トランプ国境税(1)米国境調整は「究極の税」?(真相深層)グローバル企業の税逃れ防ぐ 世界の税制論議に一石

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■ トランプが主張する「国境税」は本当に保護主義政策の一環で、かつ愚かな税体系なのだろうか?

経営管理会計トピック

「アメリカファースト」を提唱するトランプ大統領は。イメージ先行でがりがりの保護主義で、提唱する法人税制の変更案も本当に荒唐無稽で独りよがりのものなのでしょうか? 実は、大統領本人の公約だった法人税制の改革案より、与党共和党が提唱している案に寄り添ったものが、あたかもトランプ原案として取り沙汰されているのは、実際には何がイメージ先行の「ポスト・トゥルース」なのか、真剣に考える必要があります。

2017/3/24付 |日本経済新聞|朝刊 米国境調整は「究極の税」?(真相深層)グローバル企業の税逃れ防ぐ 世界の税制論議に一石

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「輸入に課税、輸出は税を免除する――。米下院共和党が法人税改革の一環として示す「国境調整措置」が輸入業者らの強い反対にもかかわらず、消えずに残っている。
その理由は(1)輸入課税による税収増を法人税率引き下げの財源にあてこんでいる(2)トランプ政権は「輸入に高い税をかける」という選挙公約の実現と宣伝できる――ことにあるが、それだけではない。」

トランプが大統領に就任直後のニュースでは、「メキシコとの国境に壁を築く」「メキシコへの工場移転や進出は許さない」というアメリカファーストの言動に耳目が集まりました。法人税制改革についても、一部の国からの輸入品に関しては高い関税をかけると、仕向地別高関税政策であると第一報がありましたが、その本質は「関税」ではありませんでした。

⇒「「国境税」設計難しく トランプ氏、共和党案「複雑すぎる」 - 関税や米国法人税を含む包括的なトランプ課税政策を素人でもわかりやすく

「仕向地別・キャッシュフロー法人課税」がその本質であります。間接税である関税や消費税(付加価値税:VAT)ではなくあくまで直接税としての法人税の枠組みのものです。しかしながら、仕向地別に課税非課税をコントロールするなど、従来の消費税に近い性質のものになっています。次章では、記事での解説文をもっと簡単にサマリして、その本質に迫っていきたいと思います。

 

■ どうしてトランプが主張する「国境調整」の検討が米英で推進されているのか?

いえいえ、間違えました。米英の税制専門家や経済学者たちが、「経済活動をゆがめない究極の企業課税」として「国境調整」案を提唱してきたものに、トランプ大統領が乗っかっただけのことです。さすが気を見るに敏なビジネス出身者。誰が言い出したものでも「いい」と感じればその場で自分のものにする臨機応変さには感心するばかりです。

ブッシュ(子)政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたマンキュー・ハーバード大教授(世界で最も読まれている経済学の教科書の著者とも呼ばれている!)も全面賛成する理由はどこにあるのでしょうか?

(下記は、同記事添付の「米下院共和党案は消費税導入と似た効果」を引用)

20170324_米下院共和党案は消費税導入と似た効果_日本経済新聞朝刊

【理由1】
「改革案は実質的には消費税の導入、法人税の撤廃、給与税の減税の3点セットに等しい」
【理由2】
「所得よりも消費に課税する方が(経済に)望ましいのは多くの研究が示すところだ」

共和党下院の提唱する(そしてトランプが乗っかった)法人税改革は、法人税改革と呼ばれながらも、課税対象が限りなく消費税に近いものになります。その相違点とは?

<共通点>
① 輸入品が課税対象となる一方、輸出が免税とされる
② 設備投資は全額控除(法人税制における設備投資の即時償却対応と効果は同じ)

<違う点>
③ 間接税の王者である「消費税」では賃金支払い分を課税対象からはずせないが、米下院共和党案は、法人税では損金扱いされているとおり、賃金支払い分が引き続き控除できる

マンキュー教授は、この3点をとらえて、「実質的な効果は消費税を導入するかわりに給与税を大幅減税するのと同じ」であると論じています。

さあ、中身は理解できました(よね?)。ならば、どうしてこの税制改革案が関係者から歓迎されるのか?

【理由1】
「経済の活力向上に加えて、経済のグローバル化で目立ってきた企業の税逃れを防ぐ効果も期待される」

共和党案の原型となる企業税制改革を唱えてきたアウエルバッハ・カリフォルニア大教授によりますと、
「海外で利益が生まれたようにみせかける操作をしても税の支払額は減らせなくなる。利益でなく国内売上額が課税対象になるからだ」
「各国で導入されれば、企業情報の共有など、20カ国・地域(G20)が税逃れ防止のために進めている協調も不要になる」

これまでの法人所得税の原則は、課税対象所得(利益)への源泉地課税。グローバル大企業がグループ内取引における移転価格を調整し、低税率国に立地する子会社に利益が溜まるようにすれば、グループ企業全体での課税負担を小さくすることができます。しかし、国境調整では、海外で利益をたんまり貯めておいて、薄利で米国内に輸入してきても、米国内の売上高ベースで課税されてしまいます。つまり、移転価格を調整して、海外に利益を貯めるインセンティブを消滅させる荒業なのです。

【理由2】
「本社の海外移転などで税負担を減らす動きの抑制にもなる」

「英国の抜本的な税制改革指針をまとめた2010年のマーリーズ・レビューでも、グローバル化時代に即した企業課税改革の選択肢の一つとして、共和党案と同じような税制への転換が提唱」されています。

これまでは、法人課税を源泉地課税とすることがグローバルスタンダードだったため、海外で稼いだ所得(利益)は、海外で納税すれば、本国に配当で還流させても非課税でした。その中でも、米国は「全世界所得課税方式」:海外での税引き後利益を配当として米国に還流させると、米国税率との差額を追加的に米国で課税、を採用しているため、ますますグローバル企業の本社まで海外流出を促す法人税体系でした。

(参考)
⇒「パナマ文書にもめげず米当局企業課税逃れに新規制、結果としてファイザー、アラガン買収断念 - 日本経済新聞まとめ
⇒「国際課税新ルール、日本企業でも適用 海外子会社の情報収集 本国との二重課税リスクも

輸入課税という一面だけみれば保護主義的に見える「国境調整」ですが、「経済のグローバル化に対応した法人課税のあり方を突き詰めると、消費税に近づくという考え方自体は決しておかしくない」(鈴木将覚・専修大教授)という意見がある通り、いともたやすく国境を越えてグローバルに活動する企業に対しては、所得(利益)の源泉地ではなく、消費地(売上地)での課税対応が、グローバル企業の経済活動そのものを歪めないし、グローバル企業に過剰な節税の手段を残させない(対策をさせない)防止効果もあるといえます。

 

■ それでは「国境調整」は欠点がない完全無欠な税制なのか?

米下院共和党が提唱し、トランプ大統領も乗っかった「国境調整」の問題点は、税制としての筋の善し悪しより、導入時の経済への影響が極めて大きい点や実務上の難しさが課題であると言えます。

<課題>
(1)米輸入業者の税負担が一気に膨らむ(税制の公平性の問題)
(2)価格転嫁が進めば消費にも悪影響が及ぶ(消費下押しのリスク)
(3)中国や日本企業をはじめ米国への輸出が多い世界の企業には業績悪化のリスクが大きい
(4)世界貿易機関(WTO)が消費税以外での国境調整は協定違反とする公算が大きい

フェルドシュタイン・ハーバード大教授等によれば、「国境調整の影響はドル高で帳消しにされるので、米国の貿易収支や競争条件、米国の輸出入企業の収益には影響を与えない」という意見もありますが、実際に影響を打ち消すだけのドル高が進むのかは憶測の範囲内ですし、ドル高が進めば新興国経済などに不測の大きな悪影響が及ぶことも考えられます。

また、(4)については、「2国間の租税協定の面でも課題がある」(財務省幹部)と記事中にもあります。これは、米国が一方的に国境調整を実施して、相手国が従来の源泉課税だと、グローバル企業にとって二重課税が発生する可能性があるし、課税当局間での調整も難しくなることが分かっています。

本件、日本の著名な経営者が異を唱えたニュースが波紋を呼んでおります。

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 ファストリ柳井氏の誤算 米国生産・国境税「あり得ない」

「衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが新たなリスクへの対処を迫られている。企業に対する米国生産の要求や輸入品への国境税の導入を掲げるトランプ政権の方針について、29日に会見した柳井正会長兼社長=写真は共同=は「あり得ない」と断言した。無用な刺激を避けようと日本企業が口をつぐむ中、トランプ氏へのけん制とも取れる発言をした柳井氏の真意は何か。」

(下記は本記事添付の「ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長」の写真を引用)

20170331_ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長_日本経済新聞朝刊

「「消費者にメリットあるコストでは提供できない。直接、我々に(米国生産を)求められたら撤退したいなと思います」。ユニクロが29日にニューヨークで開いた大規模な展示会。記者団から「米国第一」を掲げるトランプ政権が検討する国境税や米国生産の可能性について問われた柳井氏は、こう明言した。」

柳井氏が強面にこう主張するには、繊維産業の米国立地の難しさから。(同記事より)

(1)衣料品の縫製工場は今も人海戦術に頼り、ロボットなどによる自動化はなかなか進んでいない
  ・人件費が製造コストの多くを占め、低賃金国(中国やベトナム、バングラデシュ等)といった途上国へと生産移管の動きがいち早く広がった
(2)早くに繊維産業が衰退したため、直ちに米国内で大量生産できる経営基盤が無い
  ・経営にはヒト・モノ・カネが必要。高コスト賃金になることが必須の米国内操業が前提での労働者の確保、生産設備や原料確保のサプライチェーンなどのインフラ整備など、やるべきことがあまりに多すぎて即応不可!

