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1.9 Matrix Financial Analytics とは

管理会計(基礎編)

筆者の自作による財務分析テンプレート(Excel 2010)を用いた財務分析手法で、FY2011~15の5ヵ年の時系列分析によるトヨタ自動車の経営状況を概括したいと思います。一つの財務指標でも、5年並べてみれば、単独でそれなりの経営状況の変化のストーリーを見せてくれますし、関連する他指標との比較にまで目を凝らして見れば、ひとつひとつの財務指標がすばらしい経営戦略のストーリーテラーとなってくれるに違いありません。

『9 Matrix Financial Analytics』とは、筆者渾身の財務分析手法で、初心者から中級者向けのツールとして開発したものです。

財務分析(経営分析)は、数字を算出して終わりではありません。確固たる経営管理の目的を果たすために行われる計数分析作業で、各種の経営管理活動(施策)と連動する必要があり、同時に、その施策に何らかの示唆を与えたり、特定の管理目的の達成度評価や目標設定に役立つものでなければなりません。

経営管理の活動レベルとして、①商品戦略、②事業戦略、③財務戦略の3つ、
経営管理の視点の違いとして、①ビジネススピード、②投資収益性、③キャッシュマネジメントの3つ、
3×3のマトリックスで一覧性を保持しながらも、企業経営における重要な財務指標を選抜してあります。

20160821_9 Matrix Financial Analytics

20160820_9 Matrix Financial Analytics_グラフシート

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  「9 Matrix Financial Analytics テンプレート(無償版」← MS Excel 2010版
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   「財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』(無償版)取扱説明とダウンロード

 

2.交叉比率

この指標は、3×3のマトリクスにおいて、「商品戦略」での「投資収益性」を管理する目的で使用するものです。

・交叉比率 = 売上高粗利率 × 商品回転率
         = (粗利 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 棚卸資産)×100
→棚卸資産粗利率を、「売上高粗利率」と「商品回転率」とに分解した指標です。
→「売上高粗利率」は、売上高に含まれるマージン(儲け)の割合を示しています。
→「商品回転率」は、在庫(棚卸資産)が売れていくスピードの速さを表しています。
    ※粗利(あらり)=売上総利益

一般的には、小売業などに代表される流通業でよく用いられる財務指標になります。薄利多売の商品は、利益率は小さいのですが、回転率は高くなります。一方、マニアックな(通好みの)商品はそうそう売れない(回転率は悪い)のですが、一旦売れるとなると、高い利益率をもたらせてくれます。そうした商品ポートフォリオごとに、商品特性をひとつひとつ確認しながら、陳列方法や品揃えを検討するのに、用いられます。

製造業においても、1台2台、1個2個と数えられる製品を複数種類取り扱っているディスクリート業界ならば、この小売業の商品管理の手法がきっと使えるはずです。

これも、前回の「売上高成長率」の解説で、事業ポートフォリオの「ボリューム」と「成長率」のバランスに触れたように、「回転率」と「粗利率」のバランスを見る必要があります。

そして、「投資収益性」の管理視点は、適切な在庫投資水準はどれくらいなのか、在庫が生み出すマージンはいくらかを見ることで裏付けられます。在庫とは、すなわちその分資金が寝ていることになるので、その金額がそのままその商材を使ったビジネスに投下した資金とみることができます。それゆえ、「投資収益性」の管理視点となり得るのです。

これも財務指標のひとつなので、比較可能性があり、業界や商材ごとのだいたいの理想値や平均値というものが存在しています。「交叉比率」自体はマルチプル指標なので、その数値自体がビジネス実体のある数値ではないので、ここは業界ごと、商材ごとの横並び比較でその数値の良否を評価する必要があります。

ここではあえて、業界的に馴染のある流通業の一般的数値例をご紹介します。皆さんも一般消費者として、お店に行く機会が多いと思いますので、身近な商品(お店)の交叉比率を目で見てみると、ほーっ、となると思いますので。

下記数値例は、「JNEWS.COM 起業家のための成功法則 交差比率から導く儲かる商売、業界の見つけ方 JNEWS会員配信日 1999/3/29」のサイトにあった数値例を引用させて頂いております。

20160904_小売業の交叉比率3

ここで要注意なのですが、「交叉比率」の数値自体は、高い方が企業の収益体質がより高い傾向にあると言えます。それじゃ、高い方が必ず損益計算書のボトムライン(純利益)が大きくなるのか、といったらそうでもありません。あくまで、「交叉比率」が勝負している利益率は、「粗利」「売上総利益」ベースなので、いわゆる販管費の負担(一般的には固定費と言われるコスト構造のものが多い)が大きいと、せっかく交叉比率が高くても、営業利益や経常利益からそれ程でもなくなることも多々あります。その点は要注意です。あくまで(この言葉を使うのも2回目ですが)、商品別の粗利と回転率の分析なのです。

