スティーブ・ジョブズ(10)製品を売ろうとするな、彼らの人生を豊かにするのだ!

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■ あなたは顧客にどんな価値を提供していますか?

コンサルタントのつぶやき

Your customers dream of a happier and better life. Don’t move products. Enrich lives.

顧客はより幸せでよりよい人生を夢見ている。製品を売ろうとするのではなく、彼らの人生を豊かにするのだ。

(スティーブ・ジョブズ)
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単純なプロダクト・アウトだと、自分が提供できるものに基づく商売に固執してしまう恐れがあります。顧客が何を求めているのかを考えずに、自分ができることにフォーカスしたビジネスは成功からより遠いものとなるでしょう。たとえ、プロダクト・アウトだとしても、自分が提供する製品・サービスが、顧客の人生の様々な局面で、顧客の人生を豊かにすること、幸福感を持つことに役に立つことの勝算が立っているなら、堂々と自信を持って市場に送り出すべきです。

逆に、顧客におもねるマーケット・インは、失敗するとジョブズは語っています。我々、経営コンサルタントも、常に顧客満足をどうにか高めたいという局面で仕事をし続ける環境にいます。そこで成否を分けるのは、どこまで行っても、顧客の人生の幸福を想像できるかどうか。どういう提案やサービスが顧客に満足してもらえるのか、真剣に考えれば、顧客に満足してもらえるサービスが創造できます。

簡単な例でいうと、とある分析をしてほしい、とあるITシステムを構築してほしい、とある業務プロセス改善をしてほしい、と依頼があった際、依頼内容をベストを尽くして完遂することは中の中。その分析、そのシステム、そのBPRが本当に今のお客様に意味があるのですか? と問いただして、顧客の作業依頼に潜む真の解決課題を見つけることができるコンサルは、中の上。

えっ、上の上は何かって? それが分かっていたら、今悩んでいません。(^^;)

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経営戦略概史(14)グラッグによるマッキンゼーの逆襲! - 難解なGE・マッキンゼーマトリクスを武器に

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■ 異分子だったグラッグがマッキンゼーで天下を取るための秘策とは?

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。ヘンダーソンが、ボストン コンサルティング グループ(BCG)を立ち上げたのと前後して、フレッド・グラッグが1967年(32歳のとき)にマッキンゼーに入社しました。彼は、オペレーションズ・リサーチ(OR)の博士号をとった後、ベル研究所で弾道迎撃ミサイル開発のプログラムリーダーを務めた後の入社で、ビジネス経験が全くないため、誰からもプロジェクト参画のお声がかからず、社内失業状態で悶々とした日々を過ごしていました。

当時のマッキンゼーは、BCGやべインに追い上げられ、70年代はファームとして最も追い込まれた最悪の時期でした。時のトップから戦略サービス部門の責任者に任じられたグラッグは、戦略サービス(組織改革やオペレーション改革以外の企業・事業戦略)強化策を次々と取り、戦略ファームとしての業界での地位を築き上げました。

グラッグが手掛けた社内改革は、本書(P138)によりますと、
① 世界中から若手コンサルタントを30人集めて2日間の戦略合宿
② (大前研一氏を含む)6人のスーパーチーム結成
③ 全パートナーに1週間の社内セミナー合宿
④ 社外向けの「スタッフ・ペーパー」を発表

という教育プログラムの実践により、戦略コンサルタントの育成に力を注いだのです。その功績により、パートナー達による民主的な投票で1989年にトップに選ばれました。

 

■ 今でも難解だと言われている「GE・マッキンゼーマトリクス」とは?

当時、大流行した「BCGマトリクス」に対抗するため、マッキンゼーでも数々の戦略コンセプト、戦略ツールが開発されました。残念ながら、現在まで生き延びているツールはほとんどなく、グラッグですらあまりの複雑さに戸惑ったとされる「GE・マッキンゼーマトリクス(GEのビジネススクリーン、GEマトリクス)」がその中でも名が通ったものとして、かろうじて各種教科書で紹介されています。

経営戦略(基礎編)_「GEビジネススクリーン」の見方

ご多分に漏れず、この種のマトリクスは紹介されていくうちに、英訳のされ方の影響もあり、縦軸・横軸の命名が様々で、縦横が逆になって紹介されているものもあり、もはや原型をとどめずに世の中に広められました。本書でもチャートで紹介されていますが、ここは、それも参考に、筆者が数多くの紹介事例から一番自分がしっくりしたもの+自分好みに味付けして、下記に図示します。

まず、筆者は、「GEビジネススクリーン」という名称で記憶していました。これは、「事業(市場)の魅力度」と「その市場での自社のポジショニング」のマトリクスを構成し、構成要素ごとに、事業戦略を選択的に適用しようというものです。使用方法は、「BCGマトリクス」と同様で、複数事業を有するコングロマリットや多品種生産をしている製造業など、事業ポートフォリオ、製品ポートフォリオの意思決定のために活用することが前提の思考ツールです。

「BCGマトリクス」の後から登場しただけに、先行ツールを上回る意気込みの分、複雑で理解が難解な物となってしまいました。ビジネス界での知名度という点では、とうとう本家を乗り越えられなかったのではないかと感じていますが、ポートフォリオ管理のための思考実験・思考材料として、どういう要素について考察すべきかについては大変示唆ある情報を提供してくれているので、中身をじっくり見てみたいと思います。

「BCGマトリックス」は2×2のシンプルで分かりやすいフレームワークですが、それゆえの限界がありました。1つ1つの事業・製品単位を、単純にその時の「市場成長率」と「相対シェア」のみで捉えるため、分析時点の低シェア事業・製品について、追加投資を行って育成を図るべきか、思い切って損切りをして撤退をするべきか、という判断を誤る(その判断に資する情報を提供できていない)可能性がありました。

その一方で、「GEビジネススクリーン」は、長期的な市場(事業、業界)の魅力度を測定し、同時に、その市場における自社の競争的ポジションも定義づけを行い、その上で、自社が手掛けている事業の相対的市場シェアと市場の大きさも可視化するという4要素が盛り込まれた分析ツールになっています。これだけ参考指標が揃っていれば、事業投資判断を誤らないだろうというわけです。(^^;)

 

■ 「GEビジネススクリーン」上での戦略的判断のパターンには3つある

自社が手掛ける(またはこれから手掛けたいと考えている)事業・製品ポートフォリオをチャート化した上で、それぞれの戦略的意思決定単位について、

① 強化・増強(もっと投資して積極的にリターンを求める)
② 現状維持(新しいことは何もしない)
③ 撤退or利益回収(より悪い状態にならないように手を打つ)

という選択肢を提示します。

経営戦略(基礎編)_「GEビジネススクリーン」上の戦略的選択

「BCGマトリクス」を下記に再掲します。

経営戦略(基礎編)_企業全体でのお金の流れ

「BCGマトリクス」では、「問題児」「金のなる木」に該当する戦略的意思決定単位が、「GEビジネススクリーン」では、「撤退or利益回収」にカテゴライズされます。「BCGマトリクス」は静態的分析結果をもって、動態的に内部資金を「金のなる木」から「スター」や「問題児」に移行する判断を促します。その判断の間違い比率を決定的に減らすために、「GEビジネススクリーン」が提唱された、と一般的に解説されています。

しかし、筆者から見れば、「事業の魅力度」と「自社の強み」というのが抽象的すぎて、「GEビジネススクリーン」が動態的にポートフォリオの姿を写像していて、判断を間違いにくいとは決して思いません。

 

■「GEビジネススクリーン」の縦軸・横軸をどうやって定義するか?

