ボブ・マーリー(2)指をさして人を非難する前に、君のその手がよごれていないか確かめてくれ

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■ 他人を批判する前に襟を正す!

コンサルタントのつぶやき

Before you point your fingers, make sure your hands are clean.

指をさして人を非難する前に、君のその手がよごれていないか確かめてくれ。

(ボブ・マーリー)
——————–
口汚く部下を罵る上司をたまに目にします。クライアントとの見解の相違があった時、徹底抗戦して、自分の意見を押し通すコンサルタントをたまに目にします。上司から注意を受けたのに、自己防衛本能丸出しで決して謝らず、言い訳しか口にしない人をたまに目にします。

なかなか、自分を客観視することは難しく、自分自身の主観、色眼鏡を通してしか、自己を評価することができない人が多いように思います。何か事がうまくいかないとき、何か事がうまくいきすぎて怖い思いをしている時、このマーリーの言葉を思い出してみてください。はっと何かに気付くかもしれません。

えっ、私ですか?
当然、自分のことを棚に上げてしか、他人にアドバイスもコメントも口にすることができません。自分ができないこのことを気づいているからこそ、皆さんにも注意を喚起できるというものです。(^^;)

(参考)
⇒「アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉(33)

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エーリヒ・フロム(1)未熟な愛は言う、「愛してるよ、君が必要だから」と。成熟した愛は言う、「君が必要だよ、愛してるから」と。

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■ あなたが何かを求める姿勢。動機が先か、目的が先か?

Immature love says: “I love you because I need you.” Mature love says: “I need you because I love you.”

未熟な愛は言う、「愛してるよ、君が必要だから」と。成熟した愛は言う、「君が必要だよ、愛してるから」と。

(ドイツの社会心理学者、精神分析学者、哲学研究者 / 1900~1980)

——————————————————-
フロムは、一方を未熟な愛、もう一方を成熟した愛と断言していますが、これは受け止める人によって本当に様々だと思います。

「愛してるよ、君が必要だから」は、「あなたが私には必要なんです。だから、あなたを愛しています」と、相手の愛情を得る「目的」が先立って、その理由付けに「愛情」を持ち出しています。

一方で、「君が必要だよ、愛してるから」は、「あなたを愛しています。だから、あなたが私には必要なんです」と、まず自分の「気持ち・動機」が先立って、その理由付けに「必要性」を持ち出しています。

先に合理的な判断があって、後付けで自身の気持ちの整理をつけるのか、それとも、先に感情があって、溢れる思いの理由を探すのか。

理性を司る左脳から入るか、それとも感性を司る右脳から入るか、どっちが優れているかを競ったり、評価するのではなく、自分の思考プロセスを熟知しておくことが肝要かと。

交友の課題であろうと、仕事上の課題であろうと、本能に任せると自分はどういう言動をするのか、コミュニケーションの取り方の「くせ」が左右どちらの脳に起因するのか、を知っておくと、特に、周囲の人と揉めた場合の上手い解決策の探し方や、そもそも揉め事にならないような言動を取る心の準備ができたり、いいこと尽くめだと思います。

ちなみに、私は、「右脳」から入るので、まず対象に「好きか、嫌いか」から入ります。それが交友だろうと仕事上のタスクであろうと。(^^;)

コンサルタントとして仕事をしていて、関係する人の好き嫌いということではなくて、ある課題が投げかけられたときに、頭に思い浮かぶいくつかの解決策の中から一つを選び出す場合、まず最良・最善であると感じた解決策を選び取ってから、後付けで、その選択肢を選んだ理由をいろいろと探し出します。

自分の中ではそういう思考パターンが当たり前なのですが、プライベートでは右脳優先の人でも、職場では左脳優先で物事を考える人の方が多いような気がしています。それゆえ、プレゼンテーションでは、左脳で理屈や目的、前提条件、制約条件を先に述べたあと、感性を織り交ぜた理由付けに触れた方が、受け入れられやすい気がします。

でもね、疲労がたまって(私の場合はほとんど睡眠不足が主原因なのですが)、思わず本音が仕事上で出る時には、まず最初に口を突くのは「好悪から来る判断・結論」。そこから、いろいろと理屈を述べても、なぜか、自己防衛のための言い訳のように聞こえてしまう。。。(^^;)

みなさんも、交友、仕事の場で、「理屈・目的」が先に頭に思い浮かぶか、「感情・感性」が先立つか、一度気にされてはどうでしょう? コミュニケーション相手が、どっち派かを配慮しておくのもいいかも。

(参考)
⇒「あなたは左脳派ですか、それとも右脳派ですか?

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経営戦略概史(20)ストークが東京から放った「タイムベース戦略」- ケイパビリティが測定可能に!付加価値向上とコストダウンの両立策とは?

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■ 生産オタクのストーク、ヤンマーに学ぶ!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、大テイラー主義的手法でケイパビリティ派初の具体的な戦略として提示された「タイムベース戦略」「タイムベース競争」を生み出したBCGのストークを取り上げます。

前回(経営戦略概史(19)ベンチマークで復活したゼロックス・サウスウェスト航空・フォード)紹介した「ベンチマーク」は、他社のベストプラクティスを見つけて、それをそのまま自社に適用・実行することで、それ自体、ケイパビリティ(企業能力)の向上策ですが、「戦略」そのものではありませんでした。しかし、BCGのジョージ・ストーク、トーマス・ハウト、フィリップ・エヴァンズの三人が日本企業からの学びを元にしたケイパビリティ重視の「タイムベース戦略」を生み出しました(本書P185)。

ストークは、1979年に世界最大の農機具メーカー、ディーア(Deer)からの依頼を受け、提携先の日本企業ヤンマーの工場を視察しました。そこで彼が目にしたのは、「生産性が大幅に高く、生み出す製品の品質が高く、在庫が著しく少なく、使用スペースが小さく、生産時間がはるかに短かった」理想的な工場の姿でした。ストークは東京オフィスでトヨタの研究もしながら考え続けて遂に、「時間をベースにした戦略」という概念と、「あらゆるものの(コストでなく)時間を測る」という手法を編み出しました。

彼の気づきとは、
① 付加価値を上げるには、顧客の要望から対応までの時間を短縮する
② コストを下げるには、あらゆるプロセスにかかる時間を短くする
でした(本書P187)。

その頃の加工組み立て産業は、規格品の大量生産・大量販売のビジネスモデルから、顧客の多様なニーズを取り込んだ多品種少量生産を強いられて、既存の「ものづくり」プロセスでは、製品開発から量産までのプロセスを柔軟に変更したり、素早く変化に対応したりすることが競争優位のためのポイントになっていたのです。ストークが目を付けたのは、「顧客に、より新しく多様で安いものを素早く提供するための戦略」、それが「タイムベース戦略」だったのです。

管理会計手法でも「時間」に着目した有名なものが存在します。京セラの「アメーバ経営」です。アメーバ組織ごとに、売上からコストを差し引いたアメーバの付加価値分を、アメーバの保有工数で割り算して算出する「時間当たり採算」をKPIにして各アメーバの採算管理を行っています。

 

■ 測れるケイパビリティ戦略「タイムベース戦略」

本書によりますと、当時、トヨタやホンダ等の日系企業は、新車を36ヶ月で開発できましたが、米国の同業では60ヶ月かかっていました。その差は日本企業にお馴染みの根性や長時間労働だけが理由ではありませんでした。

今風に例えるなら、「コンカレント・エンジニアリング」。

関係する部門(企画・開発、製造、原料調達先、部品メーカーなど)がなるべく早い段階から情報共有を行って仕事のムダをなくし、同時並行でできる仕事は必ず同時並行で行う、といった日本企業の「時間の使い方」に秘密があったのです。クライスラーはこの研究を受け入れ、以降の4車種で開発期間を25%短縮し、開発投資を30%削減することに成功し、商品も大ヒットしました(本書P187・188)。

マッキンゼーの
「ホンダ効果」(経営戦略概史(17)キヤノンとホンダ 無鉄砲な日本企業たちの躍進)、
「7S」(経営戦略概史(18)ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作『エクセレント・カンパニー』
が開いたケイパビリティ戦略への扉を、BCGの「タイムベース戦略(競争)」が「ポジショニング」と「ケイパビリティ」の両立という形で、分析・測定可能な戦略として開け放ったのです。

ポーターが、その競争戦略論で、
① 差別化(高付加価値化)
② コストリーダーシップ
③ 集中(ニッチ化)
のいずれを独立背反的にひとつだけ選択するしかない、としたポジショニング戦略に対して、

付加価値の向上(差別化)と、コストの低下(コストリーダーシップ)は、時間短縮によって、同時に実現できる二律背反なものではない(本書P188)ことを日系企業の成功を元に、発見したのがストークだったのです。

ストークらはその著書『Competing Against Time』で、タイムベース競争の幕開けとして、本田技研工業(ホンダ)とヤマハ発動機(ヤマハ)の「HY戦争」を取り上げています。これは1979年にヤマハがオートバイ市場の盟主となると宣言、市場リーダーのホンダに挑んだ大変興味深いものです。経営史では一般に「激烈な消耗戦」と評価される争いでしたが、この中でストークらはホンダの勝因が、わずか18ヶ月の間に60モデルを113に拡大するという前代未聞の新製品ラッシュでヤマハの挑戦を退けたと分析しています。その熾烈な競争の中で、ホンダは経営システムを抜本的に作り変え、「タイムベース競争の先駆者」となったと言われています。

(参考)
⇒「ホンダ、ヤマハ発動機 細る国内二輪市場で提携 協業と競争の棲み分け戦略 - OEM供給戦略について

 

■ 現代でもそのまま通用する「タイムベース戦略」

「タイムベース競争」とは、「コスト競争」「品質競争」に並び、企業の競争戦略において“時間”こそが希少資源であると考え、時間短縮をもって競争優位を築こうとする企業間競争のことを言います。現場におけるQCD(Quality, Cost, Delivery)の3つのいずれに力点を置いて戦うか、と見れば、今となっては別段特別なことを言っているわけではありませんでした。最初に気付いて口にした人が偉いのです!

