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(経済教室)人工知能が変える未来 ものづくりで日本に勝機 「子供のAI」活用カギ 松尾豊 東京大学准教授

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 「子供のAI」とは面白いネーミングです!

経営管理会計トピック

最近はやりの「人工知能(AI)」の産業化(ビジネス化、マネタイズ化)のお話です。

<ポイント>
① 「子供のAI」は真面目な研究開発が重要
② 個別分野のデータ獲得が先行者利益生む
③ 建機、農機、食品加工で超巨大企業出現も

2015/10/5付 |日本経済新聞|朝刊 (経済教室)人工知能が変える未来 ものづくりで日本に勝機 「子供のAI」活用カギ 松尾豊 東京大学准教授

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

松尾豊_日本経済新聞朝刊_20151005

松尾豊 東京大学准教授 上記記事より

まず、松尾教授は、「モラベックスのパラドックス(逆説)」を紹介されています。「大人ができることよりも子供ができることの方が、コンピューターで実現するのは難しい」というものです。名付けて、「大人のAI」と「子供のAI」。その違いを、これまでのAIで、できること/できないことで仕分けてみます。

「大人のAI」ができること
・知能テストを受ける
・医療診断をする
・定理を証明する
・クイズ番組で人間のチャンピオンに勝つ
・チェスや将棋で世界王者・プロ棋士に勝つ

「子供のAI」としてできない/苦手なこと
・1歳児レベルの知覚と運動スキル
 → 画像認識(画像に映っているのが犬か猫かの判断)
 → 運動スキル(積み木を上手に積む)

ところが、
「2012年、ジェフリー・ヒントン・トロント大教授らのチームは画像認識のタスクで、従来を大きく上回る精度を達成、研究者たちをあっと言わせた。ディープラーニング(深層学習)という技術だ。画像を見分けるという、まさに「子供にでもできること」で精度が大幅に向上した。その後、今年2月に米マイクロソフト、3月には米グーグルが、人間の画像認識の精度を超えるプログラムを開発。ついに「子供のAI」が現実のものになり始めた。」

人間の脳の認知方法をまねたアルゴリズムで可能になった「ディープラーニング」技術によって、子供にもできる認識能力が飛躍的に向上しました。

(参考)
⇒「人工知能の実力 - 日経新聞連載コラムより
⇒「日曜に考える(創論)ロボット普及が変える世界 -人工知能(AI)について

「米カリフォルニア大バークレー校は今年5月、ディープラーニングと、強化学習というタイプの学習方法を組み合わせて、ロボットの動作が熟練していく様子を見せた。例えば、おもちゃの部品を組み立てるなどの動作が、試行錯誤により徐々に上達する。」

つまり、「ディープラーニング」技術をうまく使えば、考えて自ら成長して自動最適化を行ってくれる産業用ロボット活用による飛躍的な生産性の向上が製造業で実現する可能性が高い、ということです。

(松尾教授の著作その1)

 

■ 「人工知能(AI)」の脅威を考える

近著「人工知能 人類最悪にして最後の発明」で、AIの脅威について警鐘が鳴らされていますが、受け止め方は人ぞれぞれのようです。松尾教授はこの種の脅威論に対し、一定の見解を表されています。

「ここで注意すべきは、AIが勝手に成長し人間を脅かすことはないという点だ。知能と生命は異なる。知能は与えられた目的に対し良い方法を見つけるが、生命のように生存や増殖といった目的を自発的に持たない。おもちゃを組み立てるなどの目的を与えた時、適切な方法を見つけ出し上達しても、自らおもちゃを組み立て始めることはない。」

前著では、AIに優秀な機械学習機能が搭載され、例えば、「おもちゃを最も効率的に組み立てる」という目的を与えたとき、その命令を最高の状態で達成するまで進化を止めないAIは、やがて、『おもちゃを組み立てる』ために、自己保存も目的の中に組み入れ、それを妨害する人間側のプログラム改変も目的達成の障害として排除しようとする」と主張がなされており、その立場に、ホーキング博士やビル・ゲイツ氏が組みしているといわれています。優れたAIは自身のプログラムを自己改変できる能力を有していますので、いつまで人間側の統制の範疇に収まり続けるのか、保証されない、という見解に筆者も実は賛同しています。

■ 「人工知能(AI)」の産業への活用について

まあ、その辺のAI脅威論はいったん脇に置いておきましょう。2045年が本当に「シンギュラリティ」到来の時となるのか、わかりませんので(でも実現可能性が高いリスクとは思っていますが)。ここではAIの産業活用の可能性について説明を続けたいと思います。