「グローバルで、オープンな世界をぜひつくってほしい。トランプ氏はあまり政治に入らない方がよいのではないか」

柳井氏の憤りも理解できますが、一国の大統領に面と向かってケンカを売る勝算は果たしてあっての発言なのでしょうか? 少々、柳井氏のお立場を心配する気持ちで一杯の読後感となりました。(^^;)

(参考)
⇒「トランプ国境税(2)(経済教室)トランポノミクスの行方(上)国境調整税、各国税制に影響 海外移転促すゆがみ是正 星岳雄・スタンフォード大学教授東京財団理事長

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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マーガレット・サッチャー(1)懸命に働かずしてトップに立った人など、私は一人も知りません

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■ 頂点に立つための必要条件は懸命に働くこと

I do not know anyone who has got to the top without hard work. That is the recipe. It will not always get you to the top, but should get you pretty near.

懸命に働かずしてトップに立った人など、私は一人も知りません。それがトップに立つための秘訣です。必ずしもそれでトップになれるとは限りませんが、かなり近いところまでは行けるはずです。

(英国初の女性首相 / 1925~2013)
——————————————————-
この言は、常に私の頭の片隅に忘れずにいるものです。

「トップ」という表現には、私みたいに職人肌の人が、自分の道を究めることもふくめるのならば、大抵の人にもあてはまることだと思います。なにも、組織のより高い地位に就くことだけが「トップ」になる、ということではないので。

当然、天賦の才能や幼少のころの生活環境など、その後の人生を変えるファクターはいろいろあることも否定はしません。しかし、自分の意思で変えられることは、「努力し続ける」ことだけです。しかもこれは、万人に平等に与えられているチャンスなのです。

私は、管理会計の道を究めるために、中年になっても日々精進を怠りません。この道の努力を始めて四半世紀以上が経過しました。それでも、知らないことばかり。却って、最近になればなるほど、知らないと感じて、自己嫌悪に陥る回数が増えています。それは、膨れ上がった風船が大きくなればなるほど、表面積が大きくなって、知らない世界との接地面が増えるからだとつくづく思うようになりました。

イチローやカズの日々の練習量を知らない人はいないと思います。一流になるためには、一流になるための努力の方法を知っている必要があります。その方法は、頑張ること。簡単に気付けることなのですが、実行することは難しいことです。

私は、毎日365日、朝目が覚めてから夜ベッドに入るまで、15分刻みで予定を立てます。今日一日の予定は昨日の夜のベッドの中で。今日の午後の予定は、午前中に最新のものに更新します。夜寝る直前の予定は、今、更新中です。寝る前までに、アニメを1本見るか、それとも管理会計の本を読むか? それが問題だ。(^^;)

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マーク・トウェイン(1)本物の友人とは?

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■ あなたが間違っているときに味方をしてくれる友人の存在について

The proper office of a friend is to side with you when you are in the wrong. Nearly anybody will side with you when you are in the right.

正しい友人というものは、あなたが間違っているときに味方してくれる者のこと。正しいときには誰だって味方をしてくれるのだから。

(米国の作家、小説家 / 1835~1910)
——————————————————-
この言は、「味方」「友人」という言葉に2つの解釈が成り立ちます。

ひとつは、あなたがどんな逆境にあっても、世の中の全員から間違っていると指摘されたとしても、最後まであなたを支持してくれる寛大な心の持ち主で、最後まで頼りになる真の友人を持とう、という解釈。

ふたつめは、「味方」をしてくれるというのは、ちょっとやそっとのミスや失敗などを犯したからといってあなたを放り出すことなく、最後まで間違いを指摘して、我が事のように、あなたの課題を一緒に背負ってくれる義に厚い人を友人に持とう、という解釈。

私はふたつめの方の解釈の方を好みます。結構年を取ってくると、正面切って、私の言動を注意してくれる人が徐々に少なくなってきていることに気付かされます。自分が間違ったことをしでかしたときでも、最後まで味方でいてくれて、自分の行動を矯正しようと助言や手助けをしてくれる人のありがたみが本当に心に染み入ることが最近増えたからです。

この「友人」というのを、広義で捉え、「部下」「上司」「クライアント」にも置き換えてみましょう。私は誠心誠意を込めて、クライアントにも、ダメなものはダメといいますし、クライアントの耳に痛いことも直言し、契約解除の憂き目に会ってもいいという覚悟で真剣にコンサルテーションを実施します。短期的には契約解除になり、経済的には不利かもしれませんが、自分の見識が間違っていなかったことが証明されれば、すぐに契約復帰もあり得ます。長期的には、自分にとっても相手(クライアント)にとってもプラスになると固く信じています。

もっと意地悪く言うと、あなたの直言に耳を傾けてくれず、契約解除をしてくるクライアントは、あなたの友人(=最重要顧客)になる資格がそもそもないのです。そんなつまらないクライアントの機嫌を取って、あなたにとって貴重な時間をそんなつまらないプロジェクトに費やすほど、人生は短くはありません。

間違った時でも友人でいてくれる人を大事にする。それと同じくらい、相手が間違った時にあなたが諫言をしてもちゃんと聞いてくれる友人を大事にすることも大変重要なことです。

マーク・トウェインの本当に言いたかったことを、広義に捉えて、自分の仕事スタイルに取り込んでいます。名言格言の使い方にそういうのがあってもいいじゃありませんか。(^^;)

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国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」 - IFRSにみられるように、のれんを定期償却しないのは無謬性のあるグローバル・スダンダードだと思い込んでいる人へ

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■ IFRSが「のれん」を定期償却しない件は海外でも全面肯定されていなかった!

経営管理会計トピック

最近、東芝の巨額損失に伴う、半導体事業の分社化と海外原子力事業の切り離し、そして決算発表の延期は、すべてWH(ウェスチングハウス)における「のれん」の減損損失が主要因であることは周知の事実です。

⇒「東芝、原発で数千億円損失 米社買収に絡み 今期最終赤字の可能性 資本増強を検討 - その後の株価報道の方へ物申す!

そして、「のれん」を定期償却する日本の会計基準に準拠することによって、期間損益(営業利益ベース)がIFRS適用会社と比べて、相対的に過少評価されることを嫌って、コスト負担が軽くなる(と一般的には考えられることが多い)ことを狙いのひとつとして、IFRS適用へ舵を切る日本企業が増えています。

⇒「国際会計基準の導入、100社超える -ここで業種別の分布からIFRS導入の傾向を探ってみる!

さらに、日本を除くIFRSが主流になっている地域・国にある海外企業の経営者と株主、そして会計監査関係者が皆が皆、「のれん」の定期償却ではなく、減損テスト扱いを歓迎しているというのは思い込みに過ぎないことが次の記事で裏付けられました。

2017/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「世界130カ国・地域の会計士から成る国際会計士連盟(IFAC)のレイチェル・グライムズ会長は日本経済新聞に「日本で監査への信頼が高まることはアジア全体として重要」と述べ、日本が国際的な視点で会計・監査改革を進めることに期待を表明した。
 東芝の決算延期で焦点となったM&A(合併・買収)に伴う「のれん」の扱いについては「小刻みに再評価すべきだ」と語り、巨額の減損損失を一気に計上するのでなく、評価を適宜、下げたほうがよいとの認識を示した。」

(下記は、同記事添付の「レイチェル・グライムズ会長」の写真を引用)

20170325_レイチェル・グライムズ会長_日本経済新聞朝刊

ここでは、「のれん」について、「小刻みに再評価すべき」とだけ述べており、もっと「減損テスト」を厳格かつ、小さい金額であっても減損させるべきとして、定期償却させない方式を支持しているともとれます。しかしですね、会見記事の中での発言に、

「【減損会計】M&Aで純資産に多額の上乗せ価格を支払うことが増えており、それに伴い「のれん」は増加している。買収の時点では合理的と考えられた上乗せ額が本当に価値に見合っているかどうか、小まめに検証・判断して損失を認識すべきだ。個人的には償却が好ましいし、実態を映していると考える。(東芝のような個別事例は)コメントできない。」

とあり、個人的な見解として「償却」が好ましい、つまり「減損テスト」対象ではなく、「定期償却」対象とすべきであるという意見を持っていることが明らかになりました。筆者は、もともと、M&A(合併・買収)に伴う「のれん」について、「取得後の自家創設のれんを自動的に計上してしまう弊害の方が強い」という見解を持っており、頑迷な「定期償却」派の一人です。(^^;)

⇒「(経済教室)国際会計基準の展望(下) 「のれん」処理、日本型は妥当 西川郁生 慶応義塾大学教授

 

■ 通常の「のれん」「他社創設のれん」と「自家創設のれん」「自己創設のれん」の違いとは?

