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■ M&Aのテクニックで見せかけの営業キャッシュフローの成長を演出する!

会計(基礎編)

営業キャッシュフローの成長は、正常な企業成長の証(あかし)です。しかし、株式市場からの圧力への対応や経営者自身の報酬の維持のために、営業キャッシュフローの増大を演出する事例が後を絶ちません。本来は、営業キャッシュフローそのものとその成長は、真っ当なビジネスから生み出されるべきものなのですが、M&Aに関わるテクニックを駆使することで、あたかも事業運営が堅調に成長しているように見せかけることができます。

本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

会計不正はこう見抜け

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

今回は、営業キャッシュ・アウトフローを水増しするテクニックを見ていきます。
ちなみに、「営業活動によるキャッシュフロー」は、前回に引き続き、「CFFO:Cash Flow From Operations」と表記します。

(1)通常の事業買収で営業キャッシュフローを引き継ぐ
(2)契約や顧客を自社で開拓せずに外部から購入する
(3)事業売却をクリエイティブな仕組みにしてCFFOを水増しする

今回のテクニックの「キャッシュフロー計算表」上での、操作の動きは下図の通りです。

財務会計(入門編)_事業の買収で営業キャッシュフローを水増し

キャッシュフローをシフトさせるトリックは、つまるところ、営業と投資・財務の区分をシフトさせることです。今回はその中でも事業の買収・売却(M&A)に関するものだけに特化して取り上げます。

決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編 (講談社現代新書)

(1)通常の事業買収で営業キャッシュフローを引き継ぐ

通常、企業買収費用を現金で用意した場合、「投資キャッシュ・アウトフロー」になります。そのお金は、買収先の株主の手元に渡り、その代わりに買収対象企業の株券が手に入ります。そして、その買収対象企業が買収契約締結後、売掛金を回収したり、在庫を売却したりする時に発生するキャッシュは、「営業キャッシュ・インフロー」になります。さらに、買収資金を現金ではなく、自社株式の株式交換で用立てた場合、事業買収のためのキャッシュアウトは1円も発生しないことになります。このことは何を意味するのでしょうか?

「事業買収」によって、「自社株式」または「投資キャッシュ・アウトフロー」によって、「営業キャッシュ・インフロー」を手に入れているのです。買収と同種・同規模のビジネスを自社で手掛ける場合、そのビジネスの通常運営にかかるキャッシュアウト(従業員への給与支払いや在庫の購入など)は、「営業キャッシュ・アウトフロー」に数えられます。これでは、真面目にオーガニックグロース(自社内での事業成長)を手掛けようとするインセンティブが弱まりますね。だって、同規模・同種の事業を外から買ってきた方が、CFFOが大きくなるのですから。投資家は、きちんと「キャッシュフロー計算書」を上から下まで目を通すべきですね。

こうした、事業買収によるCFFOの獲得を狙って次々と買収を仕掛ける企業に対して、「ロールアップ(rolling up)」型の買収による、有機的でない収益と利益の成長しか作り出せない企業である、との厳しい評価を株式市場でも下すべきです。しかし、そこは世の常。うまく立ち回るロールアップ企業が一倍上手です。だって、「CFFOが一段と成長しているでしょ! これって企業価値が増大している証拠ですよね」と、経営者から言われると、グーの音も出ない投資家が多いようです。CFFOの割引現在価値だけで企業価値が測れると考えているのが、そもそも間違いなのに。。。そこに気がついていないわけです。

こうしたロールアップ企業は、この種の合併会計の隙間を狙って、効果を倍増させるために、買収先企業に対して、債務を引き継がない契約を締結したり、契約締結までは、売掛金回収をさぼり、支払いは早めるといったことを促してきます。そうすることで、買収契約締結の暁には、買収後のCFFOの最大化を図ることができるように仕組むのです。

図解と設例で作成法を学ぶ これならわかるキャッシュ・フロー計算書

(2)契約や顧客を自社で開拓せずに外部から購入する

とある米国企業の実例なのですが、この企業は、自社営業部隊と、外部のディーラー網の2つを有していました。ディーラーが契約を獲得するたびに、この企業は、コミッションフィーとして獲得契約1件当たり相当額の手数料を支払っていました。この手数料は通常考えると、営業キャッシュ・アウトフローに計上されるべきものです。しかし、この企業は奇妙なことに、この手数料支払いを契約の「買収」のための購入費用とみなすことにしました。そのため、ディーラーが手数料を受け取った後、この企業は不思議なことに、この支出を「契約取得」として処理し、通常の事業買収と同様に「投資キャッシュ・アウトフロー」として計上し続けました。企業が破綻するまでずっと。。。