「タイムベース競争戦略」は、次のような着眼点を持って現場プロセスの改善を実践します。
(1)顧客価値の向上
同質的な価格・機能・品質の製品・サービスを購入する場合、いつまでも待たされるよりも即座に入手できるものの方が顧客の利便性や満足度が高くなる
(2)生産性の向上
同じ時間で効率的に多くの活動が行えれば、コスト競争力の面で有利
(3)多様な製品投入による市場対応力の向上
同じ時間でより多くの企画や開発に取り組める
(4)市場投入スピード早期化による需要の取り込み
リードタイム短縮によるユーザーニーズの早期充足
(5)市場リスクの軽減
見込みで生産や仕入れを行う際により需要期に近いタイミングで判断が行える
(6)高収益性の実現
在庫リスクや欠品リスクの回避が逸失利益を回避につながる(=機会コストの低減)

では、より具体的な方法論には何があるのでしょうか?
タイムベース競争を実践するためには、ただ単に作業を急ぐというわけではありません。いろいろな現場における実際の活動を動作分析すると多くの場合、付加価値作業に用いられている時間は総作業時間の5%にも達していないことが知られています。残りのほとんどは価値を生み出さない「非付加価値時間(待ち時間)」であり、これを付加価値時間に変換していくことが肝要となります。

 このようにタイムベース競争のコンセプトは、日本企業の強い現場、それも自動車産業で実践されてきた「改善活動」「ムダ取り」に大いに由来します。しかし、その実践範囲は、生産の業務現場にとどまらず、ホワイトカラー職種にも広く応用ができます。HY戦争を勝ち抜いたホンダの様に経営システムそのものを改変するまでに。

 

■ (おまけ)最近の「タイムベース戦略」の事例を探してみると、、、

ものの本やネット上の解説では、「タイムベース戦略(競争)」の事例として、コンビニやピザの宅配など、注文リードタイムの短さを競った顧客の利便性の追求、といったものがよく挙げられるのですが、顧客が欲しいものを確実に早く提供することを追求するということは、

生産リードタイム > 注文リードタイム

の不等式が成立するために、従来は「見込み生産」に甘んじて、「在庫リスク」「欠品リスク」を負うビジネスモデルが一般的だった業界において、少なくとも

生産リードタイム ≧ 注文リードタイム

にする努力に邁進し、「売り切り生産」に移行する企業が登場してきました。それがアパレル業界におけるファストファッション(H&M、ZARAなど)です。最新の流行を採り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売し、売り切れ御免で、次の流行に乗った商品開発・販売に移行するのです。

そしてこの業界はさらに、ICTの進化を取り入れ、カジュアル衣料を扱っているのに「受注生産」に基づくビジネスモデルを採用する企業まで登場してきました。

(参考)
⇒「サプライチェーン管理(1) - SCMと在庫は切っても切れない仲
⇒「サプライチェーン管理(2)- 在庫の持ち方によるビジネスモデルの分類
⇒「サプライチェーン管理(3)- デカップリングポイントによる7つのビジネスモデル

2017/4/20付 |日本経済新聞|朝刊 アパレル、消費者の好み反映 ストライプ、ネットで受注生産

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「アパレル業界が長年の課題だった過剰在庫の解消を進める。カジュアル衣料大手のストライプインターナショナル(岡山市)は自社サイト経由で受注生産を始め、従来の見込み生産で生じていた無駄な在庫を減らす。最大手「ユニクロ」も納期短縮で店舗などに滞留する在庫を圧縮。在庫処分の過剰なセールをなくして採算を改善し、消費者の好みを迅速に商品に反映する効果も狙う。」

(下記は同記事添付の「受注生産で需要の「読み違い」を抑制する」を引用)

20170420_受注生産で需要の「読み違い」を抑制する_日本経済新聞朝刊

従来、衣料品は販売の数カ月~1年前にデザインを決め、需要を予測して生産する手法が一般的でした。トレンドや天候の読み違えで売れ残った商品は値引き販売(バーゲン)で在庫一掃を図ります。しかし、バーゲンセールが常態化してセール販売比率が数割を占めるようになると、収益の圧迫要因となってしまいます。それゆえ、値引きを見越して価格をあらかじめ割高に設定せざるを得ないケースも多々あります。しかし、受注生産で売れ残りがなくなれば、在庫やセールを織り込まずに低価格で商品を提供することができます。

「受注生産は価格が数万円台の高級ブランドでは少なくないが、大量生産を前提とし数千~1万円前後のカジュアル衣料では珍しい。少量生産のため生産コストは割高になるが、同社は売れ残った商品の値引き販売によるマイナスがなくなることで相殺できるとみる。石川康晴社長は「売り上げよりも在庫消化率100%を優先する」と話す。」

タイムベース戦略は、製造業の現場に限った話ではない。ビジネスモデル開発を検討する会議室で議論されているのだ!(^^;)

(参考)
⇒「ファストリ傘下のGU、人気商品をすばやく増産 従来の半分、2ヵ月で -ファストファッションのビジネスモデルはレッドオーシャン !?
⇒「(経済教室)企業経営 再興の条件(下)「事業機会の裏」に勝機あり 競合の忌避テコに差別化 楠木建・一橋大学教授
⇒「ファストリと東レ、販売・生産情報共有 流行や人気…迅速対応 5年で1兆円取引発表

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(20)ストークが東京から放った「タイムベース戦略」- ケイパビリティが測定可能に!付加価値向上とコストダウンの両立策とは?

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原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!

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■ 原価計算基準は、取得原価主義に基づく「実際原価」を基本としている!

前回(原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理)は「原価計算基準」の前段の能書きの構成をざっと理解して頂きました。今回から47条に及ぶ各条を丹念に読み込んでいきたいと思います。

その前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の体系

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

 一 原価計算の目的

 原価計算には、各種の異なる目的が与えられるが、主たる目的は、次のとおりである。

(一) 企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。

この目的は「財務諸表作成目的」と呼ばれるものです。この目的は財務会計との有機的結合を指示したものと理解され、専ら公表用財務諸表(金融商品取引法、会社法などの制度会計ルールが開示を要請する財務諸表)の作成のために、原価情報を提供することが前提と考えられるのが一般的です。貸借対照表の開示のためには、棚卸資産(原材料、仕掛品、半製品、完成品、貯蔵品など)、損益計算書の開示のためには、売上原価、販管費および一般管理費の価額を決めるのに原価計算を必要とします。

この時、公表財務諸表が適正に開示されるために、「真実の原価」が計算されることを条件としています。この「真実性」が何を意味するかですが、「取得原価主義」を前提とした原価で、基準では、
① 取得原価
② 予定原価
標準原価
の3つを認めています。
ただし、②予定原価と③標準原価については、実際の取得原価(歴史的原価)との差額が生じることが一般的ですので、できるだけその差額を小さくすることも要請しています。

(基準一四)
予定価格はできるだけ実際価格に近似させ、価格差異をなるべく僅少にする

(基準六)(一)3
予定価格または標準価格で計算する場合、実際発生額との差異を財務会計上適切に処理する

(基準四七)
各種原価差異の適正な処理方法の定義

つまり、原価計算基準では、予定原価や標準原価は実際原価と近似する場合に採用を許し、万一発生した差額も適正に差額処理されることを要請しています。

何を持って「真実の原価」と言い切れるのか?
あくまで原価計算基準は、所定の手付きに基づいて求められた原価を持って「真実の原価」としています。その計算機構の詳細は、(基準六)(一)の財務諸表の作成のための一般的基準の解説に譲りたいと思います。

 

■ 「財務諸表作成目的」がカバーする利害関係者はどの範囲までか?

真実の原価を報告する対象として、「出資者」「債権者」「経営者」の三者が例示列挙されています。「出資者」=株主、「債権者」=金融機関や社債購入者とするならば、配当可能利益の算定や、融資の裏付けとなる換金性のある財産(担保物件)の確保といった企業外部の利害関係者が特に気にする「損益計算書」が適正に企業業績を表しているか、「貸借対照表」が適正に財政状態を表しているか、という公表財務諸表を見る上で特に留意すべき点を網羅したものと考えるのは普通です。ではなぜ、ここにわざわざ企業内部に位置付けられる「経営者」が例示されているのでしょうか?

その理由は、内部報告用の財務諸表の作成もこの目的に含まれているからです。経営者が投資家や債権者から委任された経営責任を全うするために、企業内部の財務状況を管理監督し、時には大胆な経営判断を下す必要があります。ただ、ありのままの企業業績・財政状態を開示するためだけの原価計算ではなく、業績改善の道具として活用されるための資料を提供することも含まれているのです。

例えば、
・原価管理用の製造原価明細資料
・予算管理のための目標設定とつながった標準原価
・開示情報をより詳細にブレークダウンしたセグメント情報
・直接原価計算機構による利益管理情報

ただし、この点をあまりに強調すると、2つの弊害が大きく感じられます。
① そもそも原価管理や予算管理など、内部管理目的は別途規定してあることと矛盾しないか?
② ここにある内部管理用の原価資料はすべて財務会計ルールに準拠する必要があるか?

