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■ 「成長性分析」の目的を再確認

管理会計(基礎編)

前回」は、「Zチャート分析」を使って、前年同期比から企業の成長性を分析する手法を説明しました。
⇒「成長性分析(6) 前年同期比分析とZチャート分析

今回から、「相関分析」と「単回帰分析」という手法を説明します。そこで、なぜこの手法なのか、成長性分析の目的から確認していきたいと思います。

「成長性分析の目的」
【目的1】これまでの経営戦略(事業運営・施策実行)がうまくいっているかの検証
【目的2】将来どれくらい成長するか、その伸びしろと成長スピードはどれくらいかの予測
⇒「成長性分析(1) 理解の動機と表示方法の種別

つまり、
① 過去業績を振り返り、これまでの施策が効果的だったか点検すること
② 現在までの推移データを元に将来の値を予測すること
と言い換えることができます。

そこで、「相関分析」によって、ある数字と別の数字の増減変化の具合を比較して、2つの数字の関係、「片方が増えたらもう片方も増えるのか」、「一方が増えたらもう一方は減ってしまうのか」、それとも「2つの値には何の関係もないのか」を明らかにすることで、分析対象とする数値の特徴を明らかにします。

たとえば、アイスクリームの「売上高」は「平均気温」とどのような関係になっているか? 過年度のアイスクリームの売上が伸びていたのは、平均気温の上昇のおかげである、とか、平均気温の上下に無関係にアイスクリームの売り上げは変動している、新製品発売の方が売上高上昇にインパクトがあった、などという分析を可能にします。

財務分析において、時系列で売上高や利益額の推移を分析する際、その値自体のトレンドを追っかけていくのもいいのですが、他の経済的事象(統計数値で表現されている必要がありますが)との関係で、「増えた」「減った」が見えた方が、業績をより深く分析することができます。

たとえば、足下および将来的に継続的に円高傾向が続くと先を読み、海外に生産拠点を移したとします。ドル円のレート推移と自社の売上高の推移を比べることで、過去の意思決定の良否を評価できるのです。

 

■ 「相関分析」でトヨタの生産台数の変化を見る

「相関分析」とは、2種類のデータの関係の強さを、「相関係数」というモノサシで表わす分析手法です。通常、MS-Excelをお仕事で使用されていたら、統計学の理屈は知らずとも、結果だけ簡単に己のものにすることができます。ただし、数字やグラフの見方を知らないと、ただ作りっぱなしになるので、基本的な知識だけ先に押さえておきます。

財務分析(入門編)_相関分析

「相関係数」というモノサシは、「-1.0」から「1.0」までの値を示し、その絶対値の大きさで相関の強さを表します。通常は、Excelのグラフ作成機能で「散布図」を作成し、目視で2つの値の相関を確認することができます。同時に、Excel関数の「correl」関数で、ばっちり「相関係数」そのものを計算することもできます。

= correl(x軸の数列, y軸の数列)

では実際に、トヨタの生産台数と他の統計数字との相関関係を調べてみたいと思います。「成長性分析(6) 前年同期比分析とZチャート分析」のところで、トヨタの生産高と売上高は、JIT生産の影響もあり、月別のばらつきがあまり見られないため、今回は「生産台数」を中心に分析を進めていきます。

まず、トヨタの生産台数と相関を調べたい統計数字を集めてきます。今回は、
① TOPIX
② 円ドルレート
③ 鉱工業指数(生産高)
④ 機械受注高
⑤ 消費者物価指数
⑥ 消費者水準指数
を比較対象とします。

闇雲に手当たり次第に統計数字を集めてきて、分析結果から何らかの法則を見出すことでも構いません(帰納法アプローチ)が、今回は、事前に仮説を立てて、その検証をするやり方でやってみたいと思います。

① TOPIX
世の中の景気が良くなると、自動車の生産台数(≒販売台数)が増えるはず。景気状況を表現してくれる代理変数として株価指数のひとつであるTOPIXを使用する