さらにこの企業は本業がますます危うくなると、ディーラーとのこの種の取引をさらに自社に有利になるように発展させました。「ディーラー・コネクション・フィー」という名目で、この企業が購入するすべての契約について、ディーラーに100万円(仮)を前払いするよう求めました。その後、この企業が実際にディーラーから新規契約を購入する際に、100万円(仮)高い価格で購入することにしました。そして、この100万円は行って来いなので、この企業の新規契約購入の対価は不変です。しかし、前払いで受け取った分と、同額の高い価格での契約買い取り額の相殺分(100万円)を、CFFOとして計上することにしました。

さすがに、この取引は当局から粉飾であると告発されて、明るみに出ることになりましたが。。。

キャッシュフローと損益分岐点の見方・活かし方

(3)事業売却をクリエイティブな仕組みにしてCFFOを水増しする

この前の(1)(2)は、共に事業買収から見たCFFOの水増しのテクニックでした。この章は、逆に、事業売却によるCFFOの水増しについてお話します。

そのテクニックの「キャッシュフロー計算表」上での、操作の動きは下図の通りです。

財務会計(入門編)_事業の売却で営業キャッシュフローを水増し

●事業売却収入をCFFOとする抜け道
これは日本を代表する通信会社の事例なのですが、この企業は、大変興味深い事業売却の契約を締結しました。この企業は、とある事業を同業(A社)に売却するとともに、業務委託契約を結び、この事業の収益額に比例して、A社からこの企業に、ロイヤリティを支払うことにしました。事業売却時に850億円(仮)がA社から支払われましたが、この企業はこの全額を事業売却代金とはしませんでした。受け取ったお金を、「事業売却代金:450億円」と「将来のロイヤリティ収入の前受収益:400億円」とに分割したのです。

この分割はキャッシュフロー計算書にどのように影響する(影響させようとした)のでしょうか?

この企業は、
1)事業売却による投資キャッシュ・インフロー:450億円
2)将来収入の前受収益として営業キャッシュ・インフロー:400億円
として計上したのです。

ちなみに、この年のこの企業のCFFOは578億円でした。実に、69%が上記の粉飾で作られたCFFOだったのです。

●事業は売却するが、いい所はとっておく
次は、米国のヘルスケア事業の企業の事例なのですが、いつくかの病院を売却することにしました。それらの病院を売却するにあたり、保有する債権以外のすべてを売却する、という売却契約にしました。当然、債権相当額分だけ、売却代金は小さくなります。しかし、キャッシュフロー計算書の表示上には利点が残ります。これらの病院の売却代金による収入は全て「投資キャッシュ・インフロー」に計上されてしまいます。ただし、自社に権利を残しておいた売上債権については、回収時には、その全額がCFFOとしてなんのおとがめもなく計上することができます。

より高く売ることよりも、より大きなCFFOを得る道を選ぶことを、経営者が選択することをここで学びました。しかし、経営者にその選択をさせるのは、そういう会計処理を経営者にさせるインセンティブがあるから。それは何を隠さず、投資家たちが、こぞってキャッシュフロー計算書の一番上の「営業キャッシュフロー」の絶対値の増分だけに注目しているがこそなのです。投資家たちが、キャッシュフロー計算書を上から下まで、十分に吟味して眺める癖をつけない限り、この種のトリックを施そうとする経営者のインセンティブを消滅させることはできないでしょう。

筆者としては、「キャッシュフロー計算書」より、「資金運用表」の方がごまかしも効かず、投資家たちにも理解しやすい財務表であると信じているのですがね。残念ながら、制度会計では、内容・スキームへの理解が進まずに、「キャッシュフロー計算書」が跋扈しているのが現状です。本音を言うとトホホなのですが、その分、筆者の様なコンサルタントの飯のタネがあるということで。(^^;)

【図解でざっくり会計シリーズ】6 キャッシュ・フロー計算書のしくみ

財務会計(入門編)_不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(4)事業の買収・売却を使った営業キャッシュフローの水増し



