グローバル企業、詳細な税務情報公表 節税批判受け - CSRの先に公表企業にどのような思惑があるのか?

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■ 企業側から積極的に税務情報を公表し始めた思惑の裏はあるのか?

経営管理会計トピック

2015年8月、モサック・フォンセカ法律事務所が作成していた「パナマ文書」が外部流出し、タックスヘイブンを活用した過度な租税回避に対する社会的批判が高まり、グローバル企業側も対抗策としていろいろと工夫を始めました。

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊/電子版 グローバル企業、詳細な税務情報公表 節税批判受け

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「グローバル企業が相次ぎ詳細な税務情報を公表している。開示義務のない国別の納税額などを記載し、経営の透明性を訴える戦略だ。背景にはタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を示す「パナマ文書」が明かされ、極端な節税策への批判が高まったことがある。欧州では情報公開を促す法整備も進んでおり、対応を求められる企業は増えそうだ。」

(下記は同記事添付の「低税率国の利用実態を公開する企業も」を引用)

20170320_低税率国の利用実態を公開する企業も_日本経済新聞朝刊

それまで、過度にタックスヘイブンを活用したり、各国の税務制度の盲点を突いたりして、税金コストを最小限にすることに労力を費やしていた欧州企業から変化がみられるようになりました。どうして税務情報を公表する流れになっていったのかを考察する前に、本記事にて紹介された各企業の公表状況を見ていきたいと思います。

 

■ 節税批判を受け、欧州企業では透明性の高い税務施策が次々と公表されている

まずは先進事例として欧州企業の開示姿勢を見ていきます。

(下記は同記事添付の「税務情報公開の取り組み」を引用)

20170320_税務情報公開の取り組み_日本経済新聞朝刊

● ボーダフォン(英)
2015~16年の納税状況を自社サイトなどで公表。そのレポートは、①概要、②国別納税状況、③税務方針の3部構成で100ページ以上に及ぶ。その内容は、国別の収入とそれに対する納税額も明記。2013年から詳細リポートを開始し、2015~16年からは、法人税率が低いことで知られるルクセンブルクや租税回避地の利用実態、その理由などを説明する項目も新たに盛り込まれるようになった。

● BP(英)
従来、地域別の納税額のみを公表していたが、2016年からは国別納税額に詳細化

● ユニリーバ(英蘭)
納税総額、実効法人税率、地域別納税割合などを公表

● カールスバーグ(デンマーク)
法人として収める法人税等だけでなく、従業員が納めた税金の合計額、販売商品の消費税も合わせ、2015年は総額386億デンマーククローネ(約6200億円)に上ったと公表

 

■ 日本企業でも積極的に税務方針を公表するトレンドが

合わせて、本記事で取り上げられた日本企業の実体をご紹介。

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊 税務方針公表、日本企業も変化

「極端な節税策を取らないが、税務情報の公表にも消極的といわれていた日本企業も変化の兆しが出ている。味の素、キヤノンなどが納税に関する考え方や税務の基本方針を公表。社会的関心が高まっていることを受け、株主や消費者らに適正な納税姿勢を強調する狙いがあるようだ。」

● 味の素
味の素グループ 理念・方針集に「味の素グローバル・タックス・ポリシー」として記載
味の素グループ 理念・方針集|2016年10月発行/2017年3月修正)

20170320_味の素_グローバル・タックス・ポリシー

20170320_味の素_グローバル・タックス・ポリシー2

「味の素グループ行動規範(AGP)」を構成する一部として公表されており、コンプライアンス視点での宣言に近いものになっています。

 

● キヤノン
自社サイトメニューにて、CSR活動 地域社会への経済貢献 を構成する
①適正な納税の履行、②貧困地域における支援活動、③「キヤノン財団」を通じた研究助成活動という構成で公表

あくまで、「事業活動を通じて得られた利益を地域社会の発展のために還元」という従来のステークホルダー理論に基づく、地域社会への貢献としての捉え方になっています。

 

● アサヒグループホールディングス
自社サイトで、「経営理念・方針」を構成する2つの「コーポレートブランド」「税務行動指針」の内のひとつとして公表されています。

注目箇所を一部、下記に抜粋します。

20170320_アサヒグループホールディングス_税務原則_一部抜粋

同社の税務行動規範は、
  ・税務ガバナンス
  ・税務機能の責務と体制
  ・法令順守
  ・透明性
  ・移転価格
  ・ストラクチャーとプランニング
  ・タックスヘイブン
  ・不確定な税務ポジションと税務解釈
  ・優遇税制の適用
  ・税務当局との関係
から構成されており、ステークホルダー理論、CSR、コンプライアンスの各視点からバランスよく記述がされており、見習う点が多々ある宣言文になっています。

特に、上記で抜粋した通り、
① 事業目的に沿った税務のプランニングを実施する(租税回避目的のスキームを組まない)
② 税務のプランニングは、あくまで立法趣旨に基づき、(株主にとっての)コスト抑制と社会貢献のバランスをとることを宣言している
タックスヘイブンを租税回避目的では使用しないこと明言している
という3点が特筆に値する箇所になっていると考えます。

 