①について
外部報告用原価情報とソースを一にし、同じ土俵で立っている原価資料は外部報告と内部管理の両方の目的で併用されても問題ない。むしろ、同じ計算機構で出力された原価資料は整合が取れていて、説明に首尾一貫性が保たれる。

②について
あくまで、外部報告用の会計的業績をよりよく改善するための経営活動に資する原価資料の提供をここでは意味している。内部管理用に特化した、制度会計(財務会計)とは異なる計算機構に基づく原価資料の取り扱いや使用目的は別の項目で規定されている。

この辺りは、原価計算を含む管理会計に勤しむ会計人なら一度は思いを馳せるテーマでしょう。

(参考)
⇒「制管一致について(1)その前に制制一致の問題があります!
⇒「制管一致について(2)その前に制制一致の問題があります!パート2:会計基準差異とIFRS導入
⇒「制管一致について(3)会計の世界における「一神教」と「多神教」の違いとは!?
⇒「制管一致について(4)制管差異はどこまで説明されねばならないのか?
⇒「制管一致について(5)管管差異もどこまで検証する必要があるか?

 

「価格計算目的」は合っても無くてもよい項目だった!

実に残念な項目が最初から含まれています。(^^;)

(二) 価格計算に必要な原価資料を提供すること。

この目的は「価格計算目的」あるいは「価格決定目的」などと呼ばれています。ここでの「価格計算」の語には2つの含意が考えられます。

① 公共部門(政府、官庁、公企業など)が納入価格決定のために計算する
② 私企業(いわゆるプライベートカンパニー、株式会社など)が製品の売価決定という価格政策のために計算する

一般的には②の意味で理解されている(と筆者は感じている)のですが、原価計算基準がここで想定している価格計算は①の方です。②の方は、別の目的、「基本計画設定目的」に含まれておりますので、基準が完全無視しているわけではないのですが、、、(^^;)

そもそも「原価計算基準」の源流が戦時統制下での昭和12年『製造原価計算準則』にあり、基準自体も昭和37年(1962年)に公表されてから一度も改訂されていないため、戦前の匂いが少々するのも仕方がないことかもしれません。

ただし、筆者の実務体験からも、納入価格計算というのは業界によっては普通に存在しています。例えば、公共部門が発注する公共事業への入札や、防衛産業など、官公需特有の製品を収めるための原価計算(納入価格計算)を普通に一般企業が実施している原価計算実務は当たり前にあります。入札に不適切な取引の場合は、「随意契約」もありますし、一時、有名になった東電の「総括原価方式」:供給原価に基づき料金が決められるものであり、安定した供給が求められる公共性の高いサービスに適用、もあります。

ちなみに、「総括原価方式」には、
① 価格上限方式(プライスキャップ方式:price-cap regulation)
 ・特定のサービスに対して予め決められた金額以下の範囲内で料金を設定する方式
② 比較基準方式(ヤードスティック方式:yardstick regulation)
 ・自社と競合企業の費用を比較した上で、あるサービスに対する基準費用を算定した費用を元に、料金を設定する方式
の2種類があります。

このように、特定業種についてはそれが当たり前の納入価格決定のための原価計算。それも守備範囲にしている「原価計算基準」は意外に使える奴なのかもしれませんよ。(^^;)

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)_原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!

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買収コスト 企業に重荷 競争過熱、08年度から7割拡大 - 日本郵政の減損記事に付属していたEBITDA倍率で企業価値を測ることの3つの罪とは?

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■ M&A検討時に企業価値測定のためEBITDAを使用している意味が分かりません!

経営管理会計トピック

2017年4月22日の日本経済新聞の記事で、日本郵政が豪物流子会社トール・ホールディングスの「のれん」を、買収して2年そこそこで全額一括償却(いわゆる減損損失)することについて、日本企業の海外事業の高値掴みが問題であるとの解説があり、ご丁寧にも、その買収価額の高さに警鐘を鳴らす付属記事がありました。今回はその記事で取り上げられているEBITDA(倍率)という指標の使い方に関する注意を喚起することが目的となります。

2017/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 買収コスト 企業に重荷 競争過熱、08年度から7割拡大

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本企業がM&A(合併・買収)の際に払う買収コストが急拡大している。2016年度は直近の底だった08年度から7割拡大し、リーマン・ショック前のピークに迫る水準まで上昇してきた。世界的な株価上昇や金融緩和を背景に買収先を巡る価格競争が過熱しているからだ。「高値づかみ」に終わらないためにも買収後の経営戦略の重みが一段と増している。」

EBITDAというプロフォーマ利益指標自体の適切性・信憑性を疑う前に、この種の利益指標でも時系列で並べて観察した際に、その変動具合である程度、M&A市場で日本企業がどれくらい高根で事業(企業)買収を続けてきたかは分かります。

(下記は同記事添付の「日本企業の買収コストは11年ぶり高水準」を引用)

20170422_日本企業の買収コストは11年ぶり高水準_日本経済新聞朝刊

「買収コストは買収先の企業価値がその企業が稼ぐ現金ベースの利益の何倍かを示す「EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)倍率」で算出。調査会社ディールロジックによると、16年度に日本企業が実施したM&Aの同倍率(中央値)は12.8倍。08年度(7.5倍)の1.7倍で11年ぶりの高水準となった。
 買収で負担した費用(株式取得額と引き継いだ負債額の合計)を買収先が稼ぐ現金で回収する年数が、08年度の7.5年から12.8年に延びたことを示す。」

ここで同記事によるEBITDA倍率の定義を引用します。
「企業価値が現金ベースの本業のもうけの何倍に相当するかを示す指標。イービットディーエー倍率と発音することが多い。時価総額と純有利子負債を足したEV(企業価値)をEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)で割って計算する。買収価格の高低を判断する尺度で、国ごとに会計基準や税率が異なる企業の国際比較にも活用される。」

ここは、同種の指標との対比でその使い方の理解が深まります。

PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)
   = 時価総額 ÷ 純利益
   = 株価 ÷ 一株当たり利益(EPS)

EBITDA倍率
   = 企業価値 ÷ EBITDA
   = (時価総額 + 純有利子負債時価評価額)÷ EBITDA
   ※ 純有利子負債 = 有利子負債 - 現金同等物

PERの方は、足元の純利益の何倍の価額で株式が市中で流通しているか、株主目線で表現したもの、EBITDA倍率の方は、株式市場と債権市場の両方合わせて、キャッシュベース利益の何倍の価額で株式と有利子負債(社債と銀行借入の合計)が取引されているか(あるいは融資されているか)を表す指標になります。

いずれも、永久債(コンソール債)の価格算定式の応用になります。

永久債の時価 = 利息 ÷ 市中金利
1 ÷ 市中金利 = 永久債の時価 ÷ 利息

この恒等式は、市中金利:1%、永久債の時価:1000、永久債の利息:10とした場合、
 1 ÷ 1% = 1000 ÷ 10
100 = 100

として成立します。この時の「100」は、利回り(市中金利)の逆数を意味します。PERもEBITDA倍率も、その投資対象(株式持分、企業全体)を金融資産になぞらえた時の投資利回りの逆数の意味となります。

 

■ M&A検討時に通常EBITDA倍率はこのように用いられます

同記事では、EBITDA倍率を用いて、個別企業のM&Aコストの大きさを論評しています。

(下記は、同記事添付の「海外企業の買収はコストが高くなりがち」を引用)

20170422_海外企業の買収はコストが高くなりがち_日本経済新聞朝刊

「日本企業による16年度の海外企業の買収額は11兆円弱に達し、過去最高を更新した。縮小する国内市場への危機感が背中を押し、大型の海外買収に打って出る企業が相次いでいる。」

● ソフトバンクグループ
・3兆円超の英半導体設計大手アーム・ホールディングスの買収
・EBITDA倍率は55.9倍と昨年度の買収案件で突出して高い
・孫正義社長によると「(買収価格が)高いという見方もあるが、将来の成長余力を考えると10年後には安く買えたと思ってもらえるはず」

●武田薬品工業
・米製薬アリアド・ファーマシューティカルズは15年12月期の最終損益が赤字
・買収額は6100億円に膨らむ
・高い成長性を期待できる先端技術や創薬分野は価格が高騰しやすい
・しかし、「成長の柱に据えるがん治療薬を強化する「絶好の機会」(クリストフ・ウェバー社長)になると判断」して買収

また日本企業以外の動向についても、次のように記載されています。

「買収コストが膨らんでいるのは日本だけではない。16年度の世界全体のEBITDA倍率は13.4倍と、5年前の11.0倍から22%拡大した。国別では中国が26.7倍(5年前は19.0倍)と世界で最も高く、米国も14.3倍(同11.8倍)まで上昇した。」

こういう国際間比較ができるのも、諸処の会計・経済条件が異なっても同一のモノサシになり得るEBITDAを使っているから、というのがEBITDA信奉者の理由付けになっています。それでは、なぜ、EBITDAだと、国際比較が容易になるのでしょうか?

 

■ EBITDAを用いる罪その1:計算は簡単だが国際間・企業間の比較手法はもっと進化している!