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不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(4)事業の買収・売却を使った営業キャッシュフローの水増しhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭財務会計(入門編)不適切会計,キャッシュフロー計算書,CFFO,ロールアップ,オーガニックグロース,前受収益■ M&Aのテクニックで見せかけの営業キャッシュフローの成長を演出する! 営業キャッシュフローの成長は、正常な企業成長の証(あかし)です。しかし、株式市場からの圧力への対応や経営者自身の報酬の維持のために、営業キャッシュフローの増大を演出する事例が後を絶ちません。本来は、営業キャッシュフローそのものとその成長は、真っ当なビジネスから生み出されるべきものなのですが、M&Aに関わるテクニックを駆使することで、あたかも事業運営が堅調に成長しているように見せかけることができます。 本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。 会計不正はこう見抜け この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。 今回は、営業キャッシュ・アウトフローを水増しするテクニックを見ていきます。 ちなみに、「営業活動によるキャッシュフロー」は、前回に引き続き、「CFFO:Cash Flow From Operations」と表記します。 (1)通常の事業買収で営業キャッシュフローを引き継ぐ (2)契約や顧客を自社で開拓せずに外部から購入する (3)事業売却をクリエイティブな仕組みにしてCFFOを水増しする 今回のテクニックの「キャッシュフロー計算表」上での、操作の動きは下図の通りです。 キャッシュフローをシフトさせるトリックは、つまるところ、営業と投資・財務の区分をシフトさせることです。今回はその中でも事業の買収・売却(M&A)に関するものだけに特化して取り上げます。 決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編 (講談社現代新書) (1)通常の事業買収で営業キャッシュフローを引き継ぐ 通常、企業買収費用を現金で用意した場合、「投資キャッシュ・アウトフロー」になります。そのお金は、買収先の株主の手元に渡り、その代わりに買収対象企業の株券が手に入ります。そして、その買収対象企業が買収契約締結後、売掛金を回収したり、在庫を売却したりする時に発生するキャッシュは、「営業キャッシュ・インフロー」になります。さらに、買収資金を現金ではなく、自社株式の株式交換で用立てた場合、事業買収のためのキャッシュアウトは1円も発生しないことになります。このことは何を意味するのでしょうか? 「事業買収」によって、「自社株式」または「投資キャッシュ・アウトフロー」によって、「営業キャッシュ・インフロー」を手に入れているのです。買収と同種・同規模のビジネスを自社で手掛ける場合、そのビジネスの通常運営にかかるキャッシュアウト(従業員への給与支払いや在庫の購入など)は、「営業キャッシュ・アウトフロー」に数えられます。これでは、真面目にオーガニックグロース(自社内での事業成長)を手掛けようとするインセンティブが弱まりますね。だって、同規模・同種の事業を外から買ってきた方が、CFFOが大きくなるのですから。投資家は、きちんと「キャッシュフロー計算書」を上から下まで目を通すべきですね。 こうした、事業買収によるCFFOの獲得を狙って次々と買収を仕掛ける企業に対して、「ロールアップ(rolling up)」型の買収による、有機的でない収益と利益の成長しか作り出せない企業である、との厳しい評価を株式市場でも下すべきです。しかし、そこは世の常。うまく立ち回るロールアップ企業が一倍上手です。だって、「CFFOが一段と成長しているでしょ! これって企業価値が増大している証拠ですよね」と、経営者から言われると、グーの音も出ない投資家が多いようです。CFFOの割引現在価値だけで企業価値が測れると考えているのが、そもそも間違いなのに。。。そこに気がついていないわけです。 こうしたロールアップ企業は、この種の合併会計の隙間を狙って、効果を倍増させるために、買収先企業に対して、債務を引き継がない契約を締結したり、契約締結までは、売掛金回収をさぼり、支払いは早めるといったことを促してきます。そうすることで、買収契約締結の暁には、買収後のCFFOの最大化を図ることができるように仕組むのです。 図解と設例で作成法を学ぶ これならわかるキャッシュ・フロー計算書 (2)契約や顧客を自社で開拓せずに外部から購入する とある米国企業の実例なのですが、この企業は、自社営業部隊と、外部のディーラー網の2つを有していました。