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企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 時代の変遷により健全な会計処理の中身も変わる!

会計(基礎編)

今回は『企業会計原則』における『一般原則』の学習の第9回目となります。今回は、「保守主義の原則」になります。

『企業会計原則』の全体構成は下図の通りです。

財務会計(入門編)_企業会計原則の構造

そして、その3部構成の『一般原則』の構成は次の通りです。

財務会計(入門編)_一般原則の体系

「保守主義の原則」は、慎重な会計処置つまり利益の過大計上を避ける処理を要請する原則です。別名として、安全性の原則、健全性の原則、慎重の法則とも呼ばれています。保守的な処理、つまり健全かつ安全性の高い会計処理を求める会計の基本思考は古くから存在していました。

当座企業と呼ばれる会社清算を前提とした決算で資本主に投資の見返り計算をおこなう「静態論的会計」が支配的であった大航海時代以前、債権者保護を目的とした財政状態の表示が要求されていました。そこでは、債権者に対する担保財産の過大計上を排除することが保守主義の考え方に基づく会計処理でした。

① 資産は過少計上しても、負債は過少計上しない
② 簿外資産は認めても、簿外負債は認めない

やがて、産業革命を経て「動態的会計」でもって、継続企業(ゴーイングコンサーン)を前提とした決算、つまり費用収益の対応計算でもって損益法計算構造を前提に期間損益計算が会計の主眼となったとき、利益の過大計上を避けることが保守主義の考え方に基づく会計処理となったのです。

① 費用の計上は早めにしても、収益の計上は遅めにする
② 未実現損失は計上しても、未実現利益は計上しない

(参考)
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?

 

■ 現行の会計構造にもとづく保守主義の考え方とは

それでは、原文を確認してみます。

『企業会計原則』
保守主義(安全性)の原則

六 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。(注4)

現行の近代会計理論における期間損益計算構造で計算される期間損益は、株主から経営を委託された経営者の業績評価のための指標(業績評価利益)という側面の他、やがて株主への配当など、利益の処分可能性を担保しなければならない側面(分配可能利益)があります。それゆえ、いったん利益が確定してしまうと、それに伴う税金や配当金がキャッシュアウトフローとなり、現金が社外流出します。利益額が小さくなるほど、そうした現金支出が低く抑えられ、その分企業体力を留保利益(内部留保)として温存することができます。これが健全な財政状態の正体なのです。

以下、会計理論と保守主義の関係をチャートで整理してみます。

財務会計(入門編)会計理論と保守主義の関係

会計構造のレベルにおける保守主義は、期間損益計算構造を支える収益と費用の認識基準に基づくものです。会計処理のレベルにおける保守主義は、同一の会計事実において2つ以上の処理基準が認められている場合、期間損益に対して保守的な処理結果をもたらす処理基準または手続きを選択するものです。

後者について、
1)割賦販売の収益認識
販売基準 → 回収基準
2)建設工事やソフトウェア開発
工事進行基準 → 工事完成基準
3)棚卸資産評価
原価基準 → 低価基準
4)減価償却
定額法 → 定率法
5)後発事象
なにもしない → 引当金の計上

 

■ 予見計算と保守主義の関係とは

上記チャートの会計処理上の保守主義のうち、処理基準の適用段階における保守主義は、一般的には費用の予見計算の関する保守主義として会計実務家の前に立ち現れます。予見計算は、全ての未確定の事象を計算対象とするので、どのように科学的・統計的に厳密に計算してみたとしても、計算結果は蓋然性の幅となる値とならざるを得ません。

どんなに科学的な調査分析を緻密に実施したとしても、蓋然性の幅が狭まることがあっても、たった1点の数値が選び取られることはありません。そこで、予見計算では、結果的に誤差が最少となる可能性の高い数値を選択することが合理的となるので、中央値が自ずと選ばれることになるのです。

しかし、会計における予見計算では、期間利益に対してより保守的な処理結果を重視するので、結果的に利益の過大計上にならないように、予見計算で算出された蓋然性の幅の中で、より利益を小さくする方向で(より費用を大きくする方向で)計算結果を1点で導く必要があります。

下図は、貸倒見積り計算を例にした蓋然性の幅を示してあります。一般的な予見計算においては、中央値である3%を選択するのが正解なのでしょうが、「保守主義の原則」を含む会計の世界における予見計算においては、4%を選択することになるのです。ただし、これを予見計算の蓋然性の幅を超える5%を採択することは、過度の保守主義として、企業会計原則では戒められているのです。

財務会計(入門編)貸倒見積り計算と過度の保守主義

 

■ 「過度の保守主義」とは

「企業会計原則注解」において、「過度の保守主義」は禁止されています。

『企業会計原則注解』
注4 保守主義の原則について

(一般原則六)

企業会計は、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

会計報告実務者または経営者が、期間損益を意図的に操作するために、利益の過少計上を行うことを特に戒めたものとなっています。例えば、税金負担を減らしたい、今期は予算目標達成が見込まれるため、来期の利益計上の増額ために収益計上を後ろ倒しにしたい等の思惑で期間損益とそれに基づく財政状態の表示を歪めてはならないとするものです。

フレームワークで示すと、次のようになります。
① 収益 意図的な計上遅延
② 費用 意図的な早期計上
③ 資産 意図的な過少計上
④ 負債 意図的な過大計上

会計実務の中で、何が過度の保守主義か、あるいは経理操作かという問題は古くて新しい問題です。今期の利益目標の超過達成が見込まれるため、裁量固定費の来期での計上(執行・使用)を想定していた施策を今期に実施することは、見積計算(予見計算)の概念性の幅を超えたことにはなりません。つまり、過度の保守主義ではありません。念のため。(^^;)

(参考)
⇒「会計原則・会計規則の基礎(1)会計原則の基本構成を知る
⇒「会計原則・会計規則の基礎(2)戦後の日本経済の出発点のひとつとなった『企業会計原則』の誕生
⇒「企業会計原則(1)真実性の原則とは
⇒「企業会計原則(2)正規の簿記の原則とは
⇒「企業会計原則(3)資本取引・損益取引区分の原則とは - 会計実務ではないがしろにされているけれど
⇒「企業会計原則(4)明瞭性の原則とは(前編)- 財務諸表によるディスクロージャー制度の包括的な基本原則
⇒「企業会計原則(5)明瞭性の原則とは(中編)- 読めばわかる財務諸表のための 区分表示の原則、総額主義の原則
⇒「企業会計原則(6)明瞭性の原則とは(後編)読めばわかる財務諸表のために記載する注記 会計方針、後発事象
⇒「企業会計原則(7)継続性の原則とは(前編)相対的真実を守りつつ、比較可能性と信頼性のある財務諸表にするために
⇒「企業会計原則(8)継続性の原則とは(後編)変更できる正当な理由とは? 過年度遡及修正と誤謬の訂正の関係まで説明する
⇒「企業会計原則(9)保守主義の原則とは - 期間損益計算と予見計算におけるキャッシュアウトを最小限に抑えて企業体力を温存するために
⇒「企業会計原則(10)単一性の原則とは - 形式多元は認めるけど実質一元を求める。二重帳簿はダメ!
⇒「企業会計原則(11)重要性の原則 - 会計処理と財務諸表での表示を簡便化するための伝家の宝刀!
⇒「企業会計原則」(原文のまま読めます)
⇒「企業会計原則 注解」(原文のまま読めます)

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