EBITDA算出には様々な計算方法があります。

EBITDA = 税引前利益 + 特別損益 + 支払利息 + 減価償却費
         = 営業利益 + 減価償却費
          = 売上高 - 現金費用(法人税、支払利息除く) 

法定の段階利益概念ではないので、唯一つの定義というものは存在しません。簡単に計算できるだけに、経営者や財務アドバリザリー担当者の恣意が強く介入する余地が生まれます。

さらに、「支払利息」「減価償却費」「法人税」を除いた利益概念である大義名分がもう損なわれています。世界の国家間で、金利負担(市中金利)、税金負担(法人税率)、償却費負担(税法等、償却方法と耐用年数の違い)の考え方が異なるため、国家の枠を超えて、グローバル企業同士の業績を正確に評価するためには、この3つをコストから除かなければ同じ利益指標で比較できないと一般には考えられています。

しかし、
① 支払利息
グローバル企業は、もはや、世界各国の金融市場にアクセスでき、世界で一番資本コストの安い市場で資金を集めることができます。しかも、間接金融から直接金融へ、資金調達手段もシフトしていっています(ハイブリッド債含む)。国際間の金利差は比較の障害にはなりません。

法人税
「タックスインバージョン」「パナマ文書」「「タックスヘイブン」というキーワードと共に、グローバル企業は、「節税」という美名の下、各国の税法の網の目をかいくぐり、租税回避に必死で、世界的な優良企業と呼ばれているどの企業も、法定実効税率以下しか、税金を納めていません。いとも簡単に国境を超える節税行為はもはや国際間の課税不平等から来る比較不能の言い訳にはなりません。

③ 減価償却費
耐用年数が異なるから国際間比較はできないから減価償却前の利益で収益性を測ることの便宜と罪の重さは相対的に罪の方が大きいと考えます。IFRS導入及びコンバージェンスにより、定額法が一般的になったこと、残存価額ゼロ償却ができるようになったこと、経済的耐用年数の使用により、税務との乖離は税効果会計で中和できること等から、比較可能性観点からの不算入には大儀がもう存在しません。

ただし、企業価値評価での投資収益性を測定する場合、キャッシュベース指標を使用することが一般的なので、その観点から減価償却費を度外視することは理解できます。これまでの理由付けがナンセンスであり、過去の言説を盲信する人の危険度の大きさに警鐘する意味でのコメントになります。

⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(3)経営成績を過大表示する指標の提示 - 会計的利益とEBITDA
ウォーレン・バフェット氏が、経営者が意図的に公表される業績をEBITDAでお化粧することに警鐘を鳴らしています。減価償却費を除く利益概念は、固定費の水膨れ、各種投資の巧拙を巧妙に隠してしまう必殺技なのです。

⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(4)経営成績を過大表示する指標の提示 - 利益とキャッシュフローの代替指標によるごまかし

⇒「(スクランブル)海外M&Aブームの罠 価格高騰、収益貢献には時間
既に米国ではEBITDAに「死亡宣告」が出ており、ワールドコムの不正経理事件を受けて、「レギュレーションG」(SEC:2003年)で、会計基準に準拠した利益指標を合わせて表示するように義務付けられています。

 

■ EBITDAを用いる罪その2:企業価値測定のための収益指標はもっと進化している!

EBITDAは、まだ会計的計算技法が未熟だったり、スプレッドシート活用やICTの発展前の簡便的作業が前提だった時代の遺物に過ぎません。現代では、企業価値評価のための収益性指標は、EBITDAより進化したキャッシュベース収益性指標を用いることが一般的です。

ここでは代表的な2つの企業価値評価方法を紹介します。

(1)エンタープライズDCF法
企業価値 = 営業フリー・キャッシュフロー ÷(WACC - g)
※ WACC:加重平均資本コスト
※ g:営業フリー・キャッシュフローの成長率

営業フリー・キャッシュフロー
= NOPLAT + 減価償却費 + 事業用運転資金の増減 - 正味投資額
※ NOPLAT(Net Operating Profit Less Adjusted Taxes:みなし税引後営業利益)
  =(営業利益 + オペレーティング・リースにかかる支払利息)×(1-実効税率)

(2)エコノミック・プロフィット法
企業価値 = 投下資産 + エコノミック・プロフィット ÷(WACC - g)
※ エコノミック・プロフィット
 = 投下資産 ×(ROIC - WACC)
 = NOPLAT -(投下資産 × WACC)
※ ROIC = NOPLAT ÷ 投下資産

いずれの方法も、NOPLATを計算することが必須となっています。この指標とEBITDAの最たる違いは、①事業用運転資金の増減、②正味投資額 を考慮しているかしていないかです。①は、在庫や売上債権、買入債務の増減、②は、追加的設備投資を意味し、簡単に算出するには減価償却費と有形固定資産への投資額の差額を取ります。

つまりここで言いたいこと。EBITDAは、損益計算書(P/L)しか手元に無かった時代に、キャッシュベース利益を算出する努力の賜物。そういう歴史的経緯には敬意を払いたいと思いますが、現代ではキャッシュフロー計算書が簡単に手に入ります。キャッシュベース利益として、EBITDAの簡便さの有利性は完全に失われました。

⇒「(やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(6)絶対額も考慮、縮小に歯止め 小樽商科大学准教授 手島直樹 - エクイティ・スプレッド論ですら、簿価のくびきから自由になっていない件
⇒「(やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(8)キャッシュフロー創出力がカギ 小樽商科大学准教授 手島直樹 - 企業価値は会計的利益をひとひねりしないと出てこないけど、単純にキャッシュフローでもありません!

 

■ EBITDAを用いる罪その3:EBITDA倍率は、将来の利益・キャッシュ成長と割引価値を完全に無視している!

PERは、過去の利益もしくは企業の来期公表業績予測値や市場関係者の来期予測利益(QUICK)から算出されます。EBITDA倍率も、ほぼ、過去3年平均や足元の利益水準で計算されます。そうした株価や企業価値の算定がまかり通る大前提は、

① 投資対象企業の将来にわたる利益額(もしくは投資利益率)が不変である
② 将来キャッシュフローに対する割引現在価値を完全に無視しうる

という実務では到底考えられない仮定の上にしか成り立たない企業価値算定方式です。

前述でソフトバンクグループの孫氏の発言「(買収価格が)高いという見方もあるが、将来の成長余力を考えると10年後には安く買えたと思ってもらえるはず」の含意は、ROICやgの値が買収時よりも大きくなることを想定して、大枚をはたいて投資対象企業(事業)を傘下に入れていることを示しているのです。

「買収価格が買収先企業の帳簿価格を上回った場合、超過額をのれん代として資産に計上する。買収先の経営が思わしくない場合はのれん代の減損処理を迫られるため、高値買収は将来の損失リスクにつながる。」

「M&Aの経験が少ない日本企業は「高値でも買ってくれるため売り手から好まれている」(外資系証券)との指摘もある。買収を成長に結びつける買収後の経営戦略が問われている。」

高値掴みかどうかは、買収後に単独で事業採算を飛躍的に改善する秘策があるのか、既存事業とのシナジー効果がプラスになる、言い換えれば、コングロマリット・ディスカウントの発生を回避できる自信があるか、オーガニックグロースより早い成長で高い市場競争力を備えて、コンペチターとの競争において優位になる見通しが立っているか、によります。

それは、将来のROIC水準、g(成長率)の大きさ、WACCの変動率への備えの3つに関して、見通しが立っているという自信があるからこその買収価額になるわけです。それは決して、足元のチープなキャッシュ利益指標の何倍か(EBITDA倍率がどれだけか)で推し測ることができない世界でのお話なのでした。

⇒「ソフトバンクのレバレッジ経営、アーム・ホールディングス買収を2重のキャッシュフローで読み解く!
⇒「一目均衡 ROE最大化と企業価値
⇒「企業価値高める経営、オムロンに大賞 今年度、東証が表彰

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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日本郵政が豪物流子会社巡り最大4000億円規模の減損損失の計上へ - のれんの一括償却で膿を出し切り経営が上向くと考えるのは誤解です!

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■ 日本郵政がお手軽に国際物流事業を立ち上げた見返りは最大4000億円規模の減損損失 !

