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■ 利益、キャッシュフローといった業績指標の過大表示のトリックを見る!

会計(基礎編)

前回の「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(3)経営成績を過大表示する指標の提示 - 会計的利益とEBITDA」では、経営者が「利益指標」について、GAAPベースではなく、自身に都合の良い開示をする例を、特にEBITDAという財務指標を用いたケースについて、つい熱弁をふるい過ぎてしまい、尻切れトンボになってしまいました。今回は、引き続き、「利益」と「キャッシュフロー」について見ていきます。

本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

経営成績を過大表示したくなる業績指標を提示するテクニックを復習がてら再掲すると、次の3つになります。
(1)誤認を招く収益の代替指標を強調する
(2)誤認を招く利益の代替指標を強調する
(3)誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調する

 

(2)誤認を招く利益の代替指標を強調する

●プロフォーマ利益、調整後利益、非GAAP利益
一体、このネーミングセンスはと疑ってしまうものばかりですが、全て実在します。

・プロフォーマ(exBuzzwords用語解説 より)
プロフォーマとは、「試算」のこと。投資評価などの際に対象事業や対象企業の財務諸表などを見積もって作成した場合に、[Pro Forma Financial Statements]などという。
「見積もり」や「予測」財務諸表と読み替えればわかりやすい。

実際の試算例として、下記のようなものがあります。
①架空収益を計上し、さらにその収益計上に対応する売上債権の売却を仮装し、同額の費用を計上する。しかし、プロフォーマ利益の計算表では、その費用は経常的でないもの(日本基準的には特別損益の部)に移してしまい、投資家の意識からそむけるようにした。

②GMは、2006年2Qに、地域住宅建築業の投資持分の税引後売却益2億5900万ドルを計上。GMは決算発表で「調整後所得(adjusted income)」を表示する際、通常、一時的利益や損失を控除するのが常でした。実際に上記例以外の投資持分の売却益は調整後所得から控除しているにもかかわらず。この調整後所得に紛れ込ました持ち分利益は調整後所得の20%以上に相当するものでした。

③トランプ・ホテルズ&カジノ・リゾーツも、課税後所得から多額の臨時的な利益を控除しないことを選びました。トランプは、97年に、アトランティックシティのタージ・マハル・カジノ内にオールスター・カフェをオープンさせました。このカフェを20年リースで契約したのですが、2年後にカフェ運営会社が倒産し、リース契約は破棄。その結果、オールスター・カフェのスポーツ選手のお宝グッズや建物付属設備を1700万ドルと見積り、これを資産計上。同額を一時利益(さらに収益にも)として計上。
(最近、大統領選挙が何かと話題になっていることもあり、実名で例を出してみました)

 

(3)誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調する

非GAAPのキャッシュフロー指標は、非GAAPの収益または利益の開示と比べれば、それほど一般的ではないのですが、それらは確かに存在します。そして、ときどき企業は、多額の訴訟和解金などの臨時的な活動によるキャッシュ・アウトを公表数値から控除しようとします。

●「キャッシュ利益」とEBITDAはキャッシュフローの指標ではない
企業は時々、「キャッシュ利益(cash earnings)」や、「キャッシュEBITDA」のような指標を公表します。しかし、これらをキャッシュフローの代替とみなすことはできません。多くの企業や投資家はともに、それらの指標には(平易なEBITDAと同様に)減価償却費のような非現金費用が加算されているので、単純にキャッシュフローの良い代替であると信じています。しかし、企業の本来のキャッシュフローは、純利益プラス非現金費用以上のものが含まれています。それは、運転資本の増減です。さらに、貸倒引当金、減損損失、製品保証引当金などを無視するのは、収益性に対する幻想以外の何物でもありません。

●非GAAPキャッシュフロー指標により混同させる
これは英語圏の決算発表のケースなので、日本語ではいまいち現実感がないのですが、言葉遊びによる不適切な業績開示というものもあります。通常、GAAPベースだと、営業活動によるキャッシュフローは、CFFO(Cash flow from Operations)と表記するのですが、とある企業は、自社勝手の「オペレーティング・キャッシュフロー(Operating cash flow)」という名称のキャッシュフロー指標を開示しました。当然、CFFOでは控除されるべきキャッシュ・アウト項目が控除されておらず、過大表示の方向に数字が動きます。

