原価計算基準(16)原価の諸概念⑦ 全部原価と部分原価 原価計算制度は全部原価を求め、全部の対義語として部分があるが、実質は直接原価しかない件

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■ 原価計算制度で求めるのは「全部実際原価」である

原価計算基準にて様々な原価概念を3つの対立軸でまとめたのが、今回からご紹介する「基準四 原価の諸概念」です。基準四では、

① 製品原価に使う消費量と価格の算定基準
実際原価 と 標準原価

② 財務諸表上の収益との対応関係
製品原価 と 期間原価

③ 集計される原価の範囲の違い
全部原価 と 部分原価

の3軸、6種類の原価概念を順に説明しています。今回は、ようやく原価の諸概念の最終回を無事迎えることができました。原価計算制度における原価概念の基礎を知る最後のチャンスと言っても過言ではありません。

では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

原価計算制度は、財務諸表によって企業の財政状態と企業業績を外部の投資家に開示して、投資意思決定の用に足るように、企業間の比較可能性を重視して、できるだけ汎用的・一般的な手続きと原価概念で、期間原価(期間費用)の数字を提供するものです。

「基準二」では、原価計算制度には、
① 実際原価計算制度
② 標準原価計算制度

の2つがあると記述されていますが、標準原価と実際原価の差異は、原価差異として別途把握し、期間損益計算のためには、標準原価 + 原価差異 = 実際原価として表示するため、財務諸表作成目的として使用する原価概念は実質、実際原価であると言えます。

そして、その実際原価の集計範囲は原価たるものすべてに及ぶため、「全部原価」という性質も兼ね備えているものになります。この2つの概念が合体した「全部実際原価」。これを原価計算制度が要請する原価ということにするのです。

⇒「原価計算基準(6)原価計算制度 - 特殊原価調査とはどう違うのか、内部管理用原価でも制度である理由とは?
⇒「原価計算基準(10)原価の諸概念① 実際原価とは

■ 「全部原価」がP/Lにおいて売上高と対応するまで

まずは、原価計算基準の本文を確認します。

 四 原価の諸概念

原価計算制度においては、原価の本質的規定にしたがい、さらに各種の目的に規定されて、具体的には次のような諸種の原価概念が生ずる。

(三) 全部原価と部分原価

原価は、集計される原価の範囲によって、全部原価と部分原価とに区別される。全部原価とは、一定の給付に対して生ずる全部の製造原価又はこれに販売費および一般管理費を加えて集計したものをいい、部分原価とは、そのうち一部分のみを集計したものをいう。

部分原価は、計算目的によって各種のものを計算することができるが、最も重要な部分原価は、変動直接費および変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)である。

まずは、「全部原価」の“全部”とはどの範囲なのかを確認していきます。

原価計算基準が取り扱う原価の全部は、期間損益を計算するために必要な原価です。そこでの期間損益は、営業利益を意味します。それゆえ、全部原価は、売上原価と販売費および一般管理費の合計額を指します。

原価計算(入門編)財務諸表作成目的による原価計算制度

ここで似たような用語の整理。よく、「当期発生費用」という用語を耳にしますが、それは、材料費、労務費、製造間接費からなる製造a/cに投入して、棚卸計算対象とする「総製造費用」と「販売費および一般管理費」を合わせたものになります。「総製造費用」は製品a/cへ「製造原価」として渡されて、ここでもう一度、期首期末の棚卸計算を経て、「売上原価」となって、P/Lへようやく届くことになります。

原価計算(入門編)当期発生費用と期間費用の関係

ここでは、一般的な製造業の勘定連絡図から、2回棚卸計算を経てP/Lへ投入されるように図示しています。これは企業によっては工程別にもっと複雑な計算をする場合がほとんどです。こうして、棚卸計算を行って算出されるものを「製品原価」と呼んだりします。

「販売費および一般管理費」は、当期発生額がそのままP/Lへ投入されます。「販売費および一般管理費」は棚卸計算の対象外であるため、そうした原価と収益の対応方法の考えから、「期間原価」とも呼ばれます。

ようやく、P/L上で売上高と対応する「期間費用(期間原価)」が、「売上原価」と「販売費および一般管理費」の合算値として求まることになります。ちなみに、「期間費用(期間原価)」は「総原価」とも呼び習わします。

似た概念が多いこと、同じ概念なのに違う呼び方があること。この辺も原価計算を初学者に分かりにくくしている理由の一つと言えましょう。原価管理や原価計算システムを設計する際にも、こうした用語の混乱が現場やプロジェクトの混乱を招く一因となっています。自分がそう昔から読んでいる言葉や名前が他の人ときちんと共有されているか、面倒くさいですが確認することをお勧めします。

 

■ 「部分原価」の代表選手である「直接原価」

原価計算基準の規定を読むと、

直接原価 = 変動直接費 + 変動間接費

という式で表すことができます。しかし、会計実務では、これでは識別不能です。なぜなら、

直接費と間接費、変動費と固定費の組み合わせにより、

① 直接変動費(変動直接費)
② 直接固定費(固定直接費)
③ 間接変動費(変動間接費)
④ 間接固定費(固定間接費)

の4種類があり、その内、「① 直接変動費」「③ 間接変動費」のみを「直接費(変動費)」と定義するとあります。変動間接費なのに直接原価? 急に(変動原価)とカッコつきで併記されても、「直接原価」と本当に同義なのか?

会計実務では、ほとんどこの基準の文言は無視されています。というか、ほとんどの人はこの基準を読まずに直接原価計算を行っています。(^^;)

⇒「原価計算 超入門(7)全部原価と直接原価の違い

上記の過去投稿記事からエッセンスだけ抽出して再整理します。

まずは、直間区分と固変分解による4つの原価分類を一表にまとめて整理します。

原価計算(入門編)_直間区分と固変分解

つまり、直接変動費(変動直接費)のみを棚卸計算し、それ以外は「当期発生費用」をそのまま期間原価とすること、つまり残りは「間接固定費(固定間接費)」扱いして、当期計上された分を全て期間損益計算に投入することを行います。

これは、費用(原価)を「変動費」と「固定費」に分解して、CVP分析/損益分岐点分析する管理会計実務と実に整合的です。つまり、世の中では、

変動費 = 直接費
固定費 = 間接費

として、後者は棚卸計算対象外として、直接原価を求め、売上高から差っ引いて直接利益を算出します。これは、ほぼCVP分析/損益分岐点分析における「限界利益」概念と同義で取り扱われています。この辺も、用語に対する統一感を、同僚やコンサルタント等とすり合わせることをお勧めします。

原価計算制度とは棚卸計算(製品原価)の範囲が異なるため、直接原価もそのままでは財務会計では用いることができません。

全部原価 = 直接原価 + 固定費調整
固定費調整 = 期首棚卸に含まれる固定費 - 期末棚卸に含まれる固定費

という感じになります。

わざわざ、制度会計とは異なる直接原価(直接利益)を原価管理や損益管理目的で用いるのは、ほぼCVP分析/損益分岐点分析の管理目的と一致しています。詳しくは、本ブログ、財務分析(入門編)に掲載されているCVP分析シリーズをご一読ください。(^^)

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(1)イントロダクション - CVP短期利益計画モデル活用の前提条件について

原価計算(入門編)原価計算基準(16)原価の諸概念⑦ 全部原価と部分原価 原価計算制度は全部原価を求め、全部の対義語として部分があるが、実質は直接原価しかない件

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