Pocket

■ 企業業績における為替差損は、「為替差損勘定」だけでは決してない!

経営管理会計トピック

3月期決算会社の決算ランキングが日本経済新聞に連日掲載されています。その第6回目は、「為替差損」の大きさによるランキングで、日産自動車が885億円の為替差損を出してダントツの1位でした。しかも、記事中では、日産自動車が「為替関連のデリバティブ収益を757億円計上」して財務戦略を駆使したにもかかわらず、という書きっぷりでした。

2016/8/24付 |日本経済新聞|朝刊 4~6月期決算番付(6)為替差損額 輸出産業以外にも広がる

「円高は輸出採算の悪化を招くだけでなく、外貨建て資産の円ベースの価値を目減りさせる。企業のグローバル化が進んだことで、2016年4~6月期は輸出産業以外でも多額の為替差損の計上が相次いだ。半面、巧妙な財務戦略で円高の逆風を乗り切った企業もみられる。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

本記事の冒頭のリード文から、為替差損益が発生するポイントが2つある、と記者が理解していることが窺えます。

① 輸出採算(外貨建ての輸出売上高を円貨に換算した際の目減り分)
② 外貨建て資産を円転する際の目減り分

記事では複数社の事例を引き合いに、上記について解説が付されています。

● 任天堂
「為替の差損益が収益に与える影響が大きい企業の代表格。海外で稼いだドルやユーロ建ての売掛金を多く抱えるためだ。ただ、足元と同程度に急激な円高が進んだ10年4~6月期と比べると、差損額が半減した。ゲーム機の販売が振るわなかった分、売掛金なども減った。」

→ドルやユーロ建ての売掛金を現金回収する際に、円転したら目減りした(②)。

● 王子ホールディングス
「円高が業績の追い風となるはずの企業も為替差損に悩まされた。10位の王子ホールディングスは紙の原料となるパルプを輸入に頼るため、円高などが4~6月期の営業利益を前期比で34億円押し上げた。だが、円高・人民元安で中国子会社への元建て貸付金に為替差損が発生し、大幅な最終減益になった。」

→外貨によるパルプ輸入代金が円高で安くついた(①)。
→元建て貸付金を現金回収する際に、円転したら目減りした(②)。

●富士重工業
「代表的な輸出産業である自動車が上位に並ぶなか、異彩を放ったのは富士重工業だ。円高による採算悪化で営業利益は減ったものの、為替差損益は58億円のプラスだった。実勢為替レートよりも円安水準で為替予約を済ませていたため、利益が出た。」

→外貨建ての売上に伴う売掛金を現金回収する際に、為替予約でドル円交換レートをFixしていたので、逆に円高下で差益が出た(②)。

そして、記事添付のランキング表は下記の通り。

20160824_2016年4~6月期決算番付(6)為替差損益が大きかった企業_日本経済新聞朝刊

この数字の集計範囲こそが問題なのですが、注記にはこう記述してあります。
(1)「金融、国際会計基準など除く」
(2)「営業外と特別損益の為替差損益の合計」
(3)「デリバティブ評価損益は含まず」

このうち、(1)(3)は、金融商品の取り扱い、非貨幣性資産にまつわる為替差異の取り扱いについて、日本基準とIFRSとで一部異なることから、日本企業間で会計基準が同一ではないことから、比較不可能ということで、ランキングから外したのでしょう。しかし、本稿で問題視したいのは、残りの(2)についてなのです。つまり、損益計算書(P/L)に計上される「為替差損益」という勘定科目だけでランキングを作ると確かにこうなりますね、でもそれって本当の企業体の為替管理の実態を表していますか??? という疑問を筆者は持っているということなのです。

 

■ 企業業績における為替差損益と、財務諸表に現われる「為替差損勘定」の不一致!

