トレンド分析(2)在庫循環モデル - 通説とは真逆の逆走するトヨタの在庫循環をJIT生産モデルで解説!

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■ 在庫循環モデルとは?

継続的なビジネスを営んでいるうえで、自社の受注-生産-販売のトレンドを時系列に並べて眺めると、足下の業績水準と将来の業績予想をある程度、複雑な統計手法を使用せずとも過去トレンド情報から類推することができます。その代表格のふたつめが、「BBレシオ」に続き、今回紹介する「在庫循環モデル」です。

「在庫循環モデル」とは、在庫の増減率と出荷の増減率から、景気変動をトレンドや局面を推測する手法として誕生しました。増減率(伸長率)は、前期と当期の伸び率から算出します。縦軸に「在庫残高の伸長率」、横軸に「出荷高の伸長率」をプロットした散布図を4象限に区分し、2つの伸長率の組合せから、景気変動(不況→景気回復→好況→景気鈍化)を読み取ろうとするものです。

財務分析(入門編)_在庫循環モデル

① 意図せざる在庫減局面
景気拡張期に入ると、需要の増加が企業予測を上回り、増産しても需要に追いつかず、一時的に在庫が減少
② 在庫積み増し局面
景気拡張期が長くなってくると、企業は将来の更なる需要増に備えて増産し、在庫を積極的に積み増そうとする
③ 在庫積み上がり局面(意図せざる在庫増局面)
景気の山を越して後退期に入ると、需要が企業予測を下回り、需要の減少速度に減産が追いつかず、在庫が積み上がってしまう
④ 在庫調整局面
景気後退期が続くと、企業は更に減産を進め、積み上がった在庫を減らそうとする

こうした在庫循環の進捗は、循環図上で反時計回りの動きとなって表れると通説では考えられています。

一般には、在庫循環があるから景気循環があるのか、景気循環があるから在庫循環があるのか、経済学者の間でも議論が分かれています。

(1)「在庫循環」が「景気循環」の原因であるとする説
①在庫削減努力が行き過ぎたため、需要を満たすために在庫積み増しのための増産を行う
②増産がオーバーシュートして、意図せざる在庫として積み上がってしまう
③在庫調整のため各社が一斉に減産に走るため不況になる

(2)「景気循環」が「在庫循環」の原因であるとする説
①景気拡大期にさらなる需要増を見込んで各企業が増産に走る
②景気が後退し始めると、売上(≒出荷)の落ち込みに生産削減が追いつかず、意図せざる在庫が増加する
③減産により適正在庫率(在庫残高÷出荷高)を回復するが、出荷減が止まるまでは在庫圧縮が持続する

これは、「相関分析」の所でも説明しましたが、相関関係があるということと、因果関係があるということは同義ではありません。但し、フィリップス曲線と同様に、マクロ経済を観察していると、2つの異なる指標の間に正または負の相関関係が認められることがあります。どっちが原因で、どっちが結果かは判然としなくても、2つの指標間の関係を観察して、自社や自国経済の動向を探るためのツールとしては使えるということで、●●とハサミは使いよう、の類のお話です。

 

■ 通説である在庫循環モデルは一般的にはどのように使用されているか?

まずは、ミクロ的な各企業業績の見通し(≒適正株価の見通し)で使われている例をご紹介します。

2017/3/14付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)在庫減に2万円の予兆 増収への好循環 見極め

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「「在庫循環こそ着目したい手がかり」。野村証券の小高貴久エクイティ・マーケット・ストラテジストは、こう指摘する。鉱工業生産指数を見ると、企業の在庫と出荷のバランスがそろって回復し始めた。16年7~9月期は在庫が前年同期比で2.1%減、出荷が同0.6%減だったが16年10~12月は在庫が4.6%減とさらに圧縮が進んだ。出荷はプラスに転じた。
 在庫、出荷ともに改善基調をたどるのはアベノミクスが本格始動した13年7~9月期以来。当時、日経平均は年間で6割上昇した。17年1~3月期は円安や米景気の回復で在庫と出荷が一段と改善しているとみられる。小高氏は「出荷が伸びず在庫を減らす『調整局面』は終わった。出荷の伸びが生産増と在庫の積み増しにつながる『復調局面』に転じた」という。」

(下図は、本記事添付の「在庫、出荷ともに増え景気は拡大へ」を引用)

20170314_在庫、出荷ともに増え景気は拡大へ_日本経済新聞朝刊

足元の適正株価を読みに行くために、在庫循環図にて、景気サイクルのどこに位置しているかを予想しています。マクロ経済動向から、ミクロな各社の業績を読みに行くことを目論んでいます。ここで注意しておく必要があるのは、現在、マクロな景気変動をGDPという指標で推し量る場合、GDPへの在庫投資の寄与率は非常に小さく、2016年のGDPに占める金額構成比率は、0.2%程度にしかなっていないことです。ミクロとマクロ、原因と結果、GDPへの寄与率の小ささ、この3点に留意した上でこの指標を使用して頂きたいと思います。

「在庫、出荷の好循環はどのような物色のヒントを与えるのだろうか。大和証券の鈴木政博シニアクオンツアナリストが東証株価指数(TOPIX)500の構成企業を調べたところ、16年4~12月期は日本ハムや武田薬品工業、日立建機など幅広い業種で在庫が急速に減った。合理化や生産調整、需要の増加など要因はさまざまだ。」

(下表は、本記事添付の「在庫の減った企業は株価も堅調」を引用)

20170314_在庫の減った企業は株価も堅調_日本経済新聞朝刊

ということで、マクロな景気変動に与える在庫循環の影響度は小さいにもかかわらず、未だにこの指標と景気変動を結びつけ、更にミクロの各社の業績の説明因子として使用とする論説は、落ち着いて読み込む必要があるようです。ビッグデータやIoTの活用、企業の需要予測スキルの向上、サービス産業の構成比率の上昇など、在庫循環が従来の通説通りの軌跡を必ずしも描くとは限らない世の中になったと筆者は考えるのですが如何でしょうか?

 

■ (補足)通説どおりにならない場合、経済産業省はどのように説明していたか?

「在庫循環図」は反時計回りに回転する。この通説(理論)通りに経済実態がデータを示さないと、当局の賢い人たちはどのように対処するものなのでしょうか?

「逆走している」在庫循環図ですが、一昨年比で見てみると|経済産業省 より

「左下の図は我が国製造業の平成25年以降の在庫循環図です。25年第Ⅰ四半期から26年中は、在庫循環は想定通りに反時計回りで動いていました。
しかし、27年に入ってこの動きに変調を来し、グラフは右下の方に動くようになりました。本来の在庫循環に沿った動きであれば、左下の方に動くべきところ、まさに「逆走」している状態です。このような在庫循環図の「逆走」は、23年の東日本大震災発生後にも見られたところです。
この背景には、26年4月に実施された消費税率引上げを挟んだ、鉱工業活動の特殊な動きがあります。26年第Ⅰ四半期は、生産・出荷ともに旺盛で、生産水準が高く、在庫水準は非常に低くなっていました。消費税率引上げ後は、その逆に、生産が停滞し、在庫は急増していくこととなります。
このような特殊な26年の生産、在庫の動きとの対比となるため、27年に入っての在庫循環の推移が、「逆走」の様相となってしまっています。」

20170319_我が国製造業の在庫循環図_経済産業省

在庫循環図が時計回りに逆回転していることを、「逆走」と呼び、東日本大震災や消費増税など、想定外の事象の発生を理由にしています。

「そこで、27年分をいわば「平年」である25年と比較してみた在庫循環図が右下の図になります。この図では、起点は異なりますが、動きとしては、27年中の在庫循環は想定通りの「反時計回り」で推移することとなります。
通常通りの作図方法で行うと、27年に入っての在庫調整の進展が非常に不可思議に映りますが、平年比較での作図に変更してみると、想定通りの動きが表れます。この図を見ると、27年も生産調整が進められている形となりますが、足下の27年第Ⅲ四半期の在庫については、26年比で見ても25年比で見てもプラスとなっており、在庫水準を引き下げるレベルにはなっていないため、今後の在庫調整の進展を注意深く見守っていきたいと思います。」

その上、在庫循環図の縦軸・横軸が増減率(伸長率)で表現されていることを逆手に取り、基準年を意図した形になるように、調整したうえで、「ほら理論通りにプロットされるでしょ!」とうそぶいています。

データを分析するものとしてあるべき態度は、「理論」を守るためにデータ解析のやり方を我田引水的に変え、牽強付会的に理屈を並べるものであってはなりません。虚心坦懐的に、あるがままのデータ(事実)を、どうしたら理屈が通るようになるのか、観察からロジックや法則や仮説を導く、というものでなくてはならないと考えるのですが如何でしょうか?