そもそも、「自家創設のれん」(自己創設のれん)とは何か?

2017/3/27付 |日本経済新聞|夕刊 (ちょっとウンチク)日本と米欧、考え方に違い

「多くの日本企業はM&Aを実施すると「のれん」を毎年、償却する。収益力など被買収企業の見えない資産価値は時間の経過とともに下がるという保守的な前提に立つからだ。これに対して米欧は見えない資産価値が著しく下がった時に初めて損失を計上する。米欧企業は見えない価値が経営努力によって維持できると考えるためだ。会計学者のなかには、そうした会計処理を「自己創設のれん」の資産計上と見なし、不健全と指摘する向きも少なくない。」

その前に、「のれん」の説明が必要かもしれません。

経営管理会計トピック_「のれん」とは?

買収企業(事業)を自社の貸借対照表(B/S)に組み込む際には、対象企業(事業)の総資産を再評価した簿価(600)を持ってします。しかし、対価として、現金支出か、自己株交換かで、1000の価値を提供した際に、差額の400の分だけ宙に浮いてしまいます。この分は、元々、買収対象企業(事業)の簿価に反映されていなかった企業価値(事業価値)が、M&A取引をした際に、客観的に400の分だけ表出したと考えます。これは、従来の貸借対照表に出てこなかった買収対象企業(事業)の超過収益力を表したものとして、買収元企業の貸借対照表に「のれん」という名目で計上されるのです。

こうして、他社(買収元企業)によって創出された(表に出してもらった)超過収益力は、「他社創設のれん」あるいは単純に「のれん」と呼ばれます。

一方で、営々と自企業の競争力を磨き上げ、貸借対照表にそのままでは計上されない、知財権を取得、優秀な従業員を育成、有利な商権を獲得した場合は、誰もその価値に実際には対価(現金支払いや株式交換)を支払って、第三者の目に具体的になんぼなのか、証明しているわけでないので、自己勝手に評価した「のれん」という意味で、「自家創設のれん」(自己創設のれん)と呼ばれて「他社創設のれん」と区別されます。

経営管理会計トピック_「のれん」金額の算定

注)筆者が学生の時に習った「自家創設のれん」の用語は古くなり、最近は「自己創設のれん」が一般的です。あまり意味のない呼び換えはやめてほしいのですが、、、(^^;)

 

■ どうして「のれん」を定期償却しないと、自家創設のれんの自動計上になるのか?

自社にとって魅力があるから、簿価より多くの対価を支払って、M&Aで対象企業(事業)を取得するのですよね。その魅力は、M&Aの時点で簿価より多額の評価額を支払ってもいいと思える何かの価値(知財権、人財、商権、特別な契約上の権利など)によるものです。知財権も永遠にその経済的魅力を維持できるわけではなく、優秀な従業員はいつか退職しているかもしれません。

つまり、その魅力度(超過収益力)が永年にわたり、減少していく可能性があります。逆に、その魅力度をタネにもっと価値を増やしているかもしれません。でもちょっと待ってください。買収後の超過収益力がもっと増えたとしても、勝手に貸借対照表にその評価額を自分の目分量で付け足すことは、「自家創設のれん」として客観性が無いとして禁止されています。

経営管理トピック_のれんの種類

その一方で、価値が減少する(減価する)事象を認識するのは、「減損テスト」をもってする、とされています。しかし、現実として、今現在行われている「減損テスト」が適正に運用されていると思いますか? どうして、一瞬の内に、何千億円という減損損失が一気に計上され、前期まで黒字経営だった会社が、減資や事業売却をしないとしのげなくなるような事態が起こるのでしょうか?

それは、現行の「減損テスト」が(割引)将来キャッシュフローの見積り評価で実施されており、その毎年の判定自体が何ら客観的な事実を積み上げて実行されているわけではないからです。そういう現実を是としながら、100歩譲って、適正に「減損テスト」が実施されていると仮定します。その場合、毎年の「減損テスト」で減価が起きていないという判定をするということは、即ち、M&Aで買収した企業(事業)を継続的に活用しているうちに、通常減価していっているに違いないのに、新たに企業価値(事業価値)が付加されているからこそ、「減損テスト」に耐え得るのだと、背理法的に「自家創設のれん」の計上が行われているのだと証明できるのです。

「自家創設のれん」の計上は制度会計ルールで禁止しておきながら、一方で「他社創設のれん」を定期償却または減損しないで済んでいるという事実は、自動的に「他社創設のれん」に「自家創設のれん」の企業価値(事業価値)を付与しているのと同義なのだとどうして頭の良い人たちが気付かないのでしょうか?

いや、気づいていながら、そ知らぬふりをして、目の前の営業利益を積み上げているのでしょう。そして、それに騙される一般株主こそいい面の皮です。

客観的な証明が難しい「他社創設のれん」の減価額だからこそ、保守的に定期償却した方がよいのです。だって、「のれん」と同様に、貸借対照表に計上されている「有形固定資産」「無形固定資産」にも、「定期償却」と「減損損失」が併用されているじゃありませんか。「有形固定資産」や「無形固定資産」だって、なんら経済的価値な裏付けがあって定期償却されている訳じゃありませんよ。「のれん」だけIFRSで特別扱いされている意味が分かりません。

経営管理トピック_資産の償却・減損パターン

「個人的に」という注釈がついているものの、国際会計士連盟(IFAC)のレイチェル・グライムズ会長も同意見であることに、意を強くした筆者なのでありました。(^^;)

(参考)
⇒「会計基準の選択に翻弄される企業と投資家 -新日鐵住金、アサヒ、三菱商事、三井物産、それぞれのケースを追う! そして「のれん」を語らざるを得なくなる!
⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも
⇒「国際会計基準IFRSが変える(下)のれんや資産の「時価」重視 リスク管理の精度高める

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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新生銀が「仮想本社」 グループの間接部門集約 - バーチャル持株会社のメリットとあるべきホールディングス本社機能とは?

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■ 組織デザインと管理会計は相性がいいので、すぐに食いついてしまいます!

経営管理会計トピック

「グループ経営管理」を自身のコンサルティングサービスの主要テーマの一つとしている小職と致しましては、この記事に何とか喰らいついて、爪痕を残したい、そう強く思わせるテーマなのであります。

2017/3/22付 |日本経済新聞|夕刊 新生銀が「仮想本社」 グループの間接部門集約

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「新生銀行グループは4月、グループを統括する「仮想グループ本社」を設立する。持ち株会社を置かずにグループ会社の総務、企画、財務などの間接部門を仮想本社の下に集約する試みで、邦銀では初という。グループ会社の機能を一体的に運用しやすくし、業務の大幅な効率化につなげる。」

それでは、新生銀行グループはどういう構造になっているのか、そしてグループ本社機能はどうなっているのか、早速確認してみましょう。

<新生銀行グループ構成|新生銀行について グループ紹介

20170403_新生銀行_グループ紹介

上図からは、あたかも新生銀行を中心に、ホールディングスにぶら下がっているかのようなイメージを抱きますが、

「新生銀グループは現在、持ち株会社を置いておらず、銀行とリース、カード会社などは横並びの位置づけだ。傘下企業を統括する持ち株会社を置けば、グループ会社の機能を一体的に運用しやすくなるが、設立の手続きなどで1年以上かかり、コストも膨らむ懸念があった。」

ということで、持ち株会社スキームではないことが分かりました。

 

<グループ本社機能|新生銀行について 組織図(一部抜粋)>

2017年4月1日現在、グループ本社には次のような8組織から構成されています。

20170403_新生銀行_グループ本社_組織図
① 事業戦略
② 組織戦略
③ 企画財務
④ 人事
⑤ 法務・コンプライアンス
⑥ 総務
⑦ リスク
⑧ IT

現在は、新生銀行の中に存在しますが、ここにグループの本社機能をバーチャルに集結させます。

「仮想本社は新生銀行内に設置し、グループの数百人が所属する。トップは工藤英之・新生銀社長が務める。まずは4月までに新生銀、アプラスフィナンシャル、昭和リース、新生フィナンシャルのグループ4社の総務や企画、財務部門を集約し、10月までに4社以外のグループ会社も加わる。各部門には新たに担当役員を置くという。」

 

■ 新生銀行グループの仮想本社のメリットは?

では、どうして純粋持ち株会社形態に移行して、形式面・実質面の両面で本社機能を統合しないのでしょうか?