実際に公表された数字の比較を下記に示すと、

オペレーティング・キャッシュフロー               1220
年金拠出金                                                ▲990
従業員及び製品ラインに支払われた現金   ▲229
契約金の一括払いにかかる現金                ▲125
売却された売掛金の減少                           ▲144
資本的支出                                                  1005
営業活動によるキャッシュフロー(CFFO)       737

いやいや、普通にCFFOの範囲内でしょう、年金基金掛金、従業員給与、売上債権の減少は。驚きです、こんな数字を外部公表に使うなんて。

日本語圏の注意点は、たとえば「事業利益」「貢献利益」という言葉あたりでしょうか。これが「売上総利益」「営業利益」とどう違うか、含まれている科目の出し入れに十分な注意を向ける必要があるでしょう。

収益(売上)、利益、キャッシュフローは、その企業の収益性、資金的安全性を推し量る大変重要な財務指標です。それを、さも投資家に分かりやすくGAAPを読み替えて、自社独自の指標(キーメトリクス)で開示していますと見せかけて、実は業績悪化を糊塗するために悪用することは絶対に許せないことです。近年の日本企業でも、上場時の企業発表資料に、堂々とEBITDAを表し、GAAPによる会計的利益やキャッシュフローではなく、EBITDAでセグメント情報を開示し、投資家向け説明をしている事例があります。その企業の狙いは、多額の設備投資やM&Aにかかるのれん償却費をなるべく目立たせない所にあるのですが、どれくらいの人がそのまやかしに気づいているのでしょうか。主幹事を含む各証券会社の財務分析レポートも、EBITDAによる解説がメインになっており、それを目にした時、うすら寒い思いをしました。(^^;)

次回は、財政状態の悪化を隠蔽する貸借対照表の指標の歪曲について説明したいと思います。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について
⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(2)経営成績を過大表示する指標の提示 - 収益の代替指標 日本マクドナルド、KDDIやホンダの事例を見る!
⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(3)経営成績を過大表示する指標の提示 - 会計的利益とEBITDA

財務会計(入門編)_不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(4)経営成績を過大表示する指標の提示 - 利益とキャッシュフローの代替指標によるごまかし