経営管理会計トピック

スピード感ある企業成長を企図して海外事業にまつわるM&A手法が用いられることが多くなりました。ただでさえ、事業の目利きは難しいのに、海外、しかもこれまで手掛けたことの無い事業買収にはリスクがつきものです。

2017/4/21付 |日本経済新聞|朝刊 日本郵政が巨額減損検討 豪子会社巡り、数千億円規模か

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本郵政が、業績が低迷しているオーストラリアの物流子会社を巡り、数千億円規模の減損処理を検討していることが20日、分かった。早ければ2017年3月期決算で処理する方向。年内にも政府が日本郵政の株式を売り出す計画があり、日本郵政は損失を出し切って構造改革の意思を示して市場に理解を求めたい考えだ。」

2016年度決算期にて今回明らかになった減損処理する予定は、2015年5月に発行済株式100%を現金で取得・完全子会社化したオーストラリアのトール・ホールディングス。アジア太平洋地域を中心に、フォワーディング、コントラクト物流(3PL)を手掛ける物流企業で、傘下に255社の子会社(日本郵政から見れば孫会社)を持つ一大流通網を持つ企業グループです。

同記事および当時の決算短信およびプレスリリースから窺い知る買収以降の取引を下記に簡単にまとめます。

買収金額:6093億円(内現金支出:5716億円)
のれん代:4745億円
のれん償却:237億円/年(20年定額償却:日本基準)
所有構造:持株会社である日本郵政の傘下「日本郵便」が100%所有

「のれん代は当初20年間で償却することを想定していた。だが資源安の影響でオーストラリア経済が低迷し、業績が悪化。日本郵政も協業による相乗効果を高められず、年明けにトールの経営陣を刷新し、効率化を進めている。」

このような、業績見通しが甘かった、不慮の業績変動の外部影響を被った、という説明は、経営陣の事業の目利きとその後の事業運営の巧拙の問題です。本稿では会計処理について深堀したいので、そちらの批評は別口の論者に任せたいと思います。

もう少し、新聞報道の動向を見てみます。

2017/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 豪子会社の減損、最大4000億円規模 日本郵政が前期一括計上

「日本郵政は21日、買収したオーストラリアの物流子会社を巡り、最大4000億円規模の「のれん代」を2017年3月期に一括して償却する方向で調整に入った。同子会社の業績低迷で想定した利益を回収するめどが立たないため。海外関連の損失を一掃し、国際物流事業で出直しを図る。」

「郵政自身に海外の物流施設などを運営するノウハウは乏しく、買収後も思うような協業による利点を引き出すことができていないのが実情だ。」

事業運営のまずさは十分に分かりました。

「郵政はのれん代を毎年200億円ずつ、20年かけて均等に償却しているが、トールの業績低迷で企業価値が下がり、期待した通りの利益を回収する見込みが立たなくなった。日本郵政は会計ルールに沿って17年3月期にのれん代を一括して減損処理する方向になった。日本郵政幹部は21日、こうした処理方針を政府関係者らに伝えた。」

2015年5月に買収し、連結決算には同年7月から算入。2年も持たずにのれんを減損しなければならない状況に陥った先見の明の無さ加減が著しく目立ちます。

2017/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 郵政 買収戦略に甘さ 豪子会社、改善見通せず 国際物流路線つまずき

「日本郵政が過去に買収したオーストラリアの物流子会社トールを巡り、2017年3月期決算で巨額の「のれん代」を一括で減損処理する。国内郵便市場の縮小が続く中、成長の切り札にした国際物流路線があだとなった。帳簿から負の遺産を消すことで日本郵政株の追加売り出しへの影響を避ける狙いだが、株価低迷や戦略の行き詰まりで先行きは不透明になっている。」

(下記は同記事添付の「国際物流強化を目指して豪物流会社を取得した」を引用)

20170422_国際物流強化を目指して豪物流会社を取得した_日本経済新聞朝刊

「日本郵政は5月中旬に17年3月期の決算発表を控えている。これまではグループの連結純利益の見通しを3200億円としていた。来週にも取締役会で減損処理を決めて適時開示する見通しで、前期の利益水準が大幅に下振れするのは避けられない。大型買収からわずか2年余りで名門と呼ばれた海外子会社のブランド力や将来性を大きく毀損し、のれん代を一括減損する事態となった。」

⇒「会計基準の選択に翻弄される企業と投資家 -新日鐵住金、アサヒ、三菱商事、三井物産、それぞれのケースを追う! そして「のれん」を語らざるを得なくなる!
⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも
⇒「丸紅、原油安で損失1600億円 今期純利益48%減(1)
⇒「丸紅、原油安で損失1600億円 今期純利益48%減(2)
⇒「住商、資源戦略見直し 中村社長「見通し甘かった」 特別組織で原因究明

 

■ 巨額な「のれん」の減損損失に対して、肯定的な記述がなされる背景とは?

「のれん」の一括処理(減損損失の計上)は、とりもなおさず、(1)事業買収時の目利きの甘さと、(2)買収後の事業運転のまずさが原因です。

(1)事業買収時の目利きの甘さ
「背景にあるのは投資判断の甘さだ。同社の営業利益は16年4~12月期で66億円と前年同期の230億円を大幅に下回り、利益計画を達成するのは至難の業だ。中国減速などで資源価格が低迷し、物流の根幹をなす豪経済の回復が鈍いためだ。同社の経営陣を1月に刷新したものの、短期間で業績改善につなげるのは難しい。」(22日総合面記事より)

(2)買収後の事業運転のまずさ
「トール自身もアジアや米国など、豪州国外を開拓するために積極的なM&A(合併・買収)を繰り返し資本効率が落ちていた。多額の投資に見合う利益を安定して確保できる見込みがなくなった。」(22日総合面記事より)

しかしながら、この一連の報道記事の中に、この「のれん」一括処理が肯定的に表現されている箇所が目立ち、今回、筆者がコメントしようと思い立つ「やる気」につながりました。(^^)

「日本郵便も郵便事業の構造的な低迷もあり、収益は低水準。200億円規模の償却費が重荷になっていた。毎年償却費が発生して収益を長期的に圧迫するよりは、短期間で処理する方が投資家にもメリットがあると判断したとみられる。」(21日記事より)

「日本郵政グループ全体の17年3月期の最終利益は3200億円の見込みだ。最大4000億円規模の損失を計上するのに伴い、郵政民営化以降で初めてグループで連結最終赤字になる可能性もある。海外関連の損失リスクを吐きだすことで長期にわたる業績面の重荷も取り除かれるため、市場から一定の評価を得られるとの見方もある。」(22日一面記事より)

「現状ではトール買収で払った「のれん代」を毎年約200億円、20年間にわたって均等に償却している。極めて薄利の郵便部門でそれだけ多額の償却費用を計上し続けるのは経営上のリスクも大きい。日本郵政内には一括計上に慎重な意見もあったが、業績面の不安要因を払拭するには一括が得策だと判断した。」(22日総合面記事より)

のれんの定期償却より減損損失として一括処理した方が投資家にメリットがある、市場から一定の評価が得られる会計処理とどうしていえるのでしょうか? おそらく、その根拠となるのは、「のれん」を一括して減損処理してしまえば、翌期からの200億円の償却費負担が無くなることを意図しているのだと考えられます。だとすれば、そういう発言をする人には会計リテラシーが無い、と言わざるを得ません。一言、会計的損益とキャッシュフローが企業価値への影響の仕方に無頓着なのでしょうね。

⇒「国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」 - IFRSにみられるように、のれんを定期償却しないのは無謬性のあるグローバル・スダンダードだと思い込んでいる人へ

 

■ 巨額な「のれん」の計上がキャッシュフローと会計的損益計算に与えるインパクト

まず、今回の日本郵政(日本郵便)のトール買収取引をチャートで説明します。

経営管理会計トピック_日本郵政のトール買収

日本郵政による買収金額は、6093億円。この金額が意味するところは、TOLLの貸借対照表に計上されている資産・負債を時価再評価した差額とTOLLの元株主に支払う価値の合計値です。ここからTOLLが元々保有していた現金同等物369億円を差し引いた5716億円が日本郵政の手元から支出された現金です。つまり、TOLLの資産を元株主から買い取るのに、簿価評価額から上乗せした金額がのれん代で4745億円。これは、TOLLの支配権(株主になる権利)を元株主から買い取った、いわゆる「支配権プレミアム」といえるものです。つまり、もっともらしく、事業価値を評価して算出した買収金額:6093億円のうち、4745億円(買収金額の77.9%にも上る!)は、元々、TOLLの貸借対照表にも計上されていない「何か」に対して日本郵政が手元の現金から支払った金額なのです。

これは、2016年3月期の連結キャッシュフロー計算書でも明らかになっています。

20170423_日本郵政_2016年3月期_連結キャッシュフロー計算書

「企業価値」という言葉が多義的で、使用者や使用場面によって、意味する所がその時々で異なりますが、ここでは、企業が現在保有するキャッシュと、将来にわたって稼得するであろうキャッシュインフローの現在価値に割り引いた値の総合計だとしたら、少なくとも、2015年5月には、日本郵政の手元から5716億円のキャッシュがTOLLの元株主の手に渡っています。将来キャッシュインフローはいくらになるか、その時点で分からないので、いったん計算外に置いたとしても、買収時のキャッシュアウトは、その分、企業価値をマイナス方向にシフトさせます。

連結キャッシュフロー計算書では、その全額が2016年3月期の投資活動によるキャッシュフローとして社外流出しています。連結貸借対照表では、実体の裏付けのない支出額をいったん「のれん」として4745億円計上しておきます。そして、20年定額償却として、連結損益計算書では、毎年237億円の費用計上として、一時の支配権プレミアムに対する支出をあたかも20年の年賦払いにして、会計的損益計算ロジックに放り込んでいるだけです。

もうお分かりでしょうか? 年賦で237億円ずつ費用化しようが、買収時に全額費用計上しておこうが、日本郵政の買収時に負担したキャッシュアウトの金額は不変なのです。定額償却として費用計上を先送りしようと、減損損失として一気に費用化しようと、TOLL買収にかかった現金支出の額は変わらないのに、その後の事業運営が容易になるとか、市場(株主)から理解が得られるとか、的外れなコメントと言われても仕方がないと思いませんか?

ちなみに、日本郵政が作成したトール買収時の決算短信には次のような箇所があります。

20170423_日本郵政_2016年3月期_経営成績に関する説明

買収時に既に、トールは、現地オーストラリアの会計基準(IFRS)に基づき、減損損失を計上しているにもかからず、日本基準では「該当せず」として、無傷で連結決算してしまっています。子会社と親会社の会計基準の違いをうまく利用して、決算発表数字をコントロールする企業は、後から必ずしっぺ返しを喰らう、好例ではありませんか?

