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■ 注意してください、「PBR」の算出方法が変更になります!

経営管理会計トピック

記事としてではなく、日本経済新聞社から株式指標のひとつである「PBR:Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)」の算出方法が変更になるお知らせが出ていたので、注意喚起としてこの投稿をさせて頂きます。

2016/5/27付 |日本経済新聞|朝刊 PBRの算出方法変更

「日本経済新聞は株価が1株当たり自己資本の何倍かを示す指標であるPBR(株価純資産培率)の算出方法を変更します。算出に使う自己資本の更新を従来の年1回から四半期ごとに変更します。自己資本は優先株など種類株の発行分を控除した普通株ベースの数値とします。
 新基準の適用は日経電子版のデータ欄が5月30日から、朝刊のマーケット面や数表欄などが6月2日付紙面から、日経ヴェリタスが6月5日号からです。東証1部などの集計値も対象とします。
 従来は本決算期末の自己資本を用いていましたが、これを四半期決算期末に変えることで、より株価の実態に近いPBRを算出できます。算出方法の変更により、優先株などの発行規模の大きい企業では従来よりもPBRが上昇します。」

ちなみに、筆者が知る限り、前回の日本経済新聞の指標の算出方法変更は、2015年1月26日からの「予想1株利益」でした。

⇒「予想1株利益の算出法、26日から変更 「発行済み」から自社株除外 市場の実勢などを反映

この時は、「ROE経営」が世の中を席巻し、株主還元の美名の元、自己株式の取得の事例が大量に発生したことに配慮して、発行済み株式総数から自己株取得した分を差し引いた株式数で、1株利益を算出することにしました。当然、分母にあたる株式数が減少する方向への変更のため、1株利益が良く見える変更でした。

 

■ 念のために「PBR」が示す意味をおさらいします。

PBRの計算式を確認します。下記のいずれでも計算結果は同じになります。

PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産 ・・・式1

PBR = 純資産 ÷ 時価総額 ・・・式2

PBRの意味するところは、

①「PBR = 1倍」の場合
貸借対照表における純資産(=株主がそもそも出資したお金とその投資分が生み出した株主に分配してもいい利益剰余金の合計の簿価評価額)と株式市場で取引されている株式の合計金額(時価評価額)が一致している

②「PBR < 1倍」の場合
会社を清算して、純資産を全株主に分配できる金額の総和が、株式市場で取引されている株式の価値(時価)の総和より小さい状態。すなわち、株式市場でその企業の株式を売却して現金化するより、会社をたたんで、残余財産を現株主に分配した方が、株主の手元に戻るお金が多くなる。つまりは、株価は会社の解散価値より低くなっている困った状態になっていることを意味する

③「PBR > 1倍」の場合
貸借対照表の純資産(簿価評価額)より、株式市場で取引されている株式の総和(時価総額)の方が大きい状態。この時、株式市場で当該企業の株式を取引している投資家たちは、この企業が有する企業価値が貸借対照表の純資産以上に大きい(含み益がある、これから大きく成長する)と見込んでいる状態。つまり、株価は会社の解散価値より高くなっているので、経営者にとっても現株主にとっても好ましい状態になっている

当然、キャピタルゲイン狙いの投資家は、「PBR < 1倍」の時に株式を購入して、「PBR > 1倍」の時に売り抜けることを考えます。 

ちなみに、PBR、PER、ROEの3つの指標の関係性を開設した過去投稿は下記のとおり。
⇒「動くか長期マネー 海外投資家に聞く(上)
⇒「一筋縄でない高ROE株  持続性と改善度に着目(1)
⇒「(一目均衡)自社株買いの功罪 編集委員 北沢千秋

 

■ このタイミングでなぜ「PBR」の算出方法を変更するのか?

今回の変更点は2つあります。

(1)自己資本を本決算から四半期決算数値から取得する
(2)株式数から種類株を除外する

(1)について
企業会計基準第12号 四半期財務諸表に関する会計基準」によりますと、連結決算においては、例えば、
第9項にて、四半期決算時は、本決算に比べて簡便的な会計処理が認容されています。
第11項にて、四半期決算特有の会計処理として、原価差異および税金費用の計上については、相当に見込が高いことを条件に繰り延べ処理が認容されています。
ただし、第39項にて、「予測主義」から「実績主義」へと四半期決算の考え方が変更され、基本として四半期決算は3か月の実績を表すものという位置づけに変わっています。
このことが世の中に浸透したこと、そして原価差異と税金費用についての繰り延べ処理の影響も小さいと判断されたのでしょう。もっとも、両者の繰り延べ処理については、経理担当者においても、積極的に尖った判断はできないので、会計実務的には控えめに処理されるので問題なしと言えなくもありません。しかし、例外はつきものですから、投資家は慎重に判断する必要がある事には違いありません。

(2)について
なんといっても日本最大の企業が種類株式を発行した影響が大きいことは間違いありません。

⇒「トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点
⇒「トヨタ、新型株の評価二分  株主助言のグラスルイス賛意、ISSの反対受け補足資料
⇒「トヨタの新型株 米公的年金2位は反対海外での賛否分かれる
⇒「(ビジネスTODAY)トヨタ総会、議論の場に 過去最長の3時間、新型株の賛成率は75%

