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■ 良いリスクを取れるかを左右するのが企業統治!

経営管理会計トピック

砂川教授による、企業ファイナンス理論をベースとした企業統治論の解説記事を要約してお届けします。形式論(制度や組織形態など)で「企業統治」を語る視点ではない、企業行動(特にリスクテーク)面から、「企業統治」を論じた大変興味深い論説です。

<ポイント>
① リスクを過度に恐れると成長機会を失う
② 撤退の選択肢により事業計画は価値持つ
③ 攻めの企業統治にはブレーキ役が不可欠

2015/9/7|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治何が必要か(下)撤退の判断迫る体制を 砂川伸幸 神戸大学教授

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東京証券取引所が上場企業の経営規範を定めた企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」は、企業が透明・公正かつ迅速・果断な意思決定をするための仕組みを企業統治と定義している。そして、企業統治が企業のリスクテークを促進し、持続的成長と企業価値の向上に結びつくことが期待されるという。」

「リスクテークと持続的成長をあわせて、攻めのガバナンスといわれることがある。企業統治といえば元来、守りであった。企業経営を監視し、不祥事などのリスクを防ぐための規律づけがガバナンスとされてきた。そのため、攻めのガバナンスというと、違和感を持つ人もいるだろう。しかし攻めと守りは相いれないものではない。守りが固いから攻めに専念できることもある。本稿では、攻めの企業統治の意味について考察する。」

 

■ 企業が直面するリスクには2種類ある

まず、「リスク」について分類していきます。企業が取るべきリスクには2種類あります。

① 価値創造に結びつくリスク(ビジネスリスク)
② 価値を毀損するリスク

①は、リスクテークをすることで高い(プラスの)リターンが得られることを期待して取られるビジネスリスクを意味し、②は、コンプライアンス(法令順守)違反など、損失しかもたらさないリスクを意味します。①は積極的に取りに行くこともありますが、②は徹底的にその発生を回避・抑止・軽減する必要があります。

②のリスクは、砂川教授は「悪いリスク」と呼び、下記のように論じています。
「悪いリスクは防がなければならない。そのためには、手順やルールを細かく定め、監査や監督を怠らず、違反があれば処罰の対象とする細則主義(ルールベース・アプローチ)が適している。企業の不適切な会計処理や粉飾決算は、悪いリスクに分類される。ルールを強化したり、監査体制を改善したりすることが対策となる。守りの企業統治は、悪いリスクを防ぐことを目的にしてきたといってよい。」

①のビジネスリスクは、砂川教授は「良いリスク」と呼び、下記のように論じています。
「攻めの企業統治の目的は、良いリスクテークを促進することである。経営理論では、ビジネスのリスクとリターンを測定し、自社の経営資源を生かして企業価値を高める可能性が高いと判断すればリスクをとる。うまくいけば、高い資本利益率と株価の上昇を実現できる。もちろん、すべてのリスクが高いリターンを生むわけではない。事後的に失敗することもある。リスクの定義から当然である。」

 

■ 環境悪化時こそ真価

下記の表は、新聞記事に掲載があった、投資プロジェクトの期待値評価表で、測定基準には「フリーキャッシュフロー(FCF)」が設定してあります。

投資プロジェクトと投資評価_日本経済新聞朝刊_20150907

砂川教授は、この表の上下で、きちんと企業が撤退ケースを考慮して、期待値評価すれば、結果として、企業は高いリターンを得られると、企業ファイナンス理論の視点から説明されています。ここまでだと、単なる企業ファイナンス理論で終わる所ですが、この「撤退」の意思決定を果敢に下すことができる企業体質が必要で、それは「体質」などという抽象的な捉え方ではなく、「コーポレートガバナンス」として、きちんと制度化しておきましょう、というのが教授の主張になります。

ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版—企業財務の理論と実践

「ポイントは、外部環境が悪化したときに、撤退や中止の選択肢を行使できるか否かにある。」

「ブレーキを踏む体制を確立できると、アクセルを踏むこともしやすくなる。プロジェクトの継続か果断な撤退という経営判断に柔軟に対応できる企業や組織は、投資というアクセルを踏み、良いリスクをとることができる。アクセルを踏むことができるのは、良いブレーキがあるからである。未知の行程を前にしてブレーキがきかなければ、アクセルを踏むことはできない。」

「要するに攻めの企業統治とは、取締役会や各委員会が適切なブレーキを踏むことで、経営陣が良いリスクテークを執行できる仕組みである。これが、コーポレートガバナンス・コードにある、経営陣幹部による適切なリスクテークを支える環境の整備に該当すると解釈できる。具体的な仕組みや体制は、企業の属性や競争環境に依存する。よって、原則主義(プリンシプルベース)が適している。企業は、自社に適した具体的な方針や基準を整備し、実践し、説明すればよい。」

つまり、
① ビジネスリスクには、プリンシプルベースのガバナンスを適用
② コンプライアンスリスクには、ルールベースのガバナンスを適用
ということになります。

企業はリターンを得るために、リスクテークする必要がある。適切なリスクテークには、攻めのガバナンスである「撤退基準」などのルールを整備すること。逆に、取締役会に積極的にリスクを取ることを促すルール整備が、企業の収益性の向上をもたらす(リターンの最大化)。

最後に、日本企業の収益性向上にむけた、教授の言葉で締めたいと思います。
「社会の動きが早くなるにつれて、一つの事業が競争優位を維持できる期間は短くなっている。企業は短期間のうちに、事業を組み替える必要がある。そのとき強みになるのは、撤退の意思決定が合理的にできる組織である。」



