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監査役の行動指針、4年ぶりに改訂 「監督機能」対応に戸惑い

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 「羹に懲りてあえ物を吹く」- 監査役監査基準の縛り強化

経営管理会計トピック

コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の導入、某大手電機メーカーの会計不祥事と、多事多難な中、公益社団法人日本監査役協会(会長は広瀬雅行氏(株式会社日本取引所グループ 監査委員))が、2015年7月23日に公表した新「監査役監査基準」が物議を醸しています。

(金商法監査を求める日本取引所が、会社法監査のベースである監査役監査の行動指針を決める団体の会長を出しています。日本の制度会計関連の整理が本当に必要だと思うのですが、、、非常にわかりにくい!)

2016/1/18|日本経済新聞|朝刊 監査役の行動指針、4年ぶりに改訂 「監督機能」対応に戸惑い

「日本監査役協会が昨夏まとめた新しい「監査役監査基準」が波紋を広げている。企業統治(コーポレートガバナンス)ルールの整備が進んだことを受け4年ぶりに改訂。法的には監査役の職務ではないとされる「(経営判断の)監督」に踏み込んだことに多くの監査役が戸惑っている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、その混乱の理由を次のように伝えています。

「同基準は監査役の行動指針。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の適用を機に、監査役の存在意義を強めるのが改訂の狙いだ。職責の定義には「守備範囲を過度に狭く捉えず、能動的・積極的な意見表明に努める」と記載。「新しい監査役像を示した」(永田雅仁事務局長)。
 だが、この意気込みが“物議”を醸した。特に「自らの職責の範囲内で監督機能の一部を担う」の文言が問題になった。」

「監督機能」そのものは「監査役の役割から外れる」という意見がその反対理由です。会社法上、取締役会は経営全般の監督責任がありますが、監査役は取締役の職務執行が「適法」かどうかを監視するのが役目なのです。ましてや企業価値向上の観点から経営を監督することまでは法的(会社法)には求められていないのです。この「監督機能」についての項目は、法的には必要とされないが企業統治コードに関わる「レベル4」に当たります。

(下表は、記事添付の新「監査役監査基準」のレベル分け表を転載)

20160118_日本監査役協会の「監査役監査基準」のレベル分け_日本経済新聞朝刊

記事では反対派、受入派のそれぞれの意見が紹介されていますので、整理してみます。

<反対派>
● 横河電機
「レベル4」の項目は自社の監査規定に入れなかった。取締役が監査もする『監査等委員会設置会社』なら協会案で良いが、監査役を置く当社のような監査役会設置会社にはそぐわない(牧野清・常勤監査役)

●トーセイ
「監督機能の一部を担う」などの文言を、自社規定では削った。実践できる、またはすべきものを厳選した(本田安弘・常勤監査役)

<受入派>
● 東洋インキSCホールディングス
同社の常勤監査役は、会社法上の義務である取締役会への出席以外に経営会議にも常時出席。経営判断の妥当性も評価するなど「監督」に積極的。協会の新監査役像に違和感はない(菅野隆・常勤監査役)

■ 基本に立ち返って、監査役制度をおさらいしてみましょう!

会社法によって、会社形態・規模、選択する機関ごとに細かい規定はちがうのですが、ここではごく簡便に、比較的規模の大きい企業ベースでお話します。

監査役は株主総会の決議で選任されます(会社法:329条)
監査役は次のことができます/しなければなりません(会社法:381条)
 1.取締役の職務の執行を監査(この監査には、業務監査と会計監査が含まれる)
 2.取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人、子会社に対して、報告を求める
 3.業務及び財産の状況の調査

選任について。「所有と経営」が分離していることが株式会社の大前提。つまり、お金を出している株主と、日常の経営を執行している経営者(取締役)が異なること。その取締役が、株主の意に反する行動を行っていないかを見張る役目を担い、株主から選ばれるのが監査役。

その監査役は、取締役及びその指示をうけて仕事をしている使用人に対して、株主の意に反する行動をしていないかチェックするために、次の権限/義務が与えられています。

①調査権
ほぼ誰にでもヒアリングや報告書の提出を求めることができます

②取締役会への出席と招集
取締役会で取締役たちが違法行為をしないように事前に防止するために、取締役会に同席したり、必要に応じて意見陳述をおこなうための招集権まで与えられています

③株主総会への報告
株主総会へ提出する議案について法令もしくは定款違反の事項または著しく不当な事項があることを発見した場合には調査の結果を株主総会へ報告します

④違法行為の差止め請求権
取締役が違法行為を行う(行った)ことを知った場合、これを差し止める権限(でかつ義務)があります

⑤提訴権
上記④が取締役に無視された場合、裁判所の力を借りて違法行為等を阻止・是正することができます

これらが、法定の監査権(業務監査と会計監査から構成される)なのですが、今回問題となったのは、取締役の行為に違法性が無くても、それを監督する義務を負うという、「業務監査」が「適法監査」ではなく、「適正監査」になっているということなのです。