筆者がこれを製造業にも援用しようという意図は、上記の販管費の性質によるところが大だからです。販管費は、「間接費」でかつ「固定費」の性質を持つ部分が多い傾向にあります。それを無理に製品に「配賦」したところで、製品別の管理可能な利益体質を解析できる利益指標になるとは思えないのです。それで、販管費たる支出も回収できる粗利を稼ぐ製品は何かを見るのに「交叉比率」は役立つ、ということなのです。

もっと、製造業における製品別のコスト分析と収益性分析に迫るのなら、「粗利」ではなく、「限界利益」を用いると、さらに、「固定費」の回収をもたらしてくれる儲かり度の高い製品をあぶりだすことに役立つことでしょう。

ちなみに、「間接費」と「固定費」は、全く別の概念のコスト分類なのですが、重なる領域が大きいため、一般的には同義とされ、一括りで管理されることが多いコスト概念です。もし、その違いを明確に理解されたい方は、下記2つの過去投稿を参照してみてください。

⇒「原価計算 超入門(7)全部原価と直接原価の違い
⇒「固定費の配賦の目的をきちんと認識していますか? -共通費と固定費の違い

 

3.トヨタ自動車の「交叉比率」を実際に見てみよう!

ではトヨタ自動車のFY11~15の5ヵ年の交叉比率の推移をご覧ください。

20160904_トヨタ自動車_交叉比率_数表_FY2011~15

20160904_トヨタ自動車_交叉比率_グラフ_FY2011~15

トヨタ自動車は、FY11から15の5年間で、「交叉比率」を149.5ポイント増、2倍以上に伸ばしました。その内訳は、ほぼ粗利率の向上です。さすがに、トヨタ生産方式はもう高水準の回転率を実現していて、目を見張るほどの「カイゼン」はますます難しくなってきています。それをマージンの上昇(商品力×販売力、一部に円安効果)で補っています。

ちなみに、FY14に一時的に停滞したのは、中国市場での苦戦が大きな理由の一つとなります。前回に引き続き、くどいようですが、このような原因分析を行うトリガーとして、こうした財務指標を使うのが筆者流なので、原因自体を財務指標が囁いてくれることはあまり期待していません。でもね、じーっと数字を眺めていると、数字の方から、「もっとここを調べて!」と訴えてくる声が聞こえてくるような気がします。筆者の気のせいかな?(^^;)

財務分析(入門編)_FY2015 トヨタ自動車 財務分析(2)交叉比率 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』より

