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経営戦略概史(6)バーナードが「経営者の役割」を示して世界恐慌に苦しむトップを鼓舞した

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■ 外部環境への適応手段としての経営戦略

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「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。「第2章 近代マネジメントの創世」ということで、チェスター・バーナードを取り上げます。彼は1927年から約20年間、アメリカのベル電話システム傘下のニュージャージー・ベル電話会社社長を務め、その社長在任中の1938年に主著『経営者の役割』を刊行し、一躍、経営学の世界で有名になりました。

本書によりますと、
1929年10月24日のアメリカ株式市場での株価急落に端を発した信用縮小は、あっという間に世界を巻き込み、世界恐慌と呼ばれる経済崩壊を引き起こします。第一次世界大戦後の好景気でバブル状態だったアメリカのダウ平均株価は5分の1となり、GDPも恐慌前の3割減と大きく落ち込みます。GDPが元に戻ったのは10年後の1939年、ダウ平均株価が元に戻ったのは25年後の1954年のことでした。

企業経営者はこの時思い知りました。「外部環境」というものの恐ろしさを。自社だけでは何ともしがたい力が企業を襲い、多くが倒産の憂き目に遭いました。大きな外部環境変化に対して、経営者がどういった方向を打ち出し、どう対処するかで、企業の命運が決まった10年でもありました。それこそ、フェイヨル(ファヨール)の考えた「計画」であり、「経営戦略」だったのです。

■ 組織はシステムとして外部環境変化に対応せよ!

本書によりますと、
このことを明確にしたのが、チェスター・バーナード(1886~1961)で、彼もフェイヨル(ファヨール)と同じく、経営のプロとして、実体験からの経営戦略・経営哲学を語ることになります。彼は、企業体を単なる「組織」ではなく、「システム」として定義します。そしてその成立条件として、

① 共通の目的(=経営戦略:彼がこの軍事用語「戦略」を初めて経営に持ち込む)
② 貢献意欲
③ コミュニケーション

の3つを挙げました。

経営者は、自ら目的を作らなければなりません。そしてそれを実現するために作戦を考え、連絡を密にし、士気(モラール)を高めるというわけです。自らの組織(=システム)に、「共通の目的(=経営戦略)」を与えるのは経営者の役割なのだ、という考え方自体が、当時は画期的でした。経営学史的には、彼が、経営学の古典理論(テイラー・ファヨールなど)・新古典理論(メイヨーなど)と、この後の近代マネジメント論の結節点として捉えられています。

と、ここまでが三谷教授の記述。。。

これでは少々物足りないので、バーナードの三部作、
・『経営者の役割』山本安次郎・田杉競・飯野春樹訳
・『組織と管理』飯野春樹監訳・日本バーナード協会訳
・『経営者の哲学』飯野春樹監訳・日本バーナード協会訳

から、『経営者の役割』の内容を少し垣間見てみましょうか。

参考にしたサイト:チェスター・バーナード『経営者の役割』を読む(福井県立大学・経済学部 田中求之)

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■ 『経営者の役割』を早読みする!

序文にある本人の解説によると、本書の主題は、「公式組織の社会学」。そして公式組織にまつわる必要不可欠な要素である「権威」。「権威受容説」として有名なもので、『権威』とは本質的に主観的性格のもので、公式の同意と、権威に従うといわれる人々の非公式の同意ないし無関心を含むものであると定義されています。もうひとつの要素は、「有効性と能率」。彼にとって、「能率」とは、協働に関与者の満足の度合いを指すものとなっています。

以下キーワードの解説を付します。

1.公式組織
「きわめて広範な人間関係を包摂する概念で、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働である」

「組織の存続は、物的、生物的、社会的な素材、要素、諸力からなる環境が不断に変動するなかで、複雑な性格の均衡をいかに維持するかにかかっている。このためには組織の内的な諸過程の再調整が必要である」

バーナードにとって、組織は、人々の協働(一緒にひとつの目標に向かって、個々人の活動が調整された、活動の束)によって成立していると考えられています。決して、経理部や営業本部といったハコの集合が組織なのではなく、そこで働いている人たちの、仕事の束が有機的に結びついて「組織(=システム)」を形成する、といっています。人の集まりが組織。人(の幸せ)のための組織であって、組織のために人(従業員)が存在しているのではない、という理解です。

2.貢献意欲
「組織が存続するためには、有効性または能率のいずれかが必要である。組織の生命力は、協働システムに諸力を貢献しようとする個人の意欲のいかんにかかっており、この意欲には、目的が遂行できるという信念が必要である。実際に目的が達成されそうにもないと思われれば、この信念は消えてしまう。したがって有効性がなくなると、貢献意欲は消滅する。意欲の継続性はまた目的を遂行する過程において各貢献者が得る満足に依存する。」

組織は人の活動の集まりなのだから、人が一緒に仕事をする意欲を失うと、組織の存立が危うくなります。テイラーが「科学的管理法」で、ニンジンを目の前にぶら下げてやる気を促したことも、「メイヨー」が「人間関係論」で共同体意識の醸成に苦心したことも、バーナードによれば、「貢献意欲」の維持・強化のため、ということになります。

では、その個々人の貢献意欲を引き出すための方法は何かないのか?

