配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ②株主との対話は株式益回りとPERからDOE、そしてTSRへ

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■ 徒手空拳では「株主との対話」はままならない。具体的にどんな財務指標を使えばよいのか?

経営管理会計トピック

前回は、配当性向30%近辺に固まる日本企業の横並び意識と株主との対話を単年度業績主義である配当性向に拘らず、中長期の企業成長目標(それは中長期の企業価値向上につがなる)を達成するために、内部留保と現金配当のバランスを中心にしたほうが、経営者と株主双方の利益になるよ、Win-Winだよ、というお話をしました。

⇒「配当性向30% 横並び意識の強い日本企業への処方箋 ①単年度決算主義の呪縛からの解放と真の株主との対話を促進とは?」

今回は、具体的に、「株主との対話」をリアルで進めるにあたり、どのような指標で双方の利害調整をする、もしくは企業側から投資家側(株主側)に対して、どのような財務指標で自社への投資が魅力的かをアピールする術があるか、について一つ一つ見ていきたいと思います。

① 配当性向

配当性向(%)= 現金配当支払額 ÷ 当期純利益 × 100

これは、前回も指摘した通り、単年度の企業の税引後の儲けから、どの割合を内部留保に回すか、それとも株主の出資に報いるべく、社外流出させるか(株主に払い出すか)を判断するものです。単年度利益の儲けの取り分を経営者と株主とで山分けする意識です。残念ながら、この指標だけでは、企業の長期的成長とそのために必要な投資が一体いくらになるかを真剣に議論できる土俵に上がることはできません。

② 総還元性向(総配分性向、株主還元性向)

総還元性向(%)= (現金配当支払額 + 自社株買い金額) ÷ 当期純利益 × 100

自社株買いは、企業が自社株を株式市場でその時の時価で買い戻す金額を意味するので、それだけでも一時的な現金配当に擬することができます。そのうえ、次の配当金支払の基礎となる発行済み株式総数を減らすことにつながるため、一株当たり利益を増やすことになります。したがって、配当性向は同じでも、分母となる株式数が減少しているので、事実上の受取配当金を増やすことになります。しかし、まだ視点が単年度業績である当期純利益の分け方に終始しています。

 

■ 内部留保を少しは意識し始めると「DOE(株主資本配当率)」を何とかしたくなる

③ DOE(Dividend on equity ratio:株主資本配当率)

DOE(%)= 年間現金配当額 ÷ 株主資本 × 100

この指標が単年度主義の配当性向、総還元性向よりちっとはましなのは、株主が直接払い込んだ資金と、本来株主に帰属する利益を再投資して得られた内部留保の合算である「株主資本」という元手に対して、企業が株主に年間どれだけの配当金としての還元をしたのかを見るところにあります。

ものの解説には、変動の激しい当期純利益ではなく、比較的安定している株主資本を分母にしているので、投資家に対して中長期的な目線でメッセージを送ることができる、とあります。極めて残念な解説です。(^^;)

この指標が生きるところは、次のような因数分解ができる点にあります。

DOE(%)=(年間現金配当額 ÷ 当期純利益)×(当期純利益 ÷ 株主資本)× 100
DOE(%)= 配当性向 × ROE

未だ、現金配当を中心とする「インカムゲイン」目線での株主還元に終始していますが、企業経営者と投資家の間で資本効率のよさの程度を議論するのに都合がよいROEを計算要素にも含んでいる所が、配当性向やROE単独より、一歩進んだ株主との対話ができるツールではないかと筆者は考えます。ここまでは並みの企業でも十分に実用に供することができる指標ではないかと愚考します。

例えば、配当性向30%前後、伊藤レポートによるとROE:8%が日本企業の平均であり、最低限の達成目標であるならば、

DOE(%)= 30% × 8% = 2.4%

が妥当な目標値ともいえます。

ただし、株主還元が「現金配当」という「インカムゲイン」だけに限定されていること、ROEは所詮、簿価ベースの利益率であることから、直接的に株主投資のリターンを示す指標ではないことに留意する必要があります。

■ 簿価から時価への飛躍をどうやって実現するか?

