(十字路)一億総株主化の必要性 - コーポレートガバナンス改革が進んで労働分配率が低下する件について

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■ 悪いコーポレートガバナンス改革といいコーポレートガバナンス改革の違い

経営管理会計トピック

欧米流のコーポレートガバナンスが日本市場に流入してきて、株主重視の経営というものが声高に叫ばれている昨今です。このブームによって、企業(経営者)と株主(株式市場)の関係性について、ちょっと考えさせる分析結果があります。

2017/8/8付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)一億総株主化の必要性

「日本企業の「稼ぐ力」を高めるためのコーポレートガバナンス改革が進められている。その狙いは企業の収益力向上を通じた経済活性化だが、一足先に企業統治改革に着手した英国やドイツについての興味深い分析がある。あるエコノミストによると、改革を機に労働分配率が低下しているというのだ。」

本コラムでは、コーポレートガバナンスや経営者と株主の関係性がよく取り上げられます。

⇒「(十字路)経営者の意識 - 会社は誰のものか? 株主は株式の所有者であって会社の所有者ではないって本当?」

また、同じ頃に、似たようなテーマで特集記事が朝刊の方でも組まれたりしました。

⇒「(Deep Insight)カープが説く「国民総株主」- 経営の神様 松下幸之助の「国民総株主論」か企業統治指針か?

昨今のブームになっているコーポレートガバナンス改革は、アベノミクスが株価上昇をもたらす海外機関投資家を日本の株式市場へ呼び込むために、欧米投資家が好む会社機関いじりを始めたこと、そして株主へのリターン重視経営をします、という看板を掲げたことにより始まりました。その政策自体が悪いかいいかは、ポジショントーク*)になってしまうので、ここではメインテーマとはしません。

*)市場におけるセルサイドまたはバイサイドにおける当事者(利害関係者)による、自らの売り買いのポジションを有利にするための報道や説明、情報開示などを意味する

しかし、本コラムが指摘する点については、特定の株式取引に立脚せずに、日本の株式市場はおろか、日本企業の経営全体の視点からは、あまりよくない兆候を指し示していると言わざるを得ません。

 

■ パレート最適をもたらすコーポレートガバナンス改革がいいコーポレートガバナンス改革である

パレート最適とは、

「所与の資源,技術,嗜好,所得分配のもとで,何か少なくとも一つの経済主体の経済状態を悪化させることなしには,他の経済主体の経済状態をこれ以上向上させることのできない状態をいう。パレート効率性とも呼ばれる。」
コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)

つまり、コーポレートガバナンス改革によって、企業利益というパイが一定水準のまま不変である場合、過去よりもっと株主に報いるために、増配や自社株買いによる株主リターンを高めるために、同額分のキャッシュアウトを従業員への配分(給与・賞与、福利厚生費など)を減らすのは、新厚生経済学において広範に採用されている厚生の判断基準であるパレート基準では、市場に任せていても効率的に資源配分が実行されていないことを意味するのです。

ここが大きな矛盾点で、ミクロ経済学においては、市場の失敗を回復するために、政府が市場にルールを課して、市場メカニズムにだけ任せていては、ベンサム流に言えば、「最大多数の最大幸福」につながらないことが明白な場合にだけ、市場介入が許されるハズなのに、却って、政府が欧米流のコーポレートガバナンス改革を推し進めると、労働者の取り分が減るというのでは、現下行われているコーポレートガバナンス改革は、ある特定の資本階級だけが得をする政策だということになります。
(あえて断っておきますが、筆者はいわゆる左翼とか、労働組合関係者ではありません)

パレート最適、株主還元率を高めても、労働分配率も同時に高まるような付加価値配分を行えるような企業体制にするのが、真のコーポレートガバナンス改革ではないでしょうか。日本のコーポレートガバナンス・コードにも、多種多様なステークホルダー全体に目配せすべし、と書いてあるではないですか。そのためには、パイ(=企業価値)を増殖させることだけが近道といえます。(^^;)

 

■ 従業員も株主も利害を一致させるための方策とは?

資本家対労働者階級、という一昔前の対立構造で、経済活動や企業活動を語っても、生産的ではないというのが筆者の立場です。要は、利害対立が起きることを回避するためには、その対立構造自体を無くせばよいのです。

そもそも、株式会社の経営は、資本主(株主)が資本を提供し、企業経営を委託された経営者が知恵を提供し、大企業を経営するという「所有と経営の分離」が大前提として、企業活動の効率化と大資本による企業拡大を可能にしてきました。そして、労働者は、その企業経営の中で、企業活動を推進する原動力としての労働を提供して、対価として賃金を得る。三者はそのように、立場こそ違え、企業利益と企業価値(将来の分配可能利益の増殖)を最大化するために、一致協力するべき間柄だったはずです。

みなさんの中で、そういう原理原則を忘れている方がいらっしゃったら、中高の社会の教科書をきちんと読み直して頂きたいと思います。

その上で、本コラムが指摘していたり、最近富に目にする施策として、株式報酬制度の効用を今一度、思い起こして頂きたいと思います。労働者が労働分配率低下を気にして、労使関係を緊張させて、労働分配率を上昇させる努力をすることで、企業活動に悪影響を与えるぐらいなら、賃金の一部、または、業績比例の上乗せ報酬分を自社株支給にすることも一考ではないでしょうか。

役員報酬にも従業員報酬にも自社株式を活用する。そうすると、株主、経営者、従業員という三者の企業業績への利害調整が自然に適うというものです。昨今、ブームになっている

2017/8/5付 |日本経済新聞|電子版 自社株で報酬、導入500社超える 企業統治指針に対応

「株式を役員や従業員の業績連動報酬として与える企業が増えている。みずほ信託銀行によると、こうした株式給付信託は6月末までに上場企業延べ510社が導入、3年前の約7倍に増えた。金融庁が企業に株主を意識した経営を求め、経営陣の報酬の一部を自社株にするよう推奨したのが背景にある。株高が進めば恩恵が広く及ぶとあって導入企業は増えそうだ。」

(下記は、同記事添付の「役員向けの株式給付信託が急増」を引用)

20170805_役員向けの株式給付信託が急増_日本経済新聞電子版

ただし、最後に付言しておきたいのは、企業財務・企業会計を勉強している身としては、現金配当だけは、株主と自社株を付与された経営者・従業員の経済的利得を最大にはしないことに留意して頂きたい、ということです。

詳細は、下記過去投稿をご参照あれ。

⇒「アマゾン77%減益 4~6月純利益 先行投資重視を強調 それがどうした。究極の経営は利益を上げないこと!

株主、経営者、従業員に加え、第一セクターの地方・中央政府の税収という4者を交えれば、現金配当に対する源泉所得税でも、法人税でも、企業価値というパイをどう分配するかという点では同じこと。しかし、株主、経営者、従業員という第二セクターの利害だけを考慮すれば、自由になるキャッシュフローの絶対額と、いつの時点で消費するかを決定する時間軸上の自由裁量権を考慮すれば、法人税納付というキャッシュフローの社外流出を伴う現金配当だけは、積極的に選択しない方が、第二セクターにいる人たちの経済的価値は最も毀損しない賢い選択ですよ。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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