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■ クルマ会社の最もシンプルな業績評価方法

経営管理会計トピック

2015年8月5日の日本経済新聞(朝刊)トップに、主にトヨタ自動車が四半期決算では純利益最高益、同日11面に、日産・富士重も4~6月期としては最高益を計上したことが取り上げられています。新聞記事を読んでみると、車種や販売地域、生産体制など、様々な要因で各社の成長性や収益性の違いが生まれることを解説している文言にあたることができます。

読者としては、各社の「有価証券報告書」「決算報告資料」を読み比べないと得られない洞察を、優秀な新聞記者はたった1000文字程度の文章で伝えてくれるので、その企業の業績がもたらされた結果を手軽に知りたい場合に、新聞記事は大変便利なものです。

本投稿では、さらに、新聞記事に添付されている図表をExcelで散布図に加工するだけで、さらにそのエッセンスを可視化して理解を深めることをしたいと思います。

その際、たった3つの簡単な数値の組み合わせで、ある意味、提供される製品(ここでは自動車)が1台と数えられるということで、同質的な市場として、自動車産業を見た場合、どのような図解で、各社の業績を分析できるか、ちょっとトライしてみます。

 

■ 新聞記事からトヨタ快調の理由を整理します

2015/8/5|日本経済新聞|朝刊 トヨタ、4~6月純利益最高 円安・北米が支え 新興国不透明 通期は据え置き

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「トヨタ自動車が北米市場の販売好調と円安を支えに一段と業績を拡大している。4日に発表した2015年4~6月期の連結決算(米国会計基準)では、純利益が6463億円と前年同期比10%増えて四半期ベースの最高を記録した。販売台数は独フォルクスワーゲン(VW)に及ばないが、利益水準は2倍近い。世界の自動車大手の中で収益力の高さが際立っている。(関連記事企業総合面に)」

トヨタの収益力は突出(世界の自動車大手の4~6月期決算)_日本経済新聞朝刊_20150805

(上図は新聞記事に添付されていたものを転載)

トヨタ自動車快調の分析は以下の通りでした。

① 販売地域別に市場環境が厳しかった地域を補ったのが、ガソリン価格下落の恩恵を受けた北米での新車販売の好調
② 北米での売れ筋は、日本から輸出する高級車ブランドの多目的スポーツ車(SUV)「レクサスNX」のほか、現地生産のピックアップトラック「タコマ」など利益率の高い車種
③ 1ドル=121円の円安が、他通貨のマイナス分を含めた為替効果として、1450億円に上った
④ 規模を追わずに効率的な生産体制の構築を目指し、今年4月発表のメキシコ・中国の新工場立ち上げ発表まで設備投資をギリギリまで詰めた

この結果、

「1~6月の世界販売台数ではシェアを伸ばした独VWに抜かれ、4年ぶりに首位の座を明け渡した。だが純利益の水準は断トツ。3642億円のVWや1366億円の米ゼネラル・モーターズ(GM)を圧倒する。」
「純利益を販売台数で割ったトヨタの1台あたり利益は約25万8000円と、約14万2000円のVWに大差をつける。効率的に利益を稼ぐ力をみても、海外のライバルを引き離している。」

と、高い収益性を実現したことの説明が4つほど挙げられています。

 

■ 引き続き、新聞記事から各社の業績理由を整理します

2015/8/5|日本経済新聞|朝刊 日産・富士重も最高益 北米が国内不振補う 車7社の4~6月 スズキなど3社は東南ア苦戦で減益

「トヨタ自動車が2015年4~6月期の連結決算(米国会計基準)を4日発表し、国内自動車7社の業績が出そろった。好調な北米を主戦場とし円安の追い風も受けやすいトヨタ、日産自動車、富士重工業が4~6月期では過去最高の純利益を達成した。半面、国内や東南アジアに軸足を置くスズキや三菱自動車など3社は減益だった。得意とする地域の違いが明暗を分けた。」