これまでの指標はすべて、簿価ベースのものでした。実際に、上場企業の株式は市場で常に売買されているので、時価ベースで投資採算性が語られるべきであると考えます。

④ PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)

PER(倍)= 時価総額 ÷ 当期純利益
PER(倍)= 株価 ÷ EPS  ※EPSとはEarnings Per Share:1株当たり当期純利益

株式市場において、当期純利益の何倍の値段でその企業の時価総額が評価されているかを示す指標です。これは、分子分母をひっくり返すと、

株式益回り(%) = 当期純利益 ÷ 時価総額 × 100
株式益回り(%) = (当期純利益 ÷ 株主資本)×(株主資本 ÷ 時価総額) × 100
株式益回り(%) = ROE  ÷ PBR ※PBRとはPrice Book-value Ratio:株価純資産倍率

という風に分解することができます。

株式益回りは、株式投資に回したお金がどれくらいの企業利益を上げているかを知ることができる指標です。それをROEとPBRにさらに分解することができます。

PBRは、時価総額が株主資本(純資産)の何倍の値を付けているか、つまり、株主資本という簿価の何倍の時価で評価されているかを知る指標で、割安感をみるものです。1倍を割るということは、会社を清算した方が、株主の手元に残るお金が多くなるので、PBR=1倍が会社の解散価値である、という言い方がされます。

PBR(倍)= 時価総額 ÷ 株主資本

ただしこの場合、簿価がきちんと解散価値を表していることが前提です。清算時に、資産を再評価する、即ち含み益(含み損)があれば、実際に株主の手元に残るお金は違ってきますから。

⑤ 再びDOE

DOE(%)= 配当性向 × ROE
DOE(%)= 配当性向 ×(株式益回り × PBR)
DOE(%)= 配当性向 ×(当期純利益 ÷ 時価総額)×(時価総額 ÷ 株主資本)
DOE(%)= 配当性向 × EPS × BPS

時価総額(=株価)の要素を取り入れると、DOEも違った様相で見ることができます。ここまでくれば、株主リターンのほぼ全てを見ることができます。時価総額の大きさは、キャピタルゲイン(株式売却益)を投資家に予想させる道具となり得るので。

⇒「(スクランブル)動いた「ROEの山」  平均10%、広がる銘柄格差

 

■ それじゃ、ズバリ時価での評価を素直にすればいいじゃん!

ここまでくると、株主リターンを「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の双方の合計で評価したくなります。

⑥ TSR((Total Shareholders Return:株主総利回り)

TSR(%)= インカムゲイン利益率 + キャピタルゲイン利益率
TSR(%)=(配当支払額 ÷ 当初株価)×100 +(株価上昇額 ÷ 当初株価)×100

当初株価というのは、既に単年度評価ではないことを意味しています。
ご自身が該当企業の株式を購入した際の株価と、評価する年限を複数年にしたときに、その複数年の間に支払いがあった配当総額と、その複数年の間に時価が上昇した額を合計したものを「株主総利回り」として表現するものです。

本当の所は、いつその該当企業の株式を、いくらで購入したかは株主一人一人事情が異なるので、TSRはいくら、という十把一絡げに表現することは難しいのが通常です。それではIRとかSRの強力なツールになり得ないので、ここは5年とか10年とか基準年を置いて、企業が公表することが多いのです。

以下に、TSRを決算報告している事例を紹介します。

● オムロン(FY2016)
https://www.omron.co.jp/ir/irlib/pdfs/ar17j/ar17_40.pdf

20171212_TSR_オムロン

●アサヒグループ(FY2015)
http://www.asahigroup-holdings.com/ir/pdf/annual/2015_22.pdf

20171212_TSR_アサヒグループ

だいたい、業界的にはどれくらいがTSR的に優良企業と呼ばれるのか?
BCGの調査レポートがネットで拾えるので、下記に引用の上、ご紹介します。

(2016年までの5年間における「企業価値創造に優れた企業」ランキングを発表: 日本企業ランキング上位はSUBARU、塩野義製薬、明治ホールディングス~BCG調査)
https://www.bcg.com/ja-jp/d/press/21july2017-value-creators-ranking-165959

20171212_TSR_BCG

配当性向30%云々。。。ふぅー(^^;)
世の中はTSRで自社の株主へのリターンを示せないと、という時代になっていると認識しているのですがいかがでしょうか?

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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