この「GEビジネススクリーン」というツールが使いやすいものになるかどうか、分析結果が妥当なものになるかどうかは、抽象的に表現されている縦軸・横軸の意味づけ次第ということになります。そういう曖昧さが残り、かつ多義的で、具体化に知恵を絞る選択的判断が必要なツールであるからこそ、戦略コンサルティングファームのサービスメニューとしてクライアント企業に売れるのも事実なのですが、、、

ここでは、代表的な縦軸・横軸の意味づけの候補を紹介しておきます。

<縦軸:事業の魅力度>
・市場規模
・市場成長率
・市場平均利益率
・競争度合い
・マクロ環境(社会、政治、技術、経済)の影響
・参入障壁や撤退障壁となる規制や市場状況
・必要な技術要素の難易度
・必要資本量(参入障壁となる最小事業規模は?)
・機会や脅威の出現頻度予測

<横軸:自社の強み>
・相対的シェア
・シェア成長率
・コスト競争力
・技術力
・製品・サービスの差別化要因
・経営能力
・コア・コンピタンス
・ブランド力
・製造キャパシティ

さらに、縦横軸の決定方法についても、いくつか方法があります。上記に挙げた例から一つの要素のみを自社の都合に合わせて選び出して設定する方法と、いくつかの要素を組み合わせて、それぞれの要素に重みづけ(ウェイト付け)をして、指標化して、魅力度と自社ポジションを推測しようとするものです。

例)
1)市場の魅力度について、「市場規模」「市場平均利益率」「機会や脅威の出現頻度予測」の3要素を選択
2)重要度から、それぞれに重みづけを行う
   「市場規模」:50%
   「市場平均利益率」:30%
   「機会や脅威の出現頻度予測」:20%
3)各要素の採点を行う
   「市場規模」:5点
   「市場平均利益率」:1点
   「機会や脅威の出現頻度予測」:3点
4)評価基準の計算を行う
   「市場規模」:5点×50%=2.5点
   「市場平均利益率」:1点×30%=0.3点
   「機会や脅威の出現頻度予測」:3点×20%=0.6点
    合計:3.4点

絶対値として、この3.4点には意味はありません。比較すべき他の戦略的意思決定単位との相対評価でしか判断することができません。3.4点と比べて、2.1点は低いとか。

ここまで概略を説明しましたが、実務的には大変手間がかかるものであることがお分かり頂けたかと思います。それゆえ、シンプルで分かりやすい「BCGマトリクス」に比べて、この「GEビジネススクリーン」はそれほどビジネス界に浸透しなかったわけです。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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スティーブ・ジョブズ(9)過去から現在までの軌跡を「線」として実感することと未来への希望について

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■ あなたには未来はどう見えていますか?

コンサルタントのつぶやき

You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.

未来を見て、点を結ぶことはできない。過去を振り返って点を結ぶだけだ。だから、いつかどうにかして点は結ばれると 信じなければならない。

(スティーブ・ジョブズ)
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私は、経営コンサルタントという仕事柄、プロジェクトスタイルで仕事をすることが常態になっています。プロジェクトとは、有期限の活動であるため、ここで完遂するというゴールが必ず存在します。プロジェクトをやっている最中から、どうやってゴールテープを切るか、その姿勢、その時の感覚などを常に頭の中にイメージを持ちながら、日々のワークをこなしています。

毎日、ゴールイメージが少しずつ形を変えては頭の中で変化し続けます。それは、絶えずゴールに向かって真剣に考え抜き、目の前のタスクに一心不乱に挑んでいる結果がもたらす変化であると信じています。猛烈に他者の追随を許さないという信念のもと、間断なくゴールイメージを想起し続けます。そのゴールテープを切る自分の姿をビジョンに持っていると、目先の仕事をどう片付ければよいのか、指針がはっきりと頭の中に去来します。

そうして、WBSやプロジェクトスケジュール表の予定線と実績線を、週次進捗会議で振り返った時、これまでの自分がもがき続けた努力の軌跡が、点と点を結んだ線として、現われてきます。

常に仮説設定を怠らず、将来のゴールイメージをファインチューニングしながら、目の前の仕事に全精力を傾ける。そういう姿勢を取り続けることで、プロジェクトの成功やクライアントからの信頼は後から「線」になって付いてきます。これはたたき上げのおじさんのお決まりの精神論に聞こえるかもしれませんが、そういう努力を続けてきた人にしか分からない直観だと最近つくづく感じるようになりました。

あなたは、自分を信じ、必ず報われることを信じつつ、何の打算もなく、躊躇なく、目先の仕事に100%専念していますか?

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プログラムのバグを修正することをなぜ「パッチ」を当てると言うのか? - 「パッチを当てる」の言い方は「馬から落馬」と同じ

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■ 「バグ」とか「パッチ」とか、ITの世界のあたりまえ用語の語源とは?

コンピュータプログラムの誤りや欠陥を表す言葉が「バグ(虫、Bug)」と呼ばれている理由は真しやかに、当時の真空管製のコンピュータの光に誘われた蛾が、リレーの間に挟まり、誤動作を起こしたことに由来すると言われています。1947年9月9日に米ハーバード大学にて、アメリカ初の電気機械式計算機「Mark II」のリレーに蛾が挟まり、動かなくなったというのが世界初の「バグ」ということで、実際に証拠写真も存在しています。

プログラミング言語「COBOL」の開発者であり、ハーバード マークIの最初のプログラマーの一人でアメリカ海軍の軍人でもあった女性、グレース・ホッパーさんが不調になったMark IIを調べたところ、リレーの間に虫(蛾)が挟まっていたのを別の技術者が発見したそうです。彼女はこれを、作業日誌にテープで貼りつけて “First actual case of bug being found.”(「本物の虫が『バグ』として発見された最初の例」)と記録・保存したものだとか。

ホッパーさんのメモにあるように、「本物の虫が、、、」とあるので、これ以前から「バグ」という言葉が用いられていたことは確かなようです。しかし、一度、このような話がおもしろおかしく伝えられると、それが真実として独り歩きします。

似たようなケースに、「パッチ(当て布、Patch)」という言葉があります。コンピュータの世界では、パッチとは、コンピュータにおいてプログラムの一部分を更新してバグ修正や機能変更を行なうためのデータのことを意味します。「修正プログラム」や「アップデート(プログラム)」などと呼ばれることもあります。実際に変更を施す際は「パッチを当てる」、「パッチを適用する」と言います。まあ、「パッチ」が「当て布」を意味する言葉なので、「パッチを当てる」は、「当て布を当てる」となり、まさしく「馬から落馬」と同じ響きを持って、わたしはやや違和感を持って聞いていますが。。。

(下記写真は、ソフトウェアの修正プログラムのことをなぜ「パッチ(当て布)」と呼ぶのか?|Gigazineより引用)

こちらは、上記のアメリカ初の電気機械式計算機「ハーバード マークI」に使われていた紙製のプログラムシート。当時は、穿孔(せんこう)テープにパンチ穴を空けて、それを計算機が読み取って計算を行なっていたため、穴を空ける場所を間違えた場合、穿孔テープに本物の「布」を継ぎ当てて穴を埋め、正しい場所に穴を空け直してプログラムの修正を行なっていたそうです。こちらは「バグ」より歴史は古く、そしてどうも真実のようです。(^^;)

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企業会計の基本的構造を理解する(2)動態論的貸借対照表とは? 収支計算と期間損益計算のズレを補正する損益計算書の連結環

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■ 企業会計における「計算構造」の一番大きなフレームワークとは?