この新聞記事では、主戦場とする販売地域の市場環境で業績に明暗が分かれたとの理由づけになっています。

・北米中心のトヨタ、日産、富士重は好調
・国内やアジア・新興国中心のスズキ、三菱自動車は減益
・欧州に強いマツダは、ユーロ安で50億円弱の営業減益と業績改善による税負担増

その他の論点では、スズキの国内販売は4月からの軽自動車増税の影響を受けているとの解説になっています。

こうした販売地域別のシェアや利益率は、各社の決算資料にあたらないと、横並びで比較することが困難です。できれば、記事がそういう組立になっているなら、販売地域別の利益構成比率チャートも掲載して頂きたかったですね。

この記事に添付があったチャートは下記の通りです。

クルマ7社の4~6月期連結業績_日本経済新聞朝刊_20150805

 

■ それでは、このチャートを使って、車種のグレードの1点突破で国内自動車各社の業績比較をここで見てみます

上記に掲載した、国内自動車会社7社の「売上高」「純利益」「世界販売台数」の3つだけで、比較チャートをこしらえてみます。

まず大元の数表を次のようにまとめました。

国内自動車7社の2015年第1四半期業績

 

① 車種のグレードの分布を見る

7社の販売車種のグレード分布

原点からトヨタ店までを結んだ線を仮に、「トヨタ線」と呼称します。トヨタ線より、上方に位置する企業は、品揃えとして、トヨタより高級なグレードの車種の構成比率が高い、と読みます。このグラフによると、トヨタ線より情報に来るのが、ホンダと富士重。そして大きく下方乖離しているのがスズキ。スズキの下方乖離は、スズキのメインは軽自動車だからわかりやすいのですが、なぜホンダと富士重がトヨタ線の上に来るのか?

単純に言うと、ホンダは二輪車事業(4輪事業の約18%)、富士重は航空宇宙と産業機器事業(4輪事業の約7%)が売上には含まれているので、トヨタ線の上に来る傾向は、統計作図上の都合によるものもあります。これを除くことも、各社の決算報告資料から可能ですが、そうすると、トヨタの4輪以外の事業は? そして各社が持つ販売金融事業の数字は? と調整事項の嵐となってしまうので、今回は簡易分析として、これくらいの精度で良しとしていただけないでしょうか?

逆に言うと、この3社以外はトヨタ線の下に有意な製品戦略もなく沈んでいます。こういう状況が問題視されるべきです。ガリバー企業と同質的な競争をしていては、業界中位の企業は、永遠にトップ企業に競争で勝てなくなります。

 

② 1台当たりの稼ぎを見る

自動車7社の台当たり利益額分布

では、販売ボリュームは小さくても、1台当たりの儲かり度具合は優れている企業はあるのでしょうか?新聞記事では、最高益とされた富士重と日産。1台当たりの収益性でトヨタ線を超えているのは富士重のみ。ここでスズキが浮上してこないのは、前四半期にちょっと製品か販売戦略に難があったということ。軽傷(けいしょう)で済めばよいのですが。。。社長業の継承(けいしょう)もあったことですし。。。

 

③ 台当たり収益性を見る

それでは、縦軸に1台当たりの売上高、横軸に1台当たりの純利益をとった散布図をみてみましょう。

自動車7社の台当たり収益性分布

今度は、トヨタの座標を縦と横で区切ります。そうしますと、4つの象限に分かれます。1台当たりの稼ぎ(収益面も利益面も)がトヨタよりいいのは、富士重。これぞ集中と選択の鏡です。この自動車業界のガリバーのトヨタと、今期最小売上高の富士重の収益性が高いことが、業界比較分析から分かりました。

特に、このグラフは、右上から左下にトレンド線が引かれる(いわゆる最小二乗法による近似曲線)のですが、そのトレンド線に大きく下方乖離しているのがホンダ。いわゆるあのリコール問題が後を引いているのが手に取るようにわかります。がんばれ、ホンダ!