 

■ トヨタの在庫循環図を分析してみる!

ここで、「在庫循環モデル」でもって、個別企業の財務分析への援用をトライしてみましょう。出荷データも外部公表している企業もありますが、多少の誤差には目を瞑り、売上データで代用した方が実用的でしょう。売上計上基準が「出荷基準」またはその応用形ならば、その誤差も実用に耐え得る範囲に収まります。

筆者は、トヨタの四半期報告書から、12四半期の製商品売上高と棚卸資産額を抜出し、直近8四半期の在庫循環図を作図してみました。

こちらが、四半期報告書から求めた数表。

20170319_トヨタ_製商品売上高と棚卸資産の推移

こちらが、在庫循環図になります。

20170319_トヨタ_在庫循環_グラフ

さあ、トヨタの直近の在庫循環図は時計回りとなり、通説に反する動きとなりました。さてはて、どう事実を捻じ曲げて理屈に合わせましょうか?(^^;)

このケースにおいては、この在庫循環図はそのままトヨタの実体を表していると解釈する方が素直なようです。というのも、トヨタは世界に冠たるトヨタ生産方式を実践しています。

「JIT生産」(ジャストインタイム生産)
カンバンを使って、“必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する”方式。徹底的に在庫を持たないようにすることを目指している

つまり、トヨタがディーラー販売から、生産工場での部品調達まで、サプライチェーンにおける完全プル生産・販売を実現したら、この在庫循環図では、需要増局面では、45度線の上を左下から右上へ、需要減退局面では、右上から左下へ、なぞるように直線的な軌跡を描くはずです。それが、時計回りに若干膨らんで、売上高(出荷高)と在庫が推移しています。

トヨタのカンバン方式が、かなりの精度で需要予測の正確性を担保し、需要減を先回りして在庫を減らし、需要増を先回りして在庫を積み増すという慣性が働いていることを示していると解釈することができないでしょうか?

そして、同業他社や他業種ではどういう在庫循環になっているのか? ここで筆者が徒にトヨタと比較して、他企業のサンプルを提示して、下手な解説をしてしまうと、風説の流布で訴えられそうなので、トヨタ一例に留めておきます。(^^;)

これまでの通説、需要増には遅れて在庫が積み増され、需要減には遅れて在庫調整が始まる。トヨタはその逆の現象が見える。それがトヨタの強みであるということ。当然、トヨタの企業業績を推測する上で、売上高と在庫推移の相関が時計回りであることを前提に、来るべき来期の損益予測をはじく格好の材料ともなる、そういうことです。どう使うかって? そこはコンサルとしての企業秘密です!(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)_トレンド分析(2)在庫循環モデル - 通説とは真逆の逆走するトヨタの在庫循環をJIT生産モデルで解説!

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孫子 第11章 九地篇 53 利に合わば而ち動き - 弱者の戦法 自分が強いポジションが取れないときは相手の不利なポジションで戦う

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■ 負けないための相手の見切り方とは?

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

戦闘に巧みな者は、敵に対して、
(1)先鋒部隊と後衛部隊とが接続し合わないようにする
(2)大部隊と小部隊とが援護し合わないようにする
(3)貴族と民衆とが救援し合わないようにする
(4)上官と部下とが支え合わないようにする
(5)各部隊が分散して集結しないようにする
(6)敵兵力が集合しても戦列が整わないようにする

こうして敵の戦闘態勢が自軍に有利になれば戦闘を仕掛け、有利にならないときは合戦に入るのを中止するのです。

(出典:浅野裕一著『孫子』講談社学術文庫)

—————–
孫子は、負けない戦を常に目指します。しかし、自組織のポジショニングや態勢を万全にしていたとしても、相手(敵)がそれ以上に有利なポジショニングをしていたら、戦には負けてしまいます。つまり、戦いとは自組織と相手組織との争い事である以上、相対的な力関係で勝敗が決まってしまいます。

それゆえ、自組織がベストを尽くしたとしても、相手組織とのパワーバランスを複眼的に観察して、絶えず勝てる位置取りをしてから、戦いに挑みます。つまり、勝てる勝負しかしないのです。そのために、相手組織の状況を見てとるための6つの注意事項を孫子が提示してくれているのです。

筆者は、将棋でもチェスでも、味方・自陣のことしか考えずに差し手を決めてしまい、相手の思わぬ差し手にいつもやられてしまいます。現代ビジネスでも、自社のことはよく分かっていても、コンペチターのことをよく研究せずに、市場での競争状態に入り、思わぬ敗北を喫することも多々あります。一にも二にも、相手の観察。そして、相手の攪乱や分断など、負けない戦のために、相手組織にできる影響力行使は100%やり尽し、勝算が見えてから勝負を挑むようにします。

こうすれば、戦い(局地戦)に負けることは少なくなるでしょう。局地戦での勝利の積み重ねが、やがて決定的なコンペチターとの勝敗の分かれ目になるものだと、留意しておいて頂ければと思います。

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そうか、君は課長になったのか。(19)「人事評価」では自分を押し殺す - 己の価値観から離れてみる

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■ 好き嫌いで人事評価をしてはいけないか?

コンサルタントのつぶやき

このシリーズは、現在、東レ経営研究所特別顧問:佐々木常夫さんの16万部を超える「課長本」の決定版の1冊から、私が感銘を受けた言葉をご紹介(時には、私のつまらないコメント付きで)するものです。

佐々木さんのご紹介:オフィシャルサイト

課長(管理職)になって、2番目に悩むであろう、課長あるあるは、「人事評価」をどう決めるかです。人事評価は極めて重要な課長の仕事で、正しい評価は部下のモチベーション向上と成長に大きく作用します。年度末の一大事業が今年もやってきました。

佐々木さんによりますと、

人事評価は本来、給与・処遇の差をつけるために行うべきものではありません。そうではなく、部下の現状を正しく評価することによって、これから身に付けなければならない能力・技術・人間力について自覚させるとともに、君が上司として指導するためのものです。ここを履き違えると、出発点で間違ってしまいます。

そしてこの「正しい評価」が技術的に難しいものとなります。佐々木さんは、部下のことをできるだけ好きになれば、人事評価で過ちを犯すことが少なくなると指摘されています。そのこころは、人間は誰しもその人固有の人生観や評価尺度を持ち、その人生観や尺度に合わない言動をする部下に厳しい評価をついついしてしまう、というのがその理由です。

しかしそれは本当(真理・適正)なのでしょうか?

佐々木さんは、己自身の価値観や主義主張から一歩離れて、客観的に、冷静に部下を評価しなさい、と説いていますが、私は、この「客観的」というものがくせものであると考えています。

 

■ 好き嫌いという判断は何に対して下されるものなのかが重要!