会計(基礎編)

「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。

会計は企業の経済事象を貨幣価値(お金)という指標を用いて、経済価値を計算し、記録を残し、サマリ表(財務諸表)に整理して、それを知りたい人に開示・伝達するという一連の計算技術からなります。こうした計算手続には、首尾一貫した計算のフレームワークが存在しているのです。それについては、2点留意すべきことがあります。

① 概念を理解するために、あくまで「学説」として存在するものも混在している
② 制度会計ルールに盛り込まれている概念は時とともに移り変わっている

物事を整理するためには、二項対立構造で表現した方が理解が進むこと、制度会計の基本的考え方が時代の変遷(企業活動内容の変容)に伴い、アップデートされていることから下図はあくまで、会計計算構造の概念的理解のための整理表という位置づけになります。

財務会計(入門編)_会計計算構造

IFRS(国際財務報告基準)の黒船がやってくるまでは、日本の会計制度は、
・動態論会計
・損益法会計
・発生主義会計
・原価主義会計
でしたが、昨今では、
・財産法
・時価主義会計(公正価値会計)
の影響を強く受けたものになっています。

 

■ 貸借対照表に求められる役割の変遷

(1)静態論会計
会計の基本目的を一定時点における企業の財産状態の表示に特化し、貸借対照表は作成時点の会社の「財産計算」であることを求める考え方です。そもそも企業会計とは、大航海時代の一回の航海において、出港時に財産目録と、帰港時の財産目録の差分が、航海のパトロン(航海費用の負担者で、女王様とか貴族様とか大商人など)の「取り分=儲け」を計算するところから出発しています。航海ごとに会社を無くして「精算」することで、出資時と精算時の「差分=財産の増加分」が「儲け=利益」ということになります。このように、「決算=利益の計算行為」を会社清算により行う企業のことを「当座企業」と呼びます。

企業の経済的基盤が脆弱で、継続企業(ゴーイングコンサーン)の仮定が現実性を帯びない当座企業では、企業に対する出資者(株主・投資家)や債権者の中心的な関心事は、出資額および債権額の回収力がどれくらいあるかになります。したがって、そのような企業環境においては、どれくらいの財産が企業の手元に残っているかを示す「財産目録」として、貸借対照表が企業の財政状態を一覧できるように作成されていることが求められるのです。

(2)動態論会計
会計の基本目的を企業の期間的経営成績の表示に特化し、貸借対照表は期間的経営成績を体現している損益計算書を作成するための補助資料の位置づけに過ぎないものであるとする考え方です。ここでは損益計算書が主役となるため、貸借対照表はあくまで、ある期間の損益計算書とその次の期間の損益計算書をつなぐ「連結環」としての役割しか与えられません。

産業革命を経て、次第に産業構造が大規模化し、企業活動も安定・長期化していくに伴い、いちいち会社清算をして、静態論的に貸借対照表の差分で「儲け=利益」を計算していては、実態の企業活動に支障が生じてしまいますから。

そこで、企業の経済的基盤が堅実化し、継続企業(ゴーイングコンサーン)の仮定が現実性を帯びた状況のもとでは、倒産や清算を前提とした財政状態の計算・表示は有効ではなくなり、投資家や債権者を中心とした利害関係者(ステークホルダー)の中心的な関心事は、その企業の

① ビジネス継続ができる力
② 継続的ビジネスの現在時点の収益力

に移りました。そうした継続企業における経営成績(=業績)を一覧できるような会計理論が動態論で、もはや貸借対照表ではなく、人為的に「会計期間」を区切って、その間における「期間損益」を表示して、経営成績が一覧できる損益計算書の作成が求められるようになりました。

(3)再びIFRSの下で静態論的な見方が増えつつある
昨今、IFRSの整備が進展し、日本の会計基準とのコンドースメント(Condorsement)の動きが活発になっています。その中で、再び静態論的な見方(実質は財産法なのですが、動態論の中の進化をまだ説明していないので、、、)も次第に勢力を取り戻してきています。それはIFRSが静態論を採用しているからという短絡的な見方ではなく、なぜIFRSが静態論的会計観を持っているのかを知る必要があります。近年、投資家からのプレシャーの高まりから、より高い収益性と成長性が企業経営者に求められています。技術進歩のスピード向上や市場競争の激化により、企業組織の自然成長(内部成長)=organic growth だけでは投資家の意図する成長性・収益性に応えられなくなってきました。そこで、M&Aという企業や事業自体が売り買いの対象となるケースが爆発的に増えました。そこで、再び企業や事業の適切な買収額を査定するために、静態論的な貸借対照表のあり方が再び脚光を浴びるようになったのです。

 

■ 動態論的会計の構造とは?

動態論の世界では、損益計算書が主役となります。その時の損益計算書の役割は、ある一定期間に限定して、投資家が企業に投下した資本がどれくらい回収見込みが立っているかを計算・表示することです。これを、「投下資本の回収計算」と呼びます。最初に投下資本が100だけ投入され、開発・仕入・生産・販売・回収のビジネスサイクルを一通り経験することで、120が手元に返ってきた場合、120 – 100 = 20 という収支差額を求めます。これが投下資本の回収余剰額を意味しており、この20が利益と呼ばれるものになります。

財務会計(入門編)_投下資本の収支計算

上図のような投下資本の収支計算は、本来あるべき「当座企業」ならば、損益計算書が示す損益計算と、会社設立から会社清算まで一気通貫で見るのならば、理論的に完全一致します。しかし、人為的に区切った会計期間(=決算期間)、例えば、1年とか四半期とか月次という会社清算前のある時点からある時点の間の期間損益計算が必ずしも、その期間の最初と最後の貸借対照表における投下資本の増減と一致するとは限らないのです。

財務会計(入門編)_収支計算と損益計算のズレ

収支計算と利益計算が一致しないケースは、例えば「固定資産の減価償却計算」が該当します。とある固定資産を購入するために、110を支出しましたが、当期の費用になる分は100で、10は未償却分(次の会計期に費用化されるまで待機)として貸借対照表に残ったままとなります。

つまり、期間損益計算の下では収支計算と損益計算の間には期間的なズレ、収支の未解消項目が不可避的に登場してしまうことになります。期間損益計算の精神を守ろうとすればするほど、この未解消部分が増えることになるのですが、この部分は期間損益計算の外に出す必要があります。そうした未解決項目を総括表、つまり損益計算からの一時避難場所として貸借対照表を位置づける考え方が「費用動態論」なのです。

 

■ 動的貸借対照表を図式化してみる

前章で説明した損益計算からの一時避難項目(未解決項目)は、貸借対照表のどの部分にどのように位置づけられるのでしょうか。

・収支計算:会社の財産価値を高めるような、現金の出入り(支出と収入)を表すもの
・損益計算:会社の経営成績を計算するために、費用と収益の差分で儲けを計算するもの

現金が出ていくのに、費用でなかったり、現金が入ってきたのに、収益でなかったりした場合等、収支計算と損益計算の結果が相違します。

財務会計(入門編)_動的貸借対照表とは

1.現金
企業の換金可能な貨幣価値として、実態のある財産を代表する意味で記載しています。

2.支出・未費用
棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産、繰延資産など、これからいつかは費用化する資産であり、別名「費用化資産」とも呼ばれます。いずれ、「費用配分の原則」にしたがい、損益計算書に向かって出ていく定めのものたちです。

3.支出・未収入
貸付金、出資金などの外部投資資産を意味します。これらも支出の未解決項目であるため、支出額つまり原価取得主義に基づく「原価」額を基礎に測定されます。

4.収益・未収入
受取手形や売掛金が該当します。収益がたったのですが、その決済手段として現金が採用されずに、権利として社内に留保されている状態です。現金決済がなされると、「現金」に姿を変える予定のものです。

