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新たな価値を地方から発信!最新・体験型ビジネスの秘密 自遊人社長・岩佐十良 2016年1月14日 TX カンブリア宮殿

TV番組レビュー
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■ 一度は泊まってみたい! 予約殺到の“体験型旅館”

コンサルタントのつぶやき

新潟県・南魚沼市、大沢山温泉に予約の取れない超人気の宿がある。百五十年前の古民家をリノベーションした「里山十帖」。客室はわずか12部屋だが、一つとして同じコンセプトの部屋は無い。だが、この旅館の本当の人気の秘密はここでしかできない「体験」にある。絶景が楽しめる露天風呂もあり、「旅のプロ30人が選ぶ日本一の名旅館」温泉部門1位に選出(週刊現代)された。客室稼働率は約90%(旅館の全国平均は約36%)で、ハイシーズンは予約3か月待ち。

絶景露天風呂「里山十帖」
http://www.satoyama-jujo.com/

この宿を作ったのが、自遊人社長:岩佐十良さん。

20160114_岩佐十良_カンブリア宮殿

番組公式ホームページより

ライフスタイル提案マガジンとして16年前に、「自遊人」を創刊。衣食住から健康、働き方まで、毎号様々なテーマを立て特集を組んでいる。出版不況の中、自遊人は固定ファンをつかみ、累計発行部数は1500万部以上。雑誌編集と旅館経営。岩佐さんの中では明確につながっている。

「「里山十帖」は本と同じ意味合いの施設で、雑誌の10個の特集の要素が詰まっている。10個の物語を提案する施設として「里山十帖」という名前を付けた。」

つまり、里山十帖は雑誌で提案してきた10個のライフスタイルを実際に体験できるリアルメディアなのだ。

① 衣料
② 食事
③ 住まい
④ 農業
⑤ 環境
⑥ 芸術
⑦ 遊び
⑧ 癒し
⑨ 健康
⑩ 集い

館内には、お勧めの椅子や食器など、「住まい体験」ということで、実際に宿泊客に使ってもらう工夫がしてある。実際に使ってお気に入りのものがあれば、館内にあるライフスタイルショップ「テーマ」で購入することもできる。雑誌の中の言葉だけでは伝えきれない情報を体験で知ってもらうのだ。いわば、「「里山十帖」全体が心地良い住まいのためのショールームとなっている。

「世の中をつくっていきたいし、どんどん伝えたい。こんな方法や楽しいことを「どうですか」と常に提案したい。それを事業としてやっていきたい。」

新たな価値を地方でつくる 最新! 体験型ビジネスの全貌とは?

■ 雑誌編集長が仕掛ける“感動体験”ができる旅館

「リピーターが多く、2回目に来る人の多くが2泊、3泊、場合によっては5泊、6泊されるお客もいる。」

「私たちにとっては、(雑誌で、多くのことを伝えることは)普通のこと。毎年いくつのもの特集を組んでいる。「今回はこれを提案したい」「今回はこれを」と。せっかく1泊2食で20時間くらい宿で過ごすので、その20時間でいろいろ体験をしてもらいたい。」

「メディアとして“雑誌で読む”よりも、(リアルメディアとして)“体験”をしてもらいたい。ご飯のことが出ていたが、「この農家のお米がおいしい」と雑誌で伝えるより、実際に食べてもらった方が話が早い。雑誌って逆じゃないですか。雑誌は左脳で記事を読んで「おいしい」と思ってから食べて、「やはりおいしかった」という確認作業。その“確認作業”よりも最初に感じてもらった方が、その後勉強をする場合でも深く知ってもらえるし、いろいろ自分で情報を得にいくようになると思う。僕たちは雑誌を作っていながら、実は「リアルメディア」を持ちたいと思っていた。」

「お客によっては「お米がおいしかった」「温泉で肌がつるつるになった」という人もいれば、「里山の棚田の風景に心が和んだ」「どの椅子にしようか迷っている」という人もいて、いろいろなお客がいるので滞在する20時間で“何か”を感じてもらえればいい。」

「データで見ると、日本人が旅館に泊まる平均泊数が猛烈な勢いで減っている。例えば「団塊の世代の高齢化」や「休みが取りにくくなった」とか、いろいろな理由が言われているが、私としては理由の1つは、「旅館が面白くなくなったから」だと思っている。今までの日本の旅館は、「全てのお客に満足してもらわなければ」と大きな宿も小さな宿も、みんなが思っていた。私としては「なぜ」と思うところがあった。例えば、僕たちが作っている“雑誌”はある程度はターゲットを絞る。僕たちは「自遊人」という本を作っているが「嫌い」という読者がいてもいいと思う。ある特定の人が「自遊人は最高」と言ってくれればそれでいい。宿も同じように「最高」という人と「理解できない」という人がいてもいい。そうなってくると、雑誌に個性があるように、宿にも個性が出て、地域にも個性が出てくる。もっと日本の観光地や旅館に個性が出れば、業界全体が面白くなると思っている。」

■ 脱・下請けを実現させた雑誌編集長の決断!

