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政府・自民、監査法人にも統治指針 企業となれ合い防止 -定期的な監査法人の交代と二重責任の原則について

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 監査法人専用のガバナンス・コード(統治指針)を作ります!?

経営管理会計トピック

企業の財務諸表の開示にお墨付き(適正意見)を与える機関である監査法人。会計不祥事が起きるたびに、責め続けられる監査法人。今度は、監督官庁である金融庁から「ガバナンス・コード(統治指針)」による縛りを受けるとか。

2016/3/5付 |日本経済新聞|朝刊 政府・自民、監査法人にも統治指針 企業となれ合い防止

「政府・自民党は4日、監査法人の経営規範を示す「ガバナンス・コード(統治指針)」を年内にもつくる方針を固めた。ある企業を監査するチームを一定期間ごとに交代させるといった監査法人と企業のなれ合い防止策を盛り込む。監査の透明性を確保することで会計不祥事の再発を防ぎ、日本企業への信頼を取り戻す狙いがある。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「自民党の金融調査会が月内に統治指針の新設を提言する。政府は6月にまとめる成長戦略に盛り込み、金融庁が具体策などを詰める。
 統治指針は2015年に東京証券取引所が上場企業に初めて適用した。東芝の会計不祥事を受け、監査法人にも統治指針が必要と判断。法律と異なり強制力はないが、指針に従わない場合は理由の説明が求められる。」

原則主義に基づき、「順守せよ、さもなくば説明せよ」の精神で、事業会社は各社各様(まあ、横並び表現との指摘もありましたが)に、コーポレートガバナンス・コードの開示に応じています。

⇒「企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題

「政府・自民党は、日本公認会計士協会が再発防止策として取り組む監査の適切な手続きなどでは不十分とみている。より実効性が高い統治指針を課すことにした。
 新たにつくる統治指針は、企業と監査法人の適切な関係を維持することが柱だ。監査法人は現在、自主的に監査チームの責任者を5年ごとなどで交代させているが、これを厳格に運用させる。監査チーム全員の交代を義務付けるなどの案が有力。欧州は監査法人自体を交代させる制度の導入を予定しているが、国内は中長期的な検討課題にとどめ、当面は見送る方向だ。」

担当する企業の交代が義務付けられている欧州に比べ、担当するチームの定期交代で許されている日本。監査サービスの質向上と不正防止のためには、監査法人の交代が必ずしも必須とは思いませんが、ある種の牽制・競争は働くとは思います。

監査法人への厳しい世間の目については、次の過去投稿を参考にしてください
⇒「監査審査会会長 「東芝は粉飾決算」 担当の監査法人を検査へ
⇒「(わかる監査)不正に向き合う(1) 市場の期待とギャップ  見逃した「東芝隠蔽」 適正意見に責任問う声
⇒「巨大監査法人を監督 51カ国・地域で新機関 情報共有や共同検査 日本、本部誘致名乗り

会社法上の機関設定として、株主が経営者を監視するための必要悪として存在する監査法人(会計監査人)。その監査サービスの受益者は投資家であり、コスト負担者は株主になります。

当局が厳しい規制を課せば課すほど、運営コストが跳ね上がります。そのしわ寄せは、株主の経済的利益(配当など)に反映されます。税金で監査をやってくれるか、株主を中心とした会社自治を強化してくれるかしてくれないと、こういう中途半端なポジションの組織の監督コストの適切な負担割合なんて簡単には計算できないと思いますが。。。

 

■ 監査法人の交代義務化の流れが強化

3月5日は観測記事だったんですかね。1週間もたたないうちに、交代制が検討されることになりました。

2016/3/10付 |日本経済新聞|朝刊 監査法人交代制も検討 金融庁、年内に統治指針

「金融庁は8日、会計監査に関する有識者会議を開き、監査法人の信頼性向上のための提言書をまとめた。東芝の会計不祥事を踏まえ、監査法人が守るべき規範を示す「ガバナンス・コード(統治指針)」を年内につくる。企業とのなれ合いを防ぐため監査法人を一定期間ごとに変える交代制の導入も検討する。金融庁と監査法人が定期的に意見交換する協議会も設ける。」