5.資本
資本主(株主)が会社設立の際に元手として出資した分であり、会社清算時の返金請求額や、継続企業における配当請求権の元になる金額を意味します。

6.収入・未収益
前受金や前受収益という現金主義会計と発生主義会計の差分を埋めるための「経過勘定」を意味します。期間損益計算に算入してはいけないのに、企業外部から現金を受け取った場合に使用します。当然、収益として認識すべき時が来たら、貸借対照表から晴れて損益計算書に移動するものたちです。

7.収入・未支出
借入金、社債が該当します。会社の中に現金が流入してくることは事実ですが、損益計算の結果としての現金流入ではありません。あくまで、資金調達の一環として、現金の増加の原因理由を明らかにするために、貸借対照表の所定のこの場所に記録されるものたちです。

8.費用・未支出
未払費用、未払金、負債性引当金が該当します。いずれも現金主義会計と発生主義会計の差分を埋めるための「経過勘定」を意味しますが、その名で呼ばれるのは未払費用と未払金だけであることが普通です。これらは、企業外部との取引が発生し、費用として期間損益計算に埋め込む必要があるのですが、現金として社外流出していないため、貸借対照表のこの部分に記載されて、現金による決済を待っている待機モードの勘定たちです。

負債性引当金は金額および決済期日が確定していない見積負債と考えられます。費用収益対応の原則に基づき、負債性引当金を設定しておくことにより費用の平準化がはかられ、期間損益計算を適正に保てるという見地から貸借対照表に留め置かれます。

財務会計(入門編)_企業会計の基本的構造を理解する(2)動態論的貸借対照表とは? 収支計算と期間損益計算のズレを補正する損益計算書の連結環

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企業会計の基本的構造を理解する(1) 会計取引の計上に必要な「認識」と「測定」について

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■ 企業会計の基本的バックボーンを説明します

会計(基礎編)

「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。

「会計」は、株式会社に代表される「営利団体」、地方公共団体や学校法人に代表される「非営利団体」を問わず、その組織における「お金」の出入りを記録して、

① 組織活動に必要な資金が不足しないで組織が存在し続けられるように資金の収支を管理する
② 特に営利団体では、組織目的である「儲け」がどれくらいになったかを計算する

ために、様々な法定または組織の裁量ルールで、その組織を取り巻く経済活動を記録して、その情報を必要とする人々(利害関係者:ステークホルダー)に伝達することを意味します。

上記では「お金」と表現しましたが、必ずしも「現金」の出入りだけに特定して記録するものではないので、「貨幣的価値」という用語で表現します。

会社とよばれる営利団体を例にとると、一般的に、3つの「財・サービス市場」「金融市場」「労働市場」に直面して、様々な経済的主体と取引関係を結びます。その中で、「貨幣価値」が移動したり生成されたりした場合に、会計取引として記録されるようになっています。

財務会計(入門編)_企業を取り巻く取引市場と経済活動

例)株式会社が他社と知的財産をお互いに共有利用するための提携契約(クロスライセンス契約)を締結
  ・提携契約締結や実際の共通利用の事実が発生しただけでは会計取引は発生しない
  ・共通利用の対価として使用料を支払うことを約束していた場合は会計取引が発生する

 

■ 会計取引を行う際に何が行われるか:「会計行為」とは?

以後は、非営利団体が用いる「非営利会計」「公会計」ではなく、株式会社など、営利団体が用いる「企業会計」に範囲を限定して解説を進めます。

企業の会計取引をステークホルダーに説明する際には、「貨幣的価値(金額)」で表示された数字による会計取引を提示する必要があります。その会計数字はどういう考え方によって作成・表示・伝達されるのでしょうか?

財務会計(入門編)_会計行為とは

①「計上」
企業の経済事象について、会計情報として記録するための具備条件を判断する行為です。いつの会計取引か、タイミングを決定する「認識」と、いくらの貨幣価値のある取引か、金額を決定する「測定」の2つの行為が相まって会計取引が記録されることになります。

②「記録」
会計は、「複式簿記」という計算構造によって、必ず2面性のある取引として、会計帳簿に記載されます。例えば、現金で商品を販売した時は、

・「現金」という資産が増えた
・「売上」という収益が増えた

という感じで記録されます。

③「表示」
会計はその記録を、その情報を欲する人の元にまで届けて、活用してもらうことを目的としています。したがって、会計情報を様々な意思決定に有効活用してもらうためには、

・分かりやすく一覧表示になっている
・一定の形式(フォーマット)で継続的に表示されている

ことが必要とされます。そうした表示・伝達の形式面を充足したものが「財務諸表」と呼ばれる会計情報です。「諸表」とは文字通り、活用目的に応じて複数種類の開示資料が存在することを意味しています。

 

■ 「計上」にともなう「認識」と「測定」の具体的説明 - 売上取引を例に

企業が製商品・サービスを顧客に販売した際の、売上取引を例に、「認識」と「測定」を説明します。

まず、会計取引を「計上」する際の準備として2つのものが必要になります。
① 証憑:会計取引の元になる証拠資料
② 判断基準:会計取引を記録する際に憑代となる考え方

財務会計(入門編)_会計取引の計上

証憑(しょうひょう)には、「認識」のベースになる「日付」と、「測定」のベースになる「金額」が記載されているはずです。現代において、証憑が紙製の伝票である必要はなく、電子媒体上のログでも構いません。

売上計上の場合には、関連する証憑は数多く存在しますが、上図では、4つに絞っています。そして、経理担当者はその証憑を見ると同時に、自社の会計処理規程(当然ながら法定のルール・会計基準などに準拠したもの)により、証憑から会計判断を行います。昨今では、領収書などを画像情報で取り込み、AI(人工知能)などを用いて、自動仕訳機能を搭載している会計システムを、いくつかのフィンテック企業が提供しています。その場合は、会計判断をある程度定型化しているのですが、筆者の実務経験から、ある程度、柔軟な人間の判断による会計処理が完全に消滅することはないと考えています。

現行の法定ルールでは、「実現主義」に基づく、「出荷基準」または「検収基準」が一般的です。実際の複雑なビジネス上の取引の全てに一様に適用可能な判断基準は存在しません。販売取引の内容を見て、法定ルールが定める範囲で、かつ同種の取引ならば継続的に同じ基準で売上取引を計上することになります。一つに定まらず、ある程度人間が判断する余地があることを、会計の世界では、絶対唯一のこれが正しいという正解(真実)は無い、という諦観から、「相対的真実」という会計用語があります。

上記の例では、「請求書」の発行タイミングは自社の恣意的な操作で動かすことができるため、通常は認められていません。値引額も自社の裁量である程度決定できることから、測定額も厳しく審査する必要があります。それゆえ、値引後の900円を売上高とするよりかは、値引前の1000円を売上高と一旦設定し、併せて、売上値引を100円という会計記録も残し、会計監査人や他の会計責任者が後から確認しやすくする方法も採用されることが多くあります。

仮に、3月決算の会社の場合、「出荷基準」と「検収基準」のいずれを採用するかで、当会計期間の売上高が変動することになります。検収書を3月中に客先からもらえそうにないから、勝手に3月末に請求書を発行して、3月中の売上にしてしまおうという恣意的な操作を誘発することがあります。それゆえ、継続的に採用すべき会計的判断というものを予め明確に決めておく必要があります。一度決めた会計的判断は、企業側の勝手でふらふらと自由気ままに変えることは控えるべき。こちらは「継続性の原則」という呼称で会計の世界では結構有名な大前提となっているルールのひとつです。

財務会計(入門編)_企業会計の基本的構造を理解する(1) 会計取引の計上に必要な「認識」と「測定」について

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経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率

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■「時間」「競争」「資源配分」を体系づけた戦略コンサルティングツールの発明

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。ヘンダーソンが、ボストン コンサルティング グループ(BCG)を1963年(48歳のとき)に立ち上げました。彼は、「企業や市場を徹底的に分析して、それを動かしているシステムを見つけ出したい」という知的欲求が動機となってBCG設立へとつながりました。

現代の大企業の大多数は複数事業を営んでおり、専業の方が珍しいと思います。例え、専業であっても、取扱い製商品・サービスは複数種類あるのが通常ですので、どの企業の経営者も、

① 自社の経営リソースをどういう基準で配分するか
② どの事業に投資すれば一番儲かるか

が根源的な経営課題のひとつとなります。その問題に正面から立ち向かい、現代に至るまで誰もが一度はそのフレームワークで事業ポートフォリオ問題を考えたであろう決定的な経営戦略ツールをヘンダーソンは発明します。

①「時間」:経験曲線によるコスト競争力誕生の秘密を解き明かし、
②「競争」:持続可能な成長率を算出して競争優位のための先行投資可能額をはじき出し、
③「資源配分」:事業成長のための集中投資の判断基準を可視化しました。

 

■「経験曲線」が教える未来予測と、そこから生み出された競争原理とは?