結論から言います。企業が業績を左右する「為替管理」問題として、留意すべき点は5つ。その内、4つは下表のように、現行の財務諸表体系で捉えることができます。

経営管理会計トピック_為替損益の発生個所

(1)計画レートと実際レートの差異
よく耳にする計画為替レート・予算為替レートは、110円/ドルだったが、実際為替レートは105円/ドルだったので、5円の円高。だから、ドル建て売上高がその分目減りしたという奴。この差分は、計画為替レートで損益計算書に計上できないため、通常は簿外(ぼがい)。管理会計上、為替レートの予実差異分析をすると表出する為替リスクです。

なお、連結決算処理のために、子会社同士のグループ内取引について、計画レートで固定された為替レートを使っているけど、という質問をよくセミナーで受けます。たしかに、採用している本質的意味は計画レートなんでしょう。しかし、それを損益計算書または貸借対照表に用いる際には、実際レート枠として扱われます。つまり、実際レート算定の根拠のひとつに、期初決めたグループ内だけで使用する固定レートを用いる、というものです。でもこれだって、実勢レートからどれだけか乖離したら、キチンと見直します、という筆者から見れば中途半端な(管理会計上の本質的為替管理の意味がないということで)調整にすぎませんが。。。(^^;)

簿外なので、この分は、上記のランキング表の集計外となります。

(2)為替予約の振当処理
外貨建ての取引のひとつひとつを契約する際に、取引単位の個別に為替予約レートを用いて円貨建ての財務諸表を作る方法で、予約レートと実勢レートの差分は、その取引額に含めてしまいます。だから、この分が、上記のランキング表の集計外となります。

(3)為替予約の独立処理
外貨建ての取引が複数存在するけど、この期間(1ヵ月とか3ヶ月など)に行われる外貨建て取引全体に対して、為替予約レートを引当てましょうという会計処理のことです。取引1件1件ごとに、予約レートと実勢レートの差分を計算しないので、一旦は、各取引は実勢レートで評価し、その合計額と、予約レートで手当てした分の総額の差を、営業外損益にあたる「為替差損益」勘定に持っていくというもの。当然、為替予約を実施していなくても、契約時の実勢レートと、現金回収時の実勢レートの差異も、この「為替差損益」勘定を用います。

つまり、ランキング表のほとんどは、ここの部分だけを取り出したものになります。

(4)為替換算調整勘定
日本から見て、円貨で投資して海外子会社を設立した際に、資本金として出資したお金は、その出資した時点の為替レートで「出資金」として評価されます。一方で、連結決算時には、その海外子会社の財務諸表(ここでは貸借対照表をイメージしておいてください)を円貨に換算して連結財務諸表に組み込む時、決算時の為替レートを用います。それゆえ、出資時点と決算時点の為替レートの違いが、この「為替換算調整勘定」として、「包括利益計算書」および「貸借対照表」に計上されます。

むしろ、海外直接投資がこれから伸びていく傾向にあり、英米の成熟した企業(国家)は、直接投資からの上がりを気にするものです。これが、上記のランキング表には一切反映されていません。

ちなみに、上述の日産自動車の2,016年6月期の四半期決算において、為替換算調整勘定は、▲2,490億円となります。 これくらいのインパクトがあります。よって、新聞報道にある為替差損額ランキング表の残念さお分かり頂けたでしょうか?

 

■ 企業の為替管理能力の実力は、現行の財務諸表に表せるものではない!

ラス1で、企業財務に関わる関係者の神経を逆なでするような標題でお話をまとめていきます。上記のランキング表に、総合商社や石油会社が全く登場してこないことに何か違和感はないですか? 確かに、IFRS採用会社が多いので、そもそもランキング表に登場する資格がないのですが。しかも。仮にIFRS採用会社の枠を外したとしても、同じ基準で評価できないでしょう。これらの業界は、前述した「為替予約の振当処理」が原則としているので、そもそも「為替差損益」が営業外損益の部に出てきにくいのです。

それでも、何とか同じ土俵で為替管理能力を評価できないか。それは、蛇の道は蛇。やり様はいくらでもあります。

こういう方法はどうでしょう。

キャッシュフロー計算書にでてくる「現金及び現金同等物に係る換算差額」と、
包括利益計算書にでてくる「為替換算調整勘定」を併用する案では?

● 2016年第1四半期決算

                       換算差額  為替換算調整勘定              合計
日産自動車  ▲554億円           ▲2490億円   ▲3044億円
三菱商事  ▲1907億円           ▲2677億円   ▲4548億円

「現金及び現金同等物に係る換算差額」は、実際に連結体として保有している貨幣性資産を円転した際の為替レート差異。「為替換算調整勘定」は、海外子会社の外貨建て純資産を円転した際の為替レート差異。この合計が本当の企業の為替管理能力に、企業外部の者が、現行の制度会計ルールの枠組みの中での客観的な資料で迫れる限界なのではないでしょうか?

 

■ 企業の為替管理能力の実力は、多通貨会計が一般的になったら比較可能になる!?

