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(会社研究)ドンキホーテホールディングス 攻守自在で19期連続最高益

経営管理会計トピック とことんROE
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■ 経営者の神髄をインタビュー記事に見る!

経営管理会計トピック

「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」と外形標準的な枠組みから経営を語る場面が増えてきています。その中で、小気味よい経営者インタビュー記事に思わず目が留まりましたので、皆様にもご紹介します。

2015/9/5|日本経済新聞|朝刊 (会社研究)ドンキホーテホールディングス 攻守自在で19期連続最高益

2015/9/5|日本経済新聞|電子版 ドンキHD、大原社長「まだまだ奪えるマーケットある」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

本稿で取り上げたいのは、株主との距離感の採り方。しかし、本業での成功の秘訣をその前に並べて、経営者実績を証明しておかないと、せっかくの絶妙の距離感の凄みが失われかねないので、本論に入る前に、ドンキHDの好調のポイントをおさらいしておきます。
(なお、以下の説明文と引用文は、上記、紙面と電子版の連動記事から構成されています。アナログとデジタルの融合。そういう空気感も味わって下さい)

「破竹の勢いで成長を続けるドンキホーテホールディングス。6月末には創業者の安田隆夫会長兼最高経営責任者(CEO)が退任して大原孝治社長がCEO職を引き継いだ。大原社長に今後の経営戦略を聞いた。」

時価総額は10年で4倍になった(ドンキHDの連結業績)_日本経済新聞朝刊_20150905

(上表は、紙面掲載されたものの転載)

 

■ 業績の長期成長に必要なものとは?

記者からの質問:持続的に増収増益を続けていくために何が必要か?

(1)新業態の開発
出店加速のためには人材開発・組織開発が必要。2007年の長崎屋買収で、生鮮のノウハウを獲得したことで、生鮮食料品などを扱うNew MEGAドン・キホーテという業態の開発につながった。

「「ポストGMS(総合スーパー)」と呼ぶ新業態。2千坪程度とGMSの中型店と同程度の広めの店舗に、コンビニのように購買頻度の高い商品を詰め込んだ作りの店で、現在の4店舗から200店舗程度まで拡大できるとみる。」

(2)GMS業態で利益を出す体質づくり
「今、一般のGMSに食品以外に来店動機があるのだろうか。専門店というカテゴリーキラーに奪われているのが現状だ。通常のドンキは食品よりも非食品の方が圧倒的に売上構成比が大きい。培ってきた非食品の販売ノウハウを生鮮食品を扱う店舗に注入してきた」

(3)個店主義
個店が各商圏での戦いに勝利した合計が企業業績という考え方に基づく。

「仕入れ品目や販売価格の決定権、あの物欲を刺激する独特の陳列方法まで、店長クラスに大幅に権限を与え、売り場の鮮度を保つ。売れ筋の機敏な見極めは採算に直結する。定番商品では「激安の殿堂」の看板通りの低価格が命だが、店頭の約4割は季節商品など非定期仕入れの商品が占める。その粗利は約3割と高く、利益の源泉になる。」

現場への徹底的な権限移譲により、個店の強みを最大限に伸ばすのが経営者の仕事。その考え方が次の言葉に表れています。

「考える風土があり、指示する風土はない。例えば佐賀店に訪れる人の乗っている車や給料日、嗜好やお客様の表情は我々は分からない。東京の感性で佐賀をつくったらおかしい。佐賀の感性で佐賀をつくらないといけない」

(4)即断主義(スピード重視経営)
不採算店舗の撤退判断も素早い。2013年11月に閉店した東雲店は、わずか11カ月で閉店。黒字化は困難と見切り、開店3か月後には閉店に向けたシナリオ準備に入っている。

「資産運用でも1円も損したらいけないポートフォリオは苦しい。ヘッジファンドと同じで、もうかる場所もあれば、損する場所もある。いろいろなモノに投資をしていて、最終的な損益がプラスになることが重要。経営も同じだ。事業のポートフォリオをしっかり組んでいくためには、損するかもしれない新しい挑戦をしなければいけない。損をする時もあるが、できるだけ損切りを早くしようね、ということだ」

この即断即決主義が競合他社にはない強みとして、次の財務指標にあらわれている。

「前期は過去最高の33店舗を出店した半面、10店を閉鎖している。14年6月までに開店したグループ283店舗のうち、赤字は減価償却負担が重い3つの店舗のみ。積極出店で固定資産は増加傾向だが、DEレシオ(負債資本倍率)は0.57倍にとどまる。」

 

■ 筆者が感心する投資家との絶妙の距離感とは?

