Pocket

■ FY14上期 経常増益率ランキング記事から

経営管理会計トピック
4~9月期の決算発表が一揃いしたので、日経新聞もそろそろ番付記事掲載の季節に入りました。本格的な財務分析は「有価証券報告書」が出揃うまで、本ブロクでは掲載を待つ予定ですが、新聞記事にはコメントをしていきたいと思います。

2014/11/19付 |日本経済新聞|朝刊
4~9月期 決算番付(2)経常増益率 海外で稼ぐ企業上位に

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「海外で稼ぐ企業上位に」という小見出しがありました。こちらもざっとですが確認したいと思います。

■ 「経常増益率ランキング表」を見るときの留意点

まず、下記は、新聞に掲載のあったランキング(上期の方)を筆者の方でExcelにまとめ直して転載します。
経営管理会計トピック_2014年上期_経常増益率ランキング
老婆心ながら、
常にこの手のランキングでまずご注意して頂きたいのは、「会計数字」の定義がキチンと揃っているか否かです。というのも、「経常利益」というのは、日本を含むごく少数の国にしかない利益概念である一方、日本でディスクローズできる会計基準が現時点で3つ(日本基準、米国基準、IFRS)、そのうち4つになる(修正IFRS)、という状況なので、本質的な比較可能性が担保されていない分析が世の中には多い、と筆者は考えています。
そこは、日経新聞の当該記事にも、ランキング表の下部に注記で、「米国・国際会計基準は税引前利益」を採用している旨が記載してあります。しかも、3月決算企業に絞られているので、2月決算の小売業や、グローバル対応している12月決算企業は、ほとんどこの手の記事には登場してきません。ここも留意しておいてください。

■ 経常増益要因分析をしてみました

前上期との比較分析を要因別(売上高、売上原価、販管費、為替差損益、その他損益)に分解してみました。各要素の経常増益に対する貢献度から、各社の増益理由(タイプ)を「リストラ型」「増収増益型」「為替貢献度型」「イベント型」「複合型」の5種類に区分してみました。
経営管理会計トピック_2014年上期_経常増益要因分析
分類は以下の通り。
・「リストラ型」:コストカットで増益を図る(2社)
・「増収増益型」:順調にビジネスを成長させて増益を図る(8社)
・「為替貢献型」:基本的に上記「増収増益型」と同じ構造だが、増益理由の3割程度以上が為替差損益の改善によるもの(3社)
・「イベント型」:特殊な損益増減理由があるもの(1社)
・「複合型」:増益要因が複数あるもの(1社)
分析を実行する前に、筆者は必ず仮説を立てるのですが、今回は「増収増益型」と「為替貢献型」が大多数を占めると考えていました。数的には予想は当たったのですが、ランキング上位2社までが「リストラ型」となりました。これは、新聞記事と同じ分析結果となりましたので、読者の皆様にも特段誇れる内容にはなりませんが、特徴のある会社については、次章で多少なりとも、コメントを付けていきたいと思います。

■ 個別企業の分析

●1位:任天堂(リストラ型)
唯一の減収。ただし、粗利率が改善している。これは、粗利率が相対的に高い、ソフトの売上がハードに比べて増えたから。つまり、セールスミックス的には、原価率の高いハードより、ソフトの出荷構成比率が上昇したのがその要因。
●2位:ルネサスエレクトロニクス(リストラ型)
R&D費用を大幅に削減した結果の経常増益。将来の成長のタネを育む代わりの増益。あまり歓迎できない増益理由。
●5位:セイコーエプソン(イベント型)
IFRSによる開示なので、税前利益による分析になっている。経常増益額:511億円のうち、338億円が、その他の損益起因になっている。その中でも、「退職後給付制度改定益:301億円」がその要因となっている。もしかすると、日本基準だと、「特別利益」に計上されているかも、なので、そもそもこのランキングに入ってこない可能性もある。
⇒これが、会計基準差異。要注意!
●7位:三菱重工業(為替貢献型)
基本的に、増収増益で良いビジネスシナリオによるランキング入り。ただし、為替差損益の改善貢献度が、「31.7%」に上っている。その他、受取利息・受取配当金・持分法損益の増加分が、合計で「70億円」もある。本業以外のインパクトも以外に大きかった。
●12位:大林組(増収増益型)
基本的に、「増収増益型」だが、販管費が減っている所は逆に注意。FY13通期の連結P/Lを見てみると、販管費の43%程度が人件費だったので、その他の経費が削減されている模様。また、増益理由の「12.6%」は、その他の損益起因。連結P/Lを見ても、「その他の営業外費用:▲11億円(削減額)」としてしか表示がないので、詳細まで分析不可。
●13位:ファナック(増収増益型)
オーソドックスな増収増益型。海外輸出中心企業なのになぜ「為替貢献」が無いのか?それは円貨建てによる輸出が大半なため、そもそも為替差損益が発生しない損益構造になっている。
●14位:ブラザー工業(為替貢献型)
前期に、「デリバティブ評価益:17億円」が営業外収益に計上されていたため、経常増益にはこの分はマイナスに効いている。それをカバーしてもランクインするくらい本業が好調(増収増益)だということ。
●15位:オリンパス(複合型)
増益理由の78%は、増収増益(営業利益)が要因。ただし、増収額が「212億円」なのに、売上原価が「7億円」しか増えていない。これは、医療事業のプロダクトミックスとして、マージンの高い新製品がローンチしたなど、この事業の粗利率が改善したことによる。その他の事業は営業利益率がそんなによくなっていないので、メイン事業の好調が主な要因。「その他損益」インパクトが約11%で金額にして14億円。その大半は、「支払利息:▲18億円」。あの事件により、借入金が急増したが、毎年順調に返済している様子をそのまま表している。
まあ、最初の「海外で稼ぐ企業上位に」というのは、ほとんどがメーカーなので、必然的に輸出が中心になりますから。それは、2月決算会社が入っていないので、メーカー中心のランキングになるのは当たり前なのですね。