本書によりますと、競合他社とのコスト競争力に悩んだゼネラル・インスツルメンツのテレビ事業部がBCGに調査を依頼してきたことが全ての発端でした。ヘンダーソンは当初から自分が興味を持っていた「学習効果」の効用を調べ始めました。彼らが発見した法則は、

・企業の当該事業における経験量(累積の生産・販売数量)が倍になるとコストが一定割合で減少していく、「経験曲線(Experience Curve)」が成立する
・競合他社との競争に打ち勝つためには低コスト生産が早道である
・自社と競合の相対的コスト優位性は、経験曲線で予測・推測することができる
・生産/販売数量を増やして市場シェアを上げれば、経験曲線を競合より早く駆け下りれば、低価格戦略で競合に市場で勝てる!

「経験曲線」と言っていますが、「対数グラフ」で表示してあげれば、直線で表記することができ、将来予想コスト(販売可能価格)を割り出しやすくなります。

経営戦略(基礎編)_BCGの経験曲線をExcelで表現してみた

本書から。

これは当時、アメリカ企業が頭を悩まされ始めた日本企業の行動原理を説明したものでもありました。とにかく市場シェア拡大を求めて(短期的な利益を度外視して)低価格戦略を採る姿に、違和感を抱いているだけだった企業が多い中で、BCGは言ったのです。「あれは正しい。見習うべきだ」と。

現在では、市場至上主義、シェア至上主義を採る企業はダメ扱いですが(その理由は別の機会に)、日本の高度経済成長期において、「大量生産大量販売」方式のビジネスモデル下では、このようなコストリーダーシップ戦略の実現形が大変有効だったということです。

 

■ 事業への集中投資は、投資可能額を持続可能な成長率から算出することから始まる!

「経験曲線」の存在認知により、市場で勝てる(または勝ちたい)事業に集中投資して、シェアをどこよりも大きく取れば、コスト競争力が付くことが分かりました。では、どれくらいの投資に企業財務力が耐えることができ、どの事業(製品)に投資を集中すればよいのでしょうか?

先ずは『企業財務論』的視点から。
企業が新規借り入れ増や、増資により新たに企業外部から資金調達しないでも、自己資本+社内留保の再投資だけで、巡航速度によって企業成長に回せる資金量を測定する考え方があります。それは、最初に株主から出資を受けたお金が、複利計算でどんどん膨らみ続けて増額していく分だけ、新規投資に回せるお金が増えるとの考え方に基づきます。その複利計算は、企業が設けた利益から配当金としてキャッシュが社外流出しないで、100%再投資に回せるとしたら、自己資本がどれくらいの倍々ゲームで増えていくか、の増加率を試算するやり方です。

財務分析(入門編)_内部留保が企業成長をもたらす

詳しくは、本ブログの財務分析入門の過去投稿を参照してください。
⇒「成長性分析(9)持続可能な成長率

そこでは、「持続可能な成長率(g*)」を次のように定義しています。

g* = (株主資本の変化額)÷(期初株主資本額)
  = (内部留保率 × 当期純利益)÷(期初株主資本額)
  = (内部留保率)×(当期純利益 ÷ 期初株主資本額)
  = 内部留保率 × ROE(期初株主資本額ベース)
  = 内部留保率 ×(売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ)
  = R × P × A × T (※)

※ R:内部留保率
  P:売上高当期純利益率
  A:総資産回転率
  T:財務レバレッジ(ただし、期初株主資本ベース)

ちなみに、本書では、BCGにスカウトされてきた財務論の准教授だったゼーコンが著した計算式が紹介(P126)されています。

SGR = D/E*(R-i)*p+R*p

・SGR:Sustainable growth rate(持続可能な成長率)
・D/E:debt / equity ratio(自己資本率)
・R:ROA(純資産利益率)
・i:Interest rate (1 – taxation rate、純利益率)
・p:retention ratio(保有率)

上記のゼーコンの式は、有利子負債と株主資本の両方の追加投入(新規借入または増資)が無かった時のお金の増え分を表そうとしていることはわかるのですが、表記が一部間違っています。

筆者の財務論知識で補正かつ分かりやすく再記しておきます。

SGR = D/(D+E)×(税引後純利益+支払利息×(1-税率))×内部留保率
           +E/(D+E)×税引後純利益×内部留保率

・D:期初の有利子負債残高
・E:期初の株主資本額

ずらずらと計算式が登場して、うんざりしている方は基本的考え方だけを理解してください。企業が安全に先行投資できるのは、新規に外部から資金調達しないで済む額の再投資額の枠内です。それが、期初の有利子負債と株主資本の合計額にSGRをかけたものです。しかし、本当に事業の成功確率が高いと確信したら、SGR以上の資金は外部から調達してくればよいだけです。その思い切りのハードルの高さを示してくれているのがSGRの計算式なだけです。

つまり、「自信があるなら、じゃぶじゃぶと外部から資金を調達して投資すればよい!」

 

■ 事業ポートフォリオを考える最強の武器、「成長・シェアマトリクス(BCGマトリクス)」の誕生!

ここで、経営戦略を学んだ人は漏れなく学習する「PPM(プロダクト-ポートフォリオ-マネジメント)理論」が登場です。この2×2の単純かつ明快なマトリクスは1969年に誕生しました。

経営戦略(基礎編)_BCGの成長・シェア マトリクス

本書によりますと、このマトリクスは二重の意味で画期的でした。
① 絵として可視化されて一目で分かりやすい
② 実務的に事業の位置づけを数値で分析することができる

各事業は必ず「市場(予想)成長率」と「相対的シェア」による4象限のどこかに位置づけられます。これを「ポジショニング」と呼ぶと、かのM.ポーターによる「ポジショニング学派」興隆の嚆矢となる理論となることがお分かりかと思います。

「相対シェア:最強の競合とのシェア比。自社がトップなら2位と、自社が2位以下なら1位とのシェアの比率」(P128)

「スター」とか「問題児」とか、「名は体を表す」を地で行くネーミングセンスは秀逸で、良くも悪くも、大いに経営者受けしました。こぞって、大企業の経営者や戦略・企画担当者はこのBCGマトリクスを用いて、社内のお金の流れを統制・管理し始めました。

経営戦略(基礎編)_企業全体でのお金の流れ

経営者が投資ファンドマネージャーとなり、社内の数々の事業を「スター」「金のなる木」「問題児」「負け犬」と定義し、「金のなる木」から「スター」へ社内の資金を積極的に移動させることで、企業全体最適で一番利益率を高くするような資金配分を考えるようになりました。