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(経済教室)企業統治何が必要か(下)撤退の判断迫る体制を 砂川伸幸 神戸大学教授http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むコーポレートガバナンス・コード,企業統治指針,砂川伸幸,ファイナンス理論■ 良いリスクを取れるかを左右するのが企業統治! 砂川教授による、企業ファイナンス理論をベースとした企業統治論の解説記事を要約してお届けします。形式論(制度や組織形態など)で「企業統治」を語る視点ではない、企業行動(特にリスクテーク)面から、「企業統治」を論じた大変興味深い論説です。 <ポイント> ① リスクを過度に恐れると成長機会を失う ② 撤退の選択肢により事業計画は価値持つ ③ 攻めの企業統治にはブレーキ役が不可欠 2015/9/7|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治何が必要か(下)撤退の判断迫る体制を 砂川伸幸 神戸大学教授 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「東京証券取引所が上場企業の経営規範を定めた企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」は、企業が透明・公正かつ迅速・果断な意思決定をするための仕組みを企業統治と定義している。そして、企業統治が企業のリスクテークを促進し、持続的成長と企業価値の向上に結びつくことが期待されるという。」 「リスクテークと持続的成長をあわせて、攻めのガバナンスといわれることがある。企業統治といえば元来、守りであった。企業経営を監視し、不祥事などのリスクを防ぐための規律づけがガバナンスとされてきた。そのため、攻めのガバナンスというと、違和感を持つ人もいるだろう。しかし攻めと守りは相いれないものではない。守りが固いから攻めに専念できることもある。本稿では、攻めの企業統治の意味について考察する。」   ■ 企業が直面するリスクには2種類ある まず、「リスク」について分類していきます。企業が取るべきリスクには2種類あります。 ① 価値創造に結びつくリスク(ビジネスリスク) ② 価値を毀損するリスク ①は、リスクテークをすることで高い(プラスの)リターンが得られることを期待して取られるビジネスリスクを意味し、②は、コンプライアンス(法令順守)違反など、損失しかもたらさないリスクを意味します。①は積極的に取りに行くこともありますが、②は徹底的にその発生を回避・抑止・軽減する必要があります。 ②のリスクは、砂川教授は「悪いリスク」と呼び、下記のように論じています。 「悪いリスクは防がなければならない。そのためには、手順やルールを細かく定め、監査や監督を怠らず、違反があれば処罰の対象とする細則主義(ルールベース・アプローチ)が適している。企業の不適切な会計処理や粉飾決算は、悪いリスクに分類される。ルールを強化したり、監査体制を改善したりすることが対策となる。守りの企業統治は、悪いリスクを防ぐことを目的にしてきたといってよい。」 ①のビジネスリスクは、砂川教授は「良いリスク」と呼び、下記のように論じています。 「攻めの企業統治の目的は、良いリスクテークを促進することである。経営理論では、ビジネスのリスクとリターンを測定し、自社の経営資源を生かして企業価値を高める可能性が高いと判断すればリスクをとる。うまくいけば、高い資本利益率と株価の上昇を実現できる。もちろん、すべてのリスクが高いリターンを生むわけではない。事後的に失敗することもある。リスクの定義から当然である。」   ■ 環境悪化時こそ真価 下記の表は、新聞記事に掲載があった、投資プロジェクトの期待値評価表で、測定基準には「フリーキャッシュフロー(FCF)」が設定してあります。 砂川教授は、この表の上下で、きちんと企業が撤退ケースを考慮して、期待値評価すれば、結果として、企業は高いリターンを得られると、企業ファイナンス理論の視点から説明されています。ここまでだと、単なる企業ファイナンス理論で終わる所ですが、この「撤退」の意思決定を果敢に下すことができる企業体質が必要で、それは「体質」などという抽象的な捉え方ではなく、「コーポレートガバナンス」として、きちんと制度化しておきましょう、というのが教授の主張になります。 ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版---企業財務の理論と実践 「ポイントは、外部環境が悪化したときに、撤退や中止の選択肢を行使できるか否かにある。」 「ブレーキを踏む体制を確立できると、アクセルを踏むこともしやすくなる。プロジェクトの継続か果断な撤退という経営判断に柔軟に対応できる企業や組織は、投資というアクセルを踏み、良いリスクをとることができる。アクセルを踏むことができるのは、良いブレーキがあるからである。未知の行程を前にしてブレーキがきかなければ、アクセルを踏むことはできない。」 「要するに攻めの企業統治とは、取締役会や各委員会が適切なブレーキを踏むことで、経営陣が良いリスクテークを執行できる仕組みである。これが、コーポレートガバナンス・コードにある、経営陣幹部による適切なリスクテークを支える環境の整備に該当すると解釈できる。具体的な仕組みや体制は、企業の属性や競争環境に依存する。よって、原則主義(プリンシプルベース)が適している。企業は、自社に適した具体的な方針や基準を整備し、実践し、説明すればよい。」 つまり、 ① ビジネスリスクには、プリンシプルベースのガバナンスを適用 ② コンプライアンスリスクには、ルールベースのガバナンスを適用 ということになります。 企業はリターンを得るために、リスクテークする必要がある。適切なリスクテークには、攻めのガバナンスである「撤退基準」などのルールを整備すること。逆に、取締役会に積極的にリスクを取ることを促すルール整備が、企業の収益性の向上をもたらす(リターンの最大化)。 最後に、日本企業の収益性向上にむけた、教授の言葉で締めたいと思います。 「社会の動きが早くなるにつれて、一つの事業が競争優位を維持できる期間は短くなっている。企業は短期間のうちに、事業を組み替える必要がある。そのとき強みになるのは、撤退の意思決定が合理的にできる組織である。」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します