② 円ドルレート
トヨタは、グローバル市場を相手に商売をしている。円安による輸出台数の増加がトヨタ(連結ベース)の生産台数を押し上げる効果があるかもしれない

③ 鉱工業指数(生産高)
④ 機械受注高
いずれも、日本国内にある製造業の業績動向を表す指標である。自動車産業のすそ野は広いので、国内製造業の活動状況とトヨタの生産台数には何かの連動性があるかもしれない

⑤ 消費者物価指数
⑥ 消費者水準指数
経済の原理原則に立ち返って、自動車は、一般消費者が購入するものなのだから、消費者の懐事情次第で売れ行き(生産数量の変動)が変わるはず。消費者側から見た時の生産活動への影響度を確認したい

それでは、一応、圧倒的ボリュームなのですが、集めた統計数値を表にしましたので、下記に掲載します。

(確認のために掲載するものなので、ざっと縦スクロールしてください)

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_数表

こうした膨大な数字を眺めていても、実感が湧かないので、「散布図」というグラフにして可視化してみます。

① TOPIX
相関係数=0.349で、「非常に弱い正の相関」
足下の景況感(株価)と自動車の生産台数はそれほど関係性が無かった

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_散布図_TOPIX

② 円ドルレート
相関係数=-0.206で、「ほぼ無相関」
トヨタは国内生産400万台を維持しようとしていたり、一方で現地生産能力も増強しているので、為替レートに連動して生産数量を増減させる施策は採用していないことが間接的に証明される

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_散布図_円ドルレート

③ 鉱工業指数(生産高)
相関係数=0.548で、「正の相関がある」
日本の製造業全体の活況具合とトヨタの生産台数には相関があるといえる。ただし、トヨタが生産台数を伸ばしたから日本の製造業全体が活況になるのか、日本の製造業全体が活況だから、トヨタへの生産オーダーが増えたのか、両者の因果関係までは分からない

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_散布図_鉱工業指数

④ 機械受注高
相関係数=0.472で、「非常に弱い正の相関」
基本的に上記③と同様の傾向だが、機械受注という業種を絞ったところで、③に比べて相関係数が鈍った。ということは、産業内でも自動車業界と強い結びつきがある・ないで、活況度の増減幅とタイミングが異なるということが間接的にわかる。
(→本当に産業間の相関を知りたい場合は、「産業連関表」を見ることにしています)

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_散布図_機械受注

⑤ 消費者物価指数
相関係数=0.137で、「ほぼ無相関」
今回取り上げた統計数字の中で、最も関係性が薄い。日本の消費者から見たモノの値段(物価)と、自動車の購買意欲とは目立った関係が見られない

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_散布図_消費者物価指数

⑥ 消費者水準指数
相関係数=-0.277で、「ほぼ無相関」
この指標は、物価の変動を除外した実質ベースの消費水準を表わす数値なので、日本の消費者の購買力が徐々に小さくなっていく中で、トヨタは生産台数を伸ばしている。あきらかに、数がさばける購買層は海外市場に求めていることが分かる

財務分析(入門編)_相関分析_トヨタ生産台数_散布図_消費者水準指数

 

■ (注意点)「相関関係」は「因果関係」ではない

上記の、「相関分析」は、2つの数値(トヨタの生産高とその他の統計量)の「正の相関」「負の相関」「無相関」を表わしてくれているだけで、トヨタの生産高をあげるために、何かできること、を直接は導いてきてはくれません。ただ、単年度予算や中長期の経営計画を立案する際に、社外の統計量を探って、自社の販売計画や生産計画などの基準(目標設定の初期値)をおぼろげながら与えてくれます。

まさか、「鉱工業指数(生産高)」を上げれば、トヨタの自動車生産台数が増えるのだ、どうしたら鉱工業指数を高めることができるか? と、トヨタの経営陣が考えることは、ひろく財界活動という視点を除けば、無いと思われます。むしろ、鉱工業指数の動向を読んで、自社の経営計画の精度を高めようと考えるはずです。

この辺は、ミクロ経済学でいうところの、「プライステイカー」か「プライスメイカー」か、その市場での圧倒的なプレイヤーなのかどうかで、判断が分かれるところです。ビックデータなど、統計学に何かと耳目が集まる時代ですが、素晴らしい道具である「統計的手法」も間違って使うととんでもないことになりますのでご注意ください。