あなたが、「この人は好き」とか「あの人は嫌い」という判断をする際に、その人の何を持って「好き・嫌い」と認識しますか? 多くの人が、自分と同じ価値観を持っている人、あるいは自分が良いと信じているビリーフ(信念)を共有していたり、それを言動によって体現している人に、共感を持って「好き」と考えているはずです。その感情と完璧に無縁に人事評価をはたしてすることが可能なのでしょうか?

あなたの仕事観に次のようなものがあるとします。

1)「仕事は何でも引き受けて、無理にこなしているうちに何とかできるようになる」

または、

2)「仕事は完遂できると自信があるものだけを着実にやるべき」

1)のビリーフは、自己成長のために、積極的にちょっと無理目の仕事でも貪欲に取りに行って、量をこなしていかないと職業人としての成長が無い、という仕事観を持っているということです。

2)のビリーフは、できもしない仕事を引き受けて、穴を空けたり、納期に遅れたりしたら、顧客や上司に迷惑をかける。そんな職業人は、その業種のプロとして失格だ! という仕事観を持っているということです。

課長ともなれば、それなりに職業人としての経験を積んできた人ばかりです。そういう人は自己の成功体験を十中八九持っていて、確固たるビリーフを持っているはず。そんな人が、部下を評価する際に、これまでの自分自身のスキルや経験から完全に自由になって、いわゆる客観的に、部下を評価する、ということが本当に成立するのでしょうか?

職業人として、本当に大事と思っていること、それを実践している部下のことは必ず「好き」になっているはずです。自分と同じビリーフを共有しているにもかかわらず、嫌いな部下がいるとしたら、それはその部下の人間性そのものが嫌いなのでしょう。

そうです。もうお分かりになりましたか? 私の言説が極論に感じられたかもしれませんが、人間性を好き(嫌い)になる、ということと、ビリーフを共有している人に好感を持つ(共有していない人に嫌悪感を持つ)ということは、好悪の感情の発生対象が完全に異なるのです。

人事評価は、ビリーフの共有・非共有に基づく、好悪の判断でやっても、それは課長の守られるべき特権です。だって、そのビリーフにしたがって、これまで仕事上で成功してきたし、その成功体験を次世代に伝える義務もあるからです。特権を持っている以上、その特権を行使して、組織として業績が悪化したら、その責任も取るのが課長なのですから。

仕事上、部下のことが好きか嫌いか? それは、ビリーフの共有・非共有からくるものか、人間性からくるものか? 前者ならば、その感情にしたがって人事評価しても、そう間違いは起こらないはずです。むしろ、「客観的に」という教科書的な言説に捉われて、直観を無視した作為的な人事評価は必ずどこかに歪みがあるはずです!

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そうか、君は課長になったのか。(18)褒めるが8割、叱るが2割 - 大事なのは「本気」であること

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■ 私自身は褒められて伸びるタイプに違いないのですが、、、

コンサルタントのつぶやき

このシリーズは、現在、東レ経営研究所特別顧問:佐々木常夫さんの16万部を超える「課長本」の決定版の1冊から、私が感銘を受けた言葉をご紹介(時には、私のつまらないコメント付きで)するものです。

佐々木さんのご紹介:オフィシャルサイト

課長(管理職)になって、最初に悩むであろう、課長あるあるは、「部下をどうやって叱るか、どうやって褒めるか」に違いありません。世の中の課長たちがどうやっているのか、本当に知りたいものです。佐々木さんも、課長自身の性格もあるし、褒める・叱るの対象となる部下の性格もあるので、一概に言えないが、という前置きをしつつ、「褒めるが8割、叱るが2割」と喝破されています。

本書によりますと、とある実験結果が示され、①部下を叱って仕事をさせたチーム、②部下を褒めたチーム、③部下を褒めも叱りもしなかったチームの業績を比較したところ、立ち上がりは①の叱ったチームの業績が高かったそうですが、最終的には②の褒めたチームの業績が一番になったそうです。その要因は、叱ったチームは、最初の内は緊張して頑張るので成果が出るのですが、叱られてばかりいるとモチベーションが下がって意欲が長続きしないのだそうです。佐々木さんはこの実験結果を鵜呑みにはしていないのですが、ご自身の性格と経験から、褒める主体の指導法を採用されているそうです。

ただし、時には叱って緊張感を失わせないようにすることも重要だと説きます。

 

■ 模範解答は存在しない。課長自身が手探りで見つけるしかない!

とある課長は、叱ってばかりいるそうです。そうすると、部下は叱られ慣れしてきます。叱られるのが常態化するのです。そうすると、うるさ型の課長が時たま褒めたときには、部下は飛び上がらんばかりに嬉しくなり、次の仕事に対する意欲が湧く。そういうマネジメントを実践している課長もいます。どうやって部下の力を引き出すのか? 世の中の課長はいずれも、その課題に真剣に向き合って、自分流の答を見つけていくものなのですね。

あまり手の内を見せると、私自身がやりにくくなるので、実践している手法のごく一部だけをここで紹介すると、「褒める」も「叱る」も、課長一人でやっていると、課長は疲れてきませんか? 私はものぐさなので、非常に疲れてしまいます。そういう場合は、他の人に叱ったり、褒めてもらったりします。コンサルタント商売をしているので、いの一番に、活用させて頂いているのが、クライアントです。部下だって、上司である私に叱られたり、褒められたりするより、お客様に叱られたり、褒められたりした方が、気持ちを引き締めたり、気分がよくなるに決まっているじゃないですか。それに、私というたった一つの眼鏡で部下を見るより、いろんな人に見てもらって、多面的に評価を受けた方が、部下も参考意見がより多く耳に入り、自分の適切・適正な成長に役立てることができます。

ここで、あまり多くの人の意見を聞きすぎて、自分を見失う。そういうデメリットは脇に置いといてください。そう感じる人は、はじめから、どうやろうとも、指導のし甲斐が無い人なのだとあきらめましょう。(^^;)

 

■ 私が、叱る・褒めるのバランスより大事にしていることとは?

自分自身の経験から、そして佐々木さんの意見から、どうしてもこの件に対して「金言」をひとつ、提示しなければならないとしたら、

「叱るも褒めるも、その人の性格に合わせていくべきである」

ということになると思います。

それじゃきれいごとすぎますか? じゃあ、私の最近の経験談から事例をひとつ紹介します。そのことを端的に表す言葉が「パンチドランカー」。(^^;)

プロジェクトを長くやっていると、どうしても、チームメンバが壁にぶち当たる局面が発生します。そのメンバ自身が未経験領域を新たに担当したり、相手にするクライアントとのコミュニケーションに悩んだり、納期が厳しいタスクを同時に複数担当することになったり。

そういう時、私は、感情むき出しにして(激怒りして)、指導を始めます。本人の為という表向きのきれいごとだけではなく、指導する立場である私自身もやさしく丁寧に指導することにイライラして、ストレスが高じて、結局、指導コミュニケーションがダメになるので。つまり、「真心」「本気」「真剣」に部下と対峙するのです。上司から何かを言葉をもらう時、上司の感情が乗っている言葉というのは、それを受け取る部下にとっても印象が強く残るはずです。それが怒りであったり、喜びや悲しみであっても。私は、部下にうざがられていることを承知で、常に本気で、言葉を選ばずに(本質を突くという意味で。人格否定や口汚くののしるということではありません)、叱ったり褒めたりします。それが、たった3分間の口上であったとしても、その間に、何度も怒ったり、笑ったりしながら指導を実践します。

つまり、感情むき出しとはいえ、部下の人格や存在に対する感情ではなく、部下の行いに対する感情をあらわにするだけなのです。さっき、叱り飛ばした部下と、今度は笑いながら冗談を言い合えます。自分の対人感情をいつまでも引きずらないのです。

