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■ 表現横並びのどこが悪い!? だって定型フォームを提示したうえで、順守しなければ説明しろと。。。

経営管理会計トピック

東京証券取引所は、2015年6月に全上場企業に「企業統治報告書」の提出を求めました。開示項目は73項目にわたり、東証は報告用の定型フォーマットまで指定し、各上場企業に対し、報告書の大原則である「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」に従うか、従わないならばその理由を説明せよ、という開示を迫りました。

2016/1/16付 |日本経済新聞|朝刊 企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題

「東京証券取引所が上場企業に企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を適用して半年が経過した。指針に基づき2015年末までに「企業統治報告書」を公表した1800社強を調べたところ、指針の全項目を順守するとした企業は1割強だった。主要企業に限ると3割になる。一方で投資家との対話などで横並びの表現も目立ち、報告書の課題も浮き彫りになっている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

なお、同様の調査結果の報道は、別の日にも新聞記事となっています。

2016/1/21付 |日本経済新聞|朝刊 企業統治指針、全項目実施は12% 東証調べ 66%が9割以上

「東京証券取引所は20日、上場企業の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)への対応状況に関する調査結果を公表した。全体の12%にあたる企業が「独立社外取締役の複数選任」など73項目の原則全てを実施した。一部の項目を除いて9割以上の項目に対応した企業は66%だった。」

2つの新聞記事による調査結果で主なものを下記にサマリます。

・野村証券調べ:昨年末までに報告書を公表した企業1858社のうち73項目全て実施したと回答した企業は209社で全体の11.2%

・QUICK ESG研究所が3月期決算の日経平均採用企業197社を調べたところ60社(30%)が「全原則を順守している」だった。予算や人材が豊富な大企業ほど、指針の方針を順守する傾向が高くなっている

・実施企業数が最少だった項目は「取締役会の分析・評価」で、実施率は36%

・株主総会の招集通知の英訳など」(実施率44%)や「独立社外取締役の複数選任」(同58%)も少なかった

(2016/1/16記事添付の企業統治指針の主な不実施事項のグラフを転載)

20160116_コーポレートガバナンス・コードの主な不実施事項_日本経済新聞朝刊

16日の記事では、
「本来、企業が置かれている状況は千差万別だ。せっかく報告書を作成しても内容が横並びなら意味はない。ジェイ・ユーラス・アイアールの岩田宜子社長は「戦略上必要なら不実施の理由を丁寧に説明した方が、投資家の理解を得られやすい」と指摘する。「全て実施」で優等生を目指すより、自分の言葉で自社を説明する企業がどれだけ増えるかが、2年目に向けた課題になっている。」

というコメントの紹介で、企業独自の色を元出すように求めて締められています。

スチュワードシップとコーポレートガバナンス: 2つのコードが変える日本の企業・経済・社会

■ 東証のホームページから関連資料を引いてみましょうか

いろいろと筆者の邪推から来る感想を開陳する前に、ここで読者の方の独自分析ができるように資料の紹介にまず務めてみましょうか。

● 全ての根源となっている「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」の全文はこちら(日本取引所(東証)のホームページから。PDF形式)
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf

● 東証が各上場会社に報告を促した定型フォーマットとその記述要領はこちら
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/01.html
「監査役設置会社用」「指名委員会等設置会社用」「監査等委員会設置会社用」と、ありうべき上場会社の機関設置の全パターンを網羅しています。

● 東証が上場企業のガバナンス状況を毎年分析している「コーポレート・ガバナンス白書(2015)」はこちら(PDF形式)
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jb0-att/white-paper15.pdf

● 件(くだん)の東証の企業統治報告書の調査結果はこちら(2015年12月時点:PDF形式)
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/20160120-1.pdf

この調査から、分析結果を何枚かご紹介します。

まず、上記の全項目順守とか、比較的規模の大きい(2部より1部)企業の順守率が高いとかの企業分布は次の通り。

20160121_企業統治指針_会社別に見たコードの”実施”状況

東証2部企業は、極端に順守率が低くなることが目立っています。ということは、順守(遵守ではない)するにはそれなりの体制と予算が必要であるということになり、企業運営に関する間接コストがそれなりにかかっているとうことになり、株主として、必要コストとしてこれを是認できるか、という問題があると思いますが。