ここまで、「成長性分析(7) 相関分析」を説明しました。

財務分析(入門編)_成長性分析(7)相関分析

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成長性分析(7)相関分析http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭財務分析(入門編)財務分析,成長性分析,トヨタ,相関分析■ 「成長性分析」の目的を再確認 「前回」は、「Zチャート分析」を使って、前年同期比から企業の成長性を分析する手法を説明しました。 ⇒「成長性分析(6) 前年同期比分析とZチャート分析」 今回から、「相関分析」と「単回帰分析」という手法を説明します。そこで、なぜこの手法なのか、成長性分析の目的から確認していきたいと思います。 「成長性分析の目的」 【目的1】これまでの経営戦略(事業運営・施策実行)がうまくいっているかの検証 【目的2】将来どれくらい成長するか、その伸びしろと成長スピードはどれくらいかの予測 ⇒「成長性分析(1) 理解の動機と表示方法の種別」 つまり、 ① 過去業績を振り返り、これまでの施策が効果的だったか点検すること ② 現在までの推移データを元に将来の値を予測すること と言い換えることができます。 そこで、「相関分析」によって、ある数字と別の数字の増減変化の具合を比較して、2つの数字の関係、「片方が増えたらもう片方も増えるのか」、「一方が増えたらもう一方は減ってしまうのか」、それとも「2つの値には何の関係もないのか」を明らかにすることで、分析対象とする数値の特徴を明らかにします。 たとえば、アイスクリームの「売上高」は「平均気温」とどのような関係になっているか? 過年度のアイスクリームの売上が伸びていたのは、平均気温の上昇のおかげである、とか、平均気温の上下に無関係にアイスクリームの売り上げは変動している、新製品発売の方が売上高上昇にインパクトがあった、などという分析を可能にします。 財務分析において、時系列で売上高や利益額の推移を分析する際、その値自体のトレンドを追っかけていくのもいいのですが、他の経済的事象(統計数値で表現されている必要がありますが)との関係で、「増えた」「減った」が見えた方が、業績をより深く分析することができます。 たとえば、足下および将来的に継続的に円高傾向が続くと先を読み、海外に生産拠点を移したとします。ドル円のレート推移と自社の売上高の推移を比べることで、過去の意思決定の良否を評価できるのです。   ■ 「相関分析」でトヨタの生産台数の変化を見る 「相関分析」とは、2種類のデータの関係の強さを、「相関係数」というモノサシで表わす分析手法です。通常、MS-Excelをお仕事で使用されていたら、統計学の理屈は知らずとも、結果だけ簡単に己のものにすることができます。ただし、数字やグラフの見方を知らないと、ただ作りっぱなしになるので、基本的な知識だけ先に押さえておきます。 「相関係数」というモノサシは、「-1.0」から「1.0」までの値を示し、その絶対値の大きさで相関の強さを表します。通常は、Excelのグラフ作成機能で「散布図」を作成し、目視で2つの値の相関を確認することができます。同時に、Excel関数の「correl」関数で、ばっちり「相関係数」そのものを計算することもできます。 = correl(x軸の数列, y軸の数列) では実際に、トヨタの生産台数と他の統計数字との相関関係を調べてみたいと思います。「成長性分析(6) 前年同期比分析とZチャート分析」のところで、トヨタの生産高と売上高は、JIT生産の影響もあり、月別のばらつきがあまり見られないため、今回は「生産台数」を中心に分析を進めていきます。 まず、トヨタの生産台数と相関を調べたい統計数字を集めてきます。今回は、 ① TOPIX ② 円ドルレート ③ 鉱工業指数(生産高) ④ 機械受注高 ⑤ 消費者物価指数 ⑥ 消費者水準指数 を比較対象とします。 闇雲に手当たり次第に統計数字を集めてきて、分析結果から何らかの法則を見出すことでも構いません(帰納法アプローチ)が、今回は、事前に仮説を立てて、その検証をするやり方でやってみたいと思います。 ① TOPIX 世の中の景気が良くなると、自動車の生産台数(≒販売台数)が増えるはず。