■ (おまけ)ディスクロージャーへの姿勢

この記事を書いている時点で、各社のホームページで「決算短信」か「有価証券報告書(半期報告書)」のいずれかを確認しました。通常は、決算が締まってから3ヵ月以内に有報が開示されていればよいので、この11月中旬に有報まで開示されているのは、開示が早い方だと思います。決算開示は早い方が絶対よい、とまでは思いませんが、早期開示は、それだけ経理体制がしっかりしている印象は受けます。ただし、あくまで開示結果が良好なことが最優先です。
また、合わせて、「決算報告資料」にも目を通しましたが、外部の利害関係者が本当に知りたいのは、例えば①過去損益の増減の理由や②将来の業績予想。筆者の視点からなので、あくまで個人的な意見にすぎませんが、両方(①②)が揃って満足な記述レベルになっている会社は、今回の調査でも極めて稀でした。どこの会社か、特定したコメントをするのは「風説の流布」に抵触しそうなので、ここでは意見公開を我慢します(たまには筆者にもこらえ性が出るのです)。
以上、上期決算の経常増益率ランキングに対するコメントになります。皆さんの決算分析のご参考になれば幸いです。

(Visited 52 times, 1 visits today)
Pocket

小林 友昭会計で経営を読む■ FY14上期 経常増益率ランキング記事から 4~9月期の決算発表が一揃いしたので、日経新聞もそろそろ番付記事掲載の季節に入りました。本格的な財務分析は「有価証券報告書」が出揃うまで、本ブロクでは掲載を待つ予定ですが、新聞記事にはコメントをしていきたいと思います。 2014/11/19付 |日本経済新聞|朝刊 4~9月期 決算番付(2)経常増益率 海外で稼ぐ企業上位に(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「海外で稼ぐ企業上位に」という小見出しがありました。こちらもざっとですが確認したいと思います。 ■ 「経常増益率ランキング表」を見るときの留意点まず、下記は、新聞に掲載のあったランキング(上期の方)を筆者の方でExcelにまとめ直して転載します。 老婆心ながら、 常にこの手のランキングでまずご注意して頂きたいのは、「会計数字」の定義がキチンと揃っているか否かです。というのも、「経常利益」というのは、日本を含むごく少数の国にしかない利益概念である一方、日本でディスクローズできる会計基準が現時点で3つ(日本基準、米国基準、IFRS)、そのうち4つになる(修正IFRS)、という状況なので、本質的な比較可能性が担保されていない分析が世の中には多い、と筆者は考えています。 そこは、日経新聞の当該記事にも、ランキング表の下部に注記で、「米国・国際会計基準は税引前利益」を採用している旨が記載してあります。しかも、3月決算企業に絞られているので、2月決算の小売業や、グローバル対応している12月決算企業は、ほとんどこの手の記事には登場してきません。ここも留意しておいてください。 ■ 経常増益要因分析をしてみました前上期との比較分析を要因別(売上高、売上原価、販管費、為替差損益、その他損益)に分解してみました。各要素の経常増益に対する貢献度から、各社の増益理由(タイプ)を「リストラ型」「増収増益型」「為替貢献度型」「イベント型」「複合型」の5種類に区分してみました。 分類は以下の通り。 ・「リストラ型」:コストカットで増益を図る(2社) ・「増収増益型」:順調にビジネスを成長させて増益を図る(8社) ・「為替貢献型」:基本的に上記「増収増益型」と同じ構造だが、増益理由の3割程度以上が為替差損益の改善によるもの(3社) ・「イベント型」:特殊な損益増減理由があるもの(1社) ・「複合型」:増益要因が複数あるもの(1社) 分析を実行する前に、筆者は必ず仮説を立てるのですが、今回は「増収増益型」と「為替貢献型」が大多数を占めると考えていました。数的には予想は当たったのですが、ランキング上位2社までが「リストラ型」となりました。これは、新聞記事と同じ分析結果となりましたので、読者の皆様にも特段誇れる内容にはなりませんが、特徴のある会社については、次章で多少なりとも、コメントを付けていきたいと思います。 ■ 個別企業の分析●1位:任天堂(リストラ型) 唯一の減収。