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納得するまで商品化せず!ロングセラーを生む桃屋の“良品質主義” 桃屋代表取締役社長・小出雄二 2016年6月30日 TX カンブリア宮殿

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■ 小瓶に詰まった“こだわり” 桃屋 ロングセラーの秘密

コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ

桃屋が現在作っているのは37商品。その中のひとつ「花らっきょう」は大正10年(1921年)発売のロングセラー。また、桃屋の売上No.1商品、「ごはんですよ!」は昭和48年(1973年)発売のこれまたロングセラーだ。37商品のうち、18商品が大正・昭和のロングセラーだ。この息の長さこそ、桃屋の秘密だ。では桃屋にはなぜロングセラーが多いのか?

「伝統的な作り方を大事に手抜きせずに作って、それを瓶に詰めてお客に提供している。それが“良品質主義”の特徴。」
(桃屋社長 小出雄二(54歳))

20160630_小出雄二_カンブリア宮殿

番組公式ホームページより)

これが桃屋のキーワード、“良品質主義”。徹底的に品質にこだわれば、結果、ロングセラーになるというわけだ。

良品質主義から生まれたのが、“味付搾菜”。昭和43年(1968年)発売。発売から48年、変わらぬ味を続けている。

● 桃屋の良品質主義① 味付搾菜の秘密
桃屋の搾菜は中国工場で作られている。そこに置かれていたのは5000個の甕(かめ)。搾菜は1年間も漬け込み、発酵させた“中国の漬物”。搾菜(ザーサイ)は、からし菜の根っこの“こぶ”の部分を食べる。一年中気温が一定でよく霧が出る中国は重慶のものしか使わない。収穫後2週間風干ししてあの歯ごたえになる。味付けは、漢方薬にも使用される香辛料10数種。1年後、甕から取出し、薄くカットし、シャワーで余計な香辛料を洗い流す。仕上げに油で炒めてから瓶詰め。1986年から発売しているが、当時から現在までザーサイの基本的な作り方は変えていない。今やこの伝統的製法は中国でも珍しくなった。

● 桃屋の良品質主義② ごはんですよ!の秘密
原料となる海苔は伊勢湾で養殖している。海苔の種類は「ヒトエグサ」。同じ三重県・松坂市の工場で加工する。実はこの海苔の種類に「ごはんですよ!」の秘密がある。昔ながらの海苔の佃煮は、乾燥させた板のりから作ってきた。板のりは、固形感があってどっしりとした昔ながらの海苔佃煮になる。一方で、「ごはんですよ!」の原料になるヒトエグサは収穫した生のままだ。これで作ると、ご飯を包み込むようなトロッとした食感の海苔佃煮になる。桃屋は従来の原料とは異なるものを使い、独特のとろみを付けたのだ。

大きな設備のあるこの松坂工場は実は海苔佃煮の製造工場ではない。工場全体のラインでは、海苔を水洗いして、異物を取り除く工程のためだけの工場なのだ。洗浄専門の工場。4億円かけてラインを作った。さらに、洗浄ラインを通ったヒトエグサから人手で細かい遺物(数ミリ単位の食べられるが、炊いても軟らかくならない、ヒトエグサとは種類の違う海藻)を取り除く。これだけの手間暇をかけて5つの工程を経て、別の工場に運ばれて「ごはんですよ!」が生まれる。

「誰でも簡単に作れるものは作らない。他社がやりたがらないことをあえてやることで、他にはない、おいしさができると思っている。」

まねのできないオンリーワンの商品だからロングセラーに。こんなやり方で不動の人気を得て昨年は114億円の売上高。日本の食卓に1瓶、小瓶の中に妥協なき精神、桃屋ロングセラーの秘密に迫る!

■ スタジオにて社長インタビューへ

1920年創業の桃屋。「鯛みそ」「あまだき でんぶ」「桜花漬」を発売して始まったその社業。ちなみにこの3商品はまだ発売している現役だ。

(村上氏の質問)
「老舗企業なのに、商品のバリエーションが少なくないか?」

「おいしさの水準を満たす商品を作るには、本当にいい原料を探し当てるとか、すごく時間がかかることから、しょっちゅう商品を出すわけにはいかない。お客に出すには本当にいいものを出さないといけない。数や量を出すよりも、いいもの、選りすぐったものを商品化する。」

(村上氏の質問)
「ロングセラーを作ろうと思っても作るのは難しくって、最高のものを作ろうとするとロングセラーになるんですよね」

「なくては困ると言ってもらえる、そういうことだと思う。創業当時「花らっきょう」を出したが、元々らっきょうは塩漬けのものしかなく、旦那さんが酒のつまみにするらっきょうしかなかった。桃屋の創業者が甘酢漬けにして、奥さんや子供も食べられるようにした。」