しかし、この社内資金の流れについては、筆者は実務の世界で揉まれた経験から以下の2点の指摘をさせて頂きます。

(1)事業はセルフファンディング(自己金融)の方が健全である
とある企業内に存立する複数の事業はそれぞれ、自事業内の将来投資の原資は、自事業の過去と現在から上げられた利益から捻出することをまずは目指すべきです。事業内で先行投資金額を準備し、計画立てて投資を実行し、果実として利益を刈り取っていく。事業責任を受け持つ事業部長としての姿勢としては、かくあるべきです。

ただし、あまりにドラスティックに事業ポートフォリオの組み替えが必要になった場合、それは各事業のトップに立つ経営陣が、新規の資金調達必要額の決定を含め、各事業への資金配分を機動的に意思決定するための指標が示されることは必要でしょう。しかし、それはアーリーステージのベンチャー企業や、バイオやITといった市場成長が早くて流動的な業種で積極的に採用される資金配分のクライテリアではないかと思います。

(2)トップダウンの経営風土の企業でしか有効ではない
「金のなる木」として認定を受けた事業の責任者の心の内は穏やかではないでしょう。いくら自分の事業が頑張って儲けても、経営トップの鶴の一声で、他の事業への投資に、自分が額に汗して設けたキャッシュを持っていかれて素直に喜ぶ人がいるとは思いません。

それぞれの事業が自己金融だけでは「経験曲線」の法則から競合に勝つのは難しい。特に、新規事業や新市場開拓はその傾向が強いのも理解できます。それゆえ、PPMは、経営トップ専用の戦略ツールと言えましょう。

 

■ BCGが経営戦略に「時間」「競争」「資源配分」を持ち込んだ

本書における論点整理を筆者なりにまとめていきます(P130~135)。

チャンドラーの戦略論は曖昧で、アンドルーズの「SWOT分析」はその後がアートで、アンゾフの経営戦略論は難解で、マッキンゼーは組織戦略に傾注しすぎていました。その中でヘンダーソン(BCG)は、現代でもまだ通用している「使える経営戦略ツール」を提供することに成功しました。

①「時間」将来を予測できた(経験曲線、持続可能な成長方程式)
②「競争」競争力や競争状態を分析できた(経験曲線、PPM)
③「資源配分」事業間の資源配分ができた(PPM)

経営戦略(基礎編)_BCGの3つの革新

それまで漠然とした指針を示すにすぎなかった経営戦略論が、BCGにより「数値的に分析可能」なものに変化しました。これをウォルター・キーチェル三世は「大テイラー主義」と名付けました。科学的経営を標榜しながらも、工場における生産性向上にとどまったテイラーの思想をBCGが経営全体を科学して分析するレベルに引き上げたのです。

以下、本書でのPPMへの詳解ポイントをまとめます。

●「相対シェア」
コトラーが提唱した「競争的マーケティング戦略」でも企業を市場でのポジションで2つに分類しています。
① リーダー:シェアトップ企業
② チャレンジャー:リーダーを出し抜こうとしている企業
③ フォロワー:リーダー企業の市場での動きに追随していこうとする企業
④ ニッチャー:小さくセグメンテーションされた市場でのトップの地位を守ろうとする企業

ここでも重要なのはシェアの考え方ですが、コトラーもあくまで「相対シェア」を想定しています。絶対値でシェア30%でも、トップ企業が60%ならば、自社はチャレンジャーかフォロワーになるからです。

●「相対シェア」と「市場での地位」のどちらが戦略を決めるのか?
市場での地位は、PLC(プロダクトライフサイクル)によって決まります。コトラーの回でも、対局する、
・PLC理論:「ステージさえ決まれば、戦略は決まる」
・ 競争的マーケティング戦略:「プレイヤーのマーケットポジションが決まれば、戦略は決まる」
の対立構造の説明をしました。この矛盾をPPMは一挙に解決しています。

● BCGが反省している「負け犬」のネーミング
PLC戦略も視野に入れると、このネーミングの難しさもひとしおです。成熟・衰退市場における低相対シェア事業なら「売却か撤退」がリーズナブルな選択ですが、PLC的には、低成長市場に見えるのは黎明期ステージの市場かもしれません。これは、スーパーマーケとのレジで「POS:point of sales」(販売時点情報)が導入された際、品揃えが売れ筋商品だけになって却って店の売上が落ちたとか、負け犬や問題児の事業の売却・整理を極端に進めたら、次の事業成長の機会の芽を全て摘んでしまった、とか言われる「選別のジレンマ」状態に陥る企業が出たことも事実です。経営ツールもハサミも使いよう。

本書によると、BCGは「負け犬(Dog)」ではなく、せめて、将来への成長の期待を込めて「子犬(Puppy)」と名付けていればよかったとかネーミングの反省があるとか、、、

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率

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ニーチェ(1)他人があなたの意見に反対する本当の意味とは?

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■ 誰かがあなたの意見に反対する理由とは?

コンサルタントのつぶやき

One often contradicts an opinion when what is uncongenial is really the tone in which it was conveyed.

人が意見に反対するときはだいたいその伝え方が気に食わないときである。

(ドイツの哲学者、古典文献学者 / 1844~1900)

——————————————————-
前回に引き続き、私自身が仕事をやるうえで大切にしていることをニーチェの名言にかこつけて紹介しています。今回は、「伝え方」。

人は、本来的に、他人から説得されることを望んではいません。誰だって自分の思いで自分の行動を決定したいし、自分の人生の意味は自分で決めたいもの。積極的に自分の意見を持っていない人でも、あからさまに他人から指示されて生きる人生を望んではいません。そういう人は、「そっとしておいてくれ」と必ず思っているはずですから。

そして、私は、経営コンサルタントとしての職業柄、クライアントに対して意見を具申する機会が多く、他人に自分の思いを伝えることが仕事の中心にあります。クライアントに提案を持ちかける時に一体何を気にしているのか?

選択肢を提示して、ロジカルにそのメリット・デメリットを噛んで含めるようにして、いかに言葉を選んだとしても、お客様が耳に入れたくないことは、お客様は積極的に選ぶことはない、という事実をきちんと理解すべきです。

通常、人間は、自分が考えていることが正しいと認めてもらいたいと欲する存在です。したがって、コンサルタントが賢しらに何か具申したところで、クライアントが本当にその答えを欲していないと、採用にまでは決して至らないでしょう。

何度も繰り返しになってしまうかもしれませんが、私は決して「自分が考えている真実」をクライアントに具申することはありません。徹頭徹尾、クライアントが「自分が、組織が、会社が、こうなったらいいなというコンセプト」をクライアントに具体化させて見せているだけなのです。

そうです。コンサルタントの仕事とは、クライアントが知らない新事実を教えてあげる存在なのではなくて、クライアントが決めたいことを具体化させて、思考プロセスを見える化して、自分自身で思いついて実行することを手助けする立場に過ぎないのです。決して、頭がよくて誰よりも物知りな者が経営コンサルタントとして成功するのではありません。クライアントの気持ちに寄り添って、クライアントのことを一番に考えてあげられるシンパシーをきちんと示せる人が経営コンサルタントとして仕事を成し遂げることができるのです。

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ジョン・F・ケネディ(2)中間管理職と真のリーダーシップの違いとは

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■ プレッシャーを与えられた時に本当の顔が覗く!

コンサルタントのつぶやき

The elusive half-step between middle management and true leadership is grace under pressure.