2016年3月期決算において、トヨタ自動車の連結純資産は次の通り。

経営管理会計トピック_トヨタ自動車の株主資本

まあ、ほんの気持ち程度の誤差範囲かもしれませんが、確かにBPRの数値は動いてしまいますね。別の意味で、トヨタ自動車が積上げた利益剰余金の大きさに改めて驚愕してしまいますが。。。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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PBRの算出方法変更 - 日本経済新聞や日経会社情報を見る時に注意してください!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらいAA株式,PBR,トヨタ自動車,価純資産培率,種類株式■ 注意してください、「PBR」の算出方法が変更になります! 記事としてではなく、日本経済新聞社から株式指標のひとつである「PBR:Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)」の算出方法が変更になるお知らせが出ていたので、注意喚起としてこの投稿をさせて頂きます。 2016/5/27付 |日本経済新聞|朝刊 PBRの算出方法変更 「日本経済新聞は株価が1株当たり自己資本の何倍かを示す指標であるPBR(株価純資産培率)の算出方法を変更します。算出に使う自己資本の更新を従来の年1回から四半期ごとに変更します。自己資本は優先株など種類株の発行分を控除した普通株ベースの数値とします。  新基準の適用は日経電子版のデータ欄が5月30日から、朝刊のマーケット面や数表欄などが6月2日付紙面から、日経ヴェリタスが6月5日号からです。東証1部などの集計値も対象とします。  従来は本決算期末の自己資本を用いていましたが、これを四半期決算期末に変えることで、より株価の実態に近いPBRを算出できます。算出方法の変更により、優先株などの発行規模の大きい企業では従来よりもPBRが上昇します。」 ちなみに、筆者が知る限り、前回の日本経済新聞の指標の算出方法変更は、2015年1月26日からの「予想1株利益」でした。 ⇒「予想1株利益の算出法、26日から変更 「発行済み」から自社株除外 市場の実勢などを反映」 この時は、「ROE経営」が世の中を席巻し、株主還元の美名の元、自己株式の取得の事例が大量に発生したことに配慮して、発行済み株式総数から自己株取得した分を差し引いた株式数で、1株利益を算出することにしました。当然、分母にあたる株式数が減少する方向への変更のため、1株利益が良く見える変更でした。   ■ 念のために「PBR」が示す意味をおさらいします。 PBRの計算式を確認します。下記のいずれでも計算結果は同じになります。 PBR = 株価 ÷ 1株当たり純資産 ・・・式1 PBR = 純資産 ÷ 時価総額 ・・・式2 PBRの意味するところは、 ①「PBR = 1倍」の場合 貸借対照表における純資産(=株主がそもそも出資したお金とその投資分が生み出した株主に分配してもいい利益剰余金の合計の簿価評価額)と株式市場で取引されている株式の合計金額(時価評価額)が一致している ②「PBR < 1倍」の場合 会社を清算して、純資産を全株主に分配できる金額の総和が、株式市場で取引されている株式の価値(時価)の総和より小さい状態。すなわち、株式市場でその企業の株式を売却して現金化するより、会社をたたんで、残余財産を現株主に分配した方が、株主の手元に戻るお金が多くなる。つまりは、株価は会社の解散価値より低くなっている困った状態になっていることを意味する ③「PBR > 1倍」の場合 貸借対照表の純資産(簿価評価額)より、株式市場で取引されている株式の総和(時価総額)の方が大きい状態。この時、株式市場で当該企業の株式を取引している投資家たちは、この企業が有する企業価値が貸借対照表の純資産以上に大きい(含み益がある、これから大きく成長する)と見込んでいる状態。つまり、株価は会社の解散価値より高くなっているので、経営者にとっても現株主にとっても好ましい状態になっている 当然、キャピタルゲイン狙いの投資家は、「PBR < 1倍」の時に株式を購入して、「PBR > 1倍」の時に売り抜けることを考えます。  ちなみに、PBR、PER、ROEの3つの指標の関係性を開設した過去投稿は下記のとおり。 ⇒「動くか長期マネー 海外投資家に聞く(上)」 ⇒「一筋縄でない高ROE株  持続性と改善度に着目(1)」 ⇒「(一目均衡)自社株買いの功罪 編集委員 北沢千秋」   ■ このタイミングでなぜ「PBR」の算出方法を変更するのか? 今回の変更点は2つあります。 (1)自己資本を本決算から四半期決算数値から取得する (2)株式数から種類株を除外する (1)について 「企業会計基準第12号 四半期財務諸表に関する会計基準」によりますと、連結決算においては、例えば、 第9項にて、四半期決算時は、本決算に比べて簡便的な会計処理が認容されています。 第11項にて、四半期決算特有の会計処理として、原価差異および税金費用の計上については、相当に見込が高いことを条件に繰り延べ処理が認容されています。 ただし、第39項にて、「予測主義」から「実績主義」へと四半期決算の考え方が変更され、基本として四半期決算は3か月の実績を表すものという位置づけに変わっています。 このことが世の中に浸透したこと、そして原価差異と税金費用についての繰り延べ処理の影響も小さいと判断されたのでしょう。もっとも、両者の繰り延べ処理については、経理担当者においても、積極的に尖った判断はできないので、会計実務的には控えめに処理されるので問題なしと言えなくもありません。しかし、例外はつきものですから、投資家は慎重に判断する必要がある事には違いありません。 (2)について なんといっても日本最大の企業が種類株式を発行した影響が大きいことは間違いありません。 ⇒「トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む」 ⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点」 ⇒「トヨタ、新型株の評価二分  株主助言のグラスルイス賛意、ISSの反対受け補足資料」 ⇒「トヨタの新型株 米公的年金2位は反対海外での賛否分かれる」 ⇒「(ビジネスTODAY)トヨタ総会、議論の場に 過去最長の3時間、新型株の賛成率は75%」 2016年3月期決算において、トヨタ自動車の連結純資産は次の通り。 まあ、ほんの気持ち程度の誤差範囲かもしれませんが、確かにBPRの数値は動いてしまいますね。別の意味で、トヨタ自動車が積上げた利益剰余金の大きさに改めて驚愕してしまいますが。。。(^^;) (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します