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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FY2015 トヨタ自動車 財務分析(2)交叉比率 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』よりhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭財務分析(入門編)9 Matrix Financial Analytics,DL,Excel,ダウンロード,テンプレート,ディスクリート,トヨタ自動車,交叉比率,固定費,在庫回転率,売上高粗利率,無償版,経営分析,財務分析,間接費1.9 Matrix Financial Analytics とは 筆者の自作による財務分析テンプレート(Excel 2010)を用いた財務分析手法で、FY2011~15の5ヵ年の時系列分析によるトヨタ自動車の経営状況を概括したいと思います。一つの財務指標でも、5年並べてみれば、単独でそれなりの経営状況の変化のストーリーを見せてくれますし、関連する他指標との比較にまで目を凝らして見れば、ひとつひとつの財務指標がすばらしい経営戦略のストーリーテラーとなってくれるに違いありません。 『9 Matrix Financial Analytics』とは、筆者渾身の財務分析手法で、初心者から中級者向けのツールとして開発したものです。 財務分析(経営分析)は、数字を算出して終わりではありません。確固たる経営管理の目的を果たすために行われる計数分析作業で、各種の経営管理活動(施策)と連動する必要があり、同時に、その施策に何らかの示唆を与えたり、特定の管理目的の達成度評価や目標設定に役立つものでなければなりません。 経営管理の活動レベルとして、①商品戦略、②事業戦略、③財務戦略の3つ、 経営管理の視点の違いとして、①ビジネススピード、②投資収益性、③キャッシュマネジメントの3つ、 3×3のマトリックスで一覧性を保持しながらも、企業経営における重要な財務指標を選抜してあります。 ⇒ダウンロードはこちらから(DL先は本ブログサーバ内なのでご安心ください)   「9 Matrix Financial Analytics テンプレート(無償版)」← MS Excel 2010版 ⇒本ブログのダウンロードページへはこちらから    「財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』(無償版)取扱説明とダウンロード」   2.交叉比率 この指標は、3×3のマトリクスにおいて、「商品戦略」での「投資収益性」を管理する目的で使用するものです。 ・交叉比率 = 売上高粗利率 × 商品回転率          = (粗利 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 棚卸資産)×100 →棚卸資産粗利率を、「売上高粗利率」と「商品回転率」とに分解した指標です。 →「売上高粗利率」は、売上高に含まれるマージン(儲け)の割合を示しています。 →「商品回転率」は、在庫(棚卸資産)が売れていくスピードの速さを表しています。     ※粗利(あらり)=売上総利益 一般的には、小売業などに代表される流通業でよく用いられる財務指標になります。薄利多売の商品は、利益率は小さいのですが、回転率は高くなります。一方、マニアックな(通好みの)商品はそうそう売れない(回転率は悪い)のですが、一旦売れるとなると、高い利益率をもたらせてくれます。そうした商品ポートフォリオごとに、商品特性をひとつひとつ確認しながら、陳列方法や品揃えを検討するのに、用いられます。 製造業においても、1台2台、1個2個と数えられる製品を複数種類取り扱っているディスクリート業界ならば、この小売業の商品管理の手法がきっと使えるはずです。 これも、前回の「売上高成長率」の解説で、事業ポートフォリオの「ボリューム」と「成長率」のバランスに触れたように、「回転率」と「粗利率」のバランスを見る必要があります。 そして、「投資収益性」の管理視点は、適切な在庫投資水準はどれくらいなのか、在庫が生み出すマージンはいくらかを見ることで裏付けられます。在庫とは、すなわちその分資金が寝ていることになるので、その金額がそのままその商材を使ったビジネスに投下した資金とみることができます。それゆえ、「投資収益性」の管理視点となり得るのです。 これも財務指標のひとつなので、比較可能性があり、業界や商材ごとのだいたいの理想値や平均値というものが存在しています。「交叉比率」自体はマルチプル指標なので、その数値自体がビジネス実体のある数値ではないので、ここは業界ごと、商材ごとの横並び比較でその数値の良否を評価する必要があります。 ここではあえて、業界的に馴染のある流通業の一般的数値例をご紹介します。皆さんも一般消費者として、お店に行く機会が多いと思いますので、身近な商品(お店)の交叉比率を目で見てみると、ほーっ、となると思いますので。 下記数値例は、「JNEWS.COM 起業家のための成功法則 交差比率から導く儲かる商売、業界の見つけ方 JNEWS会員配信日 1999/3/29」のサイトにあった数値例を引用させて頂いております。 ここで要注意なのですが、「交叉比率」の数値自体は、高い方が企業の収益体質がより高い傾向にあると言えます。それじゃ、高い方が必ず損益計算書のボトムライン(純利益)が大きくなるのか、といったらそうでもありません。あくまで、「交叉比率」が勝負している利益率は、「粗利」「売上総利益」ベースなので、いわゆる販管費の負担(一般的には固定費と言われるコスト構造のものが多い)が大きいと、せっかく交叉比率が高くても、営業利益や経常利益からそれ程でもなくなることも多々あります。その点は要注意です。あくまで(この言葉を使うのも2回目ですが)、商品別の粗利と回転率の分析なのです。 筆者がこれを製造業にも援用しようという意図は、上記の販管費の性質によるところが大だからです。販管費は、「間接費」でかつ「固定費」の性質を持つ部分が多い傾向にあります。それを無理に製品に「配賦」したところで、製品別の管理可能な利益体質を解析できる利益指標になるとは思えないのです。それで、販管費たる支出も回収できる粗利を稼ぐ製品は何かを見るのに「交叉比率」は役立つ、ということなのです。 もっと、製造業における製品別のコスト分析と収益性分析に迫るのなら、「粗利」ではなく、「限界利益」を用いると、さらに、「固定費」の回収をもたらしてくれる儲かり度の高い製品をあぶりだすことに役立つことでしょう。 ちなみに、「間接費」と「固定費」は、全く別の概念のコスト分類なのですが、重なる領域が大きいため、一般的には同義とされ、一括りで管理されることが多いコスト概念です。もし、その違いを明確に理解されたい方は、下記2つの過去投稿を参照してみてください。 ⇒「原価計算 超入門(7)全部原価と直接原価の違い」 ⇒「固定費の配賦の目的をきちんと認識していますか? -共通費と固定費の違い」   3.トヨタ自動車の「交叉比率」を実際に見てみよう! ではトヨタ自動車のFY11~15の5ヵ年の交叉比率の推移をご覧ください。 トヨタ自動車は、FY11から15の5年間で、「交叉比率」を149.5ポイント増、2倍以上に伸ばしました。その内訳は、ほぼ粗利率の向上です。さすがに、トヨタ生産方式はもう高水準の回転率を実現していて、目を見張るほどの「カイゼン」はますます難しくなってきています。それをマージンの上昇(商品力×販売力、一部に円安効果)で補っています。 ちなみに、FY14に一時的に停滞したのは、中国市場での苦戦が大きな理由の一つとなります。前回に引き続き、くどいようですが、このような原因分析を行うトリガーとして、こうした財務指標を使うのが筆者流なので、原因自体を財務指標が囁いてくれることはあまり期待していません。でもね、じーっと数字を眺めていると、数字の方から、「もっとここを調べて!」と訴えてくる声が聞こえてくるような気がします。筆者の気のせいかな?(^^;) (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します