中間管理職と真のリーダーシップとの微妙な半歩の違いは、プレッシャーの下で優雅さを保てるかどうかだろう。

(米国の第35代大統領/ 1917~1963)

——————————————————-
前回に引き続き、私自身が仕事をやるうえで大切にしていることをJFKの名言にかこつけて紹介しています。今回は、「肝っ玉」。

目の前の大切な仕事の納期が迫ってきたとき、部下が大失敗して火消をしなくてはならなくなったとき、クライアントが怒り心頭になり、陳謝に赴くとき、自分がどういう顔をして、その局面に対峙しているのか、自分自身では、自分の立ち居振る舞いを客観的に見ることは難しいことが多いものです。

そうした追い詰められたとき、別に、ナルシストではないので、普段は全く気にしないのですが、なるべく全身が写る鏡の前に立ち、自分の顔の表情や、背筋がピンと伸びているか、身なりが乱れていないかを注意してみるようにしています。

やばくなっていればいるほど、鏡に映る自分の姿がみっともなく見えるものです。そして、鏡の前で怒ったり泣いたり笑ったり、いろんな表情をしながら、直面している課題を解決するように思案します。そうしていると、やがて、表情と解決施策の組合せでピーンと来るものが来ます。そういう天恵を得るために、鏡の前の自分シミュレーションをすることをお勧めします。

現在、地方出張で仕事をすることが多いので、ホテルに仕事を持ち帰る機会があります。今泊まっているホテルのデスクの前は鏡になっています。いろんな顔をしながら、資料作成やプレゼンテーションの準備に勤しんでいます。意外に、真剣に悩んでいる自分の顔はみっともないものですよ。他人の目に映る必死な自分は優雅にかつ華麗に頑張っているように見えているか、それともたださもしくみじめに映っているか、他人から見える自分を考えることも、他人ビューで仕事をして、自己中心的でない仕事運びをするのに役立ちますよ。(^^;)

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仮想通貨だけに留まらない。経済取引の根幹を変えてしまうブロックチェーン2.0(2) - ビジネスブロックチェーンの安全性と将来性について 日経BigDataより

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■ 落ちない、書き換えられない、管理者がいないブロックチェーンとは?

経営管理会計トピック

今年も、AI(人工知能)、IoT、ビッグデータに並んで語られるであろうフィンテック。その中でも、ビットコインに代表されるブロックチェーン技術。その進化と、仮想通貨以外への応用の可能性を概説します。本稿は、日本経済新聞電子版に転載された、日経BigDataの連載記事である「ビジネスブロックチェーン(上)(中)(下)」を参考に構成しました。

(参考)
⇒「禁忌に触れた仮想通貨 「ザ・ダオ」の教訓 「Disruption 断絶を超えて」特別編 - ブロックチェーン2.0の死角と問題点について
⇒「ビットコイン、金融政策失墜が背景 岩村充早大教授 「Disruption 断絶を超えて」特別編 - 中央銀行の歴史と政府からの独立性を考える。法定通貨と仮想通貨の相克から

2016/12/15付 |日本経済新聞|電子版 管理者不在のブロックチェーン 安全で落ちない秘密 ビジネスブロックチェーン(中)

「「落ちない」「書き換えられない」、そして「管理者がいない」。ビットコインを7年以上止まることなく動かしているブロックチェーンの仕組みはどうなっているのか。その技術概要を紹介する。」

(1)システムダウンを防ぐ「P2Pネットワーク」
「ブロックチェーンは、P2Pネットワークで稼働するシステムである。このネットワークに参加するノードは、同一のブロックチェーンソフトウエアを動かし、同一のブロックチェーンデータを保有する。これにより、いくつかのノードが突然停止した場合でも、データの損失やシステムのダウンが起きにくくなる。」

(下記は同記事添付の「ピア(ノード)とピアがつながるP2Pネットワークの仕組み」を引用)

20161215_ピア(ノード)とピアがつながるP2Pネットワークの仕組み_日本経済新聞電子版

この技術自体は、実はブロックチェーン特有のものではなく、すでにインターネットがこの技術的基盤の上に成り立っています。

<メリット>
① 高スケーラビリティ:
全ての端末が等価であり、特別な機能や役割を持った端末が存在しないため、接続するユーザ数が膨大になっても特定の端末に負荷が集中しにくい
② 低コスト:
要求されるサーバ装置性能が低くなり、通信回線も通信帯域幅の細い安価な回線で済む。このコスト差は、端末数が増えれば増えるほど顕著となる
③ 耐障害性の高さ:
あらかじめ同じデータを共有した端末を複数用意することができれば、データを受け取る側はどれか一つとでも接続可能であればデータ受信を継続可能である

あえて、ブロックチェーンは最後の③についてのメリットが強調されているだけです。

(2)改ざん防ぐ「暗号」と「ハッシュ」
ビットコインの場合、下記の情報がひとつひとつの取引データ(トランザクション)の含まれている必要があります。

・ 送信者のアドレス
・ 受信者のアドレス
・ 送金金額
・ 手数料
・ 直前のトランザクションのハッシュ

「アドレスは公開鍵暗号方式によって管理されている電子署名であり、トランザクション送信者の公開鍵で検証できる。受信側のみが持つ秘密鍵(公開鍵と対になっている)を使いデータを復号化(解錠)するため、安全性が高い。」

この方式も既に、Webサイトやメールサービスにおいて実用化されている技術で、ブロックチェーン特有のものではありません。また、各トランザクションは直前のトランザクションの「ハッシュ」を常に含んでおく必要があります。

「ハッシュ値は任意の長さのメッセージから出力する固定長のランダムな値のことで、ハッシュ値から元のメッセージは逆算できない。その結果、改ざんへの耐性が高く、履歴を遡ることができるハッシュチェーンが構成される。」

(下記は同記事添付の「暗号学的ハッシュ関数とハッシュ値」を引用)

20161215_暗号学的ハッシュ関数とハッシュ値_日本経済新聞電子版

まさしく、このハッシュ値が取引ごとに記録されており、遡及的に改ざんの有無と改ざん者の特定を可能にするところが、ブロックチェーンが従来のテクノロジーと一線を画するところです。聞くとシンプルで従来技術の応用ですが、それを考えつく発想とそれを実現する環境を構築する所がすばらしいと考えます。画期的な発明とは案外そういうものかもしれません。

(3)管理者なしに取引の正しさを決める
「離れた場所にある多数のコンピューター(ノード)で動くブロックチェーンにおいて、どのトランザクションを“正しいもの”とするかを決める仕組みを、「コンセンサスアルゴリズム(合意アルゴリズム)」と呼ぶ。
 通常のシステムでは、中央の管理者(がコントロールするコンピューター)が、各トランザクションの正しさを検証し、確定していくが、ブロックチェーンでは、合意アルゴリズムによって、参加する各ノードが検証作業をする。」

ビットコインでは、「プルーフ・オブ・ワーク(PoW=仕事の証明)」という合意アルゴリズムが発明されました。

(下記は同記事添付の「PoWの仕組み」を引用)

20161215_PoWの仕組み_日本経済新聞電子版

「PoWに参加するノードは、P2Pネットワークを漂う多くのトランザクションデータから任意のものを選び、これに直前のブロックのハッシュと、ナンスと呼ばれる任意の値を合わせて、後述するマイニングに用いるブロックの元データを用意する。」

この時、これらのデータを使ってハッシュ関数で計算します。そこで得られる値はナンスを変えるごとに異なる値になり、ナンスを変えながらひたすら計算を繰り返し、ある一定値より小さな値が得られた時点で、そのノードが投入したデータをいわゆる「ブロックチェーン」におけるひとつの「ブロック」として認めることとします。こうして最初に計算できたブロックを正当なものとするのが、PoWにおける合意ルールで、この合意がその取引の正当性を証明するのです。

さらに、その正当性の証明には2つの補強材料が存在します。

① とてつもないコンピュータの処理能力を要すること
PoW参加者全員を騙す・裏をかくでっち上げの情報を作り上げることは、PoW参加者全員のPoW作業を再現したうえでウソの情報を上書く必要があるため、そんな処理能力を保有することが事実上難しいのです。それでも、数多くの参加者が共犯者になれば、改ざんが可能になるかもしれません。それを防止するために、

② 検証する「採掘者」を集める仕組みがあること
「マイニングとは、前述のPoWの過程において、ハッシュ計算によって“当たり”を求める行為そのもののことだ。ナンスを変えながらハッシュ計算を繰り返す様を、金山からひたすら金を掘り当てる行為になぞらえてこの言葉が用いられている。参加者は「マイナー(採掘者)」ともいわれる。」

ビットコインでマイニングに成功した場合、12.5BTC(ビットコインの単位)と、ブロックに取り込んだトランザクションが支払った全手数料がそのノードに与えられます。これが経済的なインセンティブとなって、多くのマイナーが自分のコンピュータを稼働させてマイニングにいそしむことで、改ざんする悪意のある者の共犯者がでないように、あるいは共犯者グループが勢力を維持できないようにビットコインのネットワークが維持される仕組みになっているのです。

 

■ 落ちない、書き換えられない、管理者がいないブロックチェーンとは?