(村上氏)
「今では当たり前だが、当時、らっきょうを甘く漬けようというのは前例もなく冒険だったと思うんですよね。」

「伝統的なものは、人の知恵でよりおいしくするため長い年月で作られる。商品も、そういうところがある。」

(村上氏)
「甘酢らっきょうはその後、他社も作り始めて、戦時中は砂糖が手に入らず、サッカリンを使って作っていたが、桃屋だけは製造を中止したんですよね」

「それが桃屋の真髄となっている」

(小池さん)
「ザーサイはあんなに手間暇かけて作っているんですね」

「1つでも手抜きすると、ザーサイの風味や食感が出せない。もっと簡略化した生産もあるが、あえて伝統的な作り方を大事にしている。メンマも手間がかかる。山の奥深くにあるタケノコはやわらかい。わざわざ深い山のタケノコを採ってきて、蒸して、乳酸発酵して、天日干しをする。すると、おいしくなる。道路は無い。山を登って採ってくる。」

■ “日本の食卓にないものを” ヒットを生んだ伝説の男

スーパーの詩食品売り場に、見たことのない桃屋の商品「トムヤムクンの素」(2016年発売)があり、これを調味料に使った料理を試食に出していた。何でも桃屋2年ぶりの新商品だとか。他の食品メーカーは年間にいくつもの新商品を出すのが当たり前だが、桃屋は、2010年、11年、13年、15年は全く新商品を出していない。これは食品業界ではかなり異色だ。

(イトーヨーカ堂加工食品部 田原さん)
「1週間に何千という新商品が出るが、残っていく商品は一握りしかない。確かに、桃屋さんは出す頻度は少ないが、出した商品は売れるという印象があります」

しかし、なぜこんなペースなのか。桃屋の開発部に聞いてみると、

「何とか出したいと思っているが、ほとんどのものが「アイデアが足りない」「味付けがあまり」と却下されて、悔しい思いをしている。商品化には高いハードルがある。」

先代社長で、現相談役の小出孝之(90歳)が登場。毎週、週一回の昼食会で、新商品の試食が行われる。この相談役がOKを出さないと、新商品の発売には至らない。

先代、孝之が商品化したヒット商品は次の通り。
・ごはんですよ!
・味付搾菜
・キムチの素
・辛そうで辛くない 少し辛いラー油(食べるラー油)

商品化する/しないの判断基準は?

(孝之相談役)
「自分が食べたいものを作る。どこかで拾ってきたりするよりも、自分が食べたいと思うものを考え出す。」

子どもの頃、親に連れられて行った高級中華料理店で口にしたのが脇に添えられていたザーサイのおいしさにびっくり。これがザーサイとの初めての出会い。

(孝之相談役)
「戦前ですよ。日本にはなかった。戦後になっても食べたくて。」

その味が忘れられなかった孝之は、昭和25年(1950年)、桃屋に入社後、ザーサイを探し回る。たまたま出会った中国からの直輸入品の出所を探し当て、伝統製法を学び、昭和43年、商品化に漕ぎ着けた。しかし、

(孝之相談役)
「商品化した時は、「誰も知らないから売れない」と、当時の社長も反対、社員も「分からない」と。」

誰も知らない物は売れない。そこで孝之が考えた作戦は? 当時大人気だった映画「007」シリーズのパロディCMを放送。これがお茶の間の目にとまり、食べてみたらおいしいとヒットしたのだ。この成功体験から孝之は心に決めた。

『日本の食卓にないものを作ろう』

その精神を引き継いだのが最近商品化された「辛そうで辛くない 少し辛いラー油(食べるラー油)」。それまでは単なる調味料だったラー油を、食べる調味料に変えたのだ。このインパクトある商品名を考えたのも実は孝之。

(孝之相談役)
「言葉を選んで出す、俳句みたいなもの。キャッチフレーズが瞬間的に思い浮かぶ。」

代表的なヒット商品はそのほとんどが孝之が名付け親。ユニークなネーミングはこれ、「ごはんですよ!」から。

(孝之相談役)
「当時は、「時間ですよ」のドラマも流行っていたし、ごはんの時に女房が「ごはんですよ」とばかり言うので、それをつけちゃえと。「ごはんですよ!」って、おかしいけどね。」

今回久しぶりに商品化に漕ぎ着けた「トムヤムクンの素」はなんと15年前から提案して粘って出した商品だとのこと。

(孝之相談役)
「簡単にマネできないものをやれれば一番いい。エセを作らない、本物を作りたい。」

普段の孝之氏はどんな人か、義理の息子に当たる現社長に聞く。
「好奇心が凄く旺盛な人。1日1冊、いろいろいなジャンルの本を読む。知的好奇心が凄い。私にとっての師匠、本当に正しいことを言う。」

