■ 低価格×北欧デザイン 家具のテーマパーク
今回の放送は、創業1943年、現在世界28カ国に展開、年間4兆円を誇る世界最大の家具チェーン、イケアのお話。
何といってもその店舗の特徴は広さ。千葉・船橋市にあるIKEA Tokyo-Bay。敷地面積は東京ドームとほぼ同じ。そして驚きなのが、店内でソフトクリームが50円、ホットドックが100円で売られ、本格的な北欧料理のレストランまである。
イケア独特の店内ディスプレイが「ルームセット」。2DK、3DKの間取りの中におすすめの商品が配置されているので、お客は部屋に収まった雰囲気を確認することができる。それら品揃えは実際に一般家庭を訪問して品定めされている。この店舗ではこうした部屋のイメージを提供するディスプレイが21タイプもある。実際に売られているのは家具だけでなく、生活雑貨もある。イデアのオリジナル家電まで製造販売されている。低価格・北欧デザイン・機能性の3拍子が揃った商品たち。これこそがイケアの神髄。
安さの秘密は売り場にある。陳列されている家具に付いているタグに、セルフサービスエリア(商品倉庫)の棚番が記載されている。その番号を頼りにお目当ての商品を自分で探し出してピックアップし、レジまで自分で運ぶ。こうしたセルフサービスは、倉庫の人件費を削減し低価格の実現に反映されている。イケアの店舗なら全世界共通のシステムだ。
日本国内に展開するのは8店舗だけだが、その年商は767億円。1店舗当たりの売上高は約95億円。イケア本社は、船橋店の屋上にある。その本社フロアに他のスタッフと同じように座って仕事をしているのが、イケア・ジャパンの社長、ヘレン・フォン・ライス氏。いざという時、重要なことも早く決定できるし、効率よく動けるからという理由で社長室をつくっていない。
ヘレン氏が社長に就任したのは昨年8月。そして新たな事業を始めた。世界遺産にも登録されている京都の醍醐寺。休憩室をカフェに改装するのをイケアが担当するという。醍醐寺がイケアに依頼した理由とは、
「デザインがシンプルで飽きが来ないということもあったが、価値を継続して使っていくということは寺がずっとやってきたこと。そういう価値観を理解してもらったから。」
イケアは家具を販売するだけでなく、インテリアを丸ごとコーディネートするビジネスにも力を入れている。さらに、スマホアプリで売られている家具が実際に部屋に入るかどうかを確認できるサービスも始めている。無料カタログを家具を配置したい場所に置き、スマホで撮影し、画面表示された家具の中から好きなものを選ぶ。VRで家具の配置の様子をシミュレーションができる。
■ 低価格×北欧デザイン 巨大家具チェーンの全貌
そして、スタジオでインタビューが始まる。
(番組公式ホームページより)
店内でソフトクリームが50円、ホットドックが100円で売られていることにびっくりしていますが?
(ヘレン社長)
「イケアは特別なお金持ちではなく普通の人達のためのお店です。そして楽しい1日を過ごしてもらうにはお腹が減っていないことも大事です。だからおいしいものを手ごろな価格で提供しているんです。」
学生が学校帰りに、カフェやファミレスの代わりにイケアで勉強しているという話を聞きましたが、学生は家具を買いませんが、そういうのはいいんですか?
(ヘレン社長)
「いいんです。彼らは未来のお客様です。それでイケアを気に入ってもらえれば、将来家具を買う時にまた来てくれると思います。」
イケアが日本進出時に当時のトップが「ライバルはディズニーランド」と答えたが、それはどういう意味なんですか?
(ヘレン社長)
「ディズニーランドもイケアも家族で楽しい1日を過ごす場所です。そういう意味ではディズニーランドは私たちのライバルだと言えると思います。」
セルフサービスは低価格に役立っていると思うが?
