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(Q&A)シャープで注目、偶発債務とは? 将来リスク見積もる 3月期企業公表、12兆円に 過度な警戒は不要 -引当金とはどう違うの?

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ シャープの偶発債務リストの公表がホンハイとの交渉でも取り沙汰されました

経営管理会計トピック

まずは、会計知識の整理の前に、シャープとホンハイの買収交渉で俎上に乗せられた「偶発債務」の影響と各社の思惑について、下記オンライン記事から引用します。

東洋経済 ONLINE
シャープと鴻海、偶発債務で拭えぬ不信感 調印寸前で「待った」がかかった買収劇の帰趨

「偶発債務は2月24日朝、鴻海がシャープから受け取ったリストで問題化した。A4判10枚程度に、小さな文字で数十件の債務の詳細が書かれている。具体的には、液晶パネルや太陽光パネルの生産から撤退した場合に地元自治体に返納しなければならない補助金や、取引先債務に対する保証金などで、債務総額は3500億円にも上るとされる。」

M&Aの場合、デューデリしますので、必ず偶発債務の規模感と発生リスクについては精査されるのが必定かと。筆者が若い時に手掛けた案件も、まずは隠れ債務が無いかを含めた財務チェックから入りました。懐かしい、、、 しかも、偶発債務は、特段B/Sに会計的数値として計上してあるものではないので、その把握と評価が難しく、純粋に会計的知識だけでは太刀打ちできないもので、ほとんど、技術の人、法務の人、に泣きついて調べていました。

「シャープは鴻海の要求に応じてリストを提出したが、内容自体は2015年12月のデューデリジェンス(資産査定)で報告済み、という見解だ。しかし鴻海は「2月24日までまったく示されていなかった」と態度を急に硬化。内容の精査に時間を要するとし、25日午後に予定していた調印を撤回したのであった。」

「またシャープは2月25日以降、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行などに経緯を説明したが、「リストの内容は基本的に銀行としても知っている。発生可能性が低いものも多く、巨額の隠れ債務発覚ではない」(銀行関係者)。それよりもシャープと鴻海の間にあるのは、どうにも埋めがたい相互不信という問題なのだ。」

買収交渉の経緯上、銀行筋が事前に知っていた、資産査定していた、なんとかと、後講釈でいろいろと、紙・Web媒体で記事が出ましたが、確かなこととして言えるのは、リスク査定は自己責任で、ということしかありません。

「偶発債務とは、将来何らかの事態が起きれば、発生が予想される負債である。内容と金額は財務諸表に明記するのが原則とはいえ、実際には発生可能性や金額の大きさを基準に、財務への影響が高い案件のみが記載される。今回のリストの金額が、シャープの直近財務諸表の偶発債務803億円を大きく上回っても、必ずしも不適切ではない。」

3500億円が、有価証券報告書に記載のあるボリュームをはるかに超え、すわっ、損失隠しか、と言われても、ディスクローズ資料には、「重要性の原則」で、相当の発生確率が高いものしか乗せることはできませんし、そもそも偶発なため、金額の測定自体が困難な性質のものであるのは間違いありません。

 

 

■ 押っ取り刀で偶発債務とは? の解説記事を解説します

それでは、日経記事に触れていきたいと思います。

2016/3/5付 |日本経済新聞|朝刊 政府・自民、監査法人にも統治指針 企業となれ合い防止

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

以下、Q&A方式での記事サマリになります。
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Q1:偶発債務はどこを見ればわかるのか?

「有価証券報告書や四半期報告書の欄外に記載されている。3月期決算の上場企業(金融など除く)のうち約800社が4~12月期の四半期報告書に偶発債務を明示している。金額を合計すると約12兆円になる。」

いわゆる「注記」として記載されており、会社によって記述方法や体裁はバラバラなため、有価証券報告書をかなり読み込む必要があります。さらに、発生確率によっては、この「注記」にすら書かれることが無いものも存在することは前章で触れた通りです。

Q2:偶発債務にはどんなものがあるか?

「例えば取引先などから損害賠償を求める裁判を起こされている場合、判決が出るまでいくら支払うのかがわからない。それでも実際に支払いが必要になると経営に影響を与えるため、金額を見積もり偶発債務として公表する。」

ここでも誤解なきようコメントを付しておきます。損害賠償事案を持っていたとして、必ず敗訴するとは限らない、または供託金他、何らかのキャッシュアウトがあった場合のものもあり、中身は千差万別。その中から内容を精査し、「引当金」としてきちんと「負債」認識し、B/S、P/Lに計上する「保守主義の原則」に準じた会計処理をする企業もあります。

それより、一番よく目にする偶発債務は、「債務保証」なんですがね。

Q3:金額が書かれていないケースもあるが?