次に、原則ごとの“実施”・“説明”率のリストになります。

20160121_企業統治指針_コードの原則ごとの”実施”・”説明”状況

そのうち、説明率の高いものの上位ラインキングになります。つまり、コードをそのまま受け入れずに、企業独自の方針の説明があったもののリストということになります。

20160121_企業統治指針_”説明”率が高い原則

傾向として、①経営者の選任・評価・報酬決定、②情報開示のいずれかにグルーピングされます。

①経営者の選任・評価・報酬決定
・原則4-8 独立社外取締役の2名以上の選任
・補充原則4-2① 経営者報酬の設定方針
・補充原則4-10① 指名・報酬に対する社外取締役の関与・助言

②情報開示
・補充原則4-11③ 取締役会の実効性に関する評価の開示
・補充原則1-2④ 議決権の電子行使、招集通知の英訳
・原則3-1 経営戦略、ガバナンス方針、報酬決定方針、経営者の選任方針の開示
・補充原則3-1② 英語での情報開示

上記は「所有と経営の分離」を前提とする株式会社特有の機関設置コストの決定ルールの開示スタンスであり、海外投資家や機関投資家が好みそうな機関運営スタイルに沿った要求内容になっています。また、開示情報や招集通知の英訳など、海外株主比率がそう高くない会社には不要なコストなのですが、これまた海外投資家や外資中心の機関投資家が好む指針となっています。

会社が株主を選べるのか、というのはセンシティブな問題であるのですが、そもそも国内投資家が大半を占めるなら、英訳コスト負担など、収益の圧迫以外の何物でもないでしょう。

コーポレートガバナンス・コード (日経文庫)

■ ポジショントークに注意!

ここからは筆者のあくまで個人的な感想です。アベノミクス肝煎りのこの政策。海外投資家を日本の株式市場に呼び込み、株価上昇を狙った施策なので、当然、欧米の機関投資家好みのコードであるのは当たり前。しかも定型フォームによる報告ときた。従来のIR施策から、海外投資家に配慮している企業にとっては無駄な作業コスト負担が増えるだけです。

試しに、16日の新聞記事に登場した全順守していないファナックと、全順守を宣言したトヨタのそれぞれの「企業統治報告書」のリンクを下記に紹介しておきます。

● トヨタ(企業のホームページ:PDF形式)
http://www.toyota.co.jp/jpn/investors/library/cg/corporate_governance_reports_j.pdf

● ファナック(みんなの株式ホームページ:PDF形式)
http://minkabu.jp/announcements/6954/140120150622425860.pdf

ファナックについては、この定型フォーマットによる形式ばった報告より、自社のホームページに掲載されている次の文書を読んだ方が、企業のガバナンスに関する考え方がよく分かると思います。16日の新聞記事でも触れらていましたね。

「ファナックは「厳密と透明」という言葉を強調した。これは同社の役員社員行動規範から援用した言葉で、外部からは分かりにくいともいえるが、「他社の開示をなぞるより自分の言葉で語ったほうが良い」とアバディーン投信投資顧問の窪田慶太インベストメントマネジャーは話す。」

• コーポレートガバナンス・ガイドライン(PDF形式)
 (http://fanuc.co.jp/ja/ir/guideline/pdf/corporategovernanceguidelines.pdf

・行動規範(PDF形式)
http://fanuc.co.jp/ja/ir/code/pdf/codeofconduct.pdf

16日の新聞記事は、次のような記述もあります。

「ただ、「全て順守すればガバナンスが進んでいるわけではない」と野村証券の西山賢吾リサーチアナリストは指摘する。例えば議決権行使基準の開示を順守するとしても、その基準は「総合的に判断」といった曖昧な文言が目立つ。特定の業種で記述内容が似通っているケースもある。」

経営者自身の言葉で語る。形式は自社のメッセージが一番伝わるものを使う。どうして横並びの定型フォーマットを使わなければならないのか? 使えば使うで、表現は穏当で横並びになり、本当に知りたい情報は得られないのでは??? 無意味な形式ですな!