「人を憎まず。行いを憎むだけ」

その部下の仕事上の振る舞いに対して怒りをあわらにするだけなので、部下がその振る舞いを修正してくれれば、その部下と次の瞬間には冗談や世間話をすぐに始めることができるのです。

その結果、私が大声でいくら喚き散らしても、部下たちは、「もうパンチドランカーになっているので、いくら大声で怒鳴られても平気になりました」とのこと。(^^;)

私は決しておだてたり、えこひいきもしません。叱るも褒めるも本気でやります。部下だけでなく、クライアントや上司に対しても。いわゆる熱い奴です(翻訳すると、暑苦しい奴だそうですが、、、)。

アドラーは褒める・叱るは、人間関係に上下関係をもたらすダメなことと、否定しています。しかし、私は、人の行いにだけ注目して、自分の考えをぶつけているだけです。そして、それを相手が取り入れるかどうかは、その人の課題であると諦観しているつもり。これはアドラーの教えを守っています。

佐々木さんとアドラーで私の管理職成分はできているのでした。(^^;)

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そうか、君は課長になったのか。(17)家庭の事情もオープンにする - 自分の周りに垣根をつくらない

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■ オープンに自分をさらけ出すと部下との信頼関係が強まる!

コンサルタントのつぶやき

このシリーズは、現在、東レ経営研究所特別顧問:佐々木常夫さんの16万部を超える「課長本」の決定版の1冊から、私が感銘を受けた言葉をご紹介(時には、私のつまらないコメント付きで)するものです。

佐々木さんのご紹介:オフィシャルサイト

課長は、任された組織の所属メンバ全員が持ち前の力量を100%出し切り、チームとして最高のパフォーマンスを上げることをミッションとして課せられるものです。部下全員が最高のパフォーマンスを残せるようにするためには、部下全員と彼らを率いる課長との間に強力な信頼関係が構築されていることが大前提になります。

これは、佐々木さんだからこそ、もしくは佐々木さんの言葉だからこそ説得力を持ち得ると私は思うのですが、佐々木さんが部下との協力関係を構築するために、プライベートのことも含めてオープンにさらけ出すことが肝要なのだそうです。それは佐々木さんのご家庭の事情なのですが、奥様がメンタル的な病気で、ご長男が自閉症であることを包み隠さずお話になられるのだそうです。

佐々木さんによりますと、

1)「私が自分の悩みをさらけ出すことで、部下は自分や周りの人の抱えている悩みなども放しやすくなる」

2)「その人のことを心から心配して、何かあったら手を差し伸べたいという気持ちが伝われば、相手はいろいろ打ち明けてくれるものです」

3)「部下が、会社のなかでのびのびと100%の力を出し切るためには、プライベートが健全で悩みが少ないことがとても大切です」

4)「誰でも、何がしかの悩みを抱えているものです。そのことに耳を傾けるだけでも、肩の荷が少しは軽くなることもあるでしょうし、場合によってはアドバイスをすることができるかもしれません。また、何か起こったときには、手助けができるかもしれません」

若い人の中には、昭和だなあ~、と感じられる向きもあるでしょうが、チームメンバは家族も同じ、大切な人達という意識を持って接していれば、お互いの信頼関係が醸し出されるという考え方です。まずは、人間対人間で信頼関係が無いと、ビジネス上でもよいチームワークが形成されない、というものです。

だって、ともすれば、家族より職場の人たちと過ごす時間の方が長い人がかなりの割合に上るはずです。だったら、1日の大半を過ごす人たちとは、良い人間関係が無いと、仕事上でもパフォーマンスが出せないじゃないですか。

もちろん、自分の弱みをさらけ出すことに抵抗がある人は当然いるでしょう。弱みをさらけ出すことが必要十分条件だと言っているわけではなく、良好な人間関係を構築するためには、その人となりを十分に理解する必要があり、そのための効果的な手段の一つとして、自分をさらけ出す、という方法が手っ取り早くありますよ、ということです。

佐々木さんの体験によりますと、

「人というものは、自分の抱えている問題を平然と受け止めて、当たり前のように処する人に共感するものです」

基本的に、運命を受け入れて、淡々と物事に対処する人には、とても安心感、信頼感があるじゃありませんか。肩肘張らずに自然体で人生を送っている人の姿を見ることは、人をほっとさせますし、その人と話をしてみたい、その人と一緒に仕事をしてみたい、その人に認めてもらいたい、と思わせる何かを持っていると思います。

自分の周りに垣根を作らずに、他者と共生しやすい職場環境を作るように心がけましょう。えっ、私ですか? いい年してアニオタであることを包み隠さずオープンにしています。むしろ、職場の雑談で、自分が好きなアニメやアニソンの話ばかりして、仕事の効率が落ちるとクレームを受ける程です。ダメじゃん!(^^;)

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経営戦略概史(19)ベンチマークで復活したゼロックス・サウスウェスト航空・フォード - 安易な他社ベスト・プラクティスの模倣で成功した古き良き時代

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■ ゼロックス大反攻作戦開始!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、ケイパビリティ派の勃興の様子をベンチマーキングという手法を中心にした導入事例をベースに解説します。

最初に登場するのが、「経営戦略概史(17)キヤノンとホンダ 無鉄砲な日本企業たちの躍進 - この2社の躍進がケイパビリティ学派登場のきっかけとなった」でご紹介したキヤノンの仮想敵だったゼロックス。前稿でも取り上げたように1970年にキヤノンが普通紙複写機市場に参入した後、リコーやミノルタという日系企業の進出が続き、1975年には競合の米国企業による訴訟によってせっかくの特許もふいになり、ゼロックスの牙城であった複写機市場のシェアは急落し、1982年には13%にまで落ち込みました。ゼロックスのポジショニング的企業行動の強みが音を出して崩壊するのを目にした10年でした。

ここで手をこまねいてただ状況を傍観するほど、ゼロックスの経営者は無能ではありませんでした。謙虚に、①品質・②時間・③コストのすべての点で日本企業に自社が劣っていたことを認め、1979年から一大反攻作戦が開始されます。その手法は大別すると3つになります。

① TQM(Total Quality Management)
経営戦略から品質目標、顧客満足度目標まで落とし込む
TQC(Total Quality Control)で唱えられた、組織全体として統一した品質管理目標への取り組みを経営戦略へ適用したもの。日本では総合的品質管理(そうごうてきひんしつかんり)と呼ばれる。80年代に日本の製造業繁栄の秘密を探ろうと、欧米企業が実施。そもそも、TQCは米国から日本にもたらされたもので、トップダウン型のTQCは、日本ではQCサークルに代表されるボトムアップ型の活動に独自に進化し、日本型TQCと呼ばれていた。日本型TQCの特徴であるQCサークルが持つ「カイゼンし続ける」という特徴を取り入れ、アメリカの企業風土に合うようにトップダウン型の意思決定プロセスによる品質マネジメントを行う手法、TQMとして逆輸入された。

筆者注:そもそも日本に科学的管理法として、TQC導入を指導したのが、エドワーズ・デミング博士。彼によれば、

「規模に頼らずとも、品質を上げればコストも下がり、顧客満足も上がる」
「そのためには統計を駆使して、モノだけではなくプロセスの品質を上げよ」

これが日本で花開いたのがトヨタ生産方式。「かんばん方式」「JIT」「平準化」「7つのムダ」「自働化」「カイゼン」「ポカヨケ」「見える化」など、様々なコンセプトの集合体になっています。

②リバースエンジニアリング
機械を分解したり、製品の動作を観察したり、ソフトウェアの動作を解析するなどして、製品の構造を分析し、そこから製造方法や動作原理、設計図などの仕様やソースコードなどを調査すること。

