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■ フリーキャッシュフローの使途

経営管理会計トピック
富士重工業の連結営業利益が3期連続で過去最高となる見込みです。国内販売は消費増税の反動減の影響が少なからずあったようですが、北米市場の伸びが補って余りあるようです。

2014/9/17付 |日本経済新聞|朝刊
CFO投資家に語る④ 富士重工業 営業利益率2ケタ維持へ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

高橋CFOは、「成長を続けるための布石も打ち始めている」として、

  1. プラグインハイブリッド車(PHV)など環境対応車の開発に向け、今期から3年間で試験研究費として過去3年より6割増しの2,500億円を投資する
  2. 米国の生産能力増強を中心とした設備投資を7割増しの3,300億円を計画する
  3. これら先行投資の分は社台共通化などのコスト圧縮で吸収して利益水準は落さない

という中期方針でインタビューを締めていました。
この成長戦略を、FY13のキャッシュフロー計算書をベースに確認してみます。
分析の前に、2つ前提条件を付けさしてください。

  1. 経営者が経営判断で使途を変えられる「フリーキャッシュフロー」の計算をあくまで便宜的に営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの単純合計(差引)で求める
  2. 複数年の平均値を使うべきところだが、とりあえずFY13の収益力と債務返済をベースにした将来キャッシュフロー分析とする

前期の連結キャッシュフロー計算書(簡略版)は下表の通りです。
富士重工業 FY13 連結キャッシュフロー 
株主には、フリーキャッシュフローの8.4%を還元しています。
内部留保には、77.4%を回しました。
ここから、記事にあるように、
試験研究費を3年で6割増しの2,500億円に増額するということは、現在は、
2,500億円 ÷ 1.6 = 1,563億円 を3年で使っていることになり、
 
2,500億円 - 1,563億円 = 937億円 だけ増額するので、
937億円 ÷ 3年 = 312億円/年 だけ、営業キャッシュフローが減額されます。
(裏返すと、フリーキャッシュフローとしてその分使うということ)
次に、
設備投資に現在の7割増しの3,300億円かけるということは、現在は、
3,300億円 ÷ 1.7 = 1,941億円 を3年で設備投資に回していることになり、
(数値検証すると、1,941億円÷3年=647億円となり、FY13連結C/Fの設備投資額の674億円と近似します)
3,300億円 - 1,941億円 = 1,359億円 だけ増額するので、
1,359億円 ÷ 3年 = 453億円/年 だけ、投資キャッシュフローが増額されます。
(裏返すと、フリーキャッシュフローとしてその分使うということ)
ということは、成長戦略の原資として、フリーキャッシュフローをトータルで、
312億円/年 + 453億円/年 = 765億円/年 だけ費やすということになり、
その構成比は、
765億円/年 ÷ 2,791億円/年 ×100 = 27.4% となります。
FY13の内部留保は、2,161億円(77.4%)なので、
この成長戦略実施後の内部留保率は、
77.4% - 27.4% = 50.0% となります。
これは邪推ですが、富士重工業の向こう3年間の成長戦略は内部留保を50%(半分)確保したものとみることもできます。あまりにきれいな数字になったので、逆にビックリしました。  w(゚o゚)w
この50%を配当に回すもよし、計画が上手くいかなかったときのバッファに使うのもよし、経営者および財務管理担当者の腕の見せ所です。

■ 「記者の目」としてのコメントの適切性

インタビュー記事の下に、「記者の目」として、「株主配分への目配り不可欠」とあり、「上場企業平均より見劣りする配当性向(20%)の引き上げなど、投資先としての魅力を高める努力が求められる」という文言で締めくくられています。
これだけ、CFOから具体的な成長戦略とその数字の裏付けをヒアリングしておいて、その良否は問わず、もっと配当しろと言わんばかりのコメントとは。。。
投資家には、インカムゲインだけでなく、キャピタルゲインも含むTSR(Total Shareholder Return:株主総利回り)で評価する方々も多くいらっしゃいますし、富士重工業のような成長戦略をどう評価して、将来キャッシュフローとリスクから企業価値を算出するかを考えるのが通常かと思います。
また、成長企業や成熟企業など、その企業が置かれているステージごとに資金需要は異なりますし、業種ごとにリスク許容度のばらつきもある中、一律の平均値だけで個別企業の評価は難しいのではないかと思います。
日刊紙に喧嘩を売るつもりはありませんが(筆者は敬愛する池上彰氏ほどの大物では決してありませんから)、署名記事だったので、こちらも名前をさらしている以上、対等なつもりでコメントしました。関係者の方々、もしご意見ありましたら、右フォームまでご連絡ください。