この流れは完全にあの不祥事が影響しています。

2016/3/5朝刊記事より
「監査法人内に社外の有識者で構成する組織を置いて、経営や監査体制を監視する案を検討する。企業向けの統治指針では社外取締役を2人以上置くよう求めているが、監査法人でも外部の目を活用し社内でチェック機能が働くようにする。会計監査の情報が株主に行き渡るよう情報提供の拡充も検討する。

2016/3/10朝刊記事より
「「東芝を監査した新日本監査法人は総額2000億円超の利益水増しが見抜けず、監査法人の組織運営力の底上げが急務になっている。」

片や、新日本監査法人も自助?自浄?努力に動いています。

2016/3/12付 |日本経済新聞|朝刊 (短信)新日本監査法人、社外ガバナンス委に3氏

「新日本監査法人は11日、1月に提出した業務改善計画の一環で設置した「社外ガバナンス委員会」の社外有識者を発表した。ヤマトホールディングスの特別顧問の有富慶二氏、慶応大の池尾和人教授、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ日本法人の斉藤惇会長が就く。」

「新日本は東芝の会計不祥事を防げず、金融庁から行政処分を受けた。監査チームの情報共有や連携のなさが問題視された。社外ガバナンス委員会は月1回開く新日本の経営会議に参加し、第三者の観点から組織運営を助言する」

 

■ 監査法人の交代は、制度的な義務化ではなく自主的に、の流れもありでは!?

ここにきて、あくまで特定の事象の結果、監査法人の交代が企業側からの自主的判断で行われています。

2016/3/15付 |日本経済新聞|朝刊 富士フイルム、監査を新日本からあずさに変更 東芝不祥事巡り

「富士フイルムホールディングスは2017年3月期にも会計監査の担当を現在の新日本監査法人からあずさ監査法人に変える方針を固めた。新日本は担当する東芝の会計不祥事を見逃し、金融庁から行政処分を受けている。富士フイルムは新たな監査法人のもとで決算を公表し、投資家の信頼を高める狙いがある。
 行政処分を理由に新日本から他の監査法人に変える動きが表面化したのは、東芝グループ以外の主力企業では初めて。」

現状の制度的スキームでは、経営者を行動を財務諸表監査という手段で牽制・監視することを、株主の代理で監査役および会計監査人が代行していることになっています。経営者が自らの監視役を実務的には自主的に選任できる、というのもおかしな話ですが、株主総会で選任するという会社法の規程があっても、ほとんどの株主(アクティビスト以外)は、監査人選任の餞別眼を備えているとは限らず、また配当だけに関心があるので、わざわざ能力があっても監査人選任に口を出さないことも十分に考えられます。

「富士フイルムは6月末の株主総会を経て、あずさへの交代を正式に決める。東芝のほか過去にオリンパスの会計不祥事も見抜けなかった新日本の監査では、投資家からの信頼に影響しかねないと判断したとみられる。
 あずさは新日鉄住金やホンダ、三井住友フィナンシャルグループなど約700の上場企業を監査し、国際会計事務所KPMGと提携している。」

逆に、経営者は自身の経営結果を映す財務諸表の適切性の裏書を、より真っ当な監査法人に任せる姿勢を見せることで、金融市場での資金調達コスト低減を図っているとも考えられます。

「新日本は東芝の2248億円にのぼる利益の水増しを見逃し、金融庁から3カ月間の新規業務停止や21億円の課徴金納付命令などを受けた。東芝は17年3月期から監査法人をPwCあらた監査法人に変えると発表済み。中堅企業ではジェイエイシーリクルートメントも新日本からの変更を決めている。」

まあ、社外取締役の選任、より厳しくやってくれる期待感がある会計監査人の選任、自分を縛る人を自分で選ぶというのは、矛盾している感もありますが、己に厳しい姿勢を見せる経営者に好感を示さない投資家は逆にいないでしょう。こういう経営者の行動は、完全に経済合理性に適っていると言えますが、逆に、自身の経営の質に自信があるあらわれかもしれません。

 

■ 最後のおまけ:公認会計士ってなんですか?

