本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

取締役会評価、二の足 企業統治指針、実施4割どまり 課題発見で成果も -コーポレートガバナンス・コードを押しつけた弊害ここにあり!

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
この記事は約9分で読めます。

■ コーポレートガバナンス報告書でも遵守率が最低となった取締役会評価について

経営管理会計トピック

まず、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治方針)」と聞いて、実物をご覧になった方がどれくらいいらっしゃるのでしょうか。まあ、本ブログをお読みいただいている物好きな読者(失礼しました。m(_ _)m)なら、本物にも目を通されている方が大半だとは思いますが、念のため、リンクをご紹介しておきます。

コーポレートガバナンス・コード – 日本取引所グループ(PDF)

ここにある「補充原則4-11③:取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示」につき、「“説明”率」が高い、すなわち、裏返すと順守率が低いことが問題視されている、というのが今回の話題の中心です。

コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2015年12月末時点)(PDF)

ここから、“説明”率が高いものランキングページを抜粋です!

20160403_説明率が高い原則_コーポレートガバナンスコード

さあ、次章でこの項目の問題をいろいろな視点から見ていきたいと思います。
ちなみに、各社のコーポレートガバナンス報告書の実物が見たい方は、次のリンクからどうぞ!

コーポレート・ガバナンス情報サービス -日本取引所グループ

これまでに、各社横並びの形式だけに陥った報告だ、との指摘について論評した過去投稿はこちら
⇒「企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題

 

■ ここで話題になっている取締役会評価とは? 

2016/3/28付 |日本経済新聞|朝刊 取締役会評価、二の足 企業統治指針、実施4割どまり 課題発見で成果も

「2015年6月に上場企業への適用が始まった「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」。重要な原則のひとつが「取締役会の評価」だ。日本企業にはなじみが薄いが、欧米では取締役会の課題を見つけ監督機能の向上を図る「ガバナンスの肝」として普及している。一方日本では初年度は未実施企業が続出した。背景には経営の執行と監督の分離に、あと一歩踏み出せないでいる日本企業の姿がある。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(同記事に添付されている日本企業の取締役会評価の実態を表したイメージ図を転載)

20160328_日本企業の取締役会評価の実態_日本経済新聞朝刊

同記事に、「取締役会評価」についての用語解説があるのでまずそちらをご紹介。

「▼取締役会評価 企業統治指針が要請。手法は企業の裁量に任されている。通常、取締役や監査役に調査表を送り運営方法や審議内容などについて回答させる。次に個別インタビューで取締役会の課題を洗い出す。先行する英国では自己評価に加え、FTSE350採用銘柄には3年ごとに第三者評価を求めている。経営コンサルティング会社や監査法人などが行い、利益相反を防ぐため社名も公表する。米国もニューヨーク証券取引所規則で毎年の評価を義務づけている。」

そして、やり玉に挙がっている「補充原則4-11」を3つまとめてご覧ください。

20160403_補充原則4-11_コーポレートガバナンスコード

 

■ 取締役会評価について、そのどこに問題があるのか?

前章で説明した取締役会評価を株主にどう説明しているか、これに対する実効性が問題視されています。新聞記事では、とある企業の本項に対する報告が、

「代表取締役など一部の取締役が、各取締役を評価したことをもって「取締役会の実効性を評価した」とコーポレートガバナンス報告書に記載。取締役会が実力社長の支配の下で形骸化している姿が見え隠れする。
 フィデリティ投信の三瓶裕喜・調査部長は「企業が取締役会の課題を示しガバナンスを改善することは、投資家にもプラスだ」とコードの原則は評価する。だが実態が伴わない例も多い。「取締役会の実効性について評価を行い、結果の概要を開示」とコードの字面をなぞっただけという例も。「中身が分からなければ意味がない」と、ある機関投資家は指摘する。」

として、報告が一部形骸化している事実が、金融庁の有識者会議で厳しく指弾されました。

「取締役会評価の目的は「監督を通じ企業価値向上に成果を上げているかをみること」(会社法に詳しい太田洋弁護士)だ。その場の高得点ではなくガバナンス改革につなげることに主眼がある。
 東証によれば昨年12月末までにガバナンス報告書を出した東証1・2部上場1858社のうち、評価を実施した企業は約4割。全73あるコードの原則の中で実施率は最低となった。残り6割の中で「今後実施する」と明言できた企業も半分以下だった。多くの企業は実施自体をためらっているのが現状だ。」

とりあえず、形式だけ取り繕う日本企業の横並び意識が見え隠れします。

「米国では取締役会評価は株主総会の招集通知に記載され、取締役選任議案の投票動向を左右する。だが日本の取締役会について、ガバナンス助言会社、プロネッド(東京・港)の酒井功社長は「多くの場合は業務執行の決定機関であり、欧米流の監督機能には遠く及ばない。評価する段階にある企業は少ないのでは」とみる。」

というコメントもあり、企業統治のレベルは米国と比べて低い、とするよく目にする自虐的な批判が付されています。そもそも、日本企業の会社統治からはいささか文化が違う英米流のコードを押しつけたからこそ、起きるべくして起きたギャップにすぎないのですが。

 