ゼロックスは、「安くて高品質な」競合機をバラしてその内容を調査しました。その品質やコストに驚いた経営陣は、日本の富士ゼロックスに調査チームを派遣し、富士ゼロックスの助けを得て、日本の競合の開発・生産・販売プロセスまで調べ始めました。

③ベンチマーキング
他部署、他企業のベスト・プラクティスから目標やプロセスを学ぶこと。製品、サービス、プロセス、慣行を継続的に測定し、優れた競合他社やその他の優良企業のパフォーマンスと比較・分析する活動を指す。測定する尺度は、顧客による企業のパフォーマンスに対する評価に直接、間接的に影響を与えるものでなければならない。従来は製品だけを対象にした「リバースエンジニアリング」から、対象をプロセスや戦略(行動)にまで分析対象を広げたものとして理解される

競合他社の製品の分解から始まったゼロックスのベンチマーキングは、経営者にとって「市場ではなく工場の現場レベルですでに敗北していた(本書P180)」ことを深く理解させる結果となりました。

■ ゼロックスが業界外のベスト・プラクティスに学び、ベンチマーキングを誕生させた!

ゼロックスは、競合相手の製品をバラバラに分解して品質とコストの秘密を探る「リバースエンジニアリング」を昇華させ、プロセス・戦略行動にまで分析対象に広げ、他業種のベスト・プラクティスを学習する「ベンチマーキング」手法を確立させました。

その一部を本書(P181)から。

① 倉庫業務を、アウトドア用品通販のL・L・ビーンに学ぶ
多品種化が進んだアパレル関連の倉庫では、ピッキングリストが自動作成され、台車の位置が指定され、梱包順や箱の大きさも標準化されていたことを学習し、在庫200万ドル分の削減を達成。

② 請求業務を、アメリカン・エキスプレスに学ぶ
顧客満足度を38%向上しつつ、間接事務費を50%、資材調達費を40%カットすることに成功。

こうした業界外のベスト・プラクティスから学ぶ「機能ベンチマーキング」から、ゼロックスは、1989年には市場シェアを3.5倍の46%にまで伸ばすことに成功しました。

 

■ サウスウエスト航空はインディ500に学んだ!

LCC(ローコストキャリア)の先駆けとなったサウスウエスト航空ですが、低価格で採算を取るために、できるだけ空港での駐機時間を削減する「15分ターン」(従来は45分だった)を目指します。15分ターンにすれば、1日18時間の運行時間とした場合、従来10回しか飛ばせなかった飛行機を14回飛ばすことができ、燃料代と空港発着料以外のコストは膨大な固定費なので、この15分ターン作戦だけで、1便当たり30%のコストダウンが見込めました。

そこで、サウスウエスト航空は、3つの秘策を始めます。

① 業界のプロお断りの採用方針
② 「インディ500」を「一般プロセスベンチマーキング」をすること
③ 座席指定予約チケットの廃止

①はそもそも「15分ターン」という常識外のチャレンジを推進するための補助施策。③は、乗客が早めに空港に来て、早めに搭乗することを促す心理作戦。そして②が本稿の主題となります。

インディーカーは、約40周で給油するために、必ずピットインします。レース終了までに最低4~5回はピット作業が発生しますが、その作業は0.1秒を争う熾烈なものとなります。その作業研究から、事前の段取り、専用工具の開発、チームメンバの熟練度工場とチームワークの維持のための工夫のヒントを得て、夢の15分ターンを実現することになりました。これが、業務部門の枠を超えたベスト・プラクティスから学ぶ「一般プロセスベンチマーキング」の好例です(本書P183)。

 

■ 大テイラー主義の権化だったフォードがベンチマーキングで会社を蘇生させた!

従来の米国生まれのTQCは、現場の改善の繰り返しが前提で、

・比べて目標を立てる
・比べてやり方を学ぶ
・現場目標に加え、戦略目標や顧客満足度を織り込む
・ボトムアップではなく、トップダウンで目標達成のタスクを進める

というTQMは、飛躍的なジャンプを企業にもたらすとして、大いに持てはやされることになりました。1980年に15億ドルもの損失を出して窮地に陥ったフォードも、日本をはじめとする世界のトップメーカーに調査部隊を送り、大々的にベンチマーキングを展開しました。その効果があって、400項目にわたる調査結果から、「部品点数の大幅削減」「車種別開発部隊(チーム・トーラス)の導入」などの施策が次々と開始されます。フォードの浮沈をかけて開発費30億ドルを投じたフォード・トーラス、1985年に発売されると即座に大ヒット商品となり、初代トーラスは最盛期には年産100万台、5年間累計で200万台を超える記録的セールスとなり、フォードの危機を救いました(本書P184)。

 

■ ベンチマーキングとベスト・プラクティスから学ぶ功罪とは?

ゼロックスで長年、ベンチマーキングを主導したロバート・キャンプは、
1989年『ベンチマーキング - 最強の組織を創るプロジェクト』
1995年『ビジネス・プロセス・ベンチマーキング』
を次々と出版しました。その中で、

「ゼロックスでのベンチマーキングとは単純だ。ベスト・プラクティスを見つけてそれを自社に適用・実行(implement)することなのだ」(本書P184)

とまで言い切っています。

ここで、本書P182にある「ベンチマーキングのタイプ」のチャートと、WiKiを参考に、ベンチマーキングの主な種類分けを紹介します。

経営戦略(基礎編)_ベンチマーキング 手法例

MECE(ミッシー)にはなっていませんが、8種類に便宜的に分類してみました。
「1.プロセス・ベンチマーキング」が本稿で取り上げたものを代表するものです。
「2.財務ベンチマーキング」は、手法が会計的であるだけで、従来の財務分析と変わりません
「3.パフォーマンス・ベンチマーキング」は、逆に、ポジショニング派的な分析手法です
4.以降は、ベンチマークする対象の違いで分類されています。

では最後の最後に、コンサルタントの端くれとしての筆者の個人的見解を。正直に申し上げまして、現代では、安易に他社(同業種・他業種を問わず)のベストプラクティスを安易に導入するだけでは、自社の成功はもたらせないでしょう。製造業ならば、どの業種や業態も問わず、「トヨタ生産方式」が唯一解なのでしょうか。実は、大野耐一氏は、その著書の中で、当時のトヨタの人材不足からくる問題を回避しようと、「多能工化」を推進しました。現代、トヨタ生産方式を導入しようとすると、前提条件のように、例えば「多能工化」をしなければならない、とする導入コンサルタントが多いように見受けられます。

また、京セラの「アメーバ組織」は、「京セラフィロソフィ」を共有している従業員の共通理解の上で実現しているミニプロフィットセンター管理であって、形だけ真似て安易に導入してしまうと、莫大な固定費回収漏れが起きて、企業業績で取り返しがつかないことになる可能性大です。

つまり、ベンチマークやベストプラクティスに安易に頼らずに、ただのヒントぐらいに思って、自社の課題解決方策のための思考訓練の補助ぐらいに考えてください。間違っても、コンサルタントに向かって、「勝ち組の他社のベストプラクティスを自社導入したいから、宜しく!」と安易に依頼しないでくださいね。(^^;)

そこで、ベストプラクティスを提示しながらも、その功罪をきちんと説明してくれるコンサルタントこそが本物ですよ!

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(19)ベンチマークで復活したゼロックス・サウスウェスト航空・フォード - 安易な他社ベスト・プラクティスの模倣で成功した古き良き時代

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会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生

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■ 『企業会計原則』の誕生日は昭和24年!