こういう監視・監督権限(という義務)の強化は、会計監査人のところでもありました。

(参考)
⇒「(わかる監査)不正に向き合う(1) 市場の期待とギャップ  見逃した「東芝隠蔽」 適正意見に責任問う声

法治国家なのだから、罪刑法定主義なのだから、成文法なのだから、きちんと法律に記したもので、人に権利と義務を与えるべきだと思いますがね。世間の空気がなんとなく、あるポジションの人たちの役割を決める。そんなのはあまり風通しの良い、住みやすい社会とは言えないと思いますが。

新聞記事には、
「ただ、「監査規定は一定の法的効力を持つとの裁判例がある」(協会の永田事務局長)ので注意が必要。昨年5月の大阪高裁判決だ。破綻した不動産会社、セイクレストの管財人が、不正を繰り返す社長を止められなかったとして監査役に損害賠償を求めた。
 会社法は監査役に、取締役が不正行為をするおそれがある場合などは取締役会に報告することを義務付ける。さらに同社は監査規定でも同様に定めているにもかかわらず怠ったことを裁判所は重視し、監査役としての義務違反を認めた。東大の田中亘教授は「法的リスクも考慮し新基準導入の是非を決めるべきだ」と指摘する。」

とあります。法的責任が無いものまで、世間の空気に押されて監査規定に盛り込み、後から法的責任を擦り付けられても。。。ここは慎重な対応をお勧めします。

■ 興味がある人は、新「監査役監査基準」を眺めてみてください!

では、どう改正されたのか? 興味がある人は、日本監査役協会のホームページから件(くだん)の新「監査役監査基準」を確認してみてはいかがでしょう。

● 日本監査役協会のホームページ
 (http://www.kansa.or.jp/

● 新「監査役監査基準」(PDF形式)
 (http://www.kansa.or.jp/support/el001_150731_2_1a.pdf

● 新旧「監査役監査基準」対比表(PDF形式)←こっちの方が変化が分かる!
 (http://www.kansa.or.jp/support/el001_150731_2_2a.pdf

下記は、筆者が特に気になった箇所を抜き出してみたものです。

「第2章第2条」
監査役は、ステークホルダーの利害に配慮し、中長期的な企業価値の創出を実現する企業統治体制を確立する責務を負っている。
自らの守備範囲を過度に狭く捉えることなく、能動的・積極的な意見の表明に努める。

これらは、監査役(会)に違法性のチェックの監査・監督の義務を超えて、企業価値創出やそのためのステークホルダーとの協業を課するもので、自らが経営の主役になっては、今度は、その監査役を監査する立場のものを指名する必要が生じますね。笑い話ではなくて。

20160124_監査役監査基準_第2章第2条

「第4章第13条」
取締役かいが会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上の促しかつ収益力・資本効率等の改善を図るべく適切に発揮されていることを監視・監督する。例えば、企業戦略等の大きな方向性を示すことなど

これでは監査役にも中計立案および実行責任が生じます。個別企業の事情を勘案しつつとあるものの、コーポレートガバナンスコードに沿った努力目標とされ、それが明文化される。その効果は、善管注意義務違反その他の法令違反に準じた重さで裁判にて裁かれる可能性もあるという法的リスクを監査役に負わせてしまいます。

20160124_監査役監査基準_第4章第13条第14条

「第7章第34条」
監査役会は、会計監査人の解任又は不再任の決定の方針を定めなければならない。
監査役会は、会計監査人の再任が不適当と判断した場合は、速やかに新たな会計監査人候補者を検討しなければならない。

会計不祥事にまつわる会計監査人の適格性に問題があった場合、その解任や新たな候補者の選任にも義務を負うことになります。これは従来の法定の任命責任について、手続き的な注意義務を付加したものになり、さらに重責が課せられます。しかも、レベル2で。

20160124_監査役監査基準_第7章33条第34条

このブログでは、国際税務と会社機関の話題はあまりアクセス数が伸びません。しかし、この2つのテーマは、従来の経営管理や管理会計にとって非常に影響が大きいことなので、是非ひろく一般知として知ってもらいたい、そういう思いで、新聞記事が目に着いた際にできるだけ取り上げるようにしています。もし、今回も分かりづらい点がありましたら、是非コメント機能を使って質問をしてみてください。m(_ _)m

ちなみに、上記でご紹介した「日本監査役協会」のホームページに、監査についての異本的知識が身につくクイズがあります。お時間ある時にチャレンジしてみてください。あなたは何点取れますでしょうか?

● 監査役監査の基礎知識
  (http://enq.kansa.or.jp/shindan/index.php

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