岩佐は雑誌の編集長として各地に自身で取材に出かける。今回は、新しい宿というテーマで尾道に。取材したのは、倉庫をリノベーションしてつくった自転車ごと宿泊可能なサイクリスト専用ホテルを主軸とした施設。

「ONOMICHI U2」
https://www.onomichi-u2.com/

「しまなみ海道は尾道からつながっている。しまなみ海道を自転車で走る人のための宿。そこがコンセプトとしても面白い。」

岩佐と雑誌との関係はもう30年近くになる。岩佐は武蔵野美術大学でデザインを専攻。大学4年生の時、大学の友人とともに1989年、雑誌の編集プロダクションを設立。多くの雑誌は、コーナーや特集を外部のプロダクションに請け負わせている。岩佐の会社もそんな下請けのひとつだった。

「体当たり取材や変な取材は岩佐。面白いものを作りたいなら岩佐、みたいな感じだった。」

様々なメジャー雑誌から依頼が来るようになり、売れっ子となった岩佐。しかし、数をこなしていくうちにある葛藤が生まれてきた。それは安くてうまい肉の特集を担当した時のこと。地味で美味しい店より、美味しそうな写真とコピーが付けられるお店の方が本が売れたのだ。

「これすごく語弊があるかもれないが、正直に言うと売れる本を作るには載っているレストランはどこでもいい。本当においしいかどうかは一切関係ない。」

岩佐は思った。“本当にいいもの”だけを伝えたい。そして岩佐は思い切った決断を下す。

■ 欲しくなったら買える! 雑誌と買い物の新コラボ

1990年代、当時売れっ子の編集マンとして雑誌作りの下請けをしていた岩佐。いいキャッチコピーといい写真さえあれば、内容は関係なく雑誌が売れていく環境に疑問を感じていた。そしていつしかこんな思いが。

“本当にいいもの”だけを伝える雑誌を作りたい!

そんな思いから思い切って下請けから脱却し、2000年、出版事業を開始。そして雑誌「自遊人」を創刊。その中身は当時主流の情報誌と比べて画期的なものだった。例えば温泉特集。当時主流の情報誌では1ページに複数の宿の情報を詰め込むカタログ的な見せ方が多かったが、自遊人は、宿に着くところから温泉に入り、くつろぐところまで、時間軸に沿ってふんだんにページを使った。

「宿が持っているストーリーを写真と文章でちゃんと表現したかった。今まで重視されていた「値段が安い」「コストパフォーマンス」「情報の鮮度」などはどうでもいい。」

そうした作り方が読者の心をつかみ、最高発行部数が16万部にまで達した。自遊人の大事なテーマのひとつが「食」。雑誌で紹介した食材を読者が手にできるように、インターネット販売のサイトを始めた。

「自遊人オーガニック・エクスプレス」
http://www.jiyujin.co.jp/organic/

(本を売るためだけだったらその店が本当においしいかどうかは関係ない、という前述の意見に小池さんが反応したのを受けて、、、)

「こういう言い方だと、読者・消費者に誤解を与えてしまうかもしれないが、もちろん雑誌に掲載する店はいろいろ考えて選んでいるが、極端な話をすると「写真の撮り方」「価格のバランス」「キャッチコピー」だけで、正直なところ“売れる本”は作れる。究極に突き詰めて言えば、題材が何であれ、本を売ることができた。」

「当時は下請けの編集プロダクションだったので、出版社に「こんな雑誌を作りたい」と提案をしていたが、「売れなかった場合、リスクをとるのは出版社で岩佐さんではない」と言われ、なかなか実現できなかった。だとしたら、「自分たちで本を発行するしかない」と思ったのが、「自遊人」を作った一番の理由。」

村上氏から、なぜ「食」が中心テーマになっていったかと尋ねられ、

「単純に「人間の身体は水と食べ物からできている」という話の中で、「健康な人」と「不健康な人」で何が違うのかを考えてたら、「食べ物はすごく重要でないか」と考えるようになった。いろいろな飲食店を取材する中で、その舞台裏を見ていくうちに、やはり“食”によって差が出ると感じたので、「食べ物」はどうしてもやりたかった。」

■ 南魚沼に本拠地を移転! 編集長が東京を捨てた理由

かつて、自遊人のオフィスは東京・日本橋にあり、広さ約200㎡、家賃は約80万円。だが2004年、雑誌作りには不便な南魚沼市に本社機能をあえて移転。かつて地元の交流施設だったものを借りてオフィスにしている。広さは660㎡、従業員30人。東京の3倍の広さだがその家賃は、12万円。