会計(基礎編)

「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。本稿では、その昔、会計を志している(した)人(大学教授、経理実務家、学生、公認会計士など)がいの一番に学んだ『企業会計原則』のあらましをざっと見ていきましょう。

前回までは、個別の成文法としての会計法規、ひとつひとつの説明はせずに、会計法規の体系や背景となる基本的考え方を中心に説明してきました。そうした抽象的な議論・説明から、個別会計基準の解説に行くまでに、必ず触れなければならない、会計法規の中心に座しているのが『企業会計原則』です。

昭和24年(1949年)7月9日、経済安定本部企業会計制度対策調査会中間報告として、『企業会計原則』『企業会計原則注解』が産声を上げました。昭和24年といえば、ドッジライン/シャウプ勧告が出された年で、前年にGHQが経済安定9原則を発表し、翌年1950年には朝鮮戦争が勃発するという、まだ戦後日本経済が復興する前のタイミングです。一会計学を志した者として、筆者もこの『企業会計原則』こそ、日本経済復興の立役者の一人(擬人法的な表現ですが)と固く信じています。

その後、昭和29年、昭和38年、昭和44年、昭和49年、昭和57年(1982年)の5回、改訂されています。ことさら、改訂頻度と改訂年を取り上げたのは、昭和37年(1962年)に制定された『原価計算基準』がその後、一度も改訂されることなく現在にまで至っているのと好対照であることを強調するためです。そして昭和57年以降は改訂されていませんが、その後に公表された各種会計基準が、企業会計原則のどこどこと、あからさまに特定はしていませんが、上書きで制定されているので、事実上の改訂作業は現在進行中である、という初学者には理解するのが難しい立ち位置の会計原則なのです。

 

■ 『企業会計原則』制定の目的と趣旨

企業会計原則は、それまで不統一だった日本企業の会計報告の様式と計算技法を統一することを目的として制定されました。具体的には、日本経済復興のために、

① 外資の導入(外国資本が安心して日本企業に投資できるように)
② 企業の合理化(経営の効率化)
③ 課税の公正化(税法会計の基礎)
④ 証券投資の民主化(一般株主が安心して投資ができるように)
⑤ 産業金融の適正化(銀行などの金融機関からの融資取り付けを容易にするように)
を目指して企業会計ルールの統一を図りました。

そして、企業会計原則の性格(位置づけ)は次の3つ。

① 企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところ(GAAP)を要約したもの
② 公認会計士が財務諸表の監査をなす場合に従わなければならない基準
③ 商法(現会社法)、税法などの企業会計に関連のある諸法令が制定改廃される場合に尊重されなければならないもの

企業会計原則は、GAAPとして、会計慣習の理論的検討を通してあるべき会計処理・表示の基準を体系的に構築したものという意味で、「理論的規範性」を有する基準です。さらに、公認会計士が会計監査を実施する際に、企業の経理担当者が財務諸表を作成する際に、従うべきルールであることから、「実践的規範性」を有する基準とも言われています。まあ、会社法や法人税法も企業会計にかんする条文を制定・改正する際に、必ず尊重すべきルールとして決められているので、会計基準の中の王様なのだと考えてください。一部、改訂がなされずに、他の会計基準で勝手に上書き修正されているので、その意味では「裸の王様」になりつつありますが。。。(^^;)

 

■ 『企業会計原則』の体系

企業会計原則は大きく分けて、①一般原則、②損益計算書原則、③貸借対照表原則の3部構成をとり、それぞれの問題点について補足説明をする『注解』が付されています。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

 

(1)一般原則
一般原則は、会計全般にわたる包括的な原則で、全部で7つあります。ただし、昭和49年(1974年)の改訂で、注解に「重要性の原則」が加えられ、実質的には8つあると考えた方が適切です。それら8つの原則は、4つの会計行為、①認識、②測定、③記録、④表示のいずれかに強く関連するかで分類することができます。ちなみに、①認識と②測定は「会計処理(実質)」、③記録と④表示は「表示方法(形式)」に大別されますので、ここでは、①真実性の原則という大前提を除いて、残りの7つを2つのグループに分けてみます。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

 

(2)損益計算書原則
大別して、損益計算処理の実質的内容を決める「処理原則」と、損益計算書としての表示方法を決める「表示原則」に分かれます。「処理原則」は、「費用収益対応の原則」を頂点に、収益の認識・測定、費用の認識・測定の各原則から構成されます。ただし、測定原則は「取引価額の原則」として一本で説明されています。一方、「表示原則」は、一般原則にある「明瞭性の原則」を具体的に定義したものとして3つ存在します。

財務会計(入門編)_損益計算書原則の体系

 

(3)貸借対照表原則
最後に貸借対照表原則なのですが、こちらは、少々複雑で整理すら難解です。「貸借対照表基本原則」の下で「処理原則」と「表示原則」に大別されます。前者は、「認識原則」と「測定原則」に二分されます。「貸借対照表完全性の原則」「原価主義」の配下にさらに詳細手続が続きます。後者は、「科目記載の基本原則」と「注記記載の指示」に分かれます。前者は、①区分、②配列、③分類、④評価に細分化されます。最後の④評価は、前述の「原価主義」へとつながります。

財務会計(入門編)_貸借対照表原則の体系

今回は、それぞれの原則の内容にまでは踏み込んでいません。『企業会計原則』が、まずは、「一般原則」の下で「損益計算書原則」と「貸借対照表原則」に区分されていること、さらに、それぞれが、「会計処理」と「表示方法」を規定する諸原則を有している二重構造になっていることをご理解いただければ、本稿の所定のゴールに到達したといえましょう。

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(1) 会計取引の計上に必要な「認識」と「測定」について
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(6)財務諸表を取り巻く制度会計 - トライアングル体制と言われたのはその昔

財務会計(入門編)_会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生

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トレンド分析(1)BBレシオ - 個別受注型企業の販売モデルを理解する

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■ 受注産業では、受注が売上の先行指標になり得ます

継続的なビジネスを営んでいるうえで、自社の受注-生産-販売のトレンドを時系列に並べて眺めると、足下の業績水準と将来の業績予想をある程度、複雑な統計手法を使用せずとも過去トレンド情報から類推することができます。その代表格のひとつが今回紹介する「BBレシオ(Book-to-Bill Ratio)」です。

「BBレシオ」とは、出荷額(billing)に対する受注額(booking)の割合を示しています。

BB Ratio =受注額 ÷ 出荷額

この指標が1を超えるということは出荷額よりも受注額のほうが多いことを意味し、自社の業績の先行きが明るいことを示唆していると解釈することができます。逆に、この指標が1を割っていれば、出荷額よりも受注額が少ないことを意味し、自社業績の先行きが悪化する可能性を知らせてくれます。

こうした、「受注額」と「出荷額(≒売上額)」を比べることで収益性のトレンド分析の重要性が高まるビジネスモデルの特徴は、受注額の変動が、来るべき売上額の変動の先行指標になり得る業態に限ります。つまり、製造業で言えば、「個別受注生産」形態だったり、BtoB市場で顧客との販売契約が実売の前に必ず存在する業態となる、流通業やサービス業でも活用可能な指標です。

中でも、「シリコンサイクル」といって、半導体業界の景気サイクルは有名で、過去40年近くに渡ってほぼ4年ごとに浮き沈みを繰り返していることが観察されています。理由はいろいろ語られていますが、

① 新しい世代の製品が登場すると、各社そろって大型の設備投資を進めるため、需要と供給のギャップが急激に広がり、値崩れが発生しやすくなる
② コスト競争を優位に進めるために、他社に先駆けて新世代製品を大量生産する必要があるため、突発的な供給過剰状態に陥りやすくなる

というのがこのシリコンサイクル発生の原因と言われています。こうした業界を挙げての動機的な景気変動が起きえるのは、テクノロジーの進歩が急激で業界を挙げてスピード競争に陥っていること、技術的競争優位が同質的な争いになっていることが背景にあります。それゆえ、どうしても製品の世代交代の時期に急激な需給のアンバランスが発生し、好況と不況をほぼ一定のサイクルで繰り返してしまうのです。

 

■ 半導体製造装置業界団体が公表を取りやめても重要な指標であり続ける理由とは?

