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■ 文化財修復会社トップは英国人アナリスト

コンサルタントのつぶやき

日光東照宮の華麗な陽明門で修復を手がける小西美術工藝社の社長に、元金融アナリストで英国人のアトキンソン氏が就任。300年以上の歴史を持つ老舗の職人集団からなる会社がどのように経営再建されたか。その軌跡と、アトキンソン氏のこの業界に対する志(こころざし)を振り返る。

まずは、日光東照宮で修復作業にあたっている職人にインタビュー。
「元あった通りにやることが大事なので、自分がこうしたいということではなくて、自分らしさを出さない。これは文化財であって自分の作品でないから」
「細かい所に神が宿る。仕事が細かいほど神の領域に近づく」

金箔押

(出典:日光東照宮ホームページより

職人たちが職人魂を込めてこういう返答をするまでになった過程でどのような経営再建の苦労があったのでしょうか?

元ゴールドマンサックスアナリストのアトキンソンさんは、42歳で隠居の身となった後、顔見知りの先代から社長業を託された。「数字、経営、文化に通じている人が社長になればいい、それがたまたま外国人だったということ」と自身の方向転換を振り返る。

 

■ アンビリーバボー! これが“職人”の会社の実態!?

入社後、目の当たりにした会社の危機的状況とは?
1.経費の精算を何年もほったらかしにしている職人がゴロゴロいた
2.現場にいくらお金を使っているのか分からない
  → 仕事が終わってから赤字だったことが分かることもしばしば
3.後継者不足。若手がやめていくのに、採用も育成もしていなかった

逆に、社長に初めて会った職人たちの感想は?
1.外国人なので、始めた会った時は“この人が社長か”という不安があった
2.ずかずか改革していく。今までの慣習とか全部ぶち壊して。社内の反発は相当あったと思う

こういう対立構図からどのような改革が行われていったのか?

 

■ 職人と一触即発?会社を変えた大改革

● アトキンソン流改革 その1:後継者不足の解消
・新入社員を毎年採用し、研修で育てていく
・非正規社員をほぼ正社員に
・社員の平均年齢 46.3歳 → 37.0歳
・高給取りのベテラン社員たちの給与を大幅ダウン

● アトキンソン流改革 その2:職人仕事の数字化
・作業進捗をデジタルで可視化
日別の作業出来高の計画と実績を一目で分かるようにグラフ化
従来は、例えば、4月末までの進捗が6月にならないと分からなかったそう。
1,2ヶ月後に遅れが判明しても、その時点では現場はパンク。
現在では、毎週末に進捗を管理し、数字をきちんと追って現場管理を実施している
・資材調達にも数字は生きる
高価な金箔は金相場を見てまとめ購入するようになった
使う現場と相談して、相場が安い時に大量購入している。それまでは必要な都度、必要量
を都度購入。結果として採算度外視だった

● アトキンソン流改革 その3:どんぶり勘定の廃止
・社用車を使ったときは、同乗者・走行距離の申告を義務化
私用が減り、ガソリン代も半分近く減った
・長期出張者用の社員寮の経費を個人持ちに
日光東照宮修復など、請負工事は地方で長期になることが多い。そのため、現場付近に社員寮を用意して、従業員はそこで共同生活をする。以前は、社員寮で使用する日用品(炊飯器からシャンプーに至るまで)はすべて会社持ち。だから無駄遣いも多かった。
・休暇を増やし、帰省手当ても充実
アメとムチを使い分ける。個人負担を増やす一方で、福利に関する会社からの手当てを充実化。社員の正規雇用の推進の効果と相まって、結婚して子供をもうける社員が増加した

こうして、赤字体質による経営危機から、小西美術工藝社は再建されるに至った。

「何をするにしても反対は出る。みんながハッピーになるわけがない。1個1個の問題をどう解決するかを決めて徹底的に実行していく」

 

■ 日本の国宝を守れ - 青い目の侍が伝統を斬る!

