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■ 事業ポートフォリオ戦略に対する解説に違和感あり

経営管理会計トピック
恥ずかしながら、この業界はよく知らないので、この記事で初めて知りました。「9月、免税店などの旅行者向け小売店で世界2位だったデュフリー(スイス)が同国の同業大手ニュアンスを買収した。買収後の売上高は約56億スイスフラン(約6780億円)とDFSグループ(香港)を抜き首位に立った。」

2014/11/18付 |日本経済新聞|朝刊
(GLOBAL EYE)ニッチも積もれば山となる 買収、得意分野に徹し成長

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

新聞記事にある記述で、事業ポートフォリオに関するものがあったのですが、読んでいてちょっと違和感があったのでコメントしてみたいと思います。

■ ニッチ市場戦略を採用したのに大企業って?

新聞記事では、まず、免税店などの旅行者向け小売店のデュフリー(スイス)、高速道路や空港内の飲食店のアウトグリル(イタリア)などの企業が、「特殊立地」に専念しながらも、日本の外食最大手、ゼンショーホールディングより規模が大きく、「ニッチ市場も世界で積み上げれば大企業に育つ」と解説されています。
また、「一般的な立地へと多角化した方が早く拡大できたかもしれないが、蓄積したノウハウは生かせず、規模の利益も出しにくい。」ともあります。
そもそも、経営学でいう「ニッチ(Niche)」とは、本来は生物学で「生態的地位」のことを指します。直訳すれば「隙間」や「窪み」。恐竜全盛時代の哺乳類が細々と爬虫類が生息しない場所、または生活できない条件(餌の取捨選択(雑食)や夜行性など)下で、生き延びてきたことを比喩として、大企業が進出してこない、小さい隙間市場でビジネスをすることを例えて言います。
つまり、ダーウィンの進化論的には、適者生存。劣悪な環境にも対応できたものだけが生き延びられるちょっとした生態系の隙間。鍾乳洞にいる目が退化した蛇は、お天道様の下で普通の蛇との生存競争に負けて、仕方なく鍾乳洞を住みかとし、環境に適合するため、視力を捨てた(視力が不要になった)ということなのに。。。
ニッチであるからこそ、残存者利益としてや、高い参入障壁、その根源となる技術的または地理的な特殊性等により、高い利益率を得られるもので、成長や拡大を意識した瞬間に、マス市場での立ち居振る舞いとなり、それはもはやニッチ戦略とは呼べなくなるのではと思ってしまいます。
例えば、自動車産業はニッチでしょうか?多分マス市場だと多くの人がお答えになると思います。
でも、完成車メーカーとして、日本には、「新明和工業」「光岡自動車」等が存在しています。新明和工業は、特装車といって、ごみ収集車やミキサー車を製造しています。また、光岡自動車は、「ヒミコ」「オロチ」といった何とも言えないマニア垂涎の高級カーを提供しています。
ここまで来ると、2社ともニッチと自信をもっていえそうですが、トヨタの水素燃料電池車の場合はどうでしょうか?
産業立地だけでニッチかどうかが決まるのではなく、その産業の中でさらにセグメンテーションされた顧客だけを相手に、規模は小さいけど、高収益率を誇る市場がニッチ市場だと思います。
なにか、「グローバルニッチ」という言葉を聞くと、「閑静な繁華街」という意味的にはおかしい言葉と同列にしか思えず、お尻の辺りがむずむずしてきます。
これが違和感の其の1。

