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(経営の視点)非上場でも社外取締役 自ら求めれば効果大きく 編集委員塩田宏之 - 長期的コミットメントが得られるアドバイザー求む!

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 社外の知見を得るのに、なぜに社外取締役なのか?

経営管理会計トピック

コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードと、上場会社を縛るソフトローが最近注目を浴びており、中でも「社外役員(社外取締役・社外監査役)」の経営に対する有効性の議論が盛り上がっています。アベノミクスでもてはやし、海外投資家を日本の株式市場に呼び込むために、官製の企業統治のモード(流行)を作ってきましたが、その余勢を借りて、非上場会社にまで、社外取締役ブームが来ているのだそうで。

2016/10/31付 |日本経済新聞|朝刊 (経営の視点)非上場でも社外取締役 自ら求めれば効果大きく 編集委員塩田宏之

「何かを学ぶとき、学校や会社に強制されて渋々やるより、問題意識をもって自主的に取り組んだ方が身につきやすい。企業統治(コーポレートガバナンス)も同じではないか。
 例えば社外取締役。上場企業は昨年5月以降、会社法などで選任を求められている。非上場企業の大半は対象外だが、あえて社外取締役を招く企業も多い。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

法定ではない会社機関制度を積極的に利用し、効果的な経営に活用している、と聞くと、何か、常識的にいいことをしているように印象を受けますが、社外取締役のなり手不足で、人材供給市場はひっ迫しており、複数社の兼務が問題視されているところです。

⇒「社外取締役 出席率97% 昨年度 主要100社の取締役会 半数は複数社兼務
⇒「社外取締役の有力供給源 大手法律事務所、就任にためらい 利益相反を懸念/本業に不利益も

また、執行役員制度という会社法による法定機関ではない職務規程の有効性についても一部には疑問視されています。

⇒「日本流のコーポレートガバナンス 執行役員制度と任意の指名委員会制度について
⇒「曲がり角の執行役員制度(下)機能強化へ「1年契約」 結果責任で緊張感保つ  - 執行役員制度のメリットを引き出す方法とは?
⇒「曲がり角の執行役員制度(上)廃止企業、相次ぐ 統治改革で見直し機運 - 執行役員制度導入と会社機関設置の思想を振り返る!

そういう中で、任意機関として、非上場会社が社外取締役を設置する意義を落ち着いて検証してみたいと思います。

 

■ 非上場会社の社外取締役活用事例を整理しました

冒頭の新聞記事で紹介されている活用事例を下記にできるだけ簡潔にまとめてみました。

(1)時間単位のコンサルティングをネットで仲介するベンチャー企業のビザスク(東京・新宿)
三菱商事出身で投資会社を経営する本多央輔氏は、社外取締役として「中長期の視点で成長戦略を助言してくれる」(端羽社長)。

(2)育児の電話相談などを手掛けるダイヤル・サービス(東京・千代田)
「自らを「直感型」という今野社長は、自分にはない専門知識などを求めて2003年から社外取締役を招いている。」

(3)ファスナー世界最大手ながら非上場のYKK
「03年から弁護士や学者、元金融機関役員を迎えている。創業一族の吉田忠裕会長は「知見の豊かな人を求めている」と話す。同社には取締役と監査役が計14人おり、うち5人が社外。取締役会での発言量は社外が社内を上回るという。」

(4)サントリーホールディングス
「子会社によるナイジェリアの飲料事業買収が報告され、社外取締役の小林いずみ氏が「アフリカでの水の重要性」に言及した。小林氏は世界銀行グループの多数国間投資保証機関(MIGA)長官を務め、発展途上国の事情に詳しい。有代雅人執行役員は「貴重な水の扱い方で企業イメージが大きく左右される。小林氏ならではの示唆だった」と受け止めた。」

そして、新聞記事は次の文言で論旨をまとめています。
「これらの企業に共通するのは、社内の人間だけでは視野が狭くなるというリスクに敏感なことだ。さらに経営を強化するにはどんな人物を招くべきかを自らに問い掛けて人選している。」

 

■ 会社機関を積極活用する理由とは? 取締役の責務・法的責任は結構なものですが、、、

筆者の問題提起は、社外取締役の法的責任の重さと、単に外部知見を得たいという情報ソースの貴重性の間に、適切なバランスが取れているか疑問であることです。

● 取締役の責任とは?

(1)会社に対する義務
① 善管注意義務(330条により民法644条準用)<左記は会社法の条項。以下同じ>
 ・ある行為をする際に法律上要求される一定の注意を払う義務
② 忠実義務(355条)
 ・競業避止義務(356条1項1号)
・利益相反取引の制限(356条1項2号)

(2)会社に対する損害賠償責任
① 蛸配当や他の取締役に対する金銭の貸付、利益相反取引、および法令または定款に違反する行為によって会社に損害を生じさせた場合(462条)
② 任務を怠ったときの損害賠償責任(423条)
③ 自己のためにした取引をした取締役の責任は無過失責任であり、任務を怠ったことが当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない(428条)

(3)第三者に対する責任
① 会社の業務を執行する際に故意または重大なる過失(重過失)によって第三者に損害を与えた場合にもそれを賠償する責任が生じる(429条1項)

さあ、ここまで会社法の条文を並べてみましたが、これだけの法的義務を背負って、単純に、社外の知見をくださいね、と安易に求められて、あなたはほいほいと(社外)取締役に就任しようと思いますか?

