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(ニュースフォーキャスト)アップルの世界開発者会議(5~9日)「後出し戦略」にリスクも – バリュープロポジションは経営者のスタイルで

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ ジョブズ後のアップル、スマートスピーカーで競合の後塵を拝する!

経営管理会計トピック

経営陣の交代により、企業がコンペチターとの競争戦略で自社の「売り」とする「バリュー・プロポジション」を変えてくることは、ままあります。それが、カリスマ性のあるリーダーからの交代であれば、その変化は必然となります。

2017/6/4付 |日本経済新聞|朝刊 (ニュースフォーキャスト)アップルの世界開発者会議(5~9日)「後出し戦略」にリスクも

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「米アップルが5~9日にカリフォルニア州サンノゼで「世界開発者会議」を開催する。自社向けにソフトを開発する技術者を世界中から集め、向こう1年間の開発の方向性を示す重要なイベントだ。基本ソフト(OS)の変更点の発表が中心だが、過去にはスマートフォン(スマホ)やパソコンの新製品を披露したこともある。今年注目されるのは、人工知能(AI)分野で先を行く米グーグルとの「時差」がどうなっているかだ。」

(下記は同記事添付の「アップルのクックCEOは「安心・安全」を新たなブランド価値に据える(昨年6月の世界開発者会議)=AP」を引用)

20170604_アップルのクックCEOは「安心・安全」を新たなブランド価値に据える(昨年6月の世界開発者会議)=AP_日本経済新聞朝刊

同記事では、アマゾンが2014年に独自の会話型AI「アレクサ」を搭載した「エコー」を発売したスマートスピーカーで新市場を切り開いたことを引き合いに出して、従来は、こうした製品リーダーシップ戦略は、ジョブズが健在だったころのアップルの十八番(おはこ)だったのでは? と強くあてこすっています。エコーは、公式発表はありませんが、推計で累計1100万台以上が売れるヒットとなったと言われています。

2017/5/18付 |日本経済新聞|朝刊 「スマホの次」三つどもえ AIスピーカー、グーグル日本上陸

「【シリコンバレー=小川義也】米国の家庭で急速に普及する人工知能(AI)を搭載した「スマートスピーカー」が日本に上陸する。米グーグルは17日、日本語に対応した会話型AI「グーグルアシスタント」を載せた製品を年内をめどに発売すると発表した。米アマゾン・ドット・コムが切り開いた市場には米マイクロソフト(MS)も参入を表明。音声認識技術の向上を背景に、IT(情報技術)大手の三つどもえの争いが始まっている。」

(下記は同記事添付の「スマートスピーカーの新機能を説明するグーグル幹部(17日、カリフォルニア州)=ロイター」を引用)

20170518_スマートスピーカーの新機能を説明するグーグル幹部(17日、カリフォルニア州)=ロイター_日本経済新聞朝刊

この記事でも、IT大手の三つどもえだと評する中に、アップルの名前は登場してきません。

■ ジョブズ後のアップル、「後出し戦略」に方針転換する!

冒頭の記事より。

「携帯音楽プレーヤー「iPod」やスマホの「iPhone」を世に問い、人々の生活を一変させた頃に比べると革新のスケールは小さくなった。カリスマ創業者のスティーブ・ジョブズ氏の死去から5年半。アップルが目の肥えたファンを驚かせる「世界初」の機能や製品を生み出すことはほとんどなくなった。」

機能を必要最小限に絞り込み、デザイン性を追求したアップル。ジョブズという巨匠がいたからこそ、その強烈なリーダーシップで、上梓する製品は全てが新規性とイノベーティブ性に充ち溢れて、企業イメージもそうした「イノベーション」「デザイン」が強調されたものでした。

「代わって今のアップルが展開しているのは、最新の技術や機能を、ある程度の時間をかけて使いやすくしてから製品化する「後出し戦略」。スマホが普及し、社会インフラのようになった今、あえて最先端を追わず、高品質とブランド力に磨きをかけていくことで強さを発揮する。」

従来のスマホ商品戦略では、そのデザインの作り込みに力を入れている方向性は変わっていません。

⇒「(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(2)SEDAモデルでデザイン思考を理解する!