記事をまとめますと、その理由は、

1)仮想本社は実際に会社を立ち上げるわけではないため、純粋持ち株会社への移行手続きに時間とコストがかからない

2)移行コストを節約できる反面、業務集約による経費削減のみがプラスに働くことにより、仮想本社を含む一連の業務改革で2018年度までに50億円の経費削減効果が見込める

3)当面は仮想本社導入後の効果を見極め、実際に持ち株会社を設立するかを判断するオプションが残されている(効果が無いならすぐに集約を止められる撤退コストがゼロ)

ということになります。筆者が気になるのは、2)の経費削減効果の部分だけです。結局のところ、本社費というのは、人件費とオフィス維持費の固まりです。人件費の削減というのは、人員整理かプロフィットセンターへの異動、オフィス維持費はその人員削減により結果として得られる効果になります。その他の、業務手続コストの削減(作業効率化)には、これまでの経験値からはそれほど期待はしておりませんので。(^^;)

 

■ グループ本社の備えておくべき機能は、持ち株会社のスキームに従う

じゃあ、どういう組織構造の時に、ホールディングスの本社機能として持つべき仕事の種類は何か? という単純な疑問に独自の解をここで紹介しておきます。

まずは一般的な統計解から。

経営管理会計トピック_持株会社が行う事業子会社への本社サービスの状況

本社サービスとして提供している、
① 経理
② 人事(給与計算)
③ IT支援サービス
が御三家といえます。

それでは、概念解は次の通り。

経営管理会計トピック_ホールディングスの計数管理業務パターン

ホールディングス内に位置するグループ本社機能は、大別すると、
① 企画業務(上記では計数管理中心に表現)
② マネジメント(グループ内組織管理)
シェアードサービス
の3つだと考えています。

そして、それらがどのように分散・集結させるべきかについて、筆者は経営管理・管理会計に関するホールディングス業務の整理などの相談を承ったりするのですが、その際は、持ち株会社のスキーム(事業持株会社か純粋持ち株会社か)と、ホールディングスの下に子会社がどのようにぶら下がっているのか(機能別か、事業別か)に着目して、三類型で考えるようにしています。

(1)事業持株会社/非事業会社統合
ぶら下がっている子会社に、機能別会社が数多く残っている場合は、機能別組織のヘッドクオーター機能までフル装備しておく必要があります。

(2)事業持株会社/事業会社統合
事業別の統括機能までは残しておく必要があります。

(3)純粋持株会社
事業管理は中間持株会社へ、シェアードサービスもそれ専門の子会社へ機能を移管し、純粋に企画業務とグループファイナンス中心の管理機能だけを残します。

そして最後に重要なのが、ホールディングスに残した機能にかかるコストをどうやって各子会社に納得の上で負担させるか? それらの名目的なグループ間取引(いわゆる本社取引)の形態も記載しておきました。ご参考くださいませ。(^^;)

これ以上の具体的な言及は有償サービスとなります。(笑)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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機関投資家の行動規範改定 議決権行使を個別開示 利益相反の懸念払拭 6月の総会から適用へ - スチュワードシップ・コード改訂の動向を受けて

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■ スチュワードシップ・コード改訂の意見公募が開始され機関投資家への縛りがよりきつくなる!

経営管理会計トピック

金融庁が主導する「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」から、平成26年2月26日に確定した現行の「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」(以下、「スチュワードシップ・コード」という。)の改訂案が平成29年3月28日に公表され、平成29年4月27日までの意見収集となっていますが、新聞報道ではこれが6月に集中する3月期決算会社の株主総会にフォーカスした当局の動きであると報道されています。

「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~ (案)の公表について|金融庁

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊 機関投資家の行動規範改定 議決権行使を個別開示 利益相反の懸念払拭 6月の総会から適用へ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「企業の持続的成長を促すための機関投資家の行動規範「日本版スチュワードシップ・コード」の見直しが大詰めを迎えている。月内にまとまる改定案は、株主としての議決権行使と融資業務などとの利益相反を防ぐ仕組みづくりが柱になる。資産運用会社は個別議案への賛否の開示に踏み切るなど、顧客の利益に沿って行動する姿勢の明確化を急ぐ。」

まず日本版スチュワードシップ・コードとは、
「対話を通じて投資先企業の価値向上を促す狙いで、金融庁が定めた機関投資家の行動規範。7つの原則で構成される。2014年に適用が始まり、昨年末時点で214の機関投資家が受け入れを表明した」(同記事より)

スチュワードシップ・コード運用の体系は下記の通り。
(同記事添付の「企業との対話を通じて持続的成長を促す」引用)

20170320_企業との対話を通じて持続的成長を促す_日本経済新聞朝刊

スチュワードシップ・コードにより行動規範を示す必要がある「機関投資家」を今回の改定案では明確に分類し、それぞれの責任の明確化と情報開示を企図しています。
・アセットオーナー
年金基金や保険会社など、資産保有者としての機関投資家
・運用機関
投資運用会社など、資産運用者としての機関投資家

 

■ 今回のスチュワードシップ・コード改訂の全体像を整理する!

上記の新聞報道では、「運用機関」向けコード改訂のうち、「議決権行使内容の詳細公開」にのみフォーカスを当てた報道になっていますが、せっかくなのでスチュワードシップ・コード改訂の全体像を概括してみましょう。

● 運用機関向けコード強化のポイント

(1)運用機関のガバナンス強化
(指針7-2)をより具体化し、最終受益者の利益確保・利益相反防止のため、独立した取締役会や議決権行使の意思決定と監督のために第三者機関を設置するなどガバナンス体制を整備する

(2)利益相反管理
(原則2)の事例を提示し、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じる局面を具体的に特定し、回避や排除の具体的措置に対する方針を公表する

(3)議決権行使結果の詳細開示
(指針5-3)より踏み込んで、個別の議決権行使の結果を一般に公開することを原則とし、公表しない場合はその理由を説明する
(→今回の報道ではここのみに焦点が当たっている)

(4)運用機関の自己評価
(原則6)はスチュワードシップ責任を果たしたかの定期報告だけだったが、これに自己評価を加える

● アセットオーナー

(1)アセットオーナーによる実効的なスチュワードシップ活動の確保
① 最終受益者の利益確保のために、自らが進んでスチュワードシップ活動を実践する
② 自ら議決権行使を含むスチュワードシップ活動を行わない場合は、実効的な運用機関にスチュワードシップ活動を行うよう求める

(2)運用機関に求める事項の明示
運用機関の選定、運用委託契約の締結の際に、議決権行使を含めたスチュワードシップ活動に対して求める事項・原則を明確にする

(3)運用機関に対する実効的なモニタリング
運用機関のスチュワードシップ活動が自らの方針と整合しているか、運用機関の自己評価も活用しながら定期的にモニタリングする

ここでは、新聞報道がこれら改定内容の一部だけに焦点を当てていること、運用機関とアセットオーナーを明確に分けた背景を上手に説明していないことだけを覚えておいてください。

(参考)日本版スチュワードシップ・コード改訂へ – 大和総研

 

■ スチュワードシップ・コード改訂の全体像の理解から、今回の目玉を炙り出そう!

ここで、スチュワードシップ・コード改訂のビフォア―・アフターで報道にある議決権の個別開示について考察を進めます。

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 総会議案の賛否、企業ごと開示 信託銀や運用大手、6月から 生保の対応焦点に

「三菱UFJ信託銀行など大手信託各行と大手資産運用会社は6月から、株を保有する企業の株主総会で議案に投じた賛否を、原則として企業ごとに開示する方向だ。金融庁が定める機関投資家が守るべき行動指針の改定で個別開示を求めているため。残る大口機関投資家である生命保険会社の対応が、次の焦点となる。」

(下記は同記事添付の「議決権行使の結果開示はこう変わる」を引用)

20170331_議決権行使の結果開示はこう変わる_日本経済新聞朝刊

まず、これまでの開示姿勢が消極的で問題があったのかが問われます。現行のスチュワードシップ・コードでは、

(指針5-3)
機関投資家は、議決権の行使結果を、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである

と規定だけされているので、各機関投資家はこれにしたがって開示してきたにすぎません。では機関投資家の類型別にはどのようになっていたのでしょうか。

(3/20付記事に添付の「議決権行使結果の公表状況」を引用)

20170320_議決権行使結果の公表状況_日本経済新聞朝刊

ここから明らかなのは、信託銀行と生保・損保の開示姿勢が現行のスチュワードシップ・コード下で割いて減のものであり消極的であること。

 

■ 信託銀行などの金融機関にたいするチェック&バランスのしくみとは?