(参考)
⇒「ソフトバンク、米子会社の減損損失「反映せず」 4~12月決算

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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孫子 第12章 用間篇 61 敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり -事を成す前に十分に情報収集を行うことの大切さとは

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■ 情報収集が会戦での勝利への近道である!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

十万規模の軍隊を編成し、千里の彼方に外征するとなれば、民衆の出費や政府支出は、1日千金ほどになり、遠征軍を後方で支えるために朝野(公共部門と民間部門)を問わず慌ただしく動き回り、物資輸送に動員された人員は補給輸送に動員された人民は補給路の維持に疲れ苦しんで、農事に専念できない者たちは70万戸にも達します。こうした苦しい状態で数年にも及ぶ持久戦を続けた後に、たった1日の決戦で勝敗を争うのです。

このように莫大な犠牲を払い続けながら、たった一度の決戦に敗北すれば、これまでの努力の全てが一瞬のうちに水の泡と消えてしまいます。にもかかわらず、間諜(スパイ、情報収集担当者)に爵位・俸禄・賞金を与えることを惜しんで、決戦を有利に導くために敵情を探知しようとしないのは、民衆の長い労苦を無にするもので、民を愛し憐れむ心の無い不仁の最たるものです。そんなことではとても民衆を統率する将軍とは言えず、君主の補佐役ともいえず、勝利の主宰者とも言えないのです。

ゆえに、聡明な君主や智謀に優れた将軍が、軍事行動を起こして敵に勝ち、抜群の成功を収める要因は、あらかじめ敵情を察知するところにこそあります。事前に情報を知ることは、鬼神から聞き出して実現できるものではなく、天界の事象になぞらえて実現できるものでもなく、天道の理(ことわり)と突き合わせて実現することもできません。そうした神秘的な方法によってではなく、必ず人間の知性の働きによってのみ獲得できるのです。

(出典:浅野裕一著『孫子』講談社学術文庫)

—————–
第12章「用間」は、5種類の間諜(スパイ)を駆使し、敵の実情を事前に探知することの重要性を説く篇です。

孫子の真骨頂は情報戦の重視。なぜなら、戦争は大変なコストがかかる極めて不経済な行動だからです。したがって、できるだけ実戦を避けて、戦いの果実だけ得られるように努力することを最善と主張しているのです。戦争の高いコストはそのまま民衆への高い税金と強制労働につながりますので。

その一貫した主張は他の節にもたびたび登場します。

第2章 作戦編 5 兵は拙速を聞くも、未だ巧久を睹ざるなり

第3章 謀攻篇 9 戦わずして人の兵を屈する

ただ、その戦争思想は、「決戦主義」です。ただ一度の会戦で勝敗を決する。そのための準備をより怠った者が敗北する。そしてそれまでの努力を全て失う。孫子が活躍した時代はそういう戦争のやり方が主流でした。それゆえ、戦争をしないで有利な状況を作るのならば、市内で勝利の果実を得られる方法を選択しましょう、と主張しているのです。

その前に、そうした会戦で勝利するための準備の一環として、具体的な方法論として、「情報収集」の重要性をこの篇で説明を続けるのです。

さてさて、補助的情報ですが、孫子がこの書を著すまで、古代中国は、怪しげな陰陽流兵学の考えが一般的でした。例えば、彗星が現われ、その柄の方角に位置する軍が勝つ、という類のものです。現代ならば、そういう迷信めいたものは鼻にもかけないでしょうが、それはその時代時代の限界というものです。中世ヨーロッパでは、病気になるのは悪魔が体に入り込むから、という理由で、病気に対する治療は体の中から悪魔を追い出す「悪魔祓い」が中心でした。

原題ビジネスにおいて、徹底的に合理的に、理性的に、科学的に、コンペチターや消費者の動向を知りぬくことが勝利への近道であると読み替えることができましょう。その情報収集の方法は、AIによるビッグデータ解析なのか、それとも生身の人間の頭脳による情報分析なのか、それはそれぞれの得意分野を使い分けるのが肝要かと。この後の節で孫子の視点で、情報収集の方法論の使い分け方を学習していきましょう。

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(サッカー人として)三浦知良 人間性を高めること 2017年4月14日 日本経済新聞朝刊より

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■ 会社が提供する新人研修の好機を得た新人へ

コンサルタントのつぶやき

「プロの“新人”として学び始めたころ、待っていても何も教えてくれないのがブラジルの現場だった。
日本なら、18歳のルーキーが試合に出られなければコーチが手を差し伸べる。居残り練習もしてくれる。僕にそんな助けはこない。自分で何かを起こさなければ、すべてが進まない。だからベンチを外れた日は、自分で講演へ行って8キロ走をした。不満や不安をぶつける先も、自分で探して。
僕の体をみてくれるマッサージの専門家も「ああしろ、こうしろと師匠が教えてくれたのは、修行の3年間で10分ほどかな」という。そばで見て、まね、盗んだと。言葉より、行動から僕らは学び取っていく。」

私は、コンサルタントとしてプロジェクト現場も受け持っていますが、新人・若手教育の担当者でもあります。座学でトレーニングを受け持つこともあるし、実際の現場でOJTの受け入れも行います。座学の効用を全く否定するつもりはありませんが、仕事のコツや進め方の勘所は現場でしか身につかないという信念を持っています。それゆえ、自身が担当する座学の機会も、決してただ受動的に何かの情報を耳や目でインプットしてそれで終わり、とはならないように工夫しています。

自分から自分自身のスキルセットをどうしたいか、能動的に考えると、集合形式の90分の座学であっても、臨み方が自然と異なってきます。講師が伝える説明内容の知識を得ることは当然のこと、コンサルタントとして必要なプレゼンテーションのノウハウ、心構えを講師の一挙手一投足から盗もうと、全身を目に耳にして情報を渇望します。そして、想像力逞しく、自身が実践する場合のことを頭の中でシミュレートしながら、目の前で行われている講義をパラレルストーリーとして受信するのです。4月に入り、就職や正式配属された新人・若手にはそういう心構えで、これからはじまる新人研修に臨んで頂きたいと思います。

会社制度でわざわざ、先輩コンサルタントが自身のスキルと経験値を伝授しようというのですよ。それも自分の身銭をいくらも切らずに。こんな好機を逃す愚かな人はいないことを願うばかりです。

 

■ プロとそうじゃない人の境界線を考える

「飛び抜けて優秀な人が集まるのがプロの世界。どこで差がついていくのか、日本代表をみても察しは付く。必ずしもすごい俊足や肉体の持ち主じゃない人が代表の主将や軸になる。人間的に成長したときに、サッカーでも成長しているんだよね、これは。人の痛みが分かる、あいさつ、片付け、日常の心がけ。抜け出したければ、自分の人間性を高めることだ。
僕も自問する日があるよ。「なぜ自分はダメなのか」。精神的なもろさがあるから。嫌なことがあると愚痴を言っているよな。「であれば、我慢し、違う形で発散して集中できれば、サッカーも上向くのでは?」
ある練習試合、新人GKがミスをして負けた。「何だよ。勝てたよな」と僕はぼやく。ところがDFは「勝たせてやりたかったです。僕のプレーが乱れなければ」と嘆く。人のせいにしていたなと学ばされます。」

誰にも再現できない特別な専門スキルを持っているからプロなんじゃない。責任感とか自覚とか、とにかく精神論で気を引き締めて、常に張りつめた緊張感を持っているからプロなんじゃない。仕事をしていて、周囲の人に思いやりを持てる人がプロなんだと思います。自分より周りの人のことを優先する勇気。少なくとも、私は自分の都合よりクライアントの要求を実現することを優先しています。「クライアント・ファースト」。決して会社の標語として口に出しているわけではなく、心の底からそう自分に言い聞かせて毎日仕事をしています。

コンサルタントは決して先生稼業などではないのです。無形人的サービスを提供するサービスマンなのです。上から目線で、「絵に描いた餅」的な理想論をぶって、有難がってもらい、お金をもらう時代はもう過去のものです。どれだけクライアントのビジネスに実際に貢献できるか。クライアントのカウンターパート、プロジェクトメンバー、関わり合うパートナー企業のメンバー。皆が目標を一にして、全員が己の最大限の力を発揮できるように、常に目配せし、その中で自分の最適な配役や立ち居振る舞いを瞬時に選択する能力。特別で誰も知らないことを知っているから、誰でもできないスピードでその作業が完遂できるからプロなんじゃありません。目標を達成できるように、自他共に、最大限の持てる力を発揮できる状況を作り出し、プロセスではなく結果として目標を達成させてしまう力技を同時に発揮できる人です。

これは、たった一人で仕事を仕上げる職人的な仕事をする人にも言えることです。たった一人で作業をする孤独な職人でも、お客様は必ず存在します。出入りの業者は必ず存在します。人でなくても、自分が使う道具、自分が手掛けている作品。自分が作業に没頭している仕事場。自分以外の何物にも敬意と思やりを持って仕事をする人。そんな人がプロなのだと思います。新人はそういうプロの背中を見て、自分とプロの違いを体感して、その違いを埋めるべく、短期・中長期の自分育成プランを是非練ってください。

 

■ 「気づき」をいつ感じ取ることができるのか?