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トヨタ、4~6月純利益最高 円安・北米が支え 新興国不透明 通期は据え置きhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む富士重,トヨタ,ホンダ,日産,スズキ,散布図■ クルマ会社の最もシンプルな業績評価方法 2015年8月5日の日本経済新聞(朝刊)トップに、主にトヨタ自動車が四半期決算では純利益最高益、同日11面に、日産・富士重も4~6月期としては最高益を計上したことが取り上げられています。新聞記事を読んでみると、車種や販売地域、生産体制など、様々な要因で各社の成長性や収益性の違いが生まれることを解説している文言にあたることができます。 読者としては、各社の「有価証券報告書」「決算報告資料」を読み比べないと得られない洞察を、優秀な新聞記者はたった1000文字程度の文章で伝えてくれるので、その企業の業績がもたらされた結果を手軽に知りたい場合に、新聞記事は大変便利なものです。 本投稿では、さらに、新聞記事に添付されている図表をExcelで散布図に加工するだけで、さらにそのエッセンスを可視化して理解を深めることをしたいと思います。 その際、たった3つの簡単な数値の組み合わせで、ある意味、提供される製品(ここでは自動車)が1台と数えられるということで、同質的な市場として、自動車産業を見た場合、どのような図解で、各社の業績を分析できるか、ちょっとトライしてみます。   ■ 新聞記事からトヨタ快調の理由を整理します 2015/8/5|日本経済新聞|朝刊 トヨタ、4~6月純利益最高 円安・北米が支え 新興国不透明 通期は据え置き (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「トヨタ自動車が北米市場の販売好調と円安を支えに一段と業績を拡大している。4日に発表した2015年4~6月期の連結決算(米国会計基準)では、純利益が6463億円と前年同期比10%増えて四半期ベースの最高を記録した。販売台数は独フォルクスワーゲン(VW)に及ばないが、利益水準は2倍近い。世界の自動車大手の中で収益力の高さが際立っている。(関連記事企業総合面に)」 (上図は新聞記事に添付されていたものを転載) トヨタ自動車快調の分析は以下の通りでした。 ① 販売地域別に市場環境が厳しかった地域を補ったのが、ガソリン価格下落の恩恵を受けた北米での新車販売の好調 ② 北米での売れ筋は、日本から輸出する高級車ブランドの多目的スポーツ車(SUV)「レクサスNX」のほか、現地生産のピックアップトラック「タコマ」など利益率の高い車種 ③ 1ドル=121円の円安が、他通貨のマイナス分を含めた為替効果として、1450億円に上った ④ 規模を追わずに効率的な生産体制の構築を目指し、今年4月発表のメキシコ・中国の新工場立ち上げ発表まで設備投資をギリギリまで詰めた この結果、 「1~6月の世界販売台数ではシェアを伸ばした独VWに抜かれ、4年ぶりに首位の座を明け渡した。だが純利益の水準は断トツ。3642億円のVWや1366億円の米ゼネラル・モーターズ(GM)を圧倒する。」 「純利益を販売台数で割ったトヨタの1台あたり利益は約25万8000円と、約14万2000円のVWに大差をつける。効率的に利益を稼ぐ力をみても、海外のライバルを引き離している。」 と、高い収益性を実現したことの説明が4つほど挙げられています。   ■ 引き続き、新聞記事から各社の業績理由を整理します 2015/8/5|日本経済新聞|朝刊 日産・富士重も最高益 北米が国内不振補う 車7社の4~6月 スズキなど3社は東南ア苦戦で減益 「トヨタ自動車が2015年4~6月期の連結決算(米国会計基準)を4日発表し、国内自動車7社の業績が出そろった。