ご担当者の皆様方、内部統制のように、ブームが去っていくまでご辛抱ください。

コーポレートガバナンス・コードが求める取締役会のあり方

株主に響くコーポレートガバナンス・コードの実務

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企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むコーポレートガバナンス・コード,トヨタ,ファナック,企業統治報告書,企業統治指針,東証■ 表現横並びのどこが悪い!? だって定型フォームを提示したうえで、順守しなければ説明しろと。。。 東京証券取引所は、2015年6月に全上場企業に「企業統治報告書」の提出を求めました。開示項目は73項目にわたり、東証は報告用の定型フォーマットまで指定し、各上場企業に対し、報告書の大原則である「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」に従うか、従わないならばその理由を説明せよ、という開示を迫りました。 2016/1/16付 |日本経済新聞|朝刊 企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題 「東京証券取引所が上場企業に企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を適用して半年が経過した。指針に基づき2015年末までに「企業統治報告書」を公表した1800社強を調べたところ、指針の全項目を順守するとした企業は1割強だった。主要企業に限ると3割になる。一方で投資家との対話などで横並びの表現も目立ち、報告書の課題も浮き彫りになっている。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます なお、同様の調査結果の報道は、別の日にも新聞記事となっています。 2016/1/21付 |日本経済新聞|朝刊 企業統治指針、全項目実施は12% 東証調べ 66%が9割以上 「東京証券取引所は20日、上場企業の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)への対応状況に関する調査結果を公表した。全体の12%にあたる企業が「独立社外取締役の複数選任」など73項目の原則全てを実施した。一部の項目を除いて9割以上の項目に対応した企業は66%だった。」 2つの新聞記事による調査結果で主なものを下記にサマリます。 ・野村証券調べ:昨年末までに報告書を公表した企業1858社のうち73項目全て実施したと回答した企業は209社で全体の11.2% ・QUICK ESG研究所が3月期決算の日経平均採用企業197社を調べたところ60社(30%)が「全原則を順守している」だった。予算や人材が豊富な大企業ほど、指針の方針を順守する傾向が高くなっている ・実施企業数が最少だった項目は「取締役会の分析・評価」で、実施率は36% ・株主総会の招集通知の英訳など」(実施率44%)や「独立社外取締役の複数選任」(同58%)も少なかった (2016/1/16記事添付の企業統治指針の主な不実施事項のグラフを転載) 16日の記事では、 「本来、企業が置かれている状況は千差万別だ。せっかく報告書を作成しても内容が横並びなら意味はない。ジェイ・ユーラス・アイアールの岩田宜子社長は「戦略上必要なら不実施の理由を丁寧に説明した方が、投資家の理解を得られやすい」と指摘する。「全て実施」で優等生を目指すより、自分の言葉で自社を説明する企業がどれだけ増えるかが、2年目に向けた課題になっている。」 というコメントの紹介で、企業独自の色を元出すように求めて締められています。 スチュワードシップとコーポレートガバナンス: 2つのコードが変える日本の企業・経済・社会 ■ 東証のホームページから関連資料を引いてみましょうか いろいろと筆者の邪推から来る感想を開陳する前に、ここで読者の方の独自分析ができるように資料の紹介にまず務めてみましょうか。 ● 全ての根源となっている「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」の全文はこちら(日本取引所(東証)のホームページから。PDF形式) (http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf) ● 東証が各上場会社に報告を促した定型フォーマットとその記述要領はこちら (http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/01.html) 「監査役設置会社用」「指名委員会等設置会社用」「監査等委員会設置会社用」と、ありうべき上場会社の機関設置の全パターンを網羅しています。 ● 東証が上場企業のガバナンス状況を毎年分析している「コーポレート・ガバナンス白書(2015)」はこちら(PDF形式) (http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jb0-att/white-paper15.pdf) ● 件(くだん)の東証の企業統治報告書の調査結果はこちら(2015年12月時点:PDF形式) (http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/20160120-1.pdf) この調査から、分析結果を何枚かご紹介します。 