ディーラーが契約を獲得するたびに、この企業は、コミッションフィーとして獲得契約1件当たり相当額の手数料を支払っていました。この手数料は通常考えると、営業キャッシュ・アウトフローに計上されるべきものです。しかし、この企業は奇妙なことに、この手数料支払いを契約の「買収」のための購入費用とみなすことにしました。そのため、ディーラーが手数料を受け取った後、この企業は不思議なことに、この支出を「契約取得」として処理し、通常の事業買収と同様に「投資キャッシュ・アウトフロー」として計上し続けました。企業が破綻するまでずっと。。。 さらにこの企業は本業がますます危うくなると、ディーラーとのこの種の取引をさらに自社に有利になるように発展させました。「ディーラー・コネクション・フィー」という名目で、この企業が購入するすべての契約について、ディーラーに100万円(仮)を前払いするよう求めました。その後、この企業が実際にディーラーから新規契約を購入する際に、100万円(仮)高い価格で購入することにしました。そして、この100万円は行って来いなので、この企業の新規契約購入の対価は不変です。しかし、前払いで受け取った分と、同額の高い価格での契約買い取り額の相殺分(100万円)を、CFFOとして計上することにしました。 さすがに、この取引は当局から粉飾であると告発されて、明るみに出ることになりましたが。。。 キャッシュフローと損益分岐点の見方・活かし方 (3)事業売却をクリエイティブな仕組みにしてCFFOを水増しする この前の(1)(2)は、共に事業買収から見たCFFOの水増しのテクニックでした。この章は、逆に、事業売却によるCFFOの水増しについてお話します。 そのテクニックの「キャッシュフロー計算表」上での、操作の動きは下図の通りです。 ●事業売却収入をCFFOとする抜け道 これは日本を代表する通信会社の事例なのですが、この企業は、大変興味深い事業売却の契約を締結しました。この企業は、とある事業を同業(A社)に売却するとともに、業務委託契約を結び、この事業の収益額に比例して、A社からこの企業に、ロイヤリティを支払うことにしました。事業売却時に850億円(仮)がA社から支払われましたが、この企業はこの全額を事業売却代金とはしませんでした。受け取ったお金を、「事業売却代金:450億円」と「将来のロイヤリティ収入の前受収益:400億円」とに分割したのです。 この分割はキャッシュフロー計算書にどのように影響する(影響させようとした)のでしょうか? この企業は、 1)事業売却による投資キャッシュ・インフロー:450億円 2)将来収入の前受収益として営業キャッシュ・インフロー:400億円 として計上したのです。 ちなみに、この年のこの企業のCFFOは578億円でした。実に、69%が上記の粉飾で作られたCFFOだったのです。 ●事業は売却するが、いい所はとっておく 次は、米国のヘルスケア事業の企業の事例なのですが、いつくかの病院を売却することにしました。それらの病院を売却するにあたり、保有する債権以外のすべてを売却する、という売却契約にしました。当然、債権相当額分だけ、売却代金は小さくなります。しかし、キャッシュフロー計算書の表示上には利点が残ります。これらの病院の売却代金による収入は全て「投資キャッシュ・インフロー」に計上されてしまいます。ただし、自社に権利を残しておいた売上債権については、回収時には、その全額がCFFOとしてなんのおとがめもなく計上することができます。 より高く売ることよりも、より大きなCFFOを得る道を選ぶことを、経営者が選択することをここで学びました。しかし、経営者にその選択をさせるのは、そういう会計処理を経営者にさせるインセンティブがあるから。それは何を隠さず、投資家たちが、こぞってキャッシュフロー計算書の一番上の「営業キャッシュフロー」の絶対値の増分だけに注目しているがこそなのです。投資家たちが、キャッシュフロー計算書を上から下まで、十分に吟味して眺める癖をつけない限り、この種のトリックを施そうとする経営者のインセンティブを消滅させることはできないでしょう。 筆者としては、「キャッシュフロー計算書」より、「資金運用表」の方がごまかしも効かず、投資家たちにも理解しやすい財務表であると信じているのですがね。残念ながら、制度会計では、内容・スキームへの理解が進まずに、「キャッシュフロー計算書」が跋扈しているのが現状です。本音を言うとトホホなのですが、その分、筆者の様なコンサルタントの飯のタネがあるということで。(^^;) 【図解でざっくり会計シリーズ】6 キャッシュ・フロー計算書のしくみ現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します