今回のスチュワードシップ・コード改訂を答申した意見書の冒頭では、「金融グループ系列の運用機関について、親会社等の利益と運用機関の顧客の利益との間に存在する利益相反を回避したり、その影響を排除するための措置が必ずしも十分に機能していないケースが多く、よりきめ細かな対応が必要ではないか、との指摘がある。また、同一の機関内において運用以外の業務を行っている場合における、当該業務を行う部門と運用部門との関係についても、同様のことが指摘されている」と言及されています。

それゆえ、冒頭で触れた
(1)運用機関のガバナンス強化
(2)利益相反管理
に関する施策が個別開示と同時に実行されないと、

「一方、個別開示には懸念の声もある。日本生命保険の幹部は金融庁の有識者検討会で「関心が議決権行使(の結果)に傾斜する」と指摘。「一定の数値基準のみで議案への賛否を決める『形式主義』に陥り、企業との対話がかえって形骸化する」(国内年金運用機関)という意見もある。」(3/31記事より)

という批判に応えることができません。

また、

「個別の議決権行使結果を公表した場合、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な議決権行使を助長するのではないかなどの懸念が指摘されている。しかし、運用機関は、自らが運用する資産の最終受益者に向けて、活動の透明性を高めていくことが重要である。さらに、我が国においては、金融グループ系列の運用機関が多く見られるところ、こうした運用機関において、議決権行使をめぐる利益相反への適切な対応がなされていない事例が多いのではないかとの懸念を払拭するためにも、個別の議決権行使結果を公表することが重要である」(意見書 注記15より)

という指摘もなされています。

これを受けて、

「資産運用部門と融資部門の両方を抱える信託銀行は利益相反の懸念解消に動く。」

● 三菱UFJ信託銀行
「投資先企業の議決権行使結果について、賛否の個別開示を始める方針だ。6月の総会終了後の8月にも公表する。三橋和之資産運用部次長は「これまでも利益相反の対策はしっかりとやってきた。ただ外部へのアナウンスは不十分だった」と話す。議決権行使の方針や結果を検証するため、第三者委員会を設置した。」

● 三井住友信託銀行
「議決権行使の詳細な判断基準を開示したのに加え、社外取締役を委員長とする「スチュワードシップ活動諮問委員会」を1月に新設した。「議決権行使の透明性を高めるため、第三者の目を入れた」(堀井浩之スチュワードシップ推進部長)。」

●野村アセットマネジメント
「昨年9月から、資金調達などを通じて担当企業とのつながりが深い野村証券の投資銀行部門などから自社の運用・調査部門への人事異動を禁止している。」

(3/20記事より)

と、各社、利害関係のグループ・社内での遮断に懸命です。

融資部門と融資先企業との利害関係を、運用部門の受託責任から遮断するには、
①事前のガバナンス機能の構築
②事後の個別議決権行使状況の開示
で実効性を担保しようというというのです。

さてさて、外資系の議決権行使助言サービス会社が、いろいろと企業統治や会社施策について意見を出しています。議決権行使の判断がつきかねた国内の機関投資家の皆さんが、思考停止して、それら助言会社の助言にしたがって議決権を行使しました、と、スチュワードシップ・コードが述べるところの、「コンプライ or エクスプレイン」の「エクスプレイン(説明)」として、言及したらそれはそれで面白いと思うのですが。今年の6月から8月にかけての報道が今から楽しみです!(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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POファイナンスとクラウドファンディングは従来のキャッシュコンバージョンサイクル管理を破壊する!?

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■ 新しいファイナンス手法が新たなビジネスモデルを創出するのか、ビジネスの要請で新ファイナンス手法が編み出されるのか?

経営管理会計トピック

ビジネスとファイナンスは切っても切れない仲。どちらが原因でどちらが結果なのか、「ランダム化比較実験」「自然実験」「疑似実験」を行い、①全くの偶然か、②第3の変数が存在していないか、③逆の因果関係が無いか、をひとつずつ確認していく必要があります。

2017/4/1付 |日本経済新聞|朝刊 「原因と結果」の経済学 中室牧子、津川友介著  社会に生かせる統計の手法

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「本書は、社会科学の実証分析において最も重要な役割を果たす「因果関係」の検証方法をわかりやすく解説した啓蒙書である。著者はそれぞれ教育経済学、医療経済学の専門家で、この分野における様々な研究を使用して、因果関係を検証する統計的な手法を、数式やテクニカルな用語をあまり用いず、身近な問題を取り上げて説明している。」

そんな大上段に構えなくても、起業をする際に重視しなければならないのは、①顧客が存在しているのか、②資金繰りが持つか、が2大注視項目であることは間違いありません。前者はテクノロジーやマーケティング、人脈(販路)に長けている人の役割で、後者を考えることは、どうしてもファイナンスの知見がある人の役割であり、おそらく本ブログの読者層と重なるでしょう。大企業でも新規事業開発ではアントレプレナー的素養を必要としますので、今回は新規ビジネス立ち上げ時のキャッシュマネジメントの工夫のお話をしましょう。

 

■ 「POファイナンス」の仕組みとは?

従来はメガバンクなどに限定されていた電子債権記録業の指定をベンチャーとして初めて受けたトランザックスが嚆矢となって世に出てきました。

● PO ファイナンス

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊 トランザックス、商品受注段階で融資 電子債権を担保に

「金融とIT(情報技術)を融合したフィンテックベンチャーのTranzax(トランザックス、東京・港、小倉隆志社長)は4月、下請け企業が商品の受注段階で発注書を元に金融機関から融資を受けられるサービスを始める。中小企業の資金繰りを円滑にすることで新製品開発や設備投資を促す。」

(下記は同記事添付の「POファイナンスの仕組み」を引用)

20170320_POファイナンス_日本経済新聞朝刊

実証実験が、板金加工の武州工業(東京都青梅市)と、三井住友信託銀行や足利銀行などの金融機関とコンソーシアムを組んで行われます。そのスキームは、武州工業から仕事を受けた企業が電子記録債権の発注書を元に金融機関からの融資を受けられるようにするものです。通常、中小企業は一般的に受注した製品を納入してから代金を受けとるまでに3~4カ月かかります。将来見込まれる売り上げを担保に融資を受けることは難しく、新技術導入や設備投資のための手元予算が確保できない現状でした。

トランザックスは昨年7月から、中小企業が売掛金を担保に融資を受けられるサービスを展開しています。同様の効果が認められるファイナンス手法に、売上債権を現金で買い取る「ファクタリング」という金融サービスもあります。POファイナンスは、これら売掛金が企業の手元に入る前の「仮の売掛金」を電子債権化し、担保に充てる方式でさらに、時系列的にもっと前で企業にキャッシュ・インする仕掛けを編み出しました。

 

■ 「クラウドファンディング」の仕組みとは?

担保がないと融資が受けられない。ベンチャーにはそもそも担保に供出するものが無い。それでは起業ができない。そこで、将来の商品提供やサービス展開をお約束して、それを信用に置き換えて、特に小口のお金を集める手法が「クラウドファンディング」です。

● クラウドファンディング

2017/3/30付 |日本経済新聞|朝刊 お金革命 先駆企業の挑戦と課題(下)広がるネット資金調達 個人マネーが成長後押し

「フィンテックの波は仮想通貨にとどまらず、企業の資金調達やサプライチェーンなど「お金の上流」にも広がる。中でも注目は、個人がインターネットを通じて企業に直接お金を出す「クラウドファンディング」だ。企業の成長を後押しできれば、株式相場にもプラスにはたらく。」

例)JVCケンウッドの「マルチライブモニターイヤホン」

プロアーティストとバーチャルセッション。JVCが音楽ファンに贈るイヤホンの新体験

20170402_プロアーティストとバーチャルセッション。JVCが音楽ファンに贈るイヤホンの新体験

「ネット経由で1口1万5000円を出資すれば、開発後の商品がすぐ手に入る。クラウドファンディングの中で「購入型」と呼ばれる手法だ。募集を始めた昨年7月に100万円程度とみていた出資額は、最終的に2000万円を超えた」

その他、クラウドファンディングには様々な形態があります。

(下記は同記事添付の「クラウドファンディングの類型と最近の動き」を引用)

20170330_クラウドファンディングの類型と最近の動き_日本経済新聞朝刊

(参考)
⇒「株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株
⇒「パルコ、テナント発掘へネット通じ資金 地域金融・自治体と連携 ヒットの芽、地方から探る -クラウドファンディングは株式制度の進化形だ!
⇒「あなたの1000円が世の中を変える!新しい“お金”の流れ READYFOR(レディーフォー)社長・米良はるか 2016年1月7日 TX カンブリア宮殿

 

■ コーポレートファイナンスの基本、株式会社の成り立ちを振り返ってみると?

「POファイナンス」も「クラウドファンディング」も、ネットというテクノロジーが可能にしたファイナンス手法で、昨今流行のフィンテックの一類ではありますが、こうした手法は、従来のファイナンスと一線を画する、全く新しい性質のものなのでしょうか? 答えは否です(と筆者は考えています(^^;))。

というのは、そもそも株式会社の仕組みを思い出してください。現代の株式公開制度が誕生する前、一部の大資本家による顕名の出資を募った株式会社が誕生しました。しかし、市場規模が飛躍的に大きくなり、技術進歩のスピードも一段と速くなり、企業はもっと大量の資金を手早く調達する必要性に駆られました。そこで、株式会社へ出資を募る方法を、株式という形で小口による出資が可能な単位として切り出し、一般大衆に売出し、その転売を許可することによって株式市場での流通(売買)を保証することによって資金調達コストを低く抑えようとしたのです。

とすれば、その小口化が2つの面でよりミクロになっただけ、という質的変化ではなくて、量的変化が起きただけと筆者が見るのも不自然ではないですよね?

