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日次決算できる会社とやるべき会社は違う - あみやき亭とあずさ監査法人 日本経済新聞より

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 「日次決算」を可能にする仕組みづくりは大変です

経営管理会計トピック

「日次決算」。経営者にとってはいい響きの言葉ですが、経理担当者にとっては悪夢のような言葉かもしれません。経営のますますのスピード化から、我が社も日次決算導入を、と気張る経営者に向けて、「本当に貴社に『日次決算』が必要なんでしょうか? そもそもお考えの『日次決算』の定義・概要を教えてください?」と尋ねると、ほぼ答えが返ってきませんが。。。(^^;)

2017/12/20付 |日本経済新聞|朝刊 揺れる監査法人(上)人手不足が迫る効率化 あみやき亭・会計士「毎日が決算」

「翌2日、あみやき亭は2017年4~9月期決算を発表した。3月期の決算企業では一番乗りだ。02年の上場当初から原則、締め日の翌営業日に決算を開示してきた。開示1番を巡ってIT(情報技術)企業などと競う時期もあった。
だが、監査の厳格化が進む中、翌営業日に開示する3月期企業は、あみやき亭だけになった。同社の佐藤啓介会長は「やるからには1番にこだわりたい」と意気込む。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「あみやき亭の決算の仕組み」を引用)

20171220_あみやき亭の決算の仕組み_日本経済新聞朝刊

本記事は監査法人の外部環境変化の連載なのですが、今回はあみやき亭の日次決算の秘訣を記事中から拾ってきます。

「高速決算の裏にあるのが「日次決算」だ。月ごとが一般的な締め日を日ごとにして毎日の収支を把握する管理会計のひとつ。あみやき亭はこれを徹底している。」

(1)経費処理の日次処理
「交通費などの即日精算は当たり前。経費は原則、当日に現金で払い戻しを受ける。経費を勘定システムに入力するのはパート社員で、経理部門の正社員は2人のみ」

(2)監査法人との情報共有
売上や仕入、人件費といった各店舗のデータは毎晩、本部が集約し、日次決算のデータはあずさ監査法人のもとに毎日送付されます。会計士は不自然な点が見つかればその都度、会社側に確認する体制になっています。こうした日次決算情報の共有には2つメリットがあります。

① 細々とした日次取引の精査(残高確認含む)を平準化し、期末の監査負荷を下げられる
② 日々の店舗別売上推移を把握することで、減損処理の兆候を早期発見・早期処理が可能になる

つまり、日々の会計取引を単純化・定型化し、期末の決算処理、会計監査を毎日・毎月次に平準化することで、期末決算開示の早期化に努めているわけです。

同記事連載の2回目で、ソフトバンクの膨れ上がるのれん評価に頭を悩ませているトーマツのケースとは好対照で大変興味深いものがあります。

2017/12/21付 |日本経済新聞|朝刊 揺れる監査法人(中) 将来性の目利き力必要に ソフトバンク、買収で「のれん」膨張

 

■ (蛇足)筆者があみやき亭の高速決算を外野の立場で見てみると

外野の立場ですが、三現主義(現場・現実・現物)を標榜する筆者は、実際に、あみやき亭の平成28年3月期決算短信を眺めてコメントを付したいと思います。

(1)徹底した社内取引管理
連結決算の泣き所のひとつに、グループ内取引の消去処理があります。あみやき亭は、食材調達から加工製造、物流まで一貫で行っています。セントラルキッチンを採用し、一括仕入れ、一括加工、その日のうちの各店舗への配送を実現しています。こうした取り組みは、日次決算のためではなく、厳正な品質管理と衛生管理の必要性から行われており、ビジネスプロセスに起因するグループ内取引処理のシンプル化・日次処理化が高速決算を可能にしています。

20171225_あみやき亭_事業系統図_2017年3月期_決算短信

(2)管理ポイントが引き締まった貸借対照表
総資産の41%を占めるのが現金。現金の動きは店舗で毎日把握するべき対象です。それに引き換え、棚卸資産が1.8%しかない。在庫評価が軒並み決算長期化の重大理由に挙げられるのが通常なのですが、これもセントラルキッチン方式で極力在庫を持たない経営がなされている結果です。

20171225_あみやき亭_連結貸借対照表_2017年3月期_決算短信

さらに、固定資産の63%を構成するのは建物です。新店舗の出店がそれほど激しくないので、減価償却費の月次計上はそれほど苦ではないようです。
(下表は、直近の月次速報より抜粋)

20171225_あみやき亭_業態別の月末時点稼働店舗数_月次速報

(3)簡便的なセグメント処理
ポイント引当金は事業別には決算処理していません。

 

■ 日次決算ができる会社とするべき会社としなくていい会社がある!

ここまで来て、あみやき亭のように、日次決算ができる素地にある会社は、「日次決算できる会社」であることは十分にご理解頂けたかと思いますが、「日次決算するべき会社」と「日次決算しなくていい会社」とは、明確に区別しておかねばなりません。

日次決算するべき会社とは、毎日の売上変動に機敏に対応すべき顧客・市場に対応している企業で、かつ現金商売である会社。ビジネスシステム自体が、短サイクル、日次サイクル出回っている会社です。単に、日次業績を把握していればいいだけなら、「日次決算」ではなく、「日次業績管理」と銘打って、売上受注を管理しておけばいいでしょう。あみやき亭は、在庫と現金というB/S項目も日々管理しなければならないのです。

日次決算が不要な会社は、ビジネスサイクルが長い業種・業態の企業です。プラント建設やソフトウェア開発など、決算期とは異なるプロジェクト単位の工期にしたがって、採算と進捗を管理すべきものです。当然、工事進行基準で売上計上していたり、プロジェクト進捗管理を緻密にしたりするためには、日々管理が必要になります。しかし、それは、P/LやB/Sを毎日締める、つまり会計的な勘定締めを毎日必要とするものではないのです。

ちなみに、年度決算は、納税(税務会計)のためと、株主への配当額を決めるために行っていました。配当の方は、会社法改正により、年度決算に依存しなくなりましたが。月次決算は、主に製造業の原価計算期間として行われてきました。年次、月次、日次、あるいはサービス・物販業にある週次と、それぞれの期間で勘定を締めるというのは、意味があるわけです。

何かすごいことをやっている会社がある。それをただあこがれとやる気だけで真似する会社がある。後者は、間違いなく、レベルの低いコンサルタントの餌食となる会社の最有力候補となるでしょう。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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