本当の最後に、為替管理能力をどこで見るかについて、サマリをしてみたいと思います。

(1)計画レートと実勢レートの差異管理
(2)為替予約(振当処理)※やらない、という判断を含め
(3)為替予約(独立処理)※やらない、という判断を含め
(4)海外拠点への直接投資にかかる為替レート差異管理
(5)通貨ポジション管理

(2)から(4)は、通常の制度会計上の財務諸表で突き止めることができます。
(1)は、社内関係者なら管理会計帳票で、社外関係者なら公表予算レートから推測することができます。
そして、(1)から(3)を現在保有しているキャッシュの換算差額で一気に捉えたいなら、「現金及び現金同等物に係る換算差額」を観察することで目的を果たせます。

しかし、(5)だけはどうしても、現行のディスクロージャー制度では把握することはできません。それはこういうことです。

<架空の企業X>
ビジネスをしているのは、日本、中国、米国、仏独といった欧州大陸。
日本:円で仕入、円で売上、円で設備と労働力を購入
中国:元で仕入、元で売上、元で設備と労働力を購入
米国:ドルで仕入、ドルで売上、ドルで設備と労働力を購入
欧州:ユーロで仕入、ユーロで売上、ユーロで設備と労働力を購入

架空企業Xでは、4つの通貨圏で全く独立のビジネスを展開し、ひとつひとつのビジネス単位には、為替変動により業績を左右される余地はありません。この場合、架空企業Xは、株主に対して、4通貨単位の会計報告をすればいいのではないでしょうか。さらに、究極のことを言うと、通貨別のトラッキング・ストック制度を導入し、日本ビジネスに係る資本(株式)は、円貨で資金調達し、円貨で現金配当を支払う。以下、元、ドル、ユーロも同じ。

為替管理で汲汲としている企業財務管理、企業業績管理担当者の皆様、こういうスキーム作りを会計制度、株式市場制度づくりを担う当局にリードして頂く事って、とっても魅力的ではありません? なお、一企業の経営管理・管理会計でもやろうと思えばできないことは無いです。その際には、筆者を経営コンサルタントとして雇ってみてくださいまし。結局は自分の売り込みか!(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