ただし、粗利率が改善している。これは、粗利率が相対的に高い、ソフトの売上がハードに比べて増えたから。つまり、セールスミックス的には、原価率の高いハードより、ソフトの出荷構成比率が上昇したのがその要因。 ●2位:ルネサスエレクトロニクス(リストラ型) R&D費用を大幅に削減した結果の経常増益。将来の成長のタネを育む代わりの増益。あまり歓迎できない増益理由。 ●5位:セイコーエプソン(イベント型) IFRSによる開示なので、税前利益による分析になっている。経常増益額:511億円のうち、338億円が、その他の損益起因になっている。その中でも、「退職後給付制度改定益:301億円」がその要因となっている。もしかすると、日本基準だと、「特別利益」に計上されているかも、なので、そもそもこのランキングに入ってこない可能性もある。 ⇒これが、会計基準差異。要注意! ●7位:三菱重工業(為替貢献型) 基本的に、増収増益で良いビジネスシナリオによるランキング入り。ただし、為替差損益の改善貢献度が、「31.7%」に上っている。その他、受取利息・受取配当金・持分法損益の増加分が、合計で「70億円」もある。本業以外のインパクトも以外に大きかった。 ●12位:大林組(増収増益型) 基本的に、「増収増益型」だが、販管費が減っている所は逆に注意。FY13通期の連結P/Lを見てみると、販管費の43%程度が人件費だったので、その他の経費が削減されている模様。また、増益理由の「12.6%」は、その他の損益起因。連結P/Lを見ても、「その他の営業外費用:▲11億円(削減額)」としてしか表示がないので、詳細まで分析不可。 ●13位:ファナック(増収増益型) オーソドックスな増収増益型。海外輸出中心企業なのになぜ「為替貢献」が無いのか?それは円貨建てによる輸出が大半なため、そもそも為替差損益が発生しない損益構造になっている。 ●14位:ブラザー工業(為替貢献型) 前期に、「デリバティブ評価益:17億円」が営業外収益に計上されていたため、経常増益にはこの分はマイナスに効いている。それをカバーしてもランクインするくらい本業が好調(増収増益)だということ。 ●15位:オリンパス(複合型) 増益理由の78%は、増収増益(営業利益)が要因。ただし、増収額が「212億円」なのに、売上原価が「7億円」しか増えていない。これは、医療事業のプロダクトミックスとして、マージンの高い新製品がローンチしたなど、この事業の粗利率が改善したことによる。その他の事業は営業利益率がそんなによくなっていないので、メイン事業の好調が主な要因。「その他損益」インパクトが約11%で金額にして14億円。その大半は、「支払利息:▲18億円」。あの事件により、借入金が急増したが、毎年順調に返済している様子をそのまま表している。 まあ、最初の「海外で稼ぐ企業上位に」というのは、ほとんどがメーカーなので、必然的に輸出が中心になりますから。それは、2月決算会社が入っていないので、メーカー中心のランキングになるのは当たり前なのですね。 ■ (おまけ)ディスクロージャーへの姿勢この記事を書いている時点で、各社のホームページで「決算短信」か「有価証券報告書(半期報告書)」のいずれかを確認しました。通常は、決算が締まってから3ヵ月以内に有報が開示されていればよいので、この11月中旬に有報まで開示されているのは、開示が早い方だと思います。決算開示は早い方が絶対よい、とまでは思いませんが、早期開示は、それだけ経理体制がしっかりしている印象は受けます。ただし、あくまで開示結果が良好なことが最優先です。 また、合わせて、「決算報告資料」にも目を通しましたが、外部の利害関係者が本当に知りたいのは、例えば①過去損益の増減の理由や②将来の業績予想。筆者の視点からなので、あくまで個人的な意見にすぎませんが、両方(①②)が揃って満足な記述レベルになっている会社は、今回の調査でも極めて稀でした。どこの会社か、特定したコメントをするのは「風説の流布」に抵触しそうなので、ここでは意見公開を我慢します(たまには筆者にもこらえ性が出るのです)。 以上、上期決算の経常増益率ランキングに対するコメントになります。皆さんの決算分析のご参考になれば幸いです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します