さて、ようやく最後に本論です。

記事には、
「今や時価総額は約6600億円に膨らみ、百貨店の雄、三越伊勢丹ホールディングスに迫る。外国人の保有比率は7割超。ドイツ証券の風早氏は「投資家が求めているのはイノベーションを続ける『非主流派』でありつづけること」と話す。」

とあり、資本効率、つまり「ROE」を重視すると言われている外国人投資家が多いドンキHD。どういった姿勢で投資家に説明責任を果たそうとしているのでしょうか?

記者からの質問:「配当性向が前期で約13%と低いのをどう考えるか?」

これに対する大原社長の回答が絶妙なのです。朝刊と電子版のコメントを編集して下記のようにまとめました。

「株主には成長とキャピタルゲイン(値上がり益)で報いたい。日本の流通にはまだ奪うべき市場が残っている。まずGMSの顧客を奪う。当然のことながら成長の限界に来て、トップラインが伸び悩んだら、配当性向を上げますよ。まだ奪い取れるマーケットがたくさんあるので、奪い取って業績を上げて、最終的には残存者利益を取る。」

 

■ この絶妙の距離感を財務指標の見方から解説します

このコメントの絶妙具合と、このコメントでもドンキHDから離れない外国人投資家が、企業財務のどこに目を付けているのか、愚才ながら、筆者流に解釈してみます。

① ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本(株主資本)
                = 当期純利益 ÷ (期初自己資本 + 当期純利益)

② DOE = 年間配当総額 ÷ 株主資本(自己資本)
                = 配当性向 × ROE

③ 持続可能な成長率(g*)
g* = (株主資本の変化額)÷(期初株主資本額)
    = (内部留保率 × 当期純利益)÷(期初株主資本額)
    = (内部留保率)×(当期純利益 ÷ 期初株主資本額)
    = 内部留保率 × ROE(期初株主資本額ベース)
    = 内部留保率 ×(売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ)
    = R × P × A × T (※)

      ※ R:内部留保率
        P:売上高当期純利益率
        A:総資産回転率
        T:財務レバレッジ(ただし、期初株主資本ベース)

⇒「成長性分析(9)持続可能な成長率

まず、ROEとDOE(株主資本配当率)の説明から。インカムゲイン(配当)で株主に報いるということは、当期純利益が一定とした場合、配当性向を上げれば、配当額を増額できます。物いう投資家(アクティビスト)達の行動原理は、会社がため込んだ内部留保を、配当で引き出そうというものが主流です。そして、多額の配当により、社外に現金が流出すると、貸借対照表の借方では、自己資金が不足しますが、貸方では、自己資本(株主資本)の額も併せて減額になるため、見かけ上は、「ROE」を構成する分母が小さくなることで、「ROE」も改善したように見えます。

このように、増配で、株主に報いようとすると、「ROE」「DOE」といった指標も改善して見えます。しかしながら、企業が中長期的な成長に差し向けられる資金が社内から失われることと表裏一体であるため、「持続可能な成長率(g*)」が小さくなるのです。

この逆説は、各投資家が、「誰にお金を預けて運用していれば一番儲かるのか?」を真剣に考えれば、おのずと答えが出ます。つまり、

「投資家自らが、投資ポートフォリオを自在に再構成して、自己資金の運用利率を最大にできると、自分の力を頼むならば、配当要求を声高に叫び、会社から現金を引き出して、他の有利と自分で判断する企業(投資機会)に投資する」

または、

「いったん投資した先の企業の経営者の手腕を信じる。経営者による事業ポートフォリオの方の運用利回りの方が、自己運用より高いと認める。しかも、内部留保を経営者の事業プランに再投資していけば、その運用効果は、「複利」で得られ、かつ、配当金受け取りにかかる所得税の支払いの繰り延べることができる」

のいずれの投資スタンスを取るか、の選択になるということです。現金リッチな企業を決め打ちで短期的に株式を大量保有し、配当金を吐き出させたら次の標的に移る、狩猟民族的なアクティビストの尻馬に乗るか、そうでなければ、自己運用の利回りと、投資対象企業の「持続可能な成長率」を冷静に比較して、企業投資対象を選別するべきだと考えます。

この判断の際、「ROE」は登場してきますか???

大原社長は、「ドンキHDの「持続可能な成長率」を見て、我が社への投資をご検討ください。運用利回り(キャピタルゲイン含む)を冷静に分析すれば、我が社への長期投資が有利じゃないですか?」と投資家に対して、メッセージングしているわけです。IR等、中期経営計画発表の際に、投資家重視と謳って、「ROE」を目標として、「8%」以上にします!と安易に、投資家に迎合する説明方法と、大原社長を代表とする企業の成長性をきちんと説明する方法、あなたはどちらに説得力・魅力を感じますか?

→ドン.キホーテ HLDGSのホームページ
http://www.donki-hd.co.jp/




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