(Visited 107 times, 1 visits today)
Pocket

4~6月期決算番付(6)為替差損額 輸出産業以外にも広がる - 本当にそのランキングは為替差損の実態を表しているのか?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むIFRS,トラッキング・ストック,任天堂,多通貨会計,富士重工業,振当処理,為替予約,為替差損,為替換算調整勘定,独立処理,王子ホールディングス,計画レート,輸出採算■ 企業業績における為替差損は、「為替差損勘定」だけでは決してない! 3月期決算会社の決算ランキングが日本経済新聞に連日掲載されています。その第6回目は、「為替差損」の大きさによるランキングで、日産自動車が885億円の為替差損を出してダントツの1位でした。しかも、記事中では、日産自動車が「為替関連のデリバティブ収益を757億円計上」して財務戦略を駆使したにもかかわらず、という書きっぷりでした。 2016/8/24付 |日本経済新聞|朝刊 4~6月期決算番付(6)為替差損額 輸出産業以外にも広がる 「円高は輸出採算の悪化を招くだけでなく、外貨建て資産の円ベースの価値を目減りさせる。企業のグローバル化が進んだことで、2016年4~6月期は輸出産業以外でも多額の為替差損の計上が相次いだ。半面、巧妙な財務戦略で円高の逆風を乗り切った企業もみられる。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 本記事の冒頭のリード文から、為替差損益が発生するポイントが2つある、と記者が理解していることが窺えます。 ① 輸出採算(外貨建ての輸出売上高を円貨に換算した際の目減り分) ② 外貨建て資産を円転する際の目減り分 記事では複数社の事例を引き合いに、上記について解説が付されています。 ● 任天堂 「為替の差損益が収益に与える影響が大きい企業の代表格。海外で稼いだドルやユーロ建ての売掛金を多く抱えるためだ。ただ、足元と同程度に急激な円高が進んだ10年4~6月期と比べると、差損額が半減した。ゲーム機の販売が振るわなかった分、売掛金なども減った。」 →ドルやユーロ建ての売掛金を現金回収する際に、円転したら目減りした(②)。 ● 王子ホールディングス 「円高が業績の追い風となるはずの企業も為替差損に悩まされた。10位の王子ホールディングスは紙の原料となるパルプを輸入に頼るため、円高などが4~6月期の営業利益を前期比で34億円押し上げた。だが、円高・人民元安で中国子会社への元建て貸付金に為替差損が発生し、大幅な最終減益になった。」 →外貨によるパルプ輸入代金が円高で安くついた(①)。 →元建て貸付金を現金回収する際に、円転したら目減りした(②)。 ●富士重工業 「代表的な輸出産業である自動車が上位に並ぶなか、異彩を放ったのは富士重工業だ。円高による採算悪化で営業利益は減ったものの、為替差損益は58億円のプラスだった。実勢為替レートよりも円安水準で為替予約を済ませていたため、利益が出た。」 →外貨建ての売上に伴う売掛金を現金回収する際に、為替予約でドル円交換レートをFixしていたので、逆に円高下で差益が出た(②)。 そして、記事添付のランキング表は下記の通り。 この数字の集計範囲こそが問題なのですが、注記にはこう記述してあります。 (1)「金融、国際会計基準など除く」 (2)「営業外と特別損益の為替差損益の合計」 (3)「デリバティブ評価損益は含まず」 このうち、(1)(3)は、金融商品の取り扱い、非貨幣性資産にまつわる為替差異の取り扱いについて、日本基準とIFRSとで一部異なることから、日本企業間で会計基準が同一ではないことから、比較不可能ということで、ランキングから外したのでしょう。しかし、本稿で問題視したいのは、残りの(2)についてなのです。つまり、損益計算書(P/L)に計上される「為替差損益」という勘定科目だけでランキングを作ると確かにこうなりますね、でもそれって本当の企業体の為替管理の実態を表していますか??? という疑問を筆者は持っているということなのです。   ■ 企業業績における為替差損益と、財務諸表に現われる「為替差損勘定」の不一致! 結論から言います。企業が業績を左右する「為替管理」問題として、留意すべき点は5つ。その内、4つは下表のように、現行の財務諸表体系で捉えることができます。 (1)計画レートと実際レートの差異 よく耳にする計画為替レート・予算為替レートは、110円/ドルだったが、実際為替レートは105円/ドルだったので、5円の円高。だから、ドル建て売上高がその分目減りしたという奴。この差分は、計画為替レートで損益計算書に計上できないため、通常は簿外(ぼがい)。管理会計上、為替レートの予実差異分析をすると表出する為替リスクです。 なお、連結決算処理のために、子会社同士のグループ内取引について、計画レートで固定された為替レートを使っているけど、という質問をよくセミナーで受けます。たしかに、採用している本質的意味は計画レートなんでしょう。しかし、それを損益計算書または貸借対照表に用いる際には、実際レート枠として扱われます。つまり、実際レート算定の根拠のひとつに、期初決めたグループ内だけで使用する固定レートを用いる、というものです。でもこれだって、実勢レートからどれだけか乖離したら、キチンと見直します、という筆者から見れば中途半端な(管理会計上の本質的為替管理の意味がないということで)調整にすぎませんが。。。(^^;) 簿外なので、この分は、上記のランキング表の集計外となります。 (2)為替予約の振当処理 外貨建ての取引のひとつひとつを契約する際に、取引単位の個別に為替予約レートを用いて円貨建ての財務諸表を作る方法で、予約レートと実勢レートの差分は、その取引額に含めてしまいます。