まず、上記の全項目順守とか、比較的規模の大きい(2部より1部)企業の順守率が高いとかの企業分布は次の通り。 東証2部企業は、極端に順守率が低くなることが目立っています。ということは、順守(遵守ではない)するにはそれなりの体制と予算が必要であるということになり、企業運営に関する間接コストがそれなりにかかっているとうことになり、株主として、必要コストとしてこれを是認できるか、という問題があると思いますが。 次に、原則ごとの“実施”・“説明”率のリストになります。 そのうち、説明率の高いものの上位ラインキングになります。つまり、コードをそのまま受け入れずに、企業独自の方針の説明があったもののリストということになります。 傾向として、①経営者の選任・評価・報酬決定、②情報開示のいずれかにグルーピングされます。 ①経営者の選任・評価・報酬決定 ・原則4-8 独立社外取締役の2名以上の選任 ・補充原則4-2① 経営者報酬の設定方針 ・補充原則4-10① 指名・報酬に対する社外取締役の関与・助言 ②情報開示 ・補充原則4-11③ 取締役会の実効性に関する評価の開示 ・補充原則1-2④ 議決権の電子行使、招集通知の英訳 ・原則3-1 経営戦略、ガバナンス方針、報酬決定方針、経営者の選任方針の開示 ・補充原則3-1② 英語での情報開示 上記は「所有と経営の分離」を前提とする株式会社特有の機関設置コストの決定ルールの開示スタンスであり、海外投資家や機関投資家が好みそうな機関運営スタイルに沿った要求内容になっています。また、開示情報や招集通知の英訳など、海外株主比率がそう高くない会社には不要なコストなのですが、これまた海外投資家や外資中心の機関投資家が好む指針となっています。 会社が株主を選べるのか、というのはセンシティブな問題であるのですが、そもそも国内投資家が大半を占めるなら、英訳コスト負担など、収益の圧迫以外の何物でもないでしょう。 コーポレートガバナンス・コード (日経文庫) ■ ポジショントークに注意! ここからは筆者のあくまで個人的な感想です。アベノミクス肝煎りのこの政策。海外投資家を日本の株式市場に呼び込み、株価上昇を狙った施策なので、当然、欧米の機関投資家好みのコードであるのは当たり前。しかも定型フォームによる報告ときた。従来のIR施策から、海外投資家に配慮している企業にとっては無駄な作業コスト負担が増えるだけです。 試しに、16日の新聞記事に登場した全順守していないファナックと、全順守を宣言したトヨタのそれぞれの「企業統治報告書」のリンクを下記に紹介しておきます。 ● トヨタ(企業のホームページ:PDF形式) (http://www.toyota.co.jp/jpn/investors/library/cg/corporate_governance_reports_j.pdf) ● ファナック(みんなの株式ホームページ:PDF形式) (http://minkabu.jp/announcements/6954/140120150622425860.pdf) ファナックについては、この定型フォーマットによる形式ばった報告より、自社のホームページに掲載されている次の文書を読んだ方が、企業のガバナンスに関する考え方がよく分かると思います。16日の新聞記事でも触れらていましたね。 「ファナックは「厳密と透明」という言葉を強調した。これは同社の役員社員行動規範から援用した言葉で、外部からは分かりにくいともいえるが、「他社の開示をなぞるより自分の言葉で語ったほうが良い」とアバディーン投信投資顧問の窪田慶太インベストメントマネジャーは話す。」 • コーポレートガバナンス・ガイドライン(PDF形式)  (http://fanuc.co.jp/ja/ir/guideline/pdf/corporategovernanceguidelines.pdf) ・行動規範(PDF形式) (http://fanuc.co.jp/ja/ir/code/pdf/codeofconduct.pdf) 16日の新聞記事は、次のような記述もあります。 「ただ、「全て順守すればガバナンスが進んでいるわけではない」と野村証券の西山賢吾リサーチアナリストは指摘する。例えば議決権行使基準の開示を順守するとしても、その基準は「総合的に判断」といった曖昧な文言が目立つ。特定の業種で記述内容が似通っているケースもある。」 経営者自身の言葉で語る。形式は自社のメッセージが一番伝わるものを使う。どうして横並びの定型フォーマットを使わなければならないのか? 使えば使うで、表現は穏当で横並びになり、本当に知りたい情報は得られないのでは??? 無意味な形式ですな! ご担当者の皆様方、内部統制のように、ブームが去っていくまでご辛抱ください。 コーポレートガバナンス・コードが求める取締役会のあり方 株主に響くコーポレートガバナンス・コードの実務現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します