このBBレシオを観察しながら、自社の開発戦略を練り、競合他社との販売競争で相手を出し抜こうと頭をひねっているのが、半導体製造装置業界です。その業界でちょっとショッキングな出来事がありました。

2017/3/3付 |日本経済新聞|朝刊 北米BBレシオの公表中止 半導体装置、投資家に戸惑い

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「半導体製造装置の需給を示す「BBレシオ」の北米版の公表が取りやめとなり、投資家に戸惑いが広がっている。株価の先行きを占う先行指標として活用されてきたが、突然の中止に「重要な判断材料がなくなった」(国内運用会社)との声が出ている。」

「BBレシオは、3カ月平均の半導体装置の受注額を販売額で割って算出する。半導体メーカーの投資動向をタイムリーに反映するとされてきた。国際業界団体のSEMIが毎月下旬に前月分を開示していたが、今年1月分は発表しなかった。一部の北米装置メーカーがデータを出さなかったためとされる。」

ご参考まで、SEAJ(日本半導体製造装置協会)が公表している「BBレシオ(Book-to-Bill)速報値(3ヶ月平均) 半導体製造装置(日本製)2017年1月度」から、BBレシオ表を抜粋したものを引用します。

20170312_BBレシオ(Book-to-Bill)速報値(3ヶ月平均) 半導体製造装置(日本製)2017年1月度

一般社団法人 日本半導体製造装置協会/統計資料一覧

この表からは、2016年9月に底を打ち、10月以降は市場が好転しているのが分かります。半導体製造装置のBBレシオは業界全体の3カ月平均の受注額を、同期間の出荷額で割って求めており、移動平均的な市場トレンドが分かりやすくなっています。こうした動きから、半導体製造装置業界に位置する企業の決算発表において、サプライズが大きくなり、株価の値動きが大きくなるのではないかと心配されています。

BBレシオといえば、ある意味、「半導体BBレシオ」とも呼ばれ、半導体業界を代表する指標ですが、冒頭でも説明した通り、売上(販売)の前に受注行為が必ずある業態ならば、半導体に限らず、その先行指標としての有効性は十分にあると考えられます。そして、どうせ自社の分析で用いるなら、商品別の細かいセグメントで、そして3か月平均と言わず、月単位で市場動向を追うためにも有効なツールとなり得ます。

 

■ 受注生産業態にある企業の販売モデルの理解を深める

言葉だけで、「受注」は「売上(販売)」の先行指標、というフレーズを繰り返しても、この指標の有効性への理解度が深まらないと面白くないので、受注産業のビジネスモデルを簡単なチャートで図解することにします。

財務分析(入門編)_受注産業の販売モデル

(1)短期製造L/T調整
受注してから、自社内で設計・調達・製造という供給活動が顧客にお約束した納品日までを、製造L/T(リードタイム)といい、自社の都合だけでいえば、この期間は長ければないほど、製造の構えを用意するには有利です。一方で、これが長くなると、市況品などを材料に使用する場合は、原材料費の価格変動リスクを自社が負う可能性も大きくなり、一概に長い方がいいとは限りません。

(2)受注-売上ギャップ
これが今回の本題。売上が計上されるタイミングは、その企業が採用している収益認識基準に依存します。得てして、受注型ビジネスにある企業が取り扱っている製商品は、出荷しただけで、使用可能になるケースは少なく、顧客がそれを使用する現場にまでお届けし、使えるように据置・稼働準備サービスを付加し、ボタンを押すだけで正常に動き始めるところまで保証し、顧客がそれを書面で確認する「検収」まで終わらないと、会計上の売上とならないケースが多くあり、このギャップが長くなる傾向があります。それゆえ、複数会計期間(少なくとも四半期決算は頻繁にまたぐでしょう)を挟んで、受注と売り上げのタイミングが期ズレを起こしがち。だからこそ、受注は売り上げの先行指標となり得るのです。

(3)資金回収期間
これも、厳密には、プリセールス・コストから積算して、契約ひとつずつの採算分析をするルールになっていれば、販促活動を始めた時から、顧客から代金を回収する期間までが、分析対象期間となります。しかし、全ての販促活動が成就して、100%受注になるわけではなく、そのいくつかは(大半は)失注してしまうことでしょう。それゆえ、受注日から、回収日までを、資金回収期間と設定して、この期間を短くすることで、自社の資金繰りを改善するような仕掛けを考えるのに利用することがあります。

 

■ 実際に半導体製造装置業界のBBレシオを観察してみる!

それでは、実際に半導体製造装置産業から、東京エレクトロンを代表選手として、BBレシオを見てみましょう。ここでは個別企業の財務分析として、単年度値でBBレシオを算出していきます。自社分析ならば、月次情報の方が速報性があって尚可です。

20170312_東京エレクトロン_BBレシオ

上記グラフをご覧ください。BBレシオがほぼ4年サイクルで底を打っているのがおわかりでしょうか。シリコンサイクルが存在している様子を窺い知ることができます。ではグラフを読み込んでいきます。最も変動が激しかったリーマンショック後のFY07~09に注目してください。FY07は過去に無い受注高を得ることができ、BBレシオも1.25に上昇しました。同時に、受注残も4000億円を超え、来期(FY08)は好決算が期待できます。では、FY08の数字はどうでしょうか?当期純利益が1000億円を超え、好決算といえます。しかし、足元のBBレシオが0.69と1倍を切り、受注残は1846億円と前年の半分以下に急減し、来期業績に暗雲が垂れ込めているのが手に取るようにわかります。低調なFY08~09のBBレシオはそのまま翌年度のFY09~10の赤字決算の先行指標として、十分に役目を果たしていませんか?

BBレシオが1倍を切った翌年は全てが対前年度比で減益になっています。逆に、減益で前年のBBレシオが1倍以上だったのが、FY06とFY12だけです。12年間で減益が計6回。その内、BBレシオが1倍未満だったのが4回になります。BBレシオの翌年度減益予想の的中率は、66.7%。当然、自社分析なら月次単位で行われているはずで、減益決算を回避しようと様々な対策(裁量固定費の削減など)が打たれたはずですが、その対策結果後でも3分の2は当たっている。これが公表されなくなると、上記の新聞記事が指摘しているように、決算サプライズの影響が大きくなるかもしれません。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)_トレンド分析(1)BBレシオ - 自社の販売モデルを理解する

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経営戦略概史(18)ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作『エクセレント・カンパニー』 -本は売れたけどコンサルは売れなかった!

