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不適切会計の手段 -利益操作(2)収益の早期計上の続き

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 利益を過大に見せたいときは、収益を大きく見せるのが手取り早い

会計(基礎編)

今回は、前回から引き続き、「利益の過大表示」を意図した「収益の過大表示」、しかもその最初の手段である「収益の早期計上」のトリックの説明の続きから始めたいと思います。

その前に、参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

では、収益の過大表示のための、先人の苦労(?)を解析していきます。

 

■ (1)収益の早期計上

いわゆる売上の先食いの手法です。

その為の収益(売上)の早期計上するための会計テクニックは、
① 契約上のすべての義務を完了する前に収益を計上する
② 契約上の完成高を上回る収益を計上する
③ 買い手の製品の検収前に収益を計上する
④ 買い手の支払い義務が不確実または不必要な場合に収益を計上する

今回は③から続けます。

③ 買い手の製品の検収前に収益を計上する

①と②は、契約上の売り手の義務の実行面での操作でした。③と④は、買い手に焦点が当たります。

買い手の検収前に収益を計上する3つのタイプのトリックから紹介します。

(1)買い手への製品の出荷前
(2)買い手ではない第三者への出荷後
(3)出荷後ではあるが、買い手が売上を取り消す能力を持っている

●売り手が出荷前に収益を計上
これは、いわゆる請求済出荷売上(bill-and-hold)というやつで、別名、「保管売上」とも呼ばれるものです。買い手が購入の意思表示をし、時には支払いまで実施しますが、販売対象物(製品)は、まだ売り手か第三者の倉庫に存在し、買い手の手元に無い状況で売り建てるケースです。

これは、買い手が、自らの事情で、例えば受け入れ倉庫がいっぱいだから納品を待ってくれ、と買い手都合の場合、逆に、売り上げた後、保管してあげている手数料まで請求しても何ら不思議は無いものです。しかし、これを売り手の都合で買い手にお願いしている場合はどうでしょう? 例えば、買い手が3か月後にならないと必要としないものを、売り手の決算期内での収益を大きく見せるために、本当に必要な時から3か月前に、保管用の倉庫まで用意してあげて、売上とする行為は適切でしょうか?

●売り手が個客以外の第三者に出荷した時点での収益の計上
これは具体例を2つ挙げて説明します。
外食フランチャイズチェーンを経営している会社の主要売上が、フランチャイズ加盟店への食品製造装置の販売によるものとします。この経営主体が、監査人の目を欺くために、フランチャイズ加盟店に設備を出荷したと見せかけて、実はその機会を積んだトレーラーが空き地で待機しており、フランチャイズ加盟店は実際のその機械の所有権を得ていない、というケースがあります。まあ、フランチャイザーとフランチャイジーの取引記録を照合すればこの種の見せかけは一発でばれるものですが、、、

半導体製造装置を扱う業界では、製造業者が製品を商社に売る(sell-in)時点と、その商社が最終顧客(エンドユーザ)に転売する(sell-through)時点のいずれも、収益認識のタイミングとして認められています。これを利用して、これまでエンドユーザへの販売で収益を認識していたものを、商社に売った際に売上を計上するよう、収益認識を早めるだけで、商社が保有している在庫価値分だけ、半導体製造会社は大きく収益を見せることに成功します。これはトリックを使用するのにワンチャンスだけ与えられるのですが、経営者は利益が足らないここぞという時に、この会計変更を仕掛けることがあり要注意です。

●売り手が収益を計上しても買い手が売上を拒否できる場合
このトリックが起きるケースは次の3つです。
(1)顧客が異なった製品を受け取った場合
(2)顧客が正しい製品を受け取ったが、時期が早すぎる場合
(3)顧客が正しい製品を正しい時期に受け取ったが、売上を拒否できる場合

(1)は、返品されることを最初から覚悟して、間違った製品を出荷した時点で売上を計上します。当然、受け取った側は、注文したものと違うので、返品し、正しい製品を再度、催促します。このやり取りの間に、会計期が到来すると、あら不思議。この返品中の製品はP/L上は売上高とカウントすることができます。

(2)は、約束の納期より前倒しして製品出荷してしまい、自社だけで売上とするやり方です。これは、(3)との絡むのですが、通常は、① 最終的な買い手の検収か、②返品可能期間の終了が収益認識に必要な条件となります。

(3)の場合は、通常は、返品権の期間が終了するまで遅れて収益を認識するか、予想される返品の見積り金額を収益から事前に差し引いておくことが必要とされています。これを故意に怠れば、収益の前倒し認識が可能になります。

④ 買い手の支払いが不確実または不必要なときに行う収益計上

通常、モノを販売した場合、最終的に代金を回収するまでそのビジネス取引は終わりになりません。しかし、会計基準的には、実際に現金が手元に来なくても、現金が手元に来ることが確実になっていることが証明できていれば、売上を計上することができます。それを逆手にとった例をいくつかご紹介します。

例えば、大学や研究機関に研究開発用の実験機器を販売するメーカーのお話。実際には、大学や研究機関が、資金を提供する第三者からの入金または入金を約束する何かの証憑が無いと、収益を計上してはいけないのですが、このメーカーは、「万一、資金提供者から資金提供が取り付けられなかった場合は売上を無効にできる覚書」まで取り交わして、資金力のない研究機関に実験機器を売りつけていました。

また、とあるユニット住宅のハウスメーカーは、低所得者向けに住宅を販売しましたが、政府金融機関からの融資決定を待たず、住宅販売売上処理を行い、実際に融資が受けられなかった顧客の売上が紛れ込むままにしていました。

別のメーカーは、資金力のない顧客に対して、第三者の金融機関からの融資が受けられない場合に、顧客の資金繰りを助ける意図で、支払い条件を寛大(大幅な支払期限の延長、もはや融資と見まごうばかりの条件)にして、売上を計上したりします。

ここまで、二回にわたって、「収益の早期計上」に関する手練手管を説明してきましたが、どれも「GAAP:Generally Accepted Accounting Principles(一般に認められた会計原則)」に反するものです。

そして極めつけは、こうしたトリックがおとがめなし(経済事実上、無視されて事なきを得る場合)となる場合がある可能性があります。それは、「過年度修正」というもの。過去の財務諸表(ここでは過大な売上計上額に基づく利益)を修正するのに、直接「利益剰余金」を調整しにいき、P/Lの売上高まで直しに行かなくても済む道があるということです。じっくり観察している人以外は、過年度修正に過去の不正経理の後始末が混在していても気がつかないことが多々あるということ。これだから、悪いことはやめられません。 (*≧∀≦)q゛ウシシシシ




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