■ 新聞記事に紹介されていた各社の取り組みを見ていきましょう

● アステラス製薬
「「取締役会のあり方を各取締役が考える時間が必要だった」(御代川善朗副社長)ため、初年度は見送った。取締役会の半数以上が社外取締役で改革に熱心な同社でも、評価軸から検証しなければならなかった。」

● 第一生命保険
「もっとも評価を課題発見につなげた例もある。第一生命保険は多くの取締役から、大所高所の議論を活発にするよう求められた。「今後は議事運営にメリハリをつけ、議論の質を上げたい」と長浜守信取締役は話す。」

● 古河電気工業
「「ガバナンスの議論に時間を費やす」「不採算事業に関し報告・議論する仕組みの構築」など5項目の課題とその対策も示した。「解決策まで示さないと、評価した意味がない」と豊泉健二法務部部長。評価、改善を通じてあるべき姿を目指す。」

● 花王
「中長期の成長戦略、そのための人材戦略の議論を増やすことを課題に。加えて「監査役会が自主的に監査の有効性などを自己評価した」(杉山忠昭執行役員)。取締役会評価というコードの枠を超えてガバナンスを強化する。」

続いて、先行しているコニカミノルタの取材記事から。

2016/3/28付 |日本経済新聞|朝刊 導入先行、コニカミノルタの取締役会議長・松崎氏 緊張感生み成長持続

「コニカミノルタは日本では珍しかった取締役会評価を2004年度から続けている。松崎正年・取締役会議長に取り組み状況や課題を聞いた。」

(下記は、記事添付の松崎正年・取締役会議長の写真を転載)

20160328_コニカミノルタ_松崎正年取締役会議長_日本経済新聞朝刊

————————————————————————————–
Q1:導入の経緯と手法は?

「03年のコニカとミノルタの統合当初から、委員会等設置会社(現指名委員会等設置会社)として監督と執行を分離してきた。ガバナンスが適切に機能しているか、改善点はないかなどを検証する目的で評価を始めた」

「監督役の取締役会議長が中心になって実施する。年に1回、議長が取締役全員に自己評価アンケートを依頼。選択式と自由記述の組み合わせだ。結果を踏まえ、議長は次年度の取締役会の運営方針や改善策を示す。毎年同じ質問ではなく、ここ数年は当社の持続的成長には何が必要かを重点的に聞いている。定期的に外部機関の評価を受けることも検討する」

Q2:取締役会は監督機能を発揮していますか?

「私が社長だった時もそうだが、経営陣は社外取締役から『見られている』という緊張感の下で経営している。意思決定を早め、不採算事業を放置できない状況を作っている。評価を通じて外国人取締役の起用など、多様性の確保が課題として浮上してきた」
—————————————————————————————

 

■ 最後に、有識者のコメント紹介中心で締めます

「取締役会の監督機能の実効性が試される究極の場面が、経営者として不適格なトップへの退陣要求だ。金融庁の有識者会議は2月、欧米流に解職できる仕組みの導入を求めた。日本の取締役会も決議すれば代表取締役の選定・解職は可能だ。」

通常、取締役会設置会社においては、代表取締役は取締役会の決議により選定されます(362条3項、旧商法第261条1項と同様)。これについてはなんら違和感はありません。指名委員会等設置会社でも、取締役会と執行役がおかれ、取締役会の中には指名委員会、監査委員会、および報酬委員会がおかれます。三つの委員会の中で、株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社については会計参与も含む)の選任や解任に関する議案の内容を決定できます。当たり前のことを言っているので、これを新聞で読んでもふーんとなってしまうだけです。

「オムロンでは冨山和彦・経営共創基盤・最高経営責任者(CEO)が「社長指名諮問委員会」の委員長としてにらみをきかせる。だが大多数の企業の取締役会は、まだ執行陣からの独立性に乏しい。
 コンサルティング会社、エゴンゼンダー(東京・千代田)の佃秀昭社長は「日本企業の大半は、コードの最優先事項である社外取締役の複数選任が緒についたばかりで時期尚早」とみる。
 ジェイ・ユーラス・アイアール(東京・千代田)の高山与志子取締役は「社外取締役を選任したばかりの企業は1~2年かけ監督機能を高めてから評価を実施すべきだ」と、形式的なコードの順守を戒める。各社の中長期的な成長に資するよう、取締役会の役割や執行陣との距離感を見直す契機としたい。」

経営と執行を分ける。執行役は、特に指名委員会(を構成する社外取締役)が選任する。これには代表執行役も含まれます(取締役も兼務するなら、代表取締役執行役員となるわけですが)。

取締役と執行役の兼務禁止(ドイツでは法制化されている)とか、取締役は過半が社外取締役で構成される(米国で法制化されている)とか、(代表)取締役の監督権限が明確に機関設計されていない日本で、コーポレートガバナンス・コードだけ振りかざしても、ふーんとなってしまうだけだと思いますが如何でしょうか?

(もちろん、法制化が未整備なのが問題と言っているんじゃなくて、日本企業の経営の実態からかけ離れた英米流のいいところ取りだけしたコード(ルール)を押しつけても、形式に流れるだけといいたいわけなのですよ!)

⇒「株主総会招集通知のネット先行開示や取締役の評価情報の開示など -株主との対話強化の動き 日本経済新聞まとめ

コメント