● コニカミノルタ
自社サイトの CSR(社会・環境活動)|コンプライアンス|コンプライアンスの実践 の中で、「事業活動を通じて、適正な納税の義務を果たすことにより、地域社会の発展に貢献するために「コニカミノルタグループ税務方針」を定めています」と宣言されています。そこでは、「UNGC(国連グローバルコンパクト)やOECDの国際指針に裏付けされた“社会的な要求や期待に応えること”」というグローバル規模でのステークホルダーの指示を得たいとする姿勢が見られます。

 

● NTT
自社サイトにあるCSR|ガバナンス のページが、①コーポレート・ガバナンス、②コンプライアンス、③リスクマネジメント、④税務、⑤知的財産管理 で構成されており、そのひとつが「税務」となっています。

20170320_NTT_税務

詳細は、サステナビリティレポート2016 (PDF)

 

● 第一三共
自社サイトにある CSR|コンプライアンス経営の推進 にて、「税務コンプライアンスに対する取り組み」がPDFで公開されています。

その中で、
①税務当局との良好な関係構築への取り組み
②国際的な税務フレームワークへの取り組み
 (BEPS、移転価格、タックスヘイブン)
という構成で「税務コンプライアンスに対する取り組み」として宣言がなされています。

20170320_第一三共_税務コンプライアンスに対する取り組み

 

■ 日欧企業の開示・公表姿勢の違いとそもそもの公表がトレンドになった背景について

欧州企業が積極的に税務内容を公表するには、ここ3,4年続いた一連の行き過ぎたグローバル企業における国際税務対応への批判をかわす目的があります。

「各社の背中を押しているのは、企業の節税策に対する国際世論だ。08年のリーマン・ショックを機に厳しい批判が目立ち始めた。米スターバックスが英国でほとんど法人税を納めていないとして不買運動を起こされ、13年には法的根拠のない2千万ポンド(約27億円)の自主納付に追い込まれた。16年4月には「パナマ文書」が明らかになり、一段と批判が高まった。」

欧州企業でこのような税務情報の公表が進む背景には、欧州課税当局の次のような動向が大きく影響しています。

・英国
2016年から、同国内で一定規模以上の事業を営む企業に税務戦略の公表を義務付けるよう法改正
・欧州委員会
2016年4月、大企業に対し欧州連合(EU)域内の納税額や利益、従業員数などの公表を義務付ける新ルールを提案(現時点で審議中)

加えて、米国ではトランプ新大統領が「国境税」を持ち出したり、節税目的のM&Aへの規制をかけたり、国家主権の徴税権に挑戦するグローバル企業への強硬な対抗措置を採る姿勢を明らかにしています。

⇒「「国境税」設計難しく トランプ氏、共和党案「複雑すぎる」 - 関税や米国法人税を含む包括的なトランプ課税政策を素人でもわかりやすく
⇒「パナマ文書にもめげず米当局企業課税逃れに新規制、結果としてファイザー、アラガン買収断念 - 日本経済新聞まとめ

つまり、グローバル企業は、株主に対する利潤追求・利益還元を重視するあまり、
① 課税当局の怒りを買った
消費者からの反感を買った
ので、ストックホルダー重視からステークホルダー重視へ企業経営の舵取りを変更する姿勢を明らかにするため、上記のような徴税権を持つ主権国家との共存を図るための宣誓、消費者向けの広報施策としての納税貢献度の開示に力を注いだものなのだと理解できます。

日欧企業間では、宣言文に留まっている日本企業と、具体的な納税数字の公表に踏み込み始めた欧州企業の温度差が顕著です。それは、次のように筆者は理解しています。

1)日本企業はあくまでこの問題を「コンプライアンス」として捉えているだけ
2)欧州企業では、企業の利潤に対する「株主」と「課税当局(地域社会)」の配分問題として真剣に議論されている

したがって、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を形式的に遵守していくのと同レベルで、文章だけの宣言でなんとなく済ませようとしている(済むと思っている)状況把握から来る危機感の違いによるものです。そもそも、法的には株式会社は株主が所有者で、株主の経済的利得を最大限にする(出資金をより高利で運用する)ことが企業活動の主目的であることを思い出すなら、

(欧州における企業観)
企業=株主 ⇔ 課税当局(国家主権)

(日本における企業観)
企業=従業員と内部昇格経営者 ⇔ 課税当局(国家主権)

という違いがあることを明確に意識すべきでしょう。それゆえ、株主からの強い企業価値最大化(=株主還元最大化)のプレッシャーから租税回避に走らざるを得ない構造にある株式会社が、みんなで仲良く経営しようというヌルい「ステークホルダー経営」、CSRとかESG投資とか、全方位の全ての利害関係者がWin-winになるように、という御託を並べた宣言文だけで許されるわけがありません。そこは企業活動の成果(利潤)に対するお互いの取り分を明確にするため、具体的な数字のやり取りを回避することはできません。

世の中の経理部や経営企画部のスタッフはまた仕事が増えて嫌だな、(会計・経営管理)コンサルタントは仕事が増えて嬉しいな、と悲喜こもごもな感想をお持ちになるでしょうが、企業活動の本質、株主会社の基本構造に思いを馳せれば、ごく自然な流れと言わざるを得ませんね。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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