1)融資や出資対象のミクロ化
従来は会社単位だったものが、売上債権や商品化プロジェクト単位にまで小さくなった
2)取扱い金額のミクロ化
従来は何千万円から何百万円だったのが、数千円単位での出資が可能になった
(※ 株式については、ミニ株投資や累投などの金融商品も存在して実額はもっと小さいですが)

ICTの進化により、より小口の信用創造を発生することができたという量的変化だ、という筆者の見解の理由は上記の通り。ファイナンスの本質は変容せず、その振る舞いや仕組みがより使い勝手が良いものになったということです。より小口の投融資取扱事務コストがICTにより、飛躍的に下がったことにより可能になった手法。これでは従来の金融機関が生き残りのためにフィンテックに一気にシフトしようとしているのも理解できます。

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 送金効率化へ世界連合 三菱UFJ、米欧豪6行と来年 仮想通貨技術を活用

「三菱東京UFJ銀行は2018年初から、仮想通貨の中核技術であるブロックチェーンを活用した次世代型の国際送金サービスを始める。米バンクオブアメリカ・メリルリンチなど米欧豪の大手6行と連携。米ベンチャーのリップルが持つ技術を活用し、即時決済を可能とする。高止まりしていた手数料も引き下げる見通しだ。新技術を通じた世界連合で、銀行システムの利便性を高める。」

(下記は同記事添付の「海外送金の際に中継銀行や情報仲介機関が不要に」を引用)

20170331_海外送金の際に中継銀行や情報仲介機関が不要に_日本経済新聞朝刊

 

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 フィンテック企業と連携拡大 信金、口座接続可能に メガ銀は会計アプリで振り込み

「金融とIT(情報技術)を組み合わせたサービスを展開するフィンテック企業と既存の金融機関の垣根が低くなってきた。信金中央金庫は2017年中に、全国の信金の口座情報と家計簿アプリなどを直結するシステムを構築。メガ銀やネット銀は会計アプリから直接銀行口座に振り込みできるサービスを始める。」

 

■ ようやく本題に。従来のキャッシュコンバージョンサイクル管理を破壊する威力はどこに?

まずおさらい。
キャッシュコンバージョンサイクル(Cash Conversion Cycle:CCC)とは、
「原材料の仕入れから製品の売上代金の回収までの日数を指し、これが小さいほど企業の現金回収が早い=資金繰りが楽、であることを示す」

⇒「FY2015 トヨタ自動車 財務分析(3)CCC 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』より
⇒「花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟に
⇒「東芝、世界で資金効率化 4地域別にCFO 投資から回収を素早く

企業の資金効率を高めるため、在庫や売掛金を早く現金化し、買掛金の現金支払いを渋ることで、企業が外部から調達しなければならない資金(キャッシュ)を減らすことがCCC管理の第一目標です。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクル

次に、浮いたキャッシュを返済に回して資金調達コスト負担を軽減させたり、積極的な設備投資・開発投資・人財投資に回すことも考えられます。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクルのねらい

しかしですね、CCCがカバーしているのは、製造業でいえば、量産化が決まって部材を発注した後からのお話で、流通業でいえば、SPAでない限り、マーチャンダイズが終わって、商品仕入が始まった以降のお話。上記の「POファイナンス」「クラウドファンディング」はもっと以前のプロセスから、企業の資金繰りにプラスの効果を発現させる可能性を秘めた大したものなのです。

経営管理会計トピック_ファイナンス手法の進化がCCCを破壊する!?

ものづくりが「Industry4.0」の進展から、ますます「マスカスタマイゼーション」に傾注し、顧客が経験価値や自分仕様の商品の使用価値をより重視する方向が大勢の中、ファイナンスも個別化・小口化・有期限化が求められていきます。新しいビジネスモデルが新しいファイナンス手法を生み出すのか、新たなファイナンス手法が新しいビジネスモデルを実現可能にするのか? まあ、学者みたいな神学論争は脇に置いておいて、我々実務家は、時勢に遅れず常に新しい管理手法を身に付けていかなければなりません。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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グローバル企業、詳細な税務情報公表 節税批判受け - CSRの先に公表企業にどのような思惑があるのか?

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■ 企業側から積極的に税務情報を公表し始めた思惑の裏はあるのか?

経営管理会計トピック

2015年8月、モサック・フォンセカ法律事務所が作成していた「パナマ文書」が外部流出し、タックスヘイブンを活用した過度な租税回避に対する社会的批判が高まり、グローバル企業側も対抗策としていろいろと工夫を始めました。

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊/電子版 グローバル企業、詳細な税務情報公表 節税批判受け

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「グローバル企業が相次ぎ詳細な税務情報を公表している。開示義務のない国別の納税額などを記載し、経営の透明性を訴える戦略だ。背景にはタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を示す「パナマ文書」が明かされ、極端な節税策への批判が高まったことがある。欧州では情報公開を促す法整備も進んでおり、対応を求められる企業は増えそうだ。」

(下記は同記事添付の「低税率国の利用実態を公開する企業も」を引用)

20170320_低税率国の利用実態を公開する企業も_日本経済新聞朝刊

それまで、過度にタックスヘイブンを活用したり、各国の税務制度の盲点を突いたりして、税金コストを最小限にすることに労力を費やしていた欧州企業から変化がみられるようになりました。どうして税務情報を公表する流れになっていったのかを考察する前に、本記事にて紹介された各企業の公表状況を見ていきたいと思います。

 

■ 節税批判を受け、欧州企業では透明性の高い税務施策が次々と公表されている

まずは先進事例として欧州企業の開示姿勢を見ていきます。

(下記は同記事添付の「税務情報公開の取り組み」を引用)

20170320_税務情報公開の取り組み_日本経済新聞朝刊

● ボーダフォン(英)
2015~16年の納税状況を自社サイトなどで公表。そのレポートは、①概要、②国別納税状況、③税務方針の3部構成で100ページ以上に及ぶ。その内容は、国別の収入とそれに対する納税額も明記。2013年から詳細リポートを開始し、2015~16年からは、法人税率が低いことで知られるルクセンブルクや租税回避地の利用実態、その理由などを説明する項目も新たに盛り込まれるようになった。

● BP(英)
従来、地域別の納税額のみを公表していたが、2016年からは国別納税額に詳細化

● ユニリーバ(英蘭)
納税総額、実効法人税率、地域別納税割合などを公表

● カールスバーグ(デンマーク)
法人として収める法人税等だけでなく、従業員が納めた税金の合計額、販売商品の消費税も合わせ、2015年は総額386億デンマーククローネ(約6200億円)に上ったと公表

 

■ 日本企業でも積極的に税務方針を公表するトレンドが

合わせて、本記事で取り上げられた日本企業の実体をご紹介。

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊 税務方針公表、日本企業も変化

「極端な節税策を取らないが、税務情報の公表にも消極的といわれていた日本企業も変化の兆しが出ている。味の素、キヤノンなどが納税に関する考え方や税務の基本方針を公表。社会的関心が高まっていることを受け、株主や消費者らに適正な納税姿勢を強調する狙いがあるようだ。」

● 味の素
味の素グループ 理念・方針集に「味の素グローバル・タックス・ポリシー」として記載
味の素グループ 理念・方針集|2016年10月発行/2017年3月修正)

20170320_味の素_グローバル・タックス・ポリシー

20170320_味の素_グローバル・タックス・ポリシー2

「味の素グループ行動規範(AGP)」を構成する一部として公表されており、コンプライアンス視点での宣言に近いものになっています。

 

● キヤノン
自社サイトメニューにて、CSR活動 地域社会への経済貢献 を構成する
①適正な納税の履行、②貧困地域における支援活動、③「キヤノン財団」を通じた研究助成活動という構成で公表

あくまで、「事業活動を通じて得られた利益を地域社会の発展のために還元」という従来のステークホルダー理論に基づく、地域社会への貢献としての捉え方になっています。

 

● アサヒグループホールディングス
自社サイトで、「経営理念・方針」を構成する2つの「コーポレートブランド」「税務行動指針」の内のひとつとして公表されています。

注目箇所を一部、下記に抜粋します。

20170320_アサヒグループホールディングス_税務原則_一部抜粋

同社の税務行動規範は、
  ・税務ガバナンス
  ・税務機能の責務と体制
  ・法令順守
  ・透明性
  ・移転価格
  ・ストラクチャーとプランニング
  ・タックスヘイブン
  ・不確定な税務ポジションと税務解釈
  ・優遇税制の適用
  ・税務当局との関係
から構成されており、ステークホルダー理論、CSR、コンプライアンスの各視点からバランスよく記述がされており、見習う点が多々ある宣言文になっています。

特に、上記で抜粋した通り、
① 事業目的に沿った税務のプランニングを実施する(租税回避目的のスキームを組まない)
② 税務のプランニングは、あくまで立法趣旨に基づき、(株主にとっての)コスト抑制と社会貢献のバランスをとることを宣言している
タックスヘイブンを租税回避目的では使用しないこと明言している
という3点が特筆に値する箇所になっていると考えます。

 

● コニカミノルタ
自社サイトの CSR(社会・環境活動)|コンプライアンス|コンプライアンスの実践 の中で、「事業活動を通じて、適正な納税の義務を果たすことにより、地域社会の発展に貢献するために「コニカミノルタグループ税務方針」を定めています」と宣言されています。そこでは、「UNGC(国連グローバルコンパクト)やOECDの国際指針に裏付けされた“社会的な要求や期待に応えること”」というグローバル規模でのステークホルダーの指示を得たいとする姿勢が見られます。

 