(ヘレン社長)
「セルフサービスは、お客様とイケアの役割を分担し、お互いの出費を抑えてくれます。不要なサービスでお客様にコスト的な負担をかけたくないんです。」
■ 絶好調のイケア 日本撤退…意外な過去
低価格を武器に日本で熱烈なファンを獲得したイケア。しかし、過去には挫折も経験していた。1974年、三井物産や東急百貨店と合弁で日本に進出し2店舗を展開し、1986年に撤退した失敗の経験がある。1981年、巨大なイケア南船橋店をオープン。広い売り場でセルフサービスという今と同じスタイルだったが、この時は売り上げ目標を達成することができずに、わずか5年で日本から撤退を余儀なくされた。再上陸を果たしたのは20年後の2006年。人工スキー場SSAWSの跡地に今度は直営店をオープン。
(ヘレン社長)
「日本の人たちは美しくて快適な家に住むことを求めています。私たちはそんなニーズをつかむところから始めたんです。」
顧客のニーズを掴もうと始めたのは足を使ったリサーチ。一般家庭での年間200軒以上の聞き取り調査を行い、具体的な課題やニーズを販売に活かしている。
(参考)
● 日本で惨敗した「イケア」が、なぜ20年後の再進出で成功できたのか?|MAG2NEWS
■ 潜入!イケアの総本山 低価格の秘密とは
イケアのルーツはスウェーデン南部のエルムフルト。1943年、イングヴァル・カンプラードにより創業。そこでイケア商品の低価格の秘密を探ってみる。イケアインダストリーという工場を拝見。多関節ロボットによる加工ラインから次々と家具部品が出てくる。イケアは、世界各国に同じ規格の商品を販売している。このスケールメリットが低価格を実現する要だった。もうひとつの秘密はフラットパック。商品の梱包を最小限にまで薄く小さくし、大量運送を可能にし、物流センターでの収容数を大きくし、物流・管理コストを大幅削減することに貢献している。
創業者のカンプラード氏は、1926年、エルムフルト近郊の貧しい農村で生まれ、小さいころから働き、商才に長け、17歳でイケアを創業する。1代で世界最大の家具チェーンを作り出した。イケアをここまで大きくしたのはカンプラード氏の理念。
「作業デスクを作るのに300マルクかけていいならどんなデザイナーでもできる。200マルクでデザインしろと言われたら、相当な知恵と経験が必要だ。」
洗練されたデザインと低価格の両立。この理念の徹底こそ、イケアが世界躍進を遂げた理由だ。そんな理念を体現しているのが40年以上販売を続けているロングセラーの商品のアームチェア「ポエング」だ。世界で累計3000万脚以上販売されている大ヒット商品。この伝説の椅子をデザインしたのは日本人の中村昇さん(79歳)。中村さんは今でも現役のデザイナーで、1973~78年にイケアに在職、日本人初のイケアデザイナーだった。
中村さんはスウェーデンにデザインのために留学中にイケアから誘いを受けて入社。そこでイケアの“掟”を叩き込まれたという。
(中村氏)
「どの価格体系が上限かという設定がある。つまり、この価格を超えたらイケアの商品じゃないという上限設定がある。」
ポエングも最初は価格が見合わないとカンプラード氏が商品化に反対している。中村さんは仕入部門と低価格の材料探しに奔走し、漸く商品化に漕ぎ着けたという逸話が残っている。創業者のデザイン性と低価格の両立のという理念の一端が垣間見られるお話だ。
■ 巨大家具チェーン 低価格へ驚きの執念
ヘレン社長にカンプラード氏の素顔を聞く。
(ヘレン社長)
「彼は素晴らしい起業家であると同時に、思いやりがあって気さくなリーダーです。彼は現場主義者です。創業した時から工場に通い、開発者と一緒に商品を作っていました。自分のアイデアを徹底して実現させるんです。フラットパックもカンプラード氏と創業当時からいた同僚の1人が考えました。ある時、脚のついたテーブルの運び方を考えていて、脚を外すことを思いついたんです。それがフラットパックの出発点となり、薄くパッキングする方向に進化しました。コストを抑えながら、たくさんの商品を運べるようになったんです。空気を運んでも配送コストがかかりますが、そのスペースを減らすことができました。」
社長でもイケアでは、飛行機での移動はエコノミークラスを使うと聞いたが?