「気づきを人生でいつ、感じられるかなんだろう。でも選手はたいてい、気がつくのは遅い。「俺は天才肌だからさ」と練習に熱を上げなかったある人は、引退後に姿勢が正反対になった。自分のようになってほしくないからと。「練習でこんなに走ってどうするの」と文句を言っていたのに、監督になると「サッカーは走らないとダメだ」と尻をたたく知人もいるけどね。
監督でも選手の心のまま、というのはラモス瑠偉さんとマラドーナくらいでしょうか。若くしてあまりに分かりすぎるのも気持ち悪いけど。人間、成長するには時間が必要です。
(元日本代表、横浜FC)

揚げ足取りかもしれないけれど、永遠に「これで分かった。気づいた!」という瞬間はやってこないと思います。私が好きな池上彰氏の「これで分かった●●●!」という本を読んでも、読み進めていくうちに、知らないこと、分からないことがたくさん出てくる。こればかりは切りがない。よく、若手コンサルから、「管理会計のこともうほとんど知って(分かって)いるんじゃないですか?」と褒め言葉(?)を掛けて頂きますが、とんでもないことです。四半世紀以上、管理会計をやっていますが、この分野で知りたいこと、分からないこと、年年歳歳、現在進行形でどんどん雪だるま式に増え続けています。

中年の英語学の大学教授が恩師の元を訪れ、「先生、私も最近英語が何たるものか、大分わかってきました」と嬉しそうに近況を報告したとき、相手の老師は、「そうですか、それは大変うらやましいことですね。私はまだ英語学が何たるものか、分からずにほとほと困っています。」気恥ずかしさで背中を丸めて恩師の家を後にした大学教授の独白は、未だに鮮明に私の耳に残っています。

でもね、その時々で「気づき」は得られているものです。人生が終わるまで、何もわからない、何も知らない、というのはさびしいじゃありませんか。知恵や経験に対して、謙虚になることも大事ですが、それと同等で、今自分ができるベストを尽くすことも大事。毎日毎日が今日の自分の最終日。人生最後か、今日最後かの違い。今日の仕事はあなたの人生史上、最高のあなたがやり遂げた最高の仕事なのです!

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〈FT特約〉知恵に欠ける人工知能投資 バフェット氏にかなわず - AIが人間に投資で勝利する意味は、AIが完全義体となる時である

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■ AIがバフェット氏を超克する日は来るのか?

経営管理会計トピック

ウォーレン・バフェット氏は、現代で最も成功した投資家の一人です。その投資スタイルは、バイ・アンド・ホールド。とにかく、自分基準の企業価値を算定し、市場の揺らぎの中でその企業価値から株価が乖離したタイミングで買い(売り)を入れる。買いを入れたときには、長期保有が前提。その投資スタイルをAIが真似て、バフェット以上に成績を残す時代が本当にやってくるのでしょうか?

2017/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 〈FT特約〉知恵に欠ける人工知能投資 バフェット氏にかなわず

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「株式市場で稼ぐ極意を心得ている人がいたら、自分だけの秘密にしておくだろう。金融市場でなんとも不思議なのは、最も優秀な投資家が投資の秘訣を公然と明かしながら損をしているようには見えないことだ。」

バフェット氏は、自分の投資手法を繰り返し世間に説明し、手の内はすべて公表されています。その上、米国株式市場の規制のおかげで、バフェット氏がどんな銘柄を保有し、いつ売買したのか、常に直近3ヶ月の取引記録をいつでも見ることができます。これを真似ようと思い立ったら、いつでもバフェットのように成功している投資家の明かされている秘訣にしたがって株式取引をすれば、誰でも同程度の成功を成し遂げることができ、バフェット氏の優位性はとっくの昔に消え失せてしまうのではないでしょうか?

Warren Buffett KU Visit.jpg

WiKiより)

バフェット氏が投資する基準は次の4つ。
① 事業の内容が簡単に理解することができる
② 長期的に業績が良いことが予想される
③ 経営者に能力がある
④ 魅力的な価格である(本来価値よりお買い得になっている)

これは本当に奇妙なことです。手を明かしているのに、それを逆手にとってバフェット氏を打ち負かすどころか、その業績を上回る投資家が現われていないのは。

(参考)
⇒「バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み
⇒「著名投資家バフェット氏、車販売会社を買収 米でさらにM&A検討
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず

「成功している投資家が秘訣を明かせば、簡単にまねされて、強みは消えてしまうのではないのか。コンピューター主導の投資戦略の開発に大金を投じている人たちはそう考え、人工知能(AI)投資では独自の知識を必死で守ろうとする。」

「「人工知能」という言葉の厳密な意味と使い方は人によって異なるが、AIは投資の世界に革命を引き起こす力を持ち、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵は時代遅れになるという考え方が急速に受け入れられている。」

AIを用いたアルゴリズムで、生身の人間が行う投資判断を出し抜くことを目指している技術者&野心家たちの間では、投資の世界にAIが革命を引き起こし、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵による投資スタンスは打ち負かされると考えられています。

(参考)
⇒「AI(人工知能)が人事部と経理部から人間を駆逐する日はいつか? - HRテックとフィンテックの影響は?
⇒「(新産業創世記)「土俵」が変わる(1)AI社長の下で働けますか 決断が人の役割 - 経営判断を下す日立のAI

 

■ ロボアドバイザーやビッグデータ解析がやっている本質とは?

「そうした野心的なファンドの一つであるエマAIの創業者は、アルゴリズム取引は手掛けずに「文字通りアナリストの複製」を目指すと言っている。他のプログラムには織り込まれない欧州の金融政策といった事柄を考慮に入れるのだという。」

AI投資ツール「ロボアドバイザー」を開発・利用している人たちは、自分自身の投資スタイルに関するいくつかの質問に答えるだけで、ロボアドが最も適切なポートフォリオを提示してくれると信じています。その提案の裏に隠されたアルゴリズムの正体を知ることもなく。過去の株価変動および、その変動に影響を及ぼしているであろう各種変数をビッグデータ解析し、もっともらしいアルゴリズムで「これで儲かりまっせ」という組合せを提案してくれるのですが、過去トレンドデータから本当に将来予測が可能なのでしょうか。しかも投資主体が望む価格変動する方向に。

どんなに大量のビッグデータを扱って、何百種類の変数と株価の相関関係から、いくつかの仮説を打ち出して、儲かりそうな選択肢を提示してきても、あくまでそれは「相関関係」であって、「因果関係」ではありません。回帰分析で得られる「相関関係」は、たまたま株価と同じ(または正反対の)動きをする変数を見つけ出しているだけで、その変数の動きが株価自体を動かしているという、

原因 → 結果

という「因果関係」をあわらしているとは限らないのです。しかし、バフェット氏は長年の市場観察と金融理論から培った投資法則と売買タイミングを身に付けています。その投資法則は、必ずしも定量化されて、「回帰分析」される対象データがあるものではありません。

「エマAI」が「文字通りアナリストの複製」を目指していると言っても、所詮、デジタル処理できるデータを相手にしているのです。そこでのデータ処理のためのロジックの基礎は「相関分析」に代表される統計解析手法にすぎません。統計解析処理自体が本当に儲かる投資判断ができるかを自己証明することは理屈として難しいでしょう。

 

■ バフェット氏が本当に市場で勝ち続けられている本質的な理由を考えてみる!

本記事が指摘しているバフェット氏の成功の秘訣は次の通り。

(1)バフェット氏が成功しているのは判断ミスをしている人が反対売買をしているから
「バフェット氏が投資手法をオープンにしたままでこられたのは、市場で大多数の人々が間違いを繰り返しているがゆえに強みを保てるからだ。人間をまね、人間のゲームで人間を打ち負かす技術を創り出そうとしている新種のファンドは、人間の投資家の最も悪い特徴をすべてまねるだけに終わるかもしれない。」

(2)定性的な企業価値判断の材料はアルゴリズム処理ができない
「人々が市場について考える材料にしようとする情報やデータの大部分は、個別企業の浮き沈みに当てはめてもほとんど意味を持たない。コンピューターは大量のデータ処理に強みを発揮するだろうが、経営者の性格やブランドの持久力に関する見極めなど、バフェット氏が卓越性を示してきた質的な判断には苦しむかもしれない。」

本記事は、次の言葉で締められています。
「金融市場は誕生以来、欲望と恐怖に突き動かされてきた。どれほど技術が進歩しても、人間の本性は変わらない。大資産家のカール・アイカーン氏は、こう言い表している。「AIを研究して金持ちになる人がいる。私は人間生来の愚かさを研究して金を稼ぐ」」

ビッグデータを相手にして儲けられるのではない。市場で勝とうとしている愚かな判断をしてしまった人をうまい具合に負かすことで儲けられるのだ。

行動経済学のロジックが進化し、AIに搭載されて、愚かな人間同士の駆け引き自体がアルゴリズム実装された時、AIが本当の意味で人間に投資の世界でも勝利するはずです。でもそれって、人間の脳内の思考が全て明らかにされて、AIで再現された時。本当にそういう時代がやって来るのか、来るとしてそれはいつ頃なのか、筆者には分かりません。しかし、ひとつだけ分かることは、AI内で人間の思考が再現できるという事実は、もはやそれはAIではなくて、自我を持つ人間の思考体(攻殻機動隊的に言えば、義体化率100%)を作り出すことと同義と思うのであります。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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AIの倫理基準、東芝の株式買い取り、静岡市の政令指定都市認定に学ぶ撤退基準、制御ルールの重要性について

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■ 常にコンティンジェンシー・プランを持ち合わせている人が最強!