「普通のことをしているだけなんだけどね。改革なんてしている意識はないよ!」

職人の世界は美化される傾向が強い。

「“職人は(育つのに)10年かかる”“外国人に分かるはずがない”と言われた。そう言われたときに、言い返していることは、『10年かからない専門職が他にあるのか逆に教えてくれ?』。弁護士はロースクールを出た途端に有名弁護士になれるのか? 医師は手術すれば初日から“神の手”と呼ばれるのか? 金融マンも同じ。なんでも10年かかるのは当たり前の話」

「やっていることはみんな同じ。職人は朝起きて準備して、会社に行ってお金をもらって生活している。普通の人たちと何が違う? みんなそうやって仕事をして稼いでいるではないか?」

「だから会社でシャンプー買うのは非常識。どこの会社もそんなことはしない(笑)。だから、『シャンプーでお金もらいたいか、それとも給料でお金をもらいたいか?』と職人に問い直したんだ」

村上氏がこう問いかけた。
「社長を引き受けるとき、自身には会社を再建できる自信はあったんですか?」

→「自信は無かった。だってそれまで社長をやったこともなかったし。」

「何とかなると思われたんですか?」

→「そういうことは考えていなかった。やるしかない。それだけ。ただ、やろうとしていることはマイナスなことは何もない。以前は毎年昇給なぞしていなかったが、今は昇給している。以前は非正規雇用だったが、今は正社員になった。以前は研修は無かったが、今は研修がある。やろうとすることは、職人たちに負担もかかるがプラスになって戻ってくる。職人たちもこの変化に実感を持ってくれるようになった」

会社を改革しようとするとき、大事なことは何か? を気づかせてくれたインタビューでした。

① 当たり前のことを普通にやる(“改革”だなんて構えてやってもいいこと無い!)
② 実行責任者は強い信念を持ってことに当たる
③ 皆に分かりやすく、可視化する、説明を怠らない、変化を気づかせてあげる
④ 会社と従業員と顧客、皆にとってメリットが生じるように

(④については、アトキンソン氏は、「皆がハッピーになることはない」と番組中に答えられていますが、一方で、改革の成果をきちんと従業員に還元していることを実感させることも大事とおっしゃっています。ここは、使い古しの言葉ですが、「Win-win」が大事なんだと素直に受け取っておきたいと思います)

思いのほか、長文になってしまいました。
次回は、アトキンソン氏の改革マインドが全開になったエピソードの紹介と、氏の業界(もう少し広く観光業という目線で)に対する志(こころざし)について説明をしたいと思います。