2016/12/16付 |日本経済新聞|電子版 「ブロックチェーン2.0」へ 普及の課題と未来 ビジネスブロックチェーン(下)

「管理者が不在でも「落ちない」「書き換えられない」…。ビットコインとブロックチェーンの大きな可能性に注目が集まる一方、その課題も浮き彫りになってきた。さらなる普及と発展のために、技術面の改良が求められている。
 今後、ブロックチェーンの用途の広がりや、利用者数の増加を実現する上では、技術的な課題がいくつか残っている。」

(下記は同記事添付の「ブロックチェーンはビットコインの利用から始まった(写真は決済の様子)」を引用)

20161216_ブロックチェーンはビットコインの利用から始まった(写真は決済の様子)_日本経済新聞電子版

ビットコインのブロックチェーンでは1ブロック当たり1メガバイトの容量しかないため、ブロックに取り込めるトランザクションは1秒に7件程度しかありません。また1ブロックの「プルーフ・オブ・ワーク(PoW=仕事の証明)」に10分かかるため、即時性の高い処理には使いづらいものとなっています。

「そこで、これらの課題を改善した新たな仮想通貨やブロックチェーンが多数考案・開発されており、「ビットコイン2.0」や「ブロックチェーン2.0」と呼ばれている。」

そうした次世代の仮想通貨は下記の通り。
・Ethereum(イーサリアム)
「合意アルゴリズムを改善し、あらゆる処理が理論上可能な(「チューリング完全」と言われる)スクリプトを搭載することで、「ワールドコンピューター」を目指す」
・Hyperledger
・mijin
・Orb

また、ビットコイン自体にも継続的に改善が進められています。
例えば、
① ブロックサイズの拡大
② マイクロペイメントチャネルによって小口取引をブロックチェーン外で処理
などが検討されています。

・マイクロペイメントチャネルとは
「少額決済を繰り返す場合は各回の手数料を抑えるために、ブロックチェーンに記録するのは一連のトランザクションのうち最初と最後だけにする。その間の取引はオフチェーン(ブロックチェーン外で処理する)技術を使うというもの」

 

■ 権利の取引をブロックチェーンで実現して「スマートコントラクト(賢い契約)」を実現する!

今後、ブロックチェーンを仮想通貨以外のネット上での取引に応用することが考えられています。ビットコインのブロックチェーンで管理されているのは、ビットコインの残高(金額)のやりとりです。この各トランザクションに書き込まれているビットコインの金額が「数字」として記録されており、この「数字」を、貨幣価値である「金額」以外のものに置き換えてみると、様々な取引に応用することができるのです。

例)「株式」「土地の権利」など

こうした応用には、単に仮想通貨のやり取り以上の価値があると考えられています。

(1)DVP (Delivery Versus Payment)
「通常の商取引では、権利の移転と同時に金銭のやりとりも発生するから、それも併せてブロックチェーンに記録すればよい。金融用語で「DVP(Delivery Versus Payment=証券の受け渡しと同時に決済を行うこと)」と呼ばれる取引も仮想通貨建てだが実現できることになる。」

(2)マルチシグネチャ等
「取引に条件をつけることを考える。例えば、複数の人が承認したら支払いが行われるとか、一定の条件が達成されたら権利の移転と同時に対価の支払いが行われる、とかである。前者は「マルチシグネチャ」と呼ばれる仕組みで実現されており、仮想通貨取引所などで、決済の誤送信など、トラブル防止策として用いられている。後者は、例えばデリバティブ取引や、会社役員への成果報酬の支払いなどへの応用が考えられている。」

仮想通貨を用いて、ネット上で経済的取引ができるとするならば、その対価となる財・サービスの交付自体も、ネット上の取引情報に取り込んでしまおうという考え方です。もちろん、貨幣価値の移転を伴わない単なる情報のやり取り(誰が所有権を持っているか等の登記情報など)もその対象範囲となり得ます。まるで、会計仕訳のように、相手勘定科目が自動に決まる便利さです。

 

■ 「スマートコントラクト(賢い契約)」は自律分散型組織で実現する!

「このような仕組みを、「スマートコントラクト」と呼ぶ。直訳すれば「賢い契約」となるが、何らかの事前の取り決め(=契約)を、電子的に処理する仕組みだ。この考え方は以前からあったが、ブロックチェーンを用いれば、当事者間に中立な第三者を置かなくても不正を排除した処理が実行できる、と注目されている。」

(下記は同記事添付の「スマートコントラクトによる自動執行の例」を引用)

20161217_スマートコントラクトによる自動執行の例_日本経済新聞電子版

仮想通貨の流通をめざしたビットコインより、そもそもスマートコントラクトの実行環境としてブロックチェーンを活用するためのプロジェクトとして開発されているのがイーサリアムです。プログラム自体や、プログラムの演算とその結果が全てブロックチェーンで管理、処理、検証される環境構築を目指しています。

応用できるケースとしては、
・企業におけるバックオフィス業務
・商取引におけるエスクローサービス(商取引の安全性を保証する仲介サービス)
などが想定されており、

そのメリットとしては、
・信頼性を担保するためのコスト低減
・契約不履行に起因する係争案件の減少によるコスト削減
が見込まれています。

「各企業、組織、団体は第三者機関を必要としなくなることで、「DAO(Decentralized Autonomous Organization=自律分散型組織」として再構築されることも考えられる。従来型組織は人間が管理者となるのに対し、DAOは契約・規約・プロトコルといった取り決めが組織を管理する。」

(下記は同記事添付の「DAOの概念図」を引用)

20161217_DAOの概念図_日本経済新聞電子版

そして、残念な事件がありました。このDAOの環境にて、50億円の詐取未遂事件が発生しました。クラウドファンディング手法で集めた約156億円で、半自動の投資運用・リース事業会社を設立したのですが、悪意あるハッカーが勝手に子会社を作って、集めたお金の3分の1をその子会社に移してしまったのです。

原因は、イーサリアム自体には無く、半自動で資金運用するプログラムの方にかけられたハッキング行為でした。この事件からの教訓は、だから仮想通貨やブロックチェーンがやっぱり怪しいものだ、というものではなく、IoTもそうですが、便利なものごとの裏には、必ずセキュリティの罠が存在することを忘れてはいけない、というものです。

この、イーサリウムの「ザ・ダオ事件」や、ビットコインの「マウントゴックス事件」をしっかりと教訓にして、日進月歩どころか、分進秒歩みのテクノロジーと経済的フレームワークに対するイノベーションの手を休ませることはいけないと思うのであります。

⇒「仮想通貨だけに留まらない。経済取引の根幹を変えてしまうブロックチェーン2.0(1) - ビジネスブロックチェーンの仕組みと可能性について 日経BigDataより

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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