「東京から来たときは安いと思ったが、今や「誰も使ってなくボロボロで12万円でも高い」と最近思い始めたのは田舎に長くいるからでしょうか。」

インターネットがあるから、東京から離れても何も不自由しないと言う。

この移転の裏には岩佐の人生観を変えるショッキングな出来事が。

「自分たちのライフスタイルを見直そうというきっかけは、当時、自分たちの体調も良くなかったし、実は衝撃的な事件があって、私が一緒に仕事をしていた出版社の編集者が立て続けに2人、過労死で亡くなった。1人目が亡くなった時には「大丈夫」と思っていたが、さすがに2人目が亡くなった時に「次は自分かもしれない」と思った。会社で一緒に働いていたスタッフにも体調が悪いという人がいて、冷静に周りを見渡すと体調が悪い人が多くいた。そんな状況の中で「どうやって勝ち残るか」を競っていたが、さすがに「こんな生活をしていて将来、何かいいことがあるのか」と。そう思い始めたのは97~98年頃だったので、長い時間不健康な生活を続けていた。空気のいい環境で、おいしい水や空気に感謝する方が、当たり前のことだが「豊か」だといつも思っている。」

■ 地域の絶品を守りたい! “A級グルメ”戦略の秘密

今、地方で人気なのはB級グルメ。その多くが自給率の低い小麦粉を使ったものだと気付いていましたか?

・秋田 横手やきそば
・静岡 浜松餃子
・広島 尾道ラーメン
・香川 讃岐うどん
・長崎 佐世保バーガー

そんな中、岩佐はB級グルメとは違う方向で町おこしを狙っていた。岩佐は新潟、群馬、長野でいい料理や食材を発掘し、それらを「雪国A級グルメ」に認定。紹介している。

「“A級”というと高価なものやぜいたくなものというイメージがあるが、そうではなく“A級”は、“永久”に守りたい味ということ。地元の農産物・調味料・食文化を大切に守って、永久に残したい味や料理を提供しよう、これがA級グルメの考え方。」

<雪国A級グルメの認定条件>
米:新潟・群馬・長野の指定地域のものを使用
野菜:県内産のものを50%以上使用
調味料:無添加・天然醸造のものを使用

新潟のHATAGO井仙では、仕入値は5%上がったが、売上は10%増とのこと。

「越後湯澤 HATAGO井仙」
http://hatago-isen.jp/

それぞれの地に育まれ、受け継がれているいい食材や素朴な料理。それを残し、広めることが地域おこしのきっかけになると岩佐は考えている。

島根県・邑南町に香木の森公園がある。そこで岩佐は、地元名産のハーブティーの商品化に関わった。「岩見香茶」。

「香木の森~公園・カフェ香夢里・香遊館・霧の湯」
http://www.mizuho-style.com/ko-boku/
http://ohnan-kanko.com/koboku/

それぞれの特徴を漢字一文字(「睡」「爽」「潤」)で表わし、島根大学の大学教授の監修も受け、パッケージを見直し、従来は500円で売られていたものを3倍の値段で売り出した。すると、売上が5倍になったという。地域おこしで今や各地から引っ張りだこの岩佐。そこで伝えているのは地域に自信を持ってもらうこと。

「実は、皆さんが見慣れている景色が、都会の人にはすごくいい景色だったりする。そう感じると、故郷への自信が生まれて、新しい産業が創造されるかもしれない。それが地域を発展させていく。」

いいものだけを伝え続けようとしている岩佐の活動が地域の人々の意識まで変えようとしている。

「町おこしのために、“B級グルメ”を活用するのは問題ないと思うし、むしろ、みんなで盛り上がるのはいいことだと思う。“B級グルメ”は戦後の苦しかった時代の食文化だと思っているので、そういうことを考える上でB級グルメは大事だと思っている。その一方で、その土地本来の食文化が小麦粉の陰に隠れてしまっているので、その隠れてしまっている特に“お米を中心とした食文化”を“永久”に残したい味として掘り起こして一緒に考えていこうと呼びかけている。」

村上氏が唐突に尋ねる。
「この番組は経済番組なのに、最近はデザイナーの人に多く登場してもらっている。どうしてでしょうか?」

「私はデザイナーというよりは編集者だが、最近はデザインの仕事も多くやっている。そういう私たちの役割は「都市部の人」と「地方の人」と「地域の潜在的な観光資源」をどうやってつなげるかにある。「人やお金の使い方を見直したらもう少し幸せになれる」ということを、デザイナーであれば、「新しいことができる」と思われていて、おそらく「デザイン思考」という言葉が最近、言われるようになってきたのだと思う。」                

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番組ホームページはこちら
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20160114.html

自遊人のホームページはこちら
http://www.jiyujin.co.jp/

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