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不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(4)経営成績を過大表示する指標の提示 - 利益とキャッシュフローの代替指標によるごまかしhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭財務会計(入門編)EBITDA,GAAP,GM,オペレーティング・キャッシュフロー,キャッシュ利益,キーメトリクス,プロフォーマ利益,不適切会計,調整後利益,調整後所得,財務指標,非GAAP利益■ 利益、キャッシュフローといった業績指標の過大表示のトリックを見る! 前回の「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(3)経営成績を過大表示する指標の提示 - 会計的利益とEBITDA」では、経営者が「利益指標」について、GAAPベースではなく、自身に都合の良い開示をする例を、特にEBITDAという財務指標を用いたケースについて、つい熱弁をふるい過ぎてしまい、尻切れトンボになってしまいました。今回は、引き続き、「利益」と「キャッシュフロー」について見ていきます。 本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。 この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。 経営成績を過大表示したくなる業績指標を提示するテクニックを復習がてら再掲すると、次の3つになります。 (1)誤認を招く収益の代替指標を強調する (2)誤認を招く利益の代替指標を強調する (3)誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調する   (2)誤認を招く利益の代替指標を強調する ●プロフォーマ利益、調整後利益、非GAAP利益 一体、このネーミングセンスはと疑ってしまうものばかりですが、全て実在します。 ・プロフォーマ(exBuzzwords用語解説 より) プロフォーマとは、「試算」のこと。投資評価などの際に対象事業や対象企業の財務諸表などを見積もって作成した場合に、などという。 「見積もり」や「予測」財務諸表と読み替えればわかりやすい。 実際の試算例として、下記のようなものがあります。 ①架空収益を計上し、さらにその収益計上に対応する売上債権の売却を仮装し、同額の費用を計上する。しかし、プロフォーマ利益の計算表では、その費用は経常的でないもの(日本基準的には特別損益の部)に移してしまい、投資家の意識からそむけるようにした。 ②GMは、2006年2Qに、地域住宅建築業の投資持分の税引後売却益2億5900万ドルを計上。GMは決算発表で「調整後所得(adjusted income)」を表示する際、通常、一時的利益や損失を控除するのが常でした。実際に上記例以外の投資持分の売却益は調整後所得から控除しているにもかかわらず。この調整後所得に紛れ込ました持ち分利益は調整後所得の20%以上に相当するものでした。 ③トランプ・ホテルズ&カジノ・リゾーツも、課税後所得から多額の臨時的な利益を控除しないことを選びました。トランプは、97年に、アトランティックシティのタージ・マハル・カジノ内にオールスター・カフェをオープンさせました。このカフェを20年リースで契約したのですが、2年後にカフェ運営会社が倒産し、リース契約は破棄。その結果、オールスター・カフェのスポーツ選手のお宝グッズや建物付属設備を1700万ドルと見積り、これを資産計上。同額を一時利益(さらに収益にも)として計上。 (最近、大統領選挙が何かと話題になっていることもあり、実名で例を出してみました)   (3)誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調する 非GAAPのキャッシュフロー指標は、非GAAPの収益または利益の開示と比べれば、それほど一般的ではないのですが、それらは確かに存在します。そして、ときどき企業は、多額の訴訟和解金などの臨時的な活動によるキャッシュ・アウトを公表数値から控除しようとします。 ●「キャッシュ利益」とEBITDAはキャッシュフローの指標ではない 企業は時々、「キャッシュ利益(cash earnings)」や、「キャッシュEBITDA」のような指標を公表します。しかし、これらをキャッシュフローの代替とみなすことはできません。多くの企業や投資家はともに、それらの指標には(平易なEBITDAと同様に)減価償却費のような非現金費用が加算されているので、単純にキャッシュフローの良い代替であると信じています。しかし、企業の本来のキャッシュフローは、純利益プラス非現金費用以上のものが含まれています。それは、運転資本の増減です。さらに、貸倒引当金、減損損失、製品保証引当金などを無視するのは、収益性に対する幻想以外の何物でもありません。 ●非GAAPキャッシュフロー指標により混同させる これは英語圏の決算発表のケースなので、日本語ではいまいち現実感がないのですが、言葉遊びによる不適切な業績開示というものもあります。通常、GAAPベースだと、営業活動によるキャッシュフローは、CFFO(Cash flow from Operations)と表記するのですが、とある企業は、自社勝手の「オペレーティング・キャッシュフロー(Operating cash flow)」という名称のキャッシュフロー指標を開示しました。当然、CFFOでは控除されるべきキャッシュ・アウト項目が控除されておらず、過大表示の方向に数字が動きます。 実際に公表された数字の比較を下記に示すと、 オペレーティング・キャッシュフロー               1220 年金拠出金                                                ▲990 従業員及び製品ラインに支払われた現金   ▲229 契約金の一括払いにかかる現金                ▲125 売却された売掛金の減少                           ▲144 資本的支出                                                  1005 営業活動によるキャッシュフロー(CFFO)       737 いやいや、普通にCFFOの範囲内でしょう、年金基金掛金、従業員給与、売上債権の減少は。驚きです、こんな数字を外部公表に使うなんて。 日本語圏の注意点は、たとえば「事業利益」「貢献利益」という言葉あたりでしょうか。これが「売上総利益」「営業利益」とどう違うか、含まれている科目の出し入れに十分な注意を向ける必要があるでしょう。 収益(売上)、利益、キャッシュフローは、その企業の収益性、資金的安全性を推し量る大変重要な財務指標です。それを、さも投資家に分かりやすくGAAPを読み替えて、自社独自の指標(キーメトリクス)で開示していますと見せかけて、実は業績悪化を糊塗するために悪用することは絶対に許せないことです。近年の日本企業でも、上場時の企業発表資料に、堂々とEBITDAを表し、GAAPによる会計的利益やキャッシュフローではなく、EBITDAでセグメント情報を開示し、投資家向け説明をしている事例があります。その企業の狙いは、多額の設備投資やM&Aにかかるのれん償却費をなるべく目立たせない所にあるのですが、どれくらいの人がそのまやかしに気づいているのでしょうか。主幹事を含む各証券会社の財務分析レポートも、EBITDAによる解説がメインになっており、それを目にした時、うすら寒い思いをしました。(^^;) 次回は、財政状態の悪化を隠蔽する貸借対照表の指標の歪曲について説明したいと思います。 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。 ⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について」 ⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(2)経営成績を過大表示する指標の提示 - 収益の代替指標 日本マクドナルド、KDDIやホンダの事例を見る!」 ⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(3)経営成績を過大表示する指標の提示 - 会計的利益とEBITDA」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します