■ 経営リスク軽減のための多角化と収益性の関係

次に、香料で世界大手のジボダン(スイス)の例が紹介されています。新聞記事には、「『一本足打法』は経営のリスクを分散させにくい面もある。だが高収益なら環境の変化を乗り越える体力は蓄えられる。ジボダンの売上高営業利益率は19%に達する。」とあり、香料事業に特化しているジボダンが高収益を誇っているといっています。
おそらく、この記事内では、「経営リスク」とは、ある特定の産業(市場・顧客)の景況によって企業業績が大きくブレることを指し、リスクとリターンの表出パターンができるだけ同期化しない複数事業を同一企業内に持つことで、そのリスクを回避する方がベターな経営、という文脈なのだと思います。ただし、専業でも、そもそも高い利益率ならば、景況が悪くなっても、経営土台は大丈夫、といいたいのだと思います。
「ポートフォリオ」を組むということは、事業でも投資でも、リターンは市場平均値に収斂していくのが本当です。その代り、ボラティリティというリスクから解放されるというトレードオフが効いているだけのことです。
新聞記事にある「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」は、圧倒的な規模の利益によって規制市場の中で高収益率を誇り、「ネスレ」は、巧妙なマーケテイングとプロダクトポートフォリオの入れ替えで規模の成長を結果として得ている分けです。
企業規模については、それ自体が戦略目標になっている場合と、他の競争優位要件による超過収益力の結果として得られる場合とは、きちんと区別する必要があります。
また、事業ポートフォリオの選別の目利きを経営者に任せるのがよいか、出資先企業の選別により、投資家自身が判断を担った方がよいのか、それは、投資家が判断するもので、一律的に経営者に多角的経営を押し付けるものではないと思います。経営者が専門家利益を享受できる、すなわち効率的かつ効果的に事業の目利きができる範囲で事業ポートフォリオを組めばよいことで、とやかく、他社と比べて詮索される話でないと思うのですが如何でしょうか?
とかく、多角化による経営リスクの軽減が最終的な経営目標みたいに言われるのが違和感の其の2。
以上、事業ポートフォリオについてのコメントでした。別途、「経営管理(基礎編)」で事業ポートフォリオ管理について記事を投稿する予定です。それまで、このコメントが皆さんの事業ポートフォリオ戦略分析のご参考になれば幸いです。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 事業ポートフォリオ戦略に対する解説に違和感あり 恥ずかしながら、この業界はよく知らないので、この記事で初めて知りました。「9月、免税店などの旅行者向け小売店で世界2位だったデュフリー(スイス)が同国の同業大手ニュアンスを買収した。買収後の売上高は約56億スイスフラン(約6780億円)とDFSグループ(香港)を抜き首位に立った。」 2014/11/18付 |日本経済新聞|朝刊 (GLOBAL EYE)ニッチも積もれば山となる 買収、得意分野に徹し成長(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 新聞記事にある記述で、事業ポートフォリオに関するものがあったのですが、読んでいてちょっと違和感があったのでコメントしてみたいと思います。 ■ ニッチ市場戦略を採用したのに大企業って?新聞記事では、まず、免税店などの旅行者向け小売店のデュフリー(スイス)、高速道路や空港内の飲食店のアウトグリル(イタリア)などの企業が、「特殊立地」に専念しながらも、日本の外食最大手、ゼンショーホールディングより規模が大きく、「ニッチ市場も世界で積み上げれば大企業に育つ」と解説されています。 また、「一般的な立地へと多角化した方が早く拡大できたかもしれないが、蓄積したノウハウは生かせず、規模の利益も出しにくい。」ともあります。 そもそも、経営学でいう「ニッチ(Niche)」とは、本来は生物学で「生態的地位」のことを指します。直訳すれば「隙間」や「窪み」。恐竜全盛時代の哺乳類が細々と爬虫類が生息しない場所、または生活できない条件(餌の取捨選択(雑食)や夜行性など)下で、生き延びてきたことを比喩として、大企業が進出してこない、小さい隙間市場でビジネスをすることを例えて言います。 つまり、ダーウィンの進化論的には、適者生存。劣悪な環境にも対応できたものだけが生き延びられるちょっとした生態系の隙間。鍾乳洞にいる目が退化した蛇は、お天道様の下で普通の蛇との生存競争に負けて、仕方なく鍾乳洞を住みかとし、環境に適合するため、視力を捨てた(視力が不要になった)ということなのに。。。 ニッチであるからこそ、残存者利益としてや、高い参入障壁、その根源となる技術的または地理的な特殊性等により、高い利益率を得られるもので、成長や拡大を意識した瞬間に、マス市場での立ち居振る舞いとなり、それはもはやニッチ戦略とは呼べなくなるのではと思ってしまいます。 例えば、自動車産業はニッチでしょうか?多分マス市場だと多くの人がお答えになると思います。 でも、完成車メーカーとして、日本には、「新明和工業」「光岡自動車」等が存在しています。新明和工業は、特装車といって、ごみ収集車やミキサー車を製造しています。また、光岡自動車は、「ヒミコ」「オロチ」といった何とも言えないマニア垂涎の高級カーを提供しています。 ここまで来ると、2社ともニッチと自信をもっていえそうですが、トヨタの水素燃料電池車の場合はどうでしょうか? 産業立地だけでニッチかどうかが決まるのではなく、その産業の中でさらにセグメンテーションされた顧客だけを相手に、規模は小さいけど、高収益率を誇る市場がニッチ市場だと思います。 なにか、「グローバルニッチ」という言葉を聞くと、「閑静な繁華街」という意味的にはおかしい言葉と同列にしか思えず、お尻の辺りがむずむずしてきます。 これが違和感の其の1。 ■ 経営リスク軽減のための多角化と収益性の関係次に、香料で世界大手のジボダン(スイス)の例が紹介されています。新聞記事には、「『一本足打法』は経営のリスクを分散させにくい面もある。だが高収益なら環境の変化を乗り越える体力は蓄えられる。ジボダンの売上高営業利益率は19%に達する。」とあり、香料事業に特化しているジボダンが高収益を誇っているといっています。 おそらく、この記事内では、「経営リスク」とは、ある特定の産業(市場・顧客)の景況によって企業業績が大きくブレることを指し、リスクとリターンの表出パターンができるだけ同期化しない複数事業を同一企業内に持つことで、そのリスクを回避する方がベターな経営、という文脈なのだと思います。ただし、専業でも、そもそも高い利益率ならば、景況が悪くなっても、経営土台は大丈夫、といいたいのだと思います。 「ポートフォリオ」を組むということは、事業でも投資でも、リターンは市場平均値に収斂していくのが本当です。その代り、ボラティリティというリスクから解放されるというトレードオフが効いているだけのことです。 新聞記事にある「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」は、圧倒的な規模の利益によって規制市場の中で高収益率を誇り、「ネスレ」は、巧妙なマーケテイングとプロダクトポートフォリオの入れ替えで規模の成長を結果として得ている分けです。 企業規模については、それ自体が戦略目標になっている場合と、他の競争優位要件による超過収益力の結果として得られる場合とは、きちんと区別する必要があります。 また、事業ポートフォリオの選別の目利きを経営者に任せるのがよいか、出資先企業の選別により、投資家自身が判断を担った方がよいのか、それは、投資家が判断するもので、一律的に経営者に多角的経営を押し付けるものではないと思います。経営者が専門家利益を享受できる、すなわち効率的かつ効果的に事業の目利きができる範囲で事業ポートフォリオを組めばよいことで、とやかく、他社と比べて詮索される話でないと思うのですが如何でしょうか? とかく、多角化による経営リスクの軽減が最終的な経営目標みたいに言われるのが違和感の其の2。 以上、事業ポートフォリオについてのコメントでした。別途、「経営管理(基礎編)」で事業ポートフォリオ管理について記事を投稿する予定です。それまで、このコメントが皆さんの事業ポートフォリオ戦略分析のご参考になれば幸いです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します