● NTT
自社サイトにあるCSR|ガバナンス のページが、①コーポレート・ガバナンス、②コンプライアンス、③リスクマネジメント、④税務、⑤知的財産管理 で構成されており、そのひとつが「税務」となっています。

20170320_NTT_税務

詳細は、サステナビリティレポート2016 (PDF)

 

● 第一三共
自社サイトにある CSR|コンプライアンス経営の推進 にて、「税務コンプライアンスに対する取り組み」がPDFで公開されています。

その中で、
①税務当局との良好な関係構築への取り組み
②国際的な税務フレームワークへの取り組み
 (BEPS、移転価格、タックスヘイブン)
という構成で「税務コンプライアンスに対する取り組み」として宣言がなされています。

20170320_第一三共_税務コンプライアンスに対する取り組み

 

■ 日欧企業の開示・公表姿勢の違いとそもそもの公表がトレンドになった背景について

欧州企業が積極的に税務内容を公表するには、ここ3,4年続いた一連の行き過ぎたグローバル企業における国際税務対応への批判をかわす目的があります。

「各社の背中を押しているのは、企業の節税策に対する国際世論だ。08年のリーマン・ショックを機に厳しい批判が目立ち始めた。米スターバックスが英国でほとんど法人税を納めていないとして不買運動を起こされ、13年には法的根拠のない2千万ポンド(約27億円)の自主納付に追い込まれた。16年4月には「パナマ文書」が明らかになり、一段と批判が高まった。」

欧州企業でこのような税務情報の公表が進む背景には、欧州課税当局の次のような動向が大きく影響しています。

・英国
2016年から、同国内で一定規模以上の事業を営む企業に税務戦略の公表を義務付けるよう法改正
・欧州委員会
2016年4月、大企業に対し欧州連合(EU)域内の納税額や利益、従業員数などの公表を義務付ける新ルールを提案(現時点で審議中)

加えて、米国ではトランプ新大統領が「国境税」を持ち出したり、節税目的のM&Aへの規制をかけたり、国家主権の徴税権に挑戦するグローバル企業への強硬な対抗措置を採る姿勢を明らかにしています。

⇒「「国境税」設計難しく トランプ氏、共和党案「複雑すぎる」 - 関税や米国法人税を含む包括的なトランプ課税政策を素人でもわかりやすく
⇒「パナマ文書にもめげず米当局企業課税逃れに新規制、結果としてファイザー、アラガン買収断念 - 日本経済新聞まとめ

つまり、グローバル企業は、株主に対する利潤追求・利益還元を重視するあまり、
① 課税当局の怒りを買った
消費者からの反感を買った
ので、ストックホルダー重視からステークホルダー重視へ企業経営の舵取りを変更する姿勢を明らかにするため、上記のような徴税権を持つ主権国家との共存を図るための宣誓、消費者向けの広報施策としての納税貢献度の開示に力を注いだものなのだと理解できます。

日欧企業間では、宣言文に留まっている日本企業と、具体的な納税数字の公表に踏み込み始めた欧州企業の温度差が顕著です。それは、次のように筆者は理解しています。

1)日本企業はあくまでこの問題を「コンプライアンス」として捉えているだけ
2)欧州企業では、企業の利潤に対する「株主」と「課税当局(地域社会)」の配分問題として真剣に議論されている

したがって、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を形式的に遵守していくのと同レベルで、文章だけの宣言でなんとなく済ませようとしている(済むと思っている)状況把握から来る危機感の違いによるものです。そもそも、法的には株式会社は株主が所有者で、株主の経済的利得を最大限にする(出資金をより高利で運用する)ことが企業活動の主目的であることを思い出すなら、

(欧州における企業観)
企業=株主 ⇔ 課税当局(国家主権)

(日本における企業観)
企業=従業員と内部昇格経営者 ⇔ 課税当局(国家主権)

という違いがあることを明確に意識すべきでしょう。それゆえ、株主からの強い企業価値最大化(=株主還元最大化)のプレッシャーから租税回避に走らざるを得ない構造にある株式会社が、みんなで仲良く経営しようというヌルい「ステークホルダー経営」、CSRとかESG投資とか、全方位の全ての利害関係者がWin-winになるように、という御託を並べた宣言文だけで許されるわけがありません。そこは企業活動の成果(利潤)に対するお互いの取り分を明確にするため、具体的な数字のやり取りを回避することはできません。

世の中の経理部や経営企画部のスタッフはまた仕事が増えて嫌だな、(会計・経営管理)コンサルタントは仕事が増えて嬉しいな、と悲喜こもごもな感想をお持ちになるでしょうが、企業活動の本質、株主会社の基本構造に思いを馳せれば、ごく自然な流れと言わざるを得ませんね。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(4)製造業のサービス化に適応した組織作りとは?

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■ 本論に入る前に、延岡健太郎 一橋大学教授を紹介します

経営管理会計トピック

一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介 より

20170327_延岡健太郎_一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介

のべおか・けんたろう 米MIT経営学博士
戦略・組織マネジメント、技術経営
1959年生

【最近取り組んでいるテーマ】
国際企業の技術・商品開発における戦略と組織の研究

 

(9)製造業のサービス化に2種類

本稿は、日本経済新聞に2017/3/8~21まで連載された記事を元に構成しています。全10回という本コラム連載においてはいささか長い方の部類に入ります。読みごたえがあるというものです。(^^;)

20173/8付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(1)顧客の求める価値が「暗黙化」 一橋大学教授 延岡健太郎

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

顧客が商品を使用する際に生じる経験価値や使用価値による顧客価値が重視されていくにつれ、製造業のサービス化も進みました。厳密にいうと、このサービス化には2つあります。

(1)サービス事業化
(2)サービス価値化

(1)サービス事業化
・顧客が代金を支払う対象が商品からサービスに変わるビジネスモデルの変化
【例】
①オンプレミスの情報システムを構築したり、パッケージソフトウェアを購入したりする代わりに、クラウド上のサービス(SaaS等)の利用契約に対価を支払う
②車という商品を購入するのではなく、カーシェアリングという移動手段としてのサービスを使用時間比例で購入する
③商品販売の後に、保守サービスや消耗品の提供をネット販売で行う

こうしたサービス事業化の嚆矢となったのがルイス・ガートナー(1993年4月、IBM初となる外部招請の会長兼最高経営責任者(CEO)に就任)の下でサービス化に邁進して蘇った米IBMです。

「サービス化を先導した代表企業の米IBMはかつて売り上げの大半がハードウエアなどの商品でしたが、現在ではサービス事業が主体です。顧客に商品(ハードやソフト)を提供する場合でも、商品としてではなく、ソリューションの構成要素として提供する場合が増えました。ネットの進化にも後押しされ、消費財と生産財の両分野で、製造企業がサービス事業化し、新たな顧客価値に対応する事例が増えています。」

(2)サービス価値化
・提供される商品が顧客から認知される価値が「サービス価値」に変化
・「サービス価値とは、商品の価値を超え、顧客が商品を使用(経験)する際に、顧客との接点で生じる意味的価値」
【例】
・アップルが提供する商品(消費財)の顧客経験価値
・キーエンスがソリューション営業を通じて提供する商品(生産財)の経済的価値

この形態をとっても、顧客は商品に対して対価を支払います。つまり、商品が提供する価値の内容がサービス化しても、通常の製造業と同様、顧客は書品購入の代価を支払うというものです。

上記「(1」サービス事業化」と「(2)サービス価値化」の違いは、課金の形態が、サービス消費か商品購入かの違い。共通するところは、「提供する価値に多くの意味的価値やソリューションの価値が含まれること」です。

 

(10)組織の分業を見直す必要

顧客経験価値など統合的(機能的+意味的)価値がますます重要になってきた現在、製造業を中心に、いったんは広がった組織の分業体制が、今度は統合する方向で変革が進められています。従来は、規格品の大量生産・大量販売というビジネスモデルが通常でした。それゆえ、各機能部門が専門家利益を追求し、各部署でそれぞれのミッションを独自に追っていても、
①仕様:提供商品の形態が固定的
②業務プロセス:製品の受け渡しの方法やタイミングが安定的
であったため、バラバラで動いていても、最終的に一つの商品を顧客に提供することができ、会社組織として求心力が自然と働くようになっていました。

「(8)開発と営業が付加価値を共創」((やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(3)BtoB企業・生産財企業はソリューション営業で経済的価値を訴求するのだ!で紹介)で触れたように、生産財企業では商品とソリューションの価値を開発と営業が共創する重要性が高まっていることが説明されました。

以下、消費財企業における顧客価値の創出を考察してみます。

(1)デザイン機能の商品開発への統合
従来は、デザイン部門が独立して活動していました。
・世界初は、1927年の米ゼネラル・モーターズ(GM)
・日本発は、1951年の松下電器産業(現パナソニック)
その理由は、急速に進む大量生産技術に対応するため、技術者が専門化した一方でデザイン(意匠)が重要になったからです。

しかし、顧客経験価値の創出のためには、デザインには意匠を超えた価値が求められ、また、3次元CADなど共創ツールも発達し、分業の必要性が低下してしまいました。ダイソンのようにデザインエンジニアリングの推進の成功は他社にとっても研究に値するでしょう。