(村上氏)
「ネーミングにしろ、商品にしろ、クリエイティブ性と経営とのバランスは難しいと思う。先代はその辺のバランスをどう取っていたのか?」

「先代はよく、「適正規模の経営をする」と言い、むやみに規模を求めない。いい原料には限りがある。そんなにたくさん世の中にない。むやみに規模を広げると、ちゃんとお客に提供できない。もちろん成長も目指しているが。量より質。」

(村上氏)
「偉大な先代の経営を引き継ぐところと、時代も新しくなり変えていくべきところ、についてはどうお考えか?」

「課題として思っているのは、商品の使い方を知らないお客が多い。桃屋の商品を使って料理が簡単においしくできる。その価値をお客にもっと伝えられれば、もっと使ってもらえると思う。」

 

■ 調味料なしで作れる! 桃屋商品で簡単レシピ

桃屋の商品をもっと使ってもらおうと雄二社長が考えたのは、ごはんのお供だった桃屋の商品を調味料にした料理の提案。桃屋が力を入れているのは、会社のホームページで桃屋の商品を使った簡単レシピの紹介。「ごはんですよ!」を使った黒チャーハンや、「イカの塩辛」を使ったペペロンチーノ等。それらのレシピを作ったのは一人のスーパー主婦。これら簡単レシピの特徴は、他の調味料を使わなくても味が締まる(決まる)こと。

この主婦の正体は雄二社長の奥さん(真実さん)。ということは先代社長の娘。創業家に生まれ、小さいころから桃屋の商品を使った料理で育ったという。

(真実さん)
「亡くなった母が料理上手だった。しゃぶしゃぶを食べた後のスープに「味付搾菜」を入れてスープにしたり、そういう食事をしていたので、それで育った。」

そうした料理に目をつけたのが婿養子の小出。

「主婦は忙しいから冷蔵庫にある材料で、簡単にできる“おいしいもの”を求めている。そういったものをお客に提案していきたい。それで現役主婦の妻に作ってもらい、ホームページで提案している。桃屋のホームページに載っていたのは、創業家の秘伝レシピだった。

桃屋秘伝レシピはこちら

現在載っているレシピは127品。そのほとんどは真実さんが考案した。

「手間かけて作っている、その風味が炒めることでふわっと出てくる。今までご飯のお供として売っていたけど、これから、お客にもレシピを提案し役立ててもらおうと。素材に桃屋の商品を合わせるだけだから料理の失敗もない。「花らっきょう」の天ぷらもおいしい。」

「我々は、ものづくりに関して、プロという意識を持ってやっている。何でもプロの人はそうだと思う。料理人にしても、カメラマンにしても、一般の人はそんなに気にしないことでも、ものすごくこだわる。細かいこだわりが大事。1つでもおろそかにすると、全体が緩んでしまう。」

『細かいこだわりが本物を生む』

■ 編集後記

あまりになじみ深いために、その企業がいかに努力を重ね、すばらしい商品を作っているか、気づきにくい場合がある。
「ごはんですよ!」を知らない日本人は多分いない。
経営理念は「良品質主義」、文字数はたった5つだが、創業時から徹底して守られてきた。
商品は、すべて食材としても使用できるベーシックなもので、生み出されるレシピはおそらく無限だと思う。そんな食品は、他にない。
創業以来、素材と製法において決して妥協しない「桃屋」は、伝統を守りながら、進化し続ける。

桃屋、本当に「すごいですよ!」

村上龍

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カンブリア宮殿 番組ホームページ2016年6月30日放送分はこちら

桃屋のホームページはこちら

(筆者注:桃屋は下記に紹介する入山章栄氏著にある『最高の後継社長は婿養子』論を実践しています。同族経営の場合、創業者マインドをうまく継承し、ビジョナリーカンパニーにあり続けられること、そして社外株主の短期的利益追求の外乱を排除できるメリットがあります。それゆえ、15年かけて商品開発ができたり、新商品を全くリリースしない年度を作っても大問題となりません。さらに、婿養子ということは、できる経営者の資質があるからこそ婿に迎えられるのだから、それだけで優秀な経営者の条件を満たしているともいえます。優秀な経営者の元、中長期視点で経営できる優良会社の条件を桃屋は兼ね備えています。一連の社長紹介TVプログラムかもしれませんが、人気の経営学者の著書を読みながら、視聴すると思わず「なるほど!」と合点がいきます。)

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