アイブの発想により、iPhoneの筐体(きょうたい)はアルミ板の削り出しによる「ユニボディ」です。削り出しを使った筐体は、プレス加工や射出成型に比べて、加工時間が長くコストも高くなります。その一方で、競合他社と一線を画するデザインや触感、品質感、芸術性を実現することに成功しました。これぞ「デザイン価値」訴求の成功事例です。

アップルのビジネスとして成功はそれだけにとどまりません。

「アルミを削る工作機械など高価な製造設備を大量に購入し、製造委託先に貸与するため、アップルの設備投資は14年以降、毎年1兆円を超えています。まさにエンジニアリングとデザインの高度な統合です。」

ものづくりの一般的発想とは真逆。通常の発想は、製造委託先の工場や自社工場が持つ既存生産設備に合わせた加工ができるような製品デザインを行うのが当たり前。しかしアップルのアプローチは、実現したいデザインに合わせて、加工設備をゼロから工場に導入させるのです。こうしてデザイン性に富んだ製品を世に送り出すことができるのです。

デザインのために、生産技術開発とその設備投資まで自社で賄う徹底ぶり。その姿勢はジョブズ時代から何ら変わっていません。

市場における競争戦略は、がちの正面突破作戦、正面対決作戦が目立つので、その勝敗にも耳目が集まりますが、「兵は詭道なり」「勝ち易きに勝つ」でもいいわけです。いうなれば、アップルはジョブズ時代に築いた高いブランド認知力とデザイン力で、市場一番乗りに必ずしもこだわらなくても、商品力で十分に勝負できるはずです。

■ ジョブズ後のアップル、「ブランド価値」の育成に力を注ぐ!

冒頭の記事より。

「細部をうまく調整し、使い勝手の良さにこだわることで、高齢者などIT(情報技術)が苦手だと感じる層にもファンを広げている。「世界初」の看板に固執せず、顧客の安心感や満足度の高さを競争力の源泉とする。「アップルの本質は、ソフトとハードを他社にはできない高い水準で融合させ、圧倒的な使いやすさを生み出すこと。交通やエネルギー管理、教育などの分野で成長の余地は十分ある」とIT分野に詳しいアナリストのホラス・ディデュー氏は指摘する。」

それは、スマホに代表されるIT製品が十分に普及し、レイトマジョリティまで普通に購入に走るようになった成熟市場では、それまでのリーダー企業が長年築いてきたブランド価値の十二分の活用にこだわった方が、競争戦略上も採算管理上も有利に違いありません。
「AIと並んで今後の主戦場になるビッグデータに関しても同様だ。個人データが新たな富の源泉となる「データ資本主義」の到来がもてはやされるなかにあって、アップルは利用者からのデータ収集に自ら制限をかけている。
ティム・クック最高経営責任者(CEO)はプライバシー重視やセキュリティーの高さを訴え、がむしゃらに個人情報を収集するグーグルとは一線を画した「安心・安全」のブランド価値を醸成しようとしている。開発者会議でもこの姿勢を繰り返し訴える場面が目立ちそうだ。」

クックCEOは、ビッグデータ全盛の世の中になることは十分に承知の上で、データの囲い込みや、躍起となった個人データ収集により、企業ブランド価値の毀損を恐れているわけです。つまり、「レピュテーションリスク」のコントロールを重視する戦略に出たという訳です。

一朝一夕に築けるわけではない「ブランド価値」。それがアップルにはある。それが強みで、ジョブズ後でも、アップルがIT大手の競争に生き残る最有力の方法論のひとつなのです。経営者が変われば、経営者と市場の関係性、従業員を含めた内部プロセスも変容します。内部組織にも外部市場にも、変化に対応し、自社の強みを生かし続けられる企業が生き残る。ジョブズ後のアップルには、そうした徹底した姿勢を感じ取ることができるのです。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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