(2)商品開発と生産技術の協働
これは、日本のものづくりの強みの一つであり、高品質な商品の提供を可能にしました。しかし今後は、

「商品開発がデザインや営業・マーケティングと共創することで、消費者が購入して使用するプロセス全体での経験価値の向上が求められます。この点で日本企業はアップルやダイソンに負けています。」

これは、意味的な商品的魅力を高めるという本稿のテーマだけに限らず、原価管理の世界にも共通して言えることです。「Design to Cost」または「原価企画」と呼ばれるものです。つまり、デザインを考える際に、コストダウンの視点を盛り込む、という狙いを重視するものです。商品価値を上げると同時にコストダウンも図るという一石二鳥なやり口で収益性を高めるのです。

閑話休題。

延岡教授によりますと、このような経営ニーズを受けて、各大学でもデザインとエンジニアリング、さらにビジネスを統合した教育が求められ、世界中で対応するプログラムが増えてきているそうです。日本も工学部でデザインやビジネスの教育を増やした方がよさそうですね。従来、建築学科で「SEDAモデル(Science, Engineering, Design, Art)」
の統合的価値が重要なので、デザインやアートも教えられてきたように、いまや他分野でも必要性が高まっているそうです。

(下記は、同記事添付の「SEDAモデル」を引用)

20170313_SEDAモデル_日本経済新聞朝刊

 

(3)垂直統合
組織の肥大化の悪例としてみなされてきた垂直統合も部分的に再評価すべきです。その好例が米アップルになります。アップルでは、

① CPU(中央演算処理装置)や独自OS(基本ソフト)の内部開発
高度な製造設備への莫大な投資
     ⇒「(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(2)SEDAモデルでデザイン思考を理解する!」:(5)エンジニアリングとデザインを統合で詳解
③ アップルストアの世界展開:アンテナショップ化した直販モデル

という垂直統合モデルを生かして成功を収めています。こうした統合的価値の実現には、意味的価値重視の顧客価値創造をするという意思と提供商品(サービス)への強い思い入れが必要で、全組織を挙げた統合的な取り組みの元で実現されるものであると筆者は考えます。如何でしょうか?(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(3)BtoB企業・生産財企業はソリューション営業で経済的価値を訴求するのだ!

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■ 本論に入る前に、延岡健太郎 一橋大学教授を紹介します

経営管理会計トピック

一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介 より

20170327_延岡健太郎_一橋大学イノベーション研究センター研究スタッフ紹介

のべおか・けんたろう 米MIT経営学博士
戦略・組織マネジメント、技術経営
1959年生

【最近取り組んでいるテーマ】
国際企業の技術・商品開発における戦略と組織の研究

 

(7)ソリューションの提案が必要

本稿は、日本経済新聞に2017/3/8~21まで連載された記事を元に構成しています。全10回という本コラム連載においてはいささか長い方の部類に入ります。読みごたえがあるというものです。(^^;)

20173/8付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(1)顧客の求める価値が「暗黙化」 一橋大学教授 延岡健太郎

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

ここからは生産財における顧客価値を見ていきます。生産財についても真の顧客価値は製品のカタログ仕様(機能的価値)だけでは決まりません。生産財における最重要価値は、「経済的価値(購入した製品を使って実現できるコスト低減など)」そのものです。それゆえ、同じ部品や業務システムであっても、ユーザ企業によってその体感できる価値は全く異なります。

高い経済的価値を提案できれば、顧客企業は高い価格でも購入することでしょう。そのため生産財企業は、従来の「機能的価値」ではなく、上記の真の顧客価値である「経済的価値」の増加を目標に商品開発とセールスを行うべきです。しかし、その簡単なことができていない企業が多いのが現状です。

【理由1】顧客企業の情報と知識が欠如
「顧客企業の経済的価値を高める商品開発や営業には、顧客の事業内容やコスト構造などに加え、顧客の抱える問題点やそれによる損失額などの情報が必要です。しかし、現在の顧客だけでなく、潜在的な顧客企業の情報を蓄積する仕組みを持つ企業は多くありません。」

【理由2】ソリューション提案ができる営業力の欠如
「これまで日本企業は製品の機能的価値を重視していたので、顧客企業の現場でソリューションを提供できる人材が十分に育っていません。代理店に営業を任せている企業が多いのが実情です。」

これに対処するために、「意味的価値」の重要性を認識して営業部隊を拡大する企業も出てきています。

例)日立製作所
「昨年、営業人員を2万人増やすと発表しました。ただ、営業担当者のソリューション能力は一朝一夕に高まるものではなく、長期的に育てる仕組みが必要になります。
強力なソリューション営業部隊は、顧客企業の情報収集のためにも必要です。顧客企業はギブ・アンド・テークでなければ、重要な経営情報は提供しません。相談すれば、優れた提案を受けられる場合に、コスト情報のような重要な情報を提供するのです。」

(参考)
⇒「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換 AIなど駆使、課題解決(前編)-サービス&プラットフォームBUのポジショニングの説明が無い!?
⇒「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換 AIなど駆使、課題解決(後編)- ハードウェアを持ったままでコンサルティングサービスが可能か?

【理由3】商品企画能力の欠如
「顧客企業の情報が多くても、それだけで価値ある商品を企画開発できるわけではありません。顧客になりうる多くの企業の経営に関して深い知識を持ち、事業センスを備えた人材が求められます。そのような企画人材を継続的に育てる仕組みが必要です。」

これを筆者の生業である経営コンサルタント業界に当てはめてみましょう。

コンサルタントが対処する問題は、クライアント企業に内在する様々な経営課題。まず一にも二にもクライアントのビジネスモデル、市場環境、財務状況、人財と知財に関する情報が分からないと策の建てようがありません。そうですね、確かに「顧客企業の情報と知識」を知らないと何も始まりませんね。

次に、「ソリューション提案ができる営業力」。クライアントの経営課題と置かれている環境が分かったら、リファレンス可能で適用できそうな情報整理のためのフレームワークや、課題解決に役立ちそうなメソドロジーに当たります。そして仮説を立てて、いわゆる「提案」を作り、見積り(作業、成果物、必要なコストやリソース)を行います。課題と課題解決策を結び付けられることがソリューション力なのではないかと。

最後に、「商品企画能力」。コンサルタントサービスは、無形人的サービス。そうです。コンサルタント自身が売り物(商品)なのです。コンサルタントの振る舞い、言動、思考、センス、スキルそのものが商売の種。だから、筆者も若手の教育に力を入れています。当然、自分自身のスキルアップにも努力を惜しみません。(^^;)

 

(8)開発と営業が付加価値を共創

<キーエンス>
「ソリューション提案をうまく実現しているのが、工場用センサーや計測機器を製造販売するキーエンスです。営業担当者は企業の製造現場に入り込み、顧客になりうる企業が抱える問題点、それが解決された場合の経済的価値(コスト・工数の削減など)をニーズカードやデータ入力で報告します。1000人以上の営業担当者が毎月1件は報告するので、毎月千件単位で顧客情報が集まります。」

どうしてキーエンスは、顧客企業に提案ができるのか?

貴重な情報を聞き出せるのは、営業の能力が高いから。営業能力が高ければ、顧客価値を付加すると同時に、貴重な情報を収集できます。そしてキーエンスの商品を使った場合のコスト削減や生産性改善を提案できれば、顧客企業は価格が高くても購入するわけ。

キーエンスのCSF/KFSは営業力。営業の能力構築に向けて、教育と支援の仕組みが充実しています。自社のCSF/KFSを的確に熟知し、そのための方策を持っている企業は強い強い。

施策例)
① 顧客企業の主要業種(自動車や半導体など)の製造設備について、効率的に勉強できる教材を充実させている
② 自社の製品が顧客企業で役立った事例について、使用方法や得られた効果のデータベースを整備している
③ そこから、実現された効果をわかりやすく顧客に示す資料が各商品について多数準備されている
④ 競合他社の商品との比較情報も充実している

コンサルティングファームをはじめ、BtoBの人中心のサービス業ではどこも同じ取り組みをしているので、キーエンスだけが特異なことを実践しているとは思いません。ただし、キーエンスはその取り組みの「実」を得ています。どこにキーエンス成功の秘訣があるのか?

【秘訣1】
「これらはすべて営業が使いやすいツールとして整備されているので、入社2、3年の営業担当者でも、効果的な提案型営業ができます。また、顧客企業に良い提案ができれば、深い意見交換になり、価値の高い情報が得られ、優れた商品にも結びつきます。同時に営業の提案能力がさらに高まる好循環が生まれます。」

【秘訣2】
「技術者も営業が顧客価値を付加できるように、使いやすさを徹底し、現場で説明しやすい工夫をします。機能的価値と意味的価値の統合的価値を商品開発と営業が共創するのです。両者が一体で、顧客の情報収集から商品開発、ソリューション提案を通して顧客価値向上に取り組んでいます。」

延岡教授は、BtoBの生産財を扱っている企業の営業スタイルの変容を提言されています。

「このように営業も付加価値の源泉なので、代理店から直接販売に変える必要性が高まっているのです。企業は組織構造や分業体制の変革を求められています。」

最後は、組織設計・組織的取り組みのお話ということでした。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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