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■ マッキンゼーの7Sの誕生

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、ポーターが開祖のポジショニング学派に最初の大反撃がどのように行われた家の顛末をユーモア(皮肉たっぷり!?)と共にお送りします。

海軍、国防総省、ホワイトハウス勤務を経てマッキンゼーのコンサルタントになったトム・ピーターズと、ロバート・ウォーターマンが、6つの財務指標などで43社の欧米企業を超優良企業として選定すると共に、その特性を8つにまとめました。

1) 行動の重視と迅速な意思決定
2) 顧客に密着し、顧客から学ぶ
3) イノベーションのための自主性と起業家精神
4) 人による生産性と品質の向上
5) 価値観に基づく実践
6) 基軸事業から離れない
7) 単純な組織・小さな本社
8) 自律的現場と集権的価値共有
(本書P174・175)

この8つの特性から、導かれた7つの成功要件が「マッキンゼーの7S」でした。

経営戦略(基礎編)_マッキンゼーの7S

● ハードS:経営者が比較的短期間に変更可能でコントロールしやすいもの
① 組織構造 (Structure)
企業がどのように組織化されているか。たとえば、組織階層と上司部下の関係はどうなっているか、次組織が職能別か、事業部制になっているかなど
② システム (System)
管理システムや情報システムなどの仕組み、管理手続きがどうなっているか。たとえば給与制度、インセンティブ制度、業績評価システム、資源配分システム、経営管理システムなど
③ 戦略 (Strategy)
競争優位の源泉は何か、戦略の優先課題は何か、どの分野にどのように経営資源を配分するかなどの戦略
● ソフトS:その会社で働く人々によって決まるものであり、通常、簡単には変更できずコントロールしにくいもの
④ スキル (Skill)
社員や企業が持っている特定の能力。おこなっているビジネスに重要で、しかも競合他社にないスキルがあれば、競争優位を確立することができるもの
⑤ 人材 (Staff)
どのようなリーダーシップがとられているか、採用と人材育成の方法はどのようになっているか、どのような人材が何人いるかなど
⑥ スタイル (Style)
組織の文化や経営スタイル
⑦ 共有価値 (Shared value)
会社のよりどころとなる経営理念や価値観の浸透度

「7S」として、「⑦ 共有価値」が中心に座して、その他の6つの成功要因がその周りに位置します。これら7つの要素は互いに影響しあうものと捉えられています。企業の競争優位の確立には、その企業が置かれているビジネス環境に合わせて、これら7つをバランスよく備えることが重要であるとされます。

 

■ マッキンゼーの7Sはコンサルティングサービスとしては受け入れられなかった

ピーターズがマッキンゼーに入社後、ロナルド・ダニエルが推進した「知の強化」プログラムに投入され、「戦略」面を担ったのがフレッド・グラッグ(経営戦略概史(14)グラッグによるマッキンゼーの逆襲! - 難解なGE・マッキンゼーマトリクスを武器に)で、「組織」面で活躍したのがピーターズでした。そのピーターズが世界中の企業を調査してせっかくまとめた「7S」にマッキンゼー自体は非常に冷淡でした。BCGの経験曲線や成長・シェアマトリクス、持続的成長率(経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率)や、ポーターの5力分析(経営戦略概史(15)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場① - ファイブ・フォース分析はミクロ経済学から誕生した)と違って、「7S」それ自体では何かを分析できるものではなかったからです。

つまり、経営戦略論は「数値的に分析可能」な作業に置き換えられないと、コンサルティングサービスとして、クライアントに売り込むことができない、というコンサル業界の内部事情がその背景にあります。「大テイラー主義」とも呼ぶべき、「分析」「客観的数字」ありきの経営戦略と、経営戦略コンサルティング崇拝の当時の常識を覆すことができなかったということになります。ピーターズがマッキンゼーを退職して1年後、彼とウォーターマン共著の『エクセレント・カンパニー』が出版され500万部の大ヒットとなります。

■ 超優良企業はどうやってつくられるのか? 

ピーターズが提唱した「7S」が残した示唆とは、

1)超優良企業では、必ずしも戦略や組織、賃金・人事制度というハードなものでマネジメントがなされているわけではない
2)価値観の共有とか企業文化とか、ソフトなものでマネジメントが行われている
3)ソフトなものでマネジメントが行われている企業の方が財務面でも優れた業績を残している

ということに尽きます。
ここで戦略コンサルタントは、はた、と気づくのです。どうやってそれをコンサルしようかと。。。

「ソフトなマネジメントが行われているかどうか、どうやって調査・分析するのか?」
「仮に分かったとしても、どんな企業文化や価値だったらこうなる、という因果関係をどうやって導き出すことができるのか?」

ピーターズがもたらせ『エクセレント・カンパニー』の世界的ベストセラーは、次のようなことを気づかせてくれました。

1)企業の統計的調査には限界がある
2)企業の統計的調査+企業ストーリーを組み合わせたビジネス書はヒットする確率が高い

ここからは筆者の意見。
1)についての反証は、三品和広教授の名著が存在します。たしかに、統計的調査からある程度の企業戦略の良し悪しは分かるのかもしれません。しかし、ある企業の成功体験・ベストプラクティスが、別の企業でも有効かどうかの保証は絶対にありません! それは筆者のコンサルティングスタイルの根幹にある(個人的な)絶対的信念です。

2)についての好例は、
ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ
ゲイリー・ハメル著『コア・コンピタンス経営』シリーズ
ジョン・コッター著『リーダーシップ論』シリーズ
などが挙げられます。

近著では、楠木健教授の『ストーリーとしての競争戦略』でしようか?
まあ、三品教授も楠木教授もそんなに簡単な類型化に自著を落とし込まれると気分を害されるでしょうから、あくまでここは名著(書名)でもってわかりやすくというコンセプトによるものと関係者の皆様、ご容赦ください。m(_ _)m

 

■ その後の超優良企業の最後は?

ピーターズがセレクトした43社の超優良企業は、7Sのコンセプトを盗まれたと主張するリチャード・パスカルによる分析によりますと、次のような顛末であったと言われています。『エクセレント・カンパニー』出版後、15年も経過してからパスカルは自著の中で、「43社中、半分が5年でダメになり、今では5社しか超優良とはいえない」と主張しています。ちなみに、その自著でパスカルが取り上げた超優良企業6社もその後の追跡調査で全滅しましたが。。。

企業の栄枯盛衰は非常に激しいものです。例えば、ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー①』に日系企業から選ばれたソニーは、その後苦難の道を歩み、本業であったエレクトロニクス事業とその他の事業を切り離して別会社化することを投資ファンドから切り出されと思えば、逆にエレキ事業が好調となり、映画事業で大きな減損を計上したりと、企業業績に波はつきものです。その断面を瞬間瞬間切り取って、優良会社、ダメ会社と断じる方がおかしいと思いますが、如何でしょうか?

ちなみに、米国株式市場における超優良企業と認知されている「ダウ工業株30種」に指数発表以来ずっと入っている(当時は12銘柄)のは、「GE(General Electric)」たった1社だけなのですが。。。(^^;)

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(18)ピーターズらが放った反ポジショニング的ヒット作『エクセレント・カンパニー』 -本は売れたけどコンサルは売れなかった!

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ボブ・マーリー(1)雨を感じられる人間もいるし、ただ濡れるだけの奴らもいる

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■ 同じ環境に置かれた人でも、感じ方によって等しくなくなる!

コンサルタントのつぶやき

Some people feel the rain. Others just get wet.

雨を感じられる人間もいるし、ただ濡れるだけの奴らもいる。

(ボブ・マーリー)
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私が同じことを言っても、いつもよい方へ捉える人と、悪い方に捉える人がいます。クライアントからクレームを受けたのに、喜ぶ人と落ち込む人がいます。何が違うのでしょうか? 感受性? 私は“想像力”だと考えています。

どれだけ、今やっている仕事の完了形の姿を想像できるか? 今やっている仕事が自分の成長にどれだけ寄与するのか? それが想像できれば、クライアントからのクレームも、

① 自分の成長の糧
② クライアントの真のリクエスト(心の底からの欲求・嘆願)

の両方の意味が理解できて、クレームを入れて下さってありがとう、とお礼を言ってもいい足りません。

だって、自分がやった仕事のだめな所を教えてくれるんですよ? だって、今度はどうすれば喜んでくれるか、教えてくれているんですよ? こんなありがたい話はありません。

雨に打たれたとしても、その雨の冷たさや厳しさを楽しめる。そんな人に私はなりたい!

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