「合理的に金額を見積もることができない場合などだ。タカタはエアバッグのリコール(無償の回収・修理)問題で債務負担が発生する可能性があると開示しているが、金額は示していない。一部は費用を計上したが、それ以外は自動車メーカーと協議中で、金額がわからないからだ。シャープも四半期報告書で金額を示していたのは、太陽光パネルの契約関連など一部のみだ。」

Q4:引当金とはどう違うのか?

「支払いが必要になる発生の可能性が高く、かつ金額を合理的に見積もりできる場合は引当金として費用を計上する。発生可能性の目安は日本の会計基準が8割程度、米国会計基準はそれと同等かやや低く、国際会計基準(IFRS)は5割以上とされる。」

ここでは軽々に発生確率を語っていますが、そんなものどこの会計基準にも明確に書かれていませんよ。さらに、どうやって8割とか、発生確率を客観的に証明することができるのでしょうか。そこは、高度な社会的・法的・技術的・経済的な人間の読みの世界です。

Q5:偶発債務が大きい企業はリスクが高いのか?

「必ずしもそうではない。トヨタ自動車の偶発債務は2兆3千億円強ある。販売店のローン販売の支払い保証をしており、未回収の可能性が将来ある金額を最大限見積もった。実際にその可能性が高いわけではなく、過度に警戒する必要はない。トヨタは自己資本が約17兆円あり、財務は簡単に揺るがない。」

偶発債務の発生確率と発生見込金額の絶対額だけで、企業財務の安全性は評価できないから大丈夫、という論調で説明していますが、ここにも落とし穴。曲がりなりにも、偶発債務があるということは、将来のキャッシュフローおよび損益の不確実性がその分高いということになります。つまり、ボラティティが高いということ自体、リスクが高いのです。企業財務の将来予測するをする場合にも、ボラティリティが高い場合は、大きい割引率で割り引かないと、将来損益およびキャッシュフローを安心して評価できません。

Q5:市場関係者は偶発債務の情報をどう活用しているか?

「自己資本比率が低く、赤字が続いている企業は偶発債務が実際生じた際の影響が大きい。そのため自己資本から偶発債務を除いたうえでPBR(株価純資産倍率)などを計算するアナリストもいる。格付け会社も信用力を分析する際に偶発債務の規模を考慮しているようだ。偶発債務の内容を踏まえて、財務への影響を精査する必要がある。」

当然、偶発債務の評価金額は、「期待値」で計算されてから、財務分析に使用してください。

期待値とは、例えば、とある金融商品について、60%の確率で10円に値下がりする、40%の確率で100円に値上がりする、と見込まれる場合、

期待値 = 60%×10円 + 40%×100円 = 46円

として評価するということです。

 

■ なんとなく、最後に引当金の説明をして終わりにします

勘定科目として、「引当金」の定義は、きちんと「企業会計原則注解18」に次のように示されています。

将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。 製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。

発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。

シンプルに引当金適用の条件をまとめると、次の4要件になります。
① 将来の特定の費用または損失であること
② 発生が当期以前の事象に起因すること
③ 高い発生可能性があること
④ 金額が合理的に見積り可能であること

偶発債務との決定的な違いは、上記③④ということになります。

更に脱線しますが、会計原則、会社法、金商法、この3つは、引当金の定義を現在は合わせてきています。一人、税法だけ、引当金の定義が辛く(厳しく)なっています。税法上では、

・貸倒引当金(但し、資本金が1億円以下であるなど一定の法人に限る)
・返品調整引当金

の2つのが引き当て計上を認められています。

理由は簡単です。引当金の計上に際して、実際のキャッシュアウトは要件になっておらず、財務担当者の判断に依存するところ大(筆者はあまり使いたくない言葉なのですが、いわゆる「恣意性」が大)だからです。やろうと思えば、引当金の繰り入れ、戻し入れを操作することで、期間損益をかなりの程度、経営者の意図に沿って調整することができます。

有名どころとして、ルノーが日産に資本参加し、ゴーン氏が経営再建に乗り込んできた際、可能な限り、引当金計上による特別損失を大きく出し、ものによっては翌期以降の損失も前倒し計上することで、期間損益上だけで、P/Lの表示上だけで、いわゆる「V字回復」を演出した、という事案があります。若い人にも知っておいてほしいので、当時は一般的知識だったのですが、あえてここで明記しておきます。

まあ、キャッシュの裏付けの無い会計的な期間損益は、操作しやすいのだ、とまずは疑ってかかることを習性としていても損はないでしょう。そして偶発債務、引当金など、会計担当者の判断、それを指示する経営者による意図でかなりの範囲でどうにでもなる勘定科目の増減には目を光らせておいて損はないでしょう。

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