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小林 友昭会計で経営を読む■ フリーキャッシュフローの使途 富士重工業の連結営業利益が3期連続で過去最高となる見込みです。国内販売は消費増税の反動減の影響が少なからずあったようですが、北米市場の伸びが補って余りあるようです。 2014/9/17付 |日本経済新聞|朝刊 CFO投資家に語る④ 富士重工業 営業利益率2ケタ維持へ(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 高橋CFOは、「成長を続けるための布石も打ち始めている」として、 プラグインハイブリッド車(PHV)など環境対応車の開発に向け、今期から3年間で試験研究費として過去3年より6割増しの2,500億円を投資する米国の生産能力増強を中心とした設備投資を7割増しの3,300億円を計画するこれら先行投資の分は社台共通化などのコスト圧縮で吸収して利益水準は落さないという中期方針でインタビューを締めていました。 この成長戦略を、FY13のキャッシュフロー計算書をベースに確認してみます。 分析の前に、2つ前提条件を付けさしてください。 経営者が経営判断で使途を変えられる「フリーキャッシュフロー」の計算をあくまで便宜的に営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの単純合計(差引)で求める複数年の平均値を使うべきところだが、とりあえずFY13の収益力と債務返済をベースにした将来キャッシュフロー分析とする 前期の連結キャッシュフロー計算書(簡略版)は下表の通りです。   株主には、フリーキャッシュフローの8.4%を還元しています。 内部留保には、77.4%を回しました。 ここから、記事にあるように、 試験研究費を3年で6割増しの2,500億円に増額するということは、現在は、 2,500億円 ÷ 1.6 = 1,563億円 を3年で使っていることになり、   2,500億円 - 1,563億円 = 937億円 だけ増額するので、 937億円 ÷ 3年 = 312億円/年 だけ、営業キャッシュフローが減額されます。 (裏返すと、フリーキャッシュフローとしてその分使うということ) 次に、 設備投資に現在の7割増しの3,300億円かけるということは、現在は、 3,300億円 ÷ 1.7 = 1,941億円 を3年で設備投資に回していることになり、 (数値検証すると、1,941億円÷3年=647億円となり、FY13連結C/Fの設備投資額の674億円と近似します) 3,300億円 - 1,941億円 = 1,359億円 だけ増額するので、 1,359億円 ÷ 3年 = 453億円/年 だけ、投資キャッシュフローが増額されます。 (裏返すと、フリーキャッシュフローとしてその分使うということ) ということは、成長戦略の原資として、フリーキャッシュフローをトータルで、 312億円/年 + 453億円/年 = 765億円/年 だけ費やすということになり、 その構成比は、 765億円/年 ÷ 2,791億円/年 ×100 = 27.4% となります。 FY13の内部留保は、2,161億円(77.4%)なので、 この成長戦略実施後の内部留保率は、 77.4% - 27.4% = 50.0% となります。 これは邪推ですが、富士重工業の向こう3年間の成長戦略は内部留保を50%(半分)確保したものとみることもできます。あまりにきれいな数字になったので、逆にビックリしました。  w(゚o゚)w この50%を配当に回すもよし、計画が上手くいかなかったときのバッファに使うのもよし、経営者および財務管理担当者の腕の見せ所です。 ■ 「記者の目」としてのコメントの適切性インタビュー記事の下に、「記者の目」として、「株主配分への目配り不可欠」とあり、「上場企業平均より見劣りする配当性向(20%)の引き上げなど、投資先としての魅力を高める努力が求められる」という文言で締めくくられています。 これだけ、CFOから具体的な成長戦略とその数字の裏付けをヒアリングしておいて、その良否は問わず、もっと配当しろと言わんばかりのコメントとは。。。 投資家には、インカムゲインだけでなく、キャピタルゲインも含むTSR(Total Shareholder Return:株主総利回り)で評価する方々も多くいらっしゃいますし、富士重工業のような成長戦略をどう評価して、将来キャッシュフローとリスクから企業価値を算出するかを考えるのが通常かと思います。 また、成長企業や成熟企業など、その企業が置かれているステージごとに資金需要は異なりますし、業種ごとにリスク許容度のばらつきもある中、一律の平均値だけで個別企業の評価は難しいのではないかと思います。 日刊紙に喧嘩を売るつもりはありませんが(筆者は敬愛する池上彰氏ほどの大物では決してありませんから)、署名記事だったので、こちらも名前をさらしている以上、対等なつもりでコメントしました。関係者の方々、もしご意見ありましたら、右フォームまでご連絡ください。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します