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制管一致について(5)管管差異もどこまで検証する必要があるか?

所感
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■ あなたの会社には管理会計制度がいくつありますか?

コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ

前回、制度会計と管理会計の数字が並立することを認める姿勢を会計の世界における「多神教」であるという説明をしました。そこでは、

(1)イデア論的多神教
→制度会計との差異は説明可能で、管理会計は制度会計のために存在する

(2)プラグマティック的多神教
→制度会計との差異が説明不能な制度会計の数値も大切に思う

という2つの流派があることにも言及しました。

さらに、踏み込んで議論をさせて頂くと、あなたの会社には、いくつの管理会計ルールが存在しますか? 筆者の経験から、企業規模が大きくなり、複数事業を営んでいると、管理会計ルールがひとつだけいうのは稀有な例です。大抵は、複数の管理会計の数字が氾濫し、そのどれもが一致していないことの方が多いと思います。

乱立する管理会計数値の存在意義や存在理由を少々、分析してみます。

(1)ただ、野放図に、各自が勝手に管理会計ルールを制定し、己に有利な数字をばらまいている

(2)整然と、管理目的に応じた管理会計数値が個別に使用されている

上記の(1)のケースが発生する理由として、単に経営管理がなっていないことが最大の理由ではないことの方が多いと思います。つまりですね、人の心理に巣食う「他人からよく評価されたい」願望が強いことが本質的な理由です。

というのは、「管理会計」の目的の一つに、「業績評価」というものがあります。これは、単純に、製品別、セグメント別、組織別に、どれだけ期初に立てた目標を達成したかを表示するにとどまらず、制度として、また暗黙知として、「人事評価」「処遇」「人事考課」「長期的な評判とその結果得られる出世」を強く意識するあまり、自己の業績結果を実態以上によく見せようとする意図が介在するリスクが裏に潜んでいないか、という指摘なのです。

 

■ 誰かを評価するための数字か、一緒に業績改善の協力をするための数字か?

管理会計の数字の使われ方の話なのですが、人事考課としての「業績評価」に使用されるのが一概に悪いとは申しません。しかし、会計知(リテラシー)がありすぎて、会計トリックを駆使して、実態以上に自分の業績をよく見せようとする輩が後を絶ちません。

この領域で大変有名な事例を2つご紹介します。

(1)抜本的な投資を遅らせることにより、短期的な利益を過大に見せる

もし、事業部長の人事考課が、任期中の会計的損益で行われるとしたら、そして事業部長としての任期が3~5年程度で次の異動があることが公然の秘密になっていたら、筆者ならば、大型の投資案件はすべて見送ります。そうすると、減価償却費負担を減らすことができ、その分期間利益を大きくすることができます。そして、自分の任期が終了したら、次の赴任先の事業部でも同じことを繰り返します。

必要なタイミングに先行投資を実行することは、その事業の成長を軌道に乗せるのに大変重要なことです。しかし、短期的には減価償却費負担がのしかかります。しかし、その果実を得るのは数年から数十年先になる事もざらです。それゆえ、短期的な(年度単位の)会計的利益だけで責任ある事業部長の職務の人事評価に当てることは、とてつもないリスクを伴います。

(2)共通費の配賦基準を逆手に取る

もし、莫大な本社費を、事業部の人数(ヘッドカウント)で配賦するルール(俗に人頭税と呼ぶ)があり、それが事業持株会社内で閉じた配賦計算だった場合、悪知恵が働く事業部長は、部下たちを、事業部傘下の子会社に転出させて、事業持株会社内に所属する人数を極限まで減らします。事業部傘下の子会社に出向した人たちには、それまで通りの業務を遂行させ続けます。こうすることで、業務量と業務の質は維持したまま、本社費用の負担を極端に減らすことができ、見かけ上は、共通費配賦負担額を減らした分だけ、自事業部の利益を実態より大きく見せることができます。

従来の日本企業では、長期的雇用慣行から、先行投資を止めることで短期的な期間損益の極大化だけを目指す人は、最終的には業績改善に貢献したとは評価されてきませんでした。しかし、雇用が流動化することで、欧米企業でありがちな、会計トリックを駆使し、真価がばれる前に、また別の企業に転職することで、中長期的に大きい金額の報酬を得続けるケースも出てきました。

それゆえ、筆者は、あまりに行き過ぎた「成果主義」的な報酬制度はあまりお勧めはできませんし、その業績評価指標に管理会計の数字が悪用されるのも看過することはできないのです。

 

■ ここに管理会計数値が複数存在する理由をみつけることができます!

行き過ぎた業績評価を緩和するために、そして企業業績の実態を本当に表す管理会計の数値も、企業経営のためには必要になります。つまり、

① 企業内の誰かの仕事の達成度を調べるための管理家計の数字
② 真に企業業績がどうなっているのかを分析するための管理会計の数字

の少なくとも2種類が並立することが常態化している、これが四半世紀以上、管理会計を見続けてきた筆者の見解です。そして、必ずと言っていいほど、その2つの数字は一致することはありません。むしろ、使用目的に応じて異なる結果を表示します。

人を評価するためには、その人が操作可能な会計数値だけを集めた、いわゆる管理可能利益で評価してあげるべきです。しかし、その人が担当している事業が本来、本社機能の支援サービスを受けているとしたら、そのサービスの対価も考慮して、その事業がどれくらいの儲けを作っているのかも知りたくなるのが、経営者の心情です。

それの思いだけで、「管理可能利益」と「本社費負担後利益」の2つで当該、事業部の収益性を見ることができます。そのどちらが真の事業部利益なのでしょうか? そういうのは愚問の類です。目的に応じた管理計数を提供する。それが、「プラグマティック的多神教」的管理会計観というものです。

この例では、本社費用負担額のみが、両者の利益の違いとして存在し、2つの管理会計が指し示す数字の差異を明らかにすることができます。しかし、現実には、こうした事例より複雑に計算構造が入り組んでいることも多く、またデータを提供するシステムが別々に構築されることもあり、管理会計ルール間の計算差異を明らかにすることは難しいことの方が多いようです。これを「管管差異」と呼びます。

月は満ちたり欠けたり、その時々で姿を変えます。そのどちらも月であることには違いはありません。太陽の周りを回る地球の公転や自転、太陽と地球と月の相対的位置から、三日月になったり、満月になったり。天文学を修めなくても、皆がどちらも唯一の月であることはわかっているじゃありませんか。管理会計も月と同じ。その違いがすべて説明されていなくても、企業業績をある視点から眺めた真実の姿なのです。それは、先行投資を先送りしていても、配賦ロジックを悪用していても、ありのままの姿を指示しているのです。

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