いまさら、ここまで監査法人の話をしていて、公認会計士ってどんな仕事をしているの? 疑問に思われた方に、超入門編の記事をご紹介します。

2016/2/15付 |日本経済新聞|夕刊 (ニッキィの大疑問)監査法人 本来の使命は? 厳しく決算精査、経済の潤滑油

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Q1:監査法人って、そもそも何ですか。

「5人以上の公認会計士が集まって設立する法人です。会社がつくった決算書をチェックする会計監査をし、『決算書は正しい』というお墨付きを与えるのが主な仕事です。これは会計士にだけ認められる業務です。上場会社は金融商品取引法のもと、会計士による会計監査を義務付けられています。資本金5億円以上または負債が200億円以上の会社は、会社法により同様の会計監査を求められます。公認会計士は弁護士や医師と同じく国家資格です」

「会計士は現在、約2万8000人います。上場企業の増加などに合わせ、会計士の数も増えてきました。個人で活動している会計士もたくさんいます。ただ、大企業の会計監査では、100人を超えるチームを組み決算書をチェックします。たくさんの会計士が所属し、事務職員なども抱える監査法人でないと対応できません。約210の監査法人があり、なかでも三大監査法人と呼ばれる法人が特に規模が大きいです。新日本監査法人、監査法人トーマツ、あずさ監査法人の3法人はそれぞれ3000人を超える会計士を抱えています。この3法人で、約3500社ある上場会社のうち4分の3の会社の監査を受け持っています」

この3大監査法人に、PwCあらた監査法人を加え、監査法人の交代制が正式化されると、ほぼ4社でローテーションするしかないですね。一期5年とすると、20年に一回は順番が回ってくる勘定になります。なかなか、競合他社を担当した監査法人から次は自社が監査を受けます、というのは抵抗があるのか、それとも歓迎する向きがあるのか? そこは秘すれば花です。

(下記は同記事添付の公認会計士のお仕事のイメージ図を転載)

20160215_公認会計士の仕事_日本経済新聞夕刊

Q2:監査法人にとって今後の課題は何ですか。

「グローバル化に伴い会社の事業内容は多様になり、会計基準も複雑になっています。それだけ会計不祥事が起きるリスクも高まっています。会計士はこれまで、決算書が正しいことを証明するのが会計監査の目的で、不正の発見が第一ではないと言ってきました。しかし、そうした考えのままでは、厳しい監査を期待する市場関係者からの理解は得られないでしょう。不正が行われるリスクがあることを前提に、チェックすることが大切になります」

ここはですね、二重責任の原則というものが厳然とあるのです。

● ハロー! 監査事典:二重責任の原則 | 日本公認会計士協会
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財務諸表を作る責任は経営者(企業側)にあり、公認会計士にはそれを監査する責任がある。たとえば、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)の注記は公認会計士が書くものではなく、会社が自ら情報を開示するものであり、公認会計士はその有無や内容の十分性に対して適正か否かを表明する。
ここでの公認会計士の責任は、会社の事業継続能力を判定したり、会社の存続を保証することではなく、当該注記が正しく開示されているかどうかを表明することにある。
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「特に、会計基準は過去のお金やモノの動きを記録するだけではありません。例えば、ある工場で将来どれだけの利益が出るかを予測して、決算期末での資産価値を評価するようなケースが多々あります。会計処理に経営者の裁量が入る余地があり、数字の単純な確認だけでは監査になりません。不正の兆しを見落とさないよう、場合によっては、抜き打ち検査のような手法も必要でしょう」

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世の中からの要請により、監査の内容や目的を変えるなら、法律や規制も変えて頂きたいですね。不正の防止や不正の発見がしたいなら、その種の捜査権を監査法人に与えなければなりません。警察権に準じたかなり強い性格のものになります。

でもそれって、コスト負担は当然、税金ということになるんですよね。会社は社会の公器。その公器の適切な会計処理の実施は、社会・経済に大きな影響を及ぼす。よって、不正が起きないため、その摘発と防止の専門家に任せる。でもタダで専門家に仕事はお任せできない。よって、大きな社会的不正を防止するためのコストは広く国民一般からの税金で賄うという理屈になります。

また、捜査権についても、サイバーテロ対策、医療過誤問題対策などと一緒に、その道の専門家を警察・司法に集めた方がいいとお思いますがね。

でも、一番の不正防止は信頼できる経営者が経営する会社の株式を買ったり、そういう企業と取引したりすることですね。結局、自身の企業を見る目、経営者を見る目が曇っていないことが肝要かと。。。

 

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