続く

——————–
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小西美術工藝社のホームページはこちら

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日本の国宝を守れ! 小西美術工藝社・デービッド・アトキンソン(1) 2015年5月21日OA TX カンブリア宮殿http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e41-e1428166267398.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e41-150x150.jpg小林 友昭TV番組レビューカンブリア宮殿,デービッド・アトキンソン,小西美術工藝社■ 文化財修復会社トップは英国人アナリスト 日光東照宮の華麗な陽明門で修復を手がける小西美術工藝社の社長に、元金融アナリストで英国人のアトキンソン氏が就任。300年以上の歴史を持つ老舗の職人集団からなる会社がどのように経営再建されたか。その軌跡と、アトキンソン氏のこの業界に対する志(こころざし)を振り返る。 まずは、日光東照宮で修復作業にあたっている職人にインタビュー。 「元あった通りにやることが大事なので、自分がこうしたいということではなくて、自分らしさを出さない。これは文化財であって自分の作品でないから」 「細かい所に神が宿る。仕事が細かいほど神の領域に近づく」 (出典:日光東照宮ホームページより) 職人たちが職人魂を込めてこういう返答をするまでになった過程でどのような経営再建の苦労があったのでしょうか? 元ゴールドマンサックスアナリストのアトキンソンさんは、42歳で隠居の身となった後、顔見知りの先代から社長業を託された。「数字、経営、文化に通じている人が社長になればいい、それがたまたま外国人だったということ」と自身の方向転換を振り返る。   ■ アンビリーバボー! これが“職人”の会社の実態!? 入社後、目の当たりにした会社の危機的状況とは? 1.経費の精算を何年もほったらかしにしている職人がゴロゴロいた 2.現場にいくらお金を使っているのか分からない   → 仕事が終わってから赤字だったことが分かることもしばしば 3.後継者不足。若手がやめていくのに、採用も育成もしていなかった 逆に、社長に初めて会った職人たちの感想は? 1.外国人なので、始めた会った時は“この人が社長か”という不安があった 2.ずかずか改革していく。今までの慣習とか全部ぶち壊して。社内の反発は相当あったと思う こういう対立構図からどのような改革が行われていったのか?   ■ 職人と一触即発?会社を変えた大改革 ● アトキンソン流改革 その1:後継者不足の解消 ・新入社員を毎年採用し、研修で育てていく ・非正規社員をほぼ正社員に ・社員の平均年齢 46.3歳 → 37.0歳 ・高給取りのベテラン社員たちの給与を大幅ダウン ● アトキンソン流改革 その2:職人仕事の数字化 ・作業進捗をデジタルで可視化 日別の作業出来高の計画と実績を一目で分かるようにグラフ化 従来は、例えば、4月末までの進捗が6月にならないと分からなかったそう。 1,2ヶ月後に遅れが判明しても、その時点では現場はパンク。 現在では、毎週末に進捗を管理し、数字をきちんと追って現場管理を実施している ・資材調達にも数字は生きる 高価な金箔は金相場を見てまとめ購入するようになった 使う現場と相談して、相場が安い時に大量購入している。それまでは必要な都度、必要量 を都度購入。結果として採算度外視だった ● アトキンソン流改革 その3:どんぶり勘定の廃止 ・社用車を使ったときは、同乗者・走行距離の申告を義務化 私用が減り、ガソリン代も半分近く減った ・長期出張者用の社員寮の経費を個人持ちに 日光東照宮修復など、請負工事は地方で長期になることが多い。そのため、現場付近に社員寮を用意して、従業員はそこで共同生活をする。以前は、社員寮で使用する日用品(炊飯器からシャンプーに至るまで)はすべて会社持ち。だから無駄遣いも多かった。 ・休暇を増やし、帰省手当ても充実 アメとムチを使い分ける。個人負担を増やす一方で、福利に関する会社からの手当てを充実化。社員の正規雇用の推進の効果と相まって、結婚して子供をもうける社員が増加した こうして、赤字体質による経営危機から、小西美術工藝社は再建されるに至った。 「何をするにしても反対は出る。みんながハッピーになるわけがない。1個1個の問題をどう解決するかを決めて徹底的に実行していく」   ■ 日本の国宝を守れ - 青い目の侍が伝統を斬る! 「普通のことをしているだけなんだけどね。改革なんてしている意識はないよ!」 職人の世界は美化される傾向が強い。 「“職人は(育つのに)10年かかる”“外国人に分かるはずがない”と言われた。そう言われたときに、言い返していることは、『10年かからない専門職が他にあるのか逆に教えてくれ?』。弁護士はロースクールを出た途端に有名弁護士になれるのか? 医師は手術すれば初日から“神の手”と呼ばれるのか? 金融マンも同じ。なんでも10年かかるのは当たり前の話」 「やっていることはみんな同じ。職人は朝起きて準備して、会社に行ってお金をもらって生活している。普通の人たちと何が違う? みんなそうやって仕事をして稼いでいるではないか?」 「だから会社でシャンプー買うのは非常識。どこの会社もそんなことはしない(笑)。だから、『シャンプーでお金もらいたいか、それとも給料でお金をもらいたいか?』と職人に問い直したんだ」 村上氏がこう問いかけた。 「社長を引き受けるとき、自身には会社を再建できる自信はあったんですか?」 →「自信は無かった。だってそれまで社長をやったこともなかったし。」 「何とかなると思われたんですか?」 →「そういうことは考えていなかった。やるしかない。それだけ。ただ、やろうとしていることはマイナスなことは何もない。以前は毎年昇給なぞしていなかったが、今は昇給している。以前は非正規雇用だったが、今は正社員になった。以前は研修は無かったが、今は研修がある。やろうとすることは、職人たちに負担もかかるがプラスになって戻ってくる。職人たちもこの変化に実感を持ってくれるようになった」 会社を改革しようとするとき、大事なことは何か? を気づかせてくれたインタビューでした。 ① 当たり前のことを普通にやる(“改革”だなんて構えてやってもいいこと無い!) ② 実行責任者は強い信念を持ってことに当たる ③ 皆に分かりやすく、可視化する、説明を怠らない、変化を気づかせてあげる ④ 会社と従業員と顧客、皆にとってメリットが生じるように (④については、アトキンソン氏は、「皆がハッピーになることはない」と番組中に答えられていますが、一方で、改革の成果をきちんと従業員に還元していることを実感させることも大事とおっしゃっています。ここは、使い古しの言葉ですが、「Win-win」が大事なんだと素直に受け取っておきたいと思います) 思いのほか、長文になってしまいました。 次回は、アトキンソン氏の改革マインドが全開になったエピソードの紹介と、氏の業界(もう少し広く観光業という目線で)に対する志(こころざし)について説明をしたいと思います。 続く -------------------- 番組ホームページはこちら 小西美術工藝社のホームページはこちら現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します