好調な北米を主戦場とし円安の追い風も受けやすいトヨタ、日産自動車、富士重工業が4~6月期では過去最高の純利益を達成した。半面、国内や東南アジアに軸足を置くスズキや三菱自動車など3社は減益だった。得意とする地域の違いが明暗を分けた。」 この新聞記事では、主戦場とする販売地域の市場環境で業績に明暗が分かれたとの理由づけになっています。 ・北米中心のトヨタ、日産、富士重は好調 ・国内やアジア・新興国中心のスズキ、三菱自動車は減益 ・欧州に強いマツダは、ユーロ安で50億円弱の営業減益と業績改善による税負担増 その他の論点では、スズキの国内販売は4月からの軽自動車増税の影響を受けているとの解説になっています。 こうした販売地域別のシェアや利益率は、各社の決算資料にあたらないと、横並びで比較することが困難です。できれば、記事がそういう組立になっているなら、販売地域別の利益構成比率チャートも掲載して頂きたかったですね。 この記事に添付があったチャートは下記の通りです。   ■ それでは、このチャートを使って、車種のグレードの1点突破で国内自動車各社の業績比較をここで見てみます 上記に掲載した、国内自動車会社7社の「売上高」「純利益」「世界販売台数」の3つだけで、比較チャートをこしらえてみます。 まず大元の数表を次のようにまとめました。   ① 車種のグレードの分布を見る 原点からトヨタ店までを結んだ線を仮に、「トヨタ線」と呼称します。トヨタ線より、上方に位置する企業は、品揃えとして、トヨタより高級なグレードの車種の構成比率が高い、と読みます。このグラフによると、トヨタ線より情報に来るのが、ホンダと富士重。そして大きく下方乖離しているのがスズキ。スズキの下方乖離は、スズキのメインは軽自動車だからわかりやすいのですが、なぜホンダと富士重がトヨタ線の上に来るのか? 単純に言うと、ホンダは二輪車事業(4輪事業の約18%)、富士重は航空宇宙と産業機器事業(4輪事業の約7%)が売上には含まれているので、トヨタ線の上に来る傾向は、統計作図上の都合によるものもあります。これを除くことも、各社の決算報告資料から可能ですが、そうすると、トヨタの4輪以外の事業は? そして各社が持つ販売金融事業の数字は? と調整事項の嵐となってしまうので、今回は簡易分析として、これくらいの精度で良しとしていただけないでしょうか? 逆に言うと、この3社以外はトヨタ線の下に有意な製品戦略もなく沈んでいます。こういう状況が問題視されるべきです。ガリバー企業と同質的な競争をしていては、業界中位の企業は、永遠にトップ企業に競争で勝てなくなります。   ② 1台当たりの稼ぎを見る では、販売ボリュームは小さくても、1台当たりの儲かり度具合は優れている企業はあるのでしょうか?新聞記事では、最高益とされた富士重と日産。1台当たりの収益性でトヨタ線を超えているのは富士重のみ。ここでスズキが浮上してこないのは、前四半期にちょっと製品か販売戦略に難があったということ。軽傷(けいしょう)で済めばよいのですが。。。社長業の継承(けいしょう)もあったことですし。。。   ③ 台当たり収益性を見る それでは、縦軸に1台当たりの売上高、横軸に1台当たりの純利益をとった散布図をみてみましょう。 今度は、トヨタの座標を縦と横で区切ります。そうしますと、4つの象限に分かれます。1台当たりの稼ぎ(収益面も利益面も)がトヨタよりいいのは、富士重。これぞ集中と選択の鏡です。この自動車業界のガリバーのトヨタと、今期最小売上高の富士重の収益性が高いことが、業界比較分析から分かりました。 特に、このグラフは、右上から左下にトレンド線が引かれる(いわゆる最小二乗法による近似曲線)のですが、そのトレンド線に大きく下方乖離しているのがホンダ。いわゆるあのリコール問題が後を引いているのが手に取るようにわかります。がんばれ、ホンダ!現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します