 

■ なぜアドバイザリーボードではいけないのか? 会社機関であるべき必然性とは?

コーポレートガバナンス・コードや、社外取締役がブームになる前は、結構、アドバイザリーボードが設置されている、というのが先進的な企業の証だった時代もありました。

報道発表資料 : 「第9期アドバイザリーボード」を設置 | お知らせ | NTTドコモ
アドバイザリー・ボードのメンバー異動について – 帝人
アドバイザリーボードの設置のお知らせ|株式会社Gunosy(グノシー)

上記の帝人のケースでは、アドバイザリーボードの概要は次の通り。

20161108_帝人_アドバイザリーボード

【機能】にある3つは、そのまんま今流行の指名委員会等設置会社の社外取締役のミッションそのものではありませんか。つまり、従来のアドバイザリーボードと社外取締役とでは、法的責任が圧倒的に違うということです。

但しですね、アドバイザリーボードではなく、会社機関としての取締役を活用するのも一考の価値があるにはあります。それは、報酬制度の設計の容易さです。

アドバイザリーボードでも、社外にとどまらず、取締役に就任する人たちの長期的な会社に対するロイヤリティーを高めるため、そして長期的な経営戦略の実行やその結果にコミットメントしてもらうために、昨今では、取締役報酬制度として、ストックオプションからさらに進化し、各種株式報酬制度が絶賛開発中(法整備中)なのです。

 

2016/10/19付 |日本経済新聞|朝刊 自社株報酬制度に新手法 KLabなど相次ぎ導入 対象者を事後決定 貢献度合い厳密に反映

「新興企業の間で自社株を活用した新たな成果報酬制度の導入が広がっている。有償ストックオプション(株式購入権)に似た仕組みだが、事後に付与対象者が決まるのが特徴だ。途中退職などで貢献度が低かった役員などは付与対象にならないため、企業の成長への貢献度合いを報酬体系に厳密に反映させられる。」

(下記は、同記事添付の「株式を活用した報酬制度の比較」を引用)

20161019_株式を活用した報酬制度の比較_日本経済新聞朝刊

 

2016/10/24付 |日本経済新聞|朝刊 株式報酬高め役員挑戦促す 中長期の視野で成長狙う 欧米では社会貢献も評価

「株主を意識した企業統治(ガバナンス)改革として役員報酬を見直す上場企業が増えている。核心は、稼ぎを増やすために経営者をいかに動かすか。中長期にわたりリスクに挑ませ続けるため、株式報酬の比率を高める例が目立つ。今後は欧米の先進企業にならい、社会貢献の姿勢を世に問うツールとして役員報酬を用いる発想も求められる。」

(下記は、同記事添付の「日米欧の役員報酬」を引用)

20161024_日米欧の役員報酬_日本経済新聞朝刊

まだまだ、固定報酬以外の比率が小さく、そもそもの報酬水準も比べ物になっていませんが、、、

(下記は、同記事添付の「欧米企業は役員報酬に業績連動以外の要素を取り込み始めた」を引用)

20161024_欧米企業は役員報酬に業績連動以外の要素を取り込み始めた_日本経済新聞朝刊

同記事によりますと、中長期的な企業価値増大を意識してもらうために、武田薬品工業は6月の株主総会で、社外取締役や監査等委員(従来の監査役に相当する取締役)に、固定報酬の4割を上限として新たに株式報酬を給付すると決議しました。

「同社は2008年、役員退職慰労金を廃止。14年には社内取締役の報酬を固定部分1に対し、変動部分が1~5の幅で増減する「業界グローバル水準の制度を導入した」(長谷川閑史会長)。
 変動部分は、単年度の連結業績に連動する賞与と、3年間の業績・株価に連動する株式報酬で構成。15年度は長谷川会長ら8人に固定部分5億円超、変動部分は12億円弱が支払われた。全体の約7割が変動報酬で、リスクを取って企業価値増大に仕向ける仕組みだ。
 一方、社外取締役や監査等委員は不祥事などを防ぐブレーキ役も期待される。短期の業績に引きずられすぎるのは危険だ。そこで変動部分は株式報酬のみとし、退任時に渡すことにした。」

結論として、冒頭の記事単体では、少々違和感を覚える(きつく言うと反感を覚える)報道に思えましたが、上場企業の社外取締役に対する報酬制度を改めて確認すると、会社の中長期的成長にコミットしてもらうための工夫として、非上場企業も社外取締役という会社機関を活用しながらの、社外知見を獲得する策も悪くないかなとちょっとだけ思いました。(^^;)

但しですね、非上場会社が第三者に株式付与など、経営権(所有権)の問題もあり、おいそれと株式報酬制度を組み込むことは難しいように思います。

『鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いんや』

株式報酬制度を積極的に用いることにためらいがある非上場企業には、やはり社外の知見を得るための手段としての社外取締役は、そのなり手のことを親身に考えると、あまりお勧めできない手段だと思います。いやあ、それでもあえて会社法上の義務・責任を負ってまで、社外取締役を買って出た上記の該当者には頭が下がる思いです。

どうせ社外の知見を長期的コミットメントで得たいなら、経営コンサルタントの報酬を株式や成功報酬体系にして、雇ってみたらどうですか? 最後は自分の売り込みか!m(_ _)m

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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