「いま、AIはブームを迎えている。米IBMの「ワトソン」などは「大人のAI」だ。企業もビッグデータを取得するようになり、それを活用するためのAI利用が進んでいる。これも「大人のAI」だ。知的な振る舞いができるように裏で開発者が一から十まで設計している。とはいえ、これまでデータを蓄積できなかった、あるいは活用できていなかった領域(顧客管理、医療、金融、教育など)ではそのインパクトは大きい。」

教授によれば、「大人のAI」の活用のメリットも大きく、その実現性も高いというお考えをお持ちのようです。そして、「大人のAI」と「子供のAI」の活用法とその効用の違いを解説してくれています。

「大人のAI」は、いわゆるビックデータ解析でその力を発揮し、グーグルやアマゾンが既に大きく世界をリードし、最初にプラットフォームを築いたもの勝ち、いわゆる「先行者利益」を先行IT企業が占有してしまっているため、これからの参入は厳しいという見解です。マーケティングスキルと、軽いノリの「ピボット戦略」(だめならすぐにやり直す)が企業体質に備わっていないと成功がおぼつかないとして、日本企業にはハードルが高そうです。

一方で、これから「ディープラーニング」で進化が著しい「子供のAI」の分野は、教授によれば、
「ハードサイエンスと真面目な研究開発が重要だ。個別分野でニーズに正しく応え、圧倒的な性能向上により製品の付加価値を生む。きちんとした設備投資と設計が必要で、ものづくりと相性が良く、日本にもチャンスが大きい。」

「画像認識のためのカメラから始まり、センサー、セキュリティー、製造装置、ロボット、建機や農機などの機械設備、物流、インフラ産業が関係する。さらには、モーターなどの駆動系や素材産業も間接的に関係する。様々な産業が「子供のAI」により一気に発展する可能性がある。」

その両者の違いは、記事に添付されている比較表があるので、下記に転載しておきます。

人工知能(AI)の産業別の可能性_日本経済新聞朝刊_20151005

 

■ 「子供のAI」は日本の勝ちパターンになり得るか?

教授によれば、「子供のAI」すなわち「ディープラーニング」の分野で先行するのは、米国、カナダ、フランスで、日本はひいき目に見ても2番手集団の一角なのだそうです。シリコンバレー企業がなりふり構わず、膨大な資金で優秀な技術者や研究者を集めている様子は、次の新聞記事(この記事の翌日掲載)でも明らかになっています。

2015/10/6付 |日本経済新聞|朝刊 シリコンバレー 人工知能の技術者争奪 アップルやツイッター 画像・音声認識で需要

「米シリコンバレーに拠点を置く企業の間で、人工知能(AI)の専門家の争奪戦が激しくなっている。人材獲得で先行するフェイスブックやグーグルを追い、アップル、ツイッターなども獲得を活発化。画像や音声を高い精度で認識する場合にAIを活用する例が増えており、さながら「AIブーム」の様相を呈している。」

さてさて、教授から日本のやるべき施策・政策としては、

「日本が国としてやるべきことは、まず「子供のAI」に、きちんと研究開発投資をすることだ。ディープラーニングと既存技術の組み合わせでは例えばロボティクス、推論、言語、知識処理に関する重要な研究課題が数多くあり、大きな産業的インパクトがある。また、ディープラーニングを使いこなせる人材の育成が急務だ。産業の新しい成長を阻害しないような法整備と、新しい産業構造を踏まえた産業政策の実現も重要であろう。」

基礎研究の重要性。これは、今年のノーベル賞の日本人受賞の報道からも、声高に叫ばれていることですね。

教授からは、まだまだ間に合うというメッセージが出ています。

「筆者の見立てでは、諸外国は「子供のAI」がものづくりに大きな影響があることをまだ明確に意識していない。諸外国に対する時間的な優位はおそらく半年から1年。この間に一気に、AIを組み合わせた製品を世界市場に投入できるか。それが勝負だ。」

産業別の攻め口としては、次のように見ていらっしゃいます。

「最後に大胆な予想をしてみよう。AIを使った世界的な超巨大企業、つまり「ネクストグーグル」は、建機、農機、食品加工の分野から出現する。自然物を相手にするため、本質的に自動化・機械化できなかった。巨大な市場を持つ分野であり、そこを制した企業がインフラから日常生活に至るまで、AIを使って社会全体を豊かにする様々な製品を生み出す可能性がある。」

ビックデータはシリコンバレー企業に抑えられたかもしれないけれど、IoT、センサーやアクチュエーター、ロボットと組み合わせた自動化や機械化のメカトロとの融合、この辺の分野の技術蓄積は、ロボット大国日本が、AI、ビックデータ、IoTの時代で生き残るキーワードになりそうです。

『モラベックのパラドックスは崩れた。急がねばならない。』

(松尾教授の著作その2)




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