景気状況を表現してくれる代理変数として株価指数のひとつであるTOPIXを使用する ② 円ドルレート トヨタは、グローバル市場を相手に商売をしている。円安による輸出台数の増加がトヨタ(連結ベース)の生産台数を押し上げる効果があるかもしれない ③ 鉱工業指数(生産高) ④ 機械受注高 いずれも、日本国内にある製造業の業績動向を表す指標である。自動車産業のすそ野は広いので、国内製造業の活動状況とトヨタの生産台数には何かの連動性があるかもしれない ⑤ 消費者物価指数 ⑥ 消費者水準指数 経済の原理原則に立ち返って、自動車は、一般消費者が購入するものなのだから、消費者の懐事情次第で売れ行き(生産数量の変動)が変わるはず。消費者側から見た時の生産活動への影響度を確認したい それでは、一応、圧倒的ボリュームなのですが、集めた統計数値を表にしましたので、下記に掲載します。 (確認のために掲載するものなので、ざっと縦スクロールしてください) こうした膨大な数字を眺めていても、実感が湧かないので、「散布図」というグラフにして可視化してみます。 ① TOPIX 相関係数=0.349で、「非常に弱い正の相関」 足下の景況感(株価)と自動車の生産台数はそれほど関係性が無かった ② 円ドルレート 相関係数=-0.206で、「ほぼ無相関」 トヨタは国内生産400万台を維持しようとしていたり、一方で現地生産能力も増強しているので、為替レートに連動して生産数量を増減させる施策は採用していないことが間接的に証明される ③ 鉱工業指数(生産高) 相関係数=0.548で、「正の相関がある」 日本の製造業全体の活況具合とトヨタの生産台数には相関があるといえる。ただし、トヨタが生産台数を伸ばしたから日本の製造業全体が活況になるのか、日本の製造業全体が活況だから、トヨタへの生産オーダーが増えたのか、両者の因果関係までは分からない ④ 機械受注高 相関係数=0.472で、「非常に弱い正の相関」 基本的に上記③と同様の傾向だが、機械受注という業種を絞ったところで、③に比べて相関係数が鈍った。ということは、産業内でも自動車業界と強い結びつきがある・ないで、活況度の増減幅とタイミングが異なるということが間接的にわかる。 (→本当に産業間の相関を知りたい場合は、「産業連関表」を見ることにしています) ⑤ 消費者物価指数 相関係数=0.137で、「ほぼ無相関」 今回取り上げた統計数字の中で、最も関係性が薄い。日本の消費者から見たモノの値段(物価)と、自動車の購買意欲とは目立った関係が見られない ⑥ 消費者水準指数 相関係数=-0.277で、「ほぼ無相関」 この指標は、物価の変動を除外した実質ベースの消費水準を表わす数値なので、日本の消費者の購買力が徐々に小さくなっていく中で、トヨタは生産台数を伸ばしている。あきらかに、数がさばける購買層は海外市場に求めていることが分かる   ■ (注意点)「相関関係」は「因果関係」ではない 上記の、「相関分析」は、2つの数値(トヨタの生産高とその他の統計量)の「正の相関」「負の相関」「無相関」を表わしてくれているだけで、トヨタの生産高をあげるために、何かできること、を直接は導いてきてはくれません。ただ、単年度予算や中長期の経営計画を立案する際に、社外の統計量を探って、自社の販売計画や生産計画などの基準(目標設定の初期値)をおぼろげながら与えてくれます。 まさか、「鉱工業指数(生産高)」を上げれば、トヨタの自動車生産台数が増えるのだ、どうしたら鉱工業指数を高めることができるか? と、トヨタの経営陣が考えることは、ひろく財界活動という視点を除けば、無いと思われます。むしろ、鉱工業指数の動向を読んで、自社の経営計画の精度を高めようと考えるはずです。 この辺は、ミクロ経済学でいうところの、「プライステイカー」か「プライスメイカー」か、その市場での圧倒的なプレイヤーなのかどうかで、判断が分かれるところです。ビックデータなど、統計学に何かと耳目が集まる時代ですが、素晴らしい道具である「統計的手法」も間違って使うととんでもないことになりますのでご注意ください。 ここまで、「成長性分析(7) 相関分析」を説明しました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します