だから、この分が、上記のランキング表の集計外となります。 (3)為替予約の独立処理 外貨建ての取引が複数存在するけど、この期間(1ヵ月とか3ヶ月など)に行われる外貨建て取引全体に対して、為替予約レートを引当てましょうという会計処理のことです。取引1件1件ごとに、予約レートと実勢レートの差分を計算しないので、一旦は、各取引は実勢レートで評価し、その合計額と、予約レートで手当てした分の総額の差を、営業外損益にあたる「為替差損益」勘定に持っていくというもの。当然、為替予約を実施していなくても、契約時の実勢レートと、現金回収時の実勢レートの差異も、この「為替差損益」勘定を用います。 つまり、ランキング表のほとんどは、ここの部分だけを取り出したものになります。 (4)為替換算調整勘定 日本から見て、円貨で投資して海外子会社を設立した際に、資本金として出資したお金は、その出資した時点の為替レートで「出資金」として評価されます。一方で、連結決算時には、その海外子会社の財務諸表(ここでは貸借対照表をイメージしておいてください)を円貨に換算して連結財務諸表に組み込む時、決算時の為替レートを用います。それゆえ、出資時点と決算時点の為替レートの違いが、この「為替換算調整勘定」として、「包括利益計算書」および「貸借対照表」に計上されます。 むしろ、海外直接投資がこれから伸びていく傾向にあり、英米の成熟した企業(国家)は、直接投資からの上がりを気にするものです。これが、上記のランキング表には一切反映されていません。 ちなみに、上述の日産自動車の2,016年6月期の四半期決算において、為替換算調整勘定は、▲2,490億円となります。 これくらいのインパクトがあります。よって、新聞報道にある為替差損額ランキング表の残念さお分かり頂けたでしょうか?   ■ 企業の為替管理能力の実力は、現行の財務諸表に表せるものではない! ラス1で、企業財務に関わる関係者の神経を逆なでするような標題でお話をまとめていきます。上記のランキング表に、総合商社や石油会社が全く登場してこないことに何か違和感はないですか? 確かに、IFRS採用会社が多いので、そもそもランキング表に登場する資格がないのですが。しかも。仮にIFRS採用会社の枠を外したとしても、同じ基準で評価できないでしょう。これらの業界は、前述した「為替予約の振当処理」が原則としているので、そもそも「為替差損益」が営業外損益の部に出てきにくいのです。 それでも、何とか同じ土俵で為替管理能力を評価できないか。それは、蛇の道は蛇。やり様はいくらでもあります。 こういう方法はどうでしょう。 キャッシュフロー計算書にでてくる「現金及び現金同等物に係る換算差額」と、 包括利益計算書にでてくる「為替換算調整勘定」を併用する案では? ● 2016年第1四半期決算                        換算差額  為替換算調整勘定              合計 日産自動車  ▲554億円           ▲2490億円   ▲3044億円 三菱商事  ▲1907億円           ▲2677億円   ▲4548億円 「現金及び現金同等物に係る換算差額」は、実際に連結体として保有している貨幣性資産を円転した際の為替レート差異。「為替換算調整勘定」は、海外子会社の外貨建て純資産を円転した際の為替レート差異。この合計が本当の企業の為替管理能力に、企業外部の者が、現行の制度会計ルールの枠組みの中での客観的な資料で迫れる限界なのではないでしょうか?   ■ 企業の為替管理能力の実力は、多通貨会計が一般的になったら比較可能になる!? 本当の最後に、為替管理能力をどこで見るかについて、サマリをしてみたいと思います。 (1)計画レートと実勢レートの差異管理 (2)為替予約(振当処理)※やらない、という判断を含め (3)為替予約(独立処理)※やらない、という判断を含め (4)海外拠点への直接投資にかかる為替レート差異管理 (5)通貨ポジション管理 (2)から(4)は、通常の制度会計上の財務諸表で突き止めることができます。 (1)は、社内関係者なら管理会計帳票で、社外関係者なら公表予算レートから推測することができます。 そして、(1)から(3)を現在保有しているキャッシュの換算差額で一気に捉えたいなら、「現金及び現金同等物に係る換算差額」を観察することで目的を果たせます。 しかし、(5)だけはどうしても、現行のディスクロージャー制度では把握することはできません。それはこういうことです。 <架空の企業X> ビジネスをしているのは、日本、中国、米国、仏独といった欧州大陸。 日本:円で仕入、円で売上、円で設備と労働力を購入 中国:元で仕入、元で売上、元で設備と労働力を購入 米国:ドルで仕入、ドルで売上、ドルで設備と労働力を購入 欧州:ユーロで仕入、ユーロで売上、ユーロで設備と労働力を購入 架空企業Xでは、4つの通貨圏で全く独立のビジネスを展開し、ひとつひとつのビジネス単位には、為替変動により業績を左右される余地はありません。この場合、架空企業Xは、株主に対して、4通貨単位の会計報告をすればいいのではないでしょうか。さらに、究極のことを言うと、通貨別のトラッキング・ストック制度を導入し、日本ビジネスに係る資本(株式)は、円貨で資金調達し、円貨で現金配当を支払う。以下、元、ドル、ユーロも同じ。 為替管理で汲汲としている企業財務管理、企業業績管理担当者の皆様、こういうスキーム作りを会計制度、株式市場制度づくりを担う当局にリードして頂く事って、とっても魅力的ではありません? なお、一企業の経営管理・管理会計でもやろうと思えばできないことは無いです。その際には、筆者を経営コンサルタントとして雇ってみてくださいまし。結局は自分の売り込みか!(^^;) (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します