契約文化が浸透している欧米(特に米国?)では、結婚前に離婚時の財産分与や養育権などについて、予め契約書を交わしておいてから結婚生活に入るのが一般的?だそうです。つまり、何か事を起こそうとする際に、上手くいかなかったときの「exit plan」を必ず用意してから物事を進めるということです。

トム・クルーズが主演したミッション・インポッシブルで、作戦が失敗して敵方に追い詰められたときに一言、「プランBだ」。この一言は未だに私の脳に焼き付いて忘れることができません。(^^;)

2017/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 (AIと世界)今そこにある未来(2)味方が敵にも 悪意抑え込めるか

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「AIは使い方次第で敵にも味方にもなる。米グーグルと同じグループのディープマインドが「どんな人の声もまねできる」音声合成技術を発表すると、米国では「詐欺に使われかねない」との声が上がった。日本では「オレオレ詐欺」へ悪用されるかもしれない。」

米カリフォルニア州にある技術アーティスト、アレックス・レベン氏は、人のしゃべる速さを操る装置を作成しました。ヘッドホンからはソフトが特殊加工した間延びした自分の声が聞こえるようにして、耳から入る、自分自身のゆっくりした声に引きずられて、次第に口に出る言葉をさらに遅くさせ、最後はしゃべりたくても口を動かせなくなる原理です。つまり、こういう人間の五感を操作できる高度なAIならば、人の脳の自由を奪い、人間を操ることもたやすいのではないかという問題提起が目的で開発したのです。

「レベン氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)でロボットを研究していた。IT企業で数年働くうちAIなどの技術は大きなリスクもあるとの思いを強めた。それを広く伝えるために、人を傷つけることもできる「邪悪なロボット」をあえて作ろうとしている。」

(下記は、同記事添付の「レベン氏は人を傷つけることもできるロボットをあえてつくる」を引用)

20170412_レベン氏は人を傷つけることもできるロボットをあえてつくる_日本経済新聞朝刊

 

2017/4/12付 |日本経済新聞|電子版 倫理観を持つAI 暴走の不安消えず 今そこにある未来(2)

「「人工知能(AI)が社会の構成員またはそれに準じるものとなるためには、研究者と同等に倫理指針を遵(じゅん)守できなければならない」。2月末、日本のAI研究者らで構成する人工知能学会がまとめた「倫理指針」の最終項目が世界のAI関係者の話題をさらった。指針は研究者などに法の順守や開発倫理を求めるものだが、人間に開発されたAI自体にも倫理観を備えさせるべきと踏み込んだのだ。」

(下記は同記事添付の「人工知能学会 倫理指針」を引用)

20170412_人工知能学会_倫理指針_日本経済新聞電子版

この倫理指針を見て、門外漢ながら私の感想は、何とも情緒的な、、、
倫理問題を問うて、これをAIも遵守すべき、と謳うだけでは何の実践性もありません。むしろ、同じ倫理性を問うなら、より具体性を持ち、そもそもAIの暴走や危険性を前提にしたルール設定を行うべきでしょう。

「スカイプの共同創業者のジャン・タリン氏は14年にAI開発の暴走を阻止するための団体「Future of Life Institute(FLI)」を立ち上げた。FLIは「高度に自律的なAIシステムは、目標と行動が人間の価値観と一致するようにする」などと定めた「アシロマAI23原則」を打ち出し、世界中の研究者から賛同を得ている。この原則に拘束力はないが、タリン氏は「指針を示すことで今後の研究者の考えに影響を与えられる」とその意義を認めている。」

(以下はAI の安全ガイドライン「アシロマ AI 23原則」 – 東京海上研究所 より一部抜粋)

20170412_2.倫理と価値観_アシロマAI23原則

20170412_3.将来の問題_アシロマAI23原則

(6)安全性、(7)障害の透明性、(8)法的透明性、(9)責任、という項目は、AIの設計上、盛り込まれていなければならない要求仕様を具体的に示したもので、(16)人間によるコントロール、(17)転覆活動の防止、(21)リスク、(22)再帰的自己進化等は、AI運用上のプロセスそのもの、運用ルールまたは実装されるべき制御ルーチンの基本思想になっています。

「転ばぬ先の杖」的な使用を盛り込んでおくこと、これがリスクマネジメントの肝要のひとつです。ものづくりに先行するスペックの作り込みに、リスクマネジメントの要求仕様がごく自然に入り込んでいる状態になるのが理想的で、特に上記のAI開発における倫理的な問題はその好例といえます。

(参考)
⇒「衛星「ひとみ」の破損、原因は人為的ミス JAXA、数値入力誤る - フールプルーフとフェイルセーフについて

 

■ 撤退基準を持つ人は、交渉時の想像力が豊かでしたたかな人である!

最近、東芝の原子力事業において、次々と東芝が株式買い取りをしている報道を一目見て、なぜ、東芝が致命的な赤字事業に追加投資をしているのか、疑問に思った方はいらっしゃいますでしょうか? それも契約の力を駆使して、リスクを予期した人のリスク回避・軽減・転換に関する知恵の賜物なのです。

2017/2/17付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、IHIから米WH株を買い取り 189億円で

「東芝は17日、IHIが保有する米原子力子会社のウエスチングハウス(WH)の株3%すべてを約189億円で買い取ると発表した。東芝は5月17日付で買い取り、WHへの持ち分は9割となる。WHの米原子力建設サービス会社の買収を巡って東芝は巨額損失を計上する見込みで、IHIも損失リスクを抑えるため売却を検討していた。」

(下記は同記事添付の「ウエスチングハウス(WH)が原子炉を供給するボーグル原子力発電所の3、4号機(ジョージア州)」を引用)

20170217_ウエスチングハウス(WH)が原子炉を供給するボーグル原子力発電所の3、4号機(ジョージア州)_日本経済新聞朝刊

「IHIはWHへの出資を決めた際、東芝に保有する株式の買い取りを請求できる権利(プットオプション)を行使できる契約を結んでいた。同権利を使えるのは原則、2017年10月1日からとの取り決めがあったが、IHIとは一定の条件を満たした場合に早期に行使できる契約もあったことから、実際に前倒しした。」

デリバティブなどで用いられるオプション理論の研究が進むにつれ、法務的な契約にも反映され、損失額を一定に保つのみでなく、撤退することで初期投資の全部または一部を回収できる賢い契約を結んだ人は先を見通せる人。想像力が豊かでしたたかな人が最後に勝つ!

同様の件で、東芝は次々と苦杯を舐めています。

2017/4/4付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、英原発運営会社の株買い取り 共同出資の仏社から

「経営再建中の東芝は4日、英国で新設を計画する原子力発電所の運営会社、ニュージェネレーション(ニュージェン)株を共同出資する仏電力大手エンジーから買い取ると発表した。米原子力子会社、ウエスチングハウス(WH)の法的整理に伴い契約で認められた買い取り請求権をエンジーが行使する。
 東芝はエンジーが持つニュージェン株の全て(40%相当)を153億円で買い取り、完全子会社とする。エンジーはニュージェンの英国での原発新設計画から撤退することになる。」

ここぞとばかり、東芝にオプション理論が襲い掛かります。弱り目に祟り目。オプション設定の場合、リスク回避的に動きたいなら、次のことに注意して下さい。

<原資産の価格が大幅に上昇するケース>
「コール売り」は際限なく損失が膨らみます

<原資産の価格が大幅に下落するケース>
「プット売り」は際限なく損失が膨らみます(今回の東芝の立場)

(下記は、5.コールとプット~損益のまとめ|オプション道場 より)

20170418_オプション理論

 

■ 出口戦略を持たない人は想像力不足! たちまち立往生して最後は頑張るしかないという精神論へ

量的緩和の上に、マイナス金利まで踏み込んだ日銀と日本政府。行くところまで行くしかない? とうとう禁断のシムズ理論まで持ち出して、、、まあ、金融政策は本投稿のテーマ外として解説は別の機会に。(^^;)

同様に、日本人の出口戦略を用意しない制度設計の好例が下記。

2017/4/11付 |日本経済新聞|朝刊 静岡市、70万人割れ 推計人口 若者流出、政令市で初

「静岡市の推計人口(4月1日現在)が69万9421人となったことが7日、分かった。若者の流出が主な要因で、20の政令指定都市で70万人を割るのは初めてとみられる。静岡市が政令市に移行した当時の人口要件は70万人だったが、総務省によると、人口減少で指定を取り消す規定はないという。」

少子高齢化と地方の過疎化も日本が抱える重要な課題ですが、今回取り上げたのは別の視点から。政令指定都市への移行要件のひとつである人口70万人ラインを割った際に、政令指定都市設定を外す規定がそもそも考えられていないという点を問題視するものです。これは洋の東西を問わず、行政サイドには「出口戦略」「撤退戦略」への感度が薄いようです。なぜそう言えるかというと、少し前から「Brexit(ブレグジット)」で揺れているEU。欧州の識者ですら、いったんEUに参加した国がEUを脱退する手続きを事前に用意していなかった事実が明らかになったからです。

「静岡市は県外の大学に進学した学生に新幹線の定期代を補助するほか、東京都内に開設した移住支援センターで希望者の相談を受け付けるなどの人口減少対策を進めている。田辺信宏市長は3月30日の記者会見で「一時的に70万人を切ってしまうのは仕方がない。25年には70万人にしたい」と話した。」

出口戦略・撤退戦略が無い人の口癖は、「頑張ります!」

はあっー。じゃあ頑張ってください。頑張ってもどうにもならないことを何とかすることを仕事にしてきた私からのエールです。私なら決して頑張りませんが。どうしてかって? なぜなら私にはそもそも根性が無いからです。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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