(ヘレン社長)
「はい。もしビジネスクラスを使えば、結果的にその料金はお客さまが負担することになってしまいます。」
創業者の質素な育ちがイケアの原点と聞いたが?
(ヘレン社長)
「イングヴァルが生まれたスモーランド地方はスウェーデンでも特に貧しい資源の乏しい地域でした。そんな土地で育ったからこそ、助け合い資源を有効に使おうという考え方が根付いた、イケアのコスト意識はそこから生まれた価値観です。これはスウェーデン特有の価値観とも言えるでしょう。」
■ イケアの舞台裏 絶品食堂・驚きの正社員率
イケア・ジャパンは、2014年からアルバイトやパートタイマーからの希望者を正社員に登用する制度を導入している。現在はなんと99%が正社員。イケアの正社員は、①フルタイム正社員、働く場所と時間を自分で選べる②短時間正社員(社会保険・福利厚生などフルタイム社員と同等)の2種類ある。
さらに従業員を大事にするしかけはバックヤードにある社員食堂。基本ビッフェスタイルで、ランチビッフェは370円という低価格で食べ放題。また、イケアの従業員なら誰でも利用できる託児所「ダーギス」(生後57日~就学)が店舗内に設置されている。
こうした充実した福利厚生や正社員化でキャリアを積んだ子育てママを職場に定着させた。
■ 今や正社員99% “北欧式”の時代が来る!?
日本人の働き方をどう思うか?
(ヘレン社長)
「たくさん仕事をしていると思います。通勤電車の中で疲れた人を見て感じます。日本にとっても問題だと思います。」
どうしてパートタイマーやアルバイトを正社員として登用するのか?
(ヘレン社長)
「一人一人の能力を信じているからこそ、私たちは従業員を平等に扱っています。契約を通して彼らの権利を守り、生活に困らない報酬を支払えば従業員のモチベーションは上がり幸せになります。幸せな従業員は接客も良くなります。」
(筆者注)
「従業員満足度」は接客の質の向上を通して、「顧客満足」につながります。「顧客満足」は結果的に財務的な業績向上をもたらします。
北欧は、事前に立案した予算を目標値として定めた予算管理をあえて徹底させない、「BBM(Beyond Budgeting Model)」が広がった地でもあります。
ご参考まで。
そういう人事制度はコスト的には結構かかるんじゃないですか?
(ヘレン社長)
「コストはかかっても明確なメリットがあります。待遇のいい職場は質の高い人材を呼び寄せます。自ら積極的に仕事に取り組む同僚が加わってくれるのです。」
従業員を「Co-Worker」と呼ぶ理由は?
(ヘレン社長)
「イケアで言う「Co-Worker」とは「同僚」という意味です。私も同僚です。世界に16万3000人いる同僚の1人です。共に働くとき、肩書きは関係ありません。」
スウェーデンの価値観が世界で主流になるのでは?
(ヘレン社長)
「そうかもしれません。世界中の若者たちが今、人生の価値観を探しています。「人生は何のためにあるのか?」「どういう人生を送ればいいのか?」イケアもそういう問いかけから生まれました。イケアの真の目的は、普通の人たちの暮らしを豊かにすることです。そこに共感する人が増えているだと思います。
■ 編集後記
イケアは、グローバルな巨大企業であり、全世界ほぼ共通の広大な店舗を持つ。市場に合わせるのではなく、市場をイケアカラーに染めてしまう。従業員は、個性と自立を要求されるが、理念と価値観を共有する。ファクターが多く全貌が見えにくい。だが、原風景がある。創業者は、スウェーデンの荒涼とした土地で、「より快適な毎日を、より多くの方々に」という理念とともに、ビジネスをはじめた。その理念を守るために、イケアはあらゆる資源を投入し、結果として利益を確保し、真の経済合理性とは何かを、世界に向かって問い続ける。
原風景と、理念
村上龍
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