ■ 新聞記事から収益増分分析を試みる新聞記事には、 宅配便の単価について、今期は587円と前期比13円(約2%)引き上げることが200億円の増収要因となる個数も2%増やすことで宅配便全体で約380億円の増収効果を生み出す とありますので、 前期の宅配便の単価は、574円である (= 587円 - 13円) 宅配便の増数効果は、180億円と見込まれている (= 380億円 - 200億円) と読み取ることができます。 ここから、いわゆる「単価・数量ボックス」を作成すると、下図のようになります。 黄色のハッチングは新聞記事からの直接情報。水色のハッチングは、新聞記事の数字を2次加工して得られた情報。無色はそれらの結果、導かれる3次情報となります。 その他の2次情報は、 前期実績数量は15.4億個 (= 200億円 ÷ (587円 - 574円) 今期見込数量は15.7億個 (= 15.4億円 × 102%) として得られます。 3次情報は、 検算の意味で、数量効果は180.6億円 (= 587円 × (15.7億個 - 15.4億個) 前期実績売上は8830.8億円 (= 573円 × 15.4億個) 今期見込売上は9211.4億円 (= 587円 × 15.7億個) として得られます。 ただし、これらの前提とした数字である「宅配便」ビジネスが、「デリバリー事業」全体を意味しているのか、「クロネコメール便」ビジネスも含めているのか、範囲が分からないので、ちょっと自信をもって出せる数字にはなり得ません。その他の開示資料の数字との一致が見られませんでした。 ■ その他の開示情報を使って収益増分分析を試みる社外の第三者がそれ程、手間暇をかけずに、それなりに収益増分分析することにチャレンジしてみます。 データソースは、前年実績値は、5/1リリースの「決算発表資料」。ホームページから簡単に入手できます。今年度見込値は、8/1リリースの「第1四半期決算発表資料」。これも同様にホームページから入手可能です。 それらの資料から、「国内宅急便事業」と「国内クロネコメール便事業」の収益増分分析にトライしてみました。       ちなみに、前年実績において、営業収益(売上)構成比として、全社売上に対し、「宅急便事業」:69.7%、「クロネコメール事業」:9.2%、合計すると78.9%となり、ヤマトホールディングスの業績を測るうえで、この2事業の数字を押さえれば8割の精度で分析ができることになります。 あらゆる財務分析に言えることですが、その分析対象が対象企業業績どれくらいのインパクトがあるか、そして担保される精度はどれくらいか、常に意識して頂きたいと思います。 上図の留意点として、「国内宅急便事業の見込売上」ですが、これを示す1次資料が無かったので、宅急便事業全体の見込売上から、前年国内分の構成比を加味して算出しています。 宅急便事業は、会社資料によると海外も伸びる見込みで、デリバリー事業では、メール便の伸びなやみと、変動費単価UPが危惧されるところです。つまり、「燃料油脂料(ガソリン代)」の動向で限界利益が影響を受けるということです。 ちなみに、新聞記事には、「個数に応じて発生する変動費は、輸送業務を任せる協力会社への委託費(今期計画:2140億円)と繁忙時に営業拠点で仕分け作業に従事するアルバイトの人件費(今期計画:300億円弱)とあり、「損益分岐点分析」まで試みようかと思いましたが、「燃料油脂料」や「傭車料」にも変動要素があるため、ブログにて皆さんにお見せできる精度にはならないのと紙面の都合でここでは割愛します。 新聞記事では、「仮に宅急便の取り扱い個数が値上げの影響で伸びなやんでも、委託費とアルバイト人件費を抑えることで増益を確保できる」とありましたが、別に意思をもってコスト抑制しなくても、取扱数量が減れば、自然減でこれらの費用は数量比例で減額されるので(だからこそ変動費)、その辺の表現をもう少し工夫して頂けると、管理会計初学者にもわかりやすくなるのかもしれません。 (蛇足) 筆者も学生時代、クロネコヤマトさんで宅急便の仕分け作業のアルバイトを経験しています。その時は、年末年始のクリスマスギフト、お歳暮、年始挨拶と、取扱量がぐーんとのびるタイミングでの短期バイト募集に応募したのであります。若いはずなのに、張り切ってしまい、腰を痛めた覚えがあります。当然主婦の長期バイトの方の懇切丁寧なご指導がありました。その節は大変ありがとうございました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します