3.コミュニケーション
「共通目的の達成の可能性と人間の存在-その人々の欲求がかかる共通目的に貢献する動機となっている-とは、協働的努力システムの相対する両極である。これらの潜在的なものを動的ならしめるプロセスがコミュニケーションである。」

いやはや、難解すぎてよく分かりません。(^^;)

日本語で言うなら、「以心伝心」「空気を読む」「共鳴」と表現されている、言葉にしなくても分かりあっているよね、という状態を作り出すこと。原典では、「observational feeling」という彼の造語。そして、このコミュニケーションの巧拙が、組織の大きさ、広がり、成長、深さを決めるのだとか。

4.権威
コミュニケーションにおいて、組織の目的を達成するために、上位者が下位者に言うことを聞いてもらわねばならない状況が生まれます。その際に、「他人の指示に従わせるもの(指示を受容させるもの)」が権威とされています。ではどうやって、上位者の権威(部下に言うことを聞かせる力)は生まれるのでしょうか? バーナードは2つの要因で、権威の源泉を説明しています。

① 職位の権威(authority of position)
② リーダーシップの権威(authority of leadership)

いやあ、筆者も、元々、我の強い若手コンサルに仕事の指示出しをしている立場から、常日頃から、業務命令にどうやって従ってもらうか、悩んでいます。(^^;)
できれば、プロジェクトマネージャー(PM)という職位から、いやいや命令に従ってもらうよりは、筆者自身のリーダーシップの裏打ちがあって、納得ずくで指示に従ってもらいたいのですが、実際はどうでしょう???

5.目的と目標の定式化
「目的の細分化と割り当ては、責任の割り当てであり、権威の委譲である。したがって、この職能の決定的側面は責任の割り当て、すなわち客観的権威の委譲である。だからある意味では、この職能はすでにのべた職位構造すなわちコミュニケーション・システムの職能である。コミュニケーション・システムはこの職能の潜在的側面である。他の側面はこの職位構造を生きたシステムたらしめる現実の意思決定であり、行為である。」

ふうぅー。難しいですね。組織は人の集合、人はお互いにコミュニケーションの元、意識を合わせている。組織がある目的を達成するには、その目的が組織の構成員のミッションに沿って分割されて、各人の責任とならねばならないということ。製造部は、納期通りに設計書にある品物を作り、営業は得意先から注文を取ってくる。一見、無秩序、無関係に見えるそれぞれの活動目的、個人責任(=役割)が、有機的に結びついて、会社という組織の維持・成長を可能にする利潤を得ることにつながっていなければいけないというわけです。

最後の「管理過程」は、管理会計的に、経営諸活動に与える「効用」を数字で表現して云々しているので、章を改めて説明します。(ちょっと長いかも、、、)

■ 管理過程 - 「効用」と「能率」の計算について

人々の協働意欲を高めるために、諸活動がどれだけ、組織に対して「効用」を生み出したか、どれだけ「能率」的であったか、を計算して明示する必要があります。

「組織は協働的な人間活動のシステムであって、その機能は、(1)効用の創造、(2)効用の変形、(3)効用の交換である。組織は協働システムを創設することによってこれらの機能を完遂することができる」

「協働システムには、(a)物的経済、(b)社会的経済、(c)個人的経済、(d)組織の経済、という4種類の異なる経済が存在する」

「貸借対照表に組み入れられているのは、これら4重経済の部分に過ぎない。これらすべての経済のうち、ただある部分だけが、通常、商業組織およびその他多くの組織の貸借対照表に組み入れられている。しかし、組織の経済のただ一つの計算書(statement)は成功か失敗かであらわしたものであり、組織の経済に関するただ一つの分析は組織行動に関する意思決定の分析である。組織効用(organization utility)の経済に関する測定単位は存在しないのである」

いやあ、管理会計屋としては、計算できない、貸借対照表は不完全、といわれると、、、(^^;)

「どの組織にも四重の経済がある。……。この経済のただ一つの尺度は組織の存続である。組織が成長しておれば、それは明らかに能率的であり、縮小しておれば、能率的かどうか疑わしく、縮小期間中は非能率的であったことが、結局においてわかるだろう」

組織成長だけが、経営諸活動の「能率」性を示すことができるとのこと。その組織成長は、いったい何を見ればわかるんだろう???

かなり長文ですが、以下抜粋です。

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部分が集計されても全体になりえないし、また協働の成果は結果による以外、判明しないのであるから、組織の究極の能率は二つのまったく異なる要因、すなわち、(a)部分の能率、(b)全体の創造的な経済、に依存することになる。……。このことは、組織の能率がつぎの二つの統制から生ずることを意味する。一つは、交換点すなわち組織の周辺での収支の細部にわたる統制であり、他は組織に内的で、生産的要因たる調整である。交換は分配要因であり、調整は創造要因である。

このように、経済とは言いながらも、そこでは共通尺度による計量化や測定、あるいは比較ができないものである。結局のところ、結果でしか測定できないというものである。そして、組織の持続という点では、調整によって協働が創造的になることが重要である(重要であるとしか言えない)。

組織の創造的な側面は調整である。効用を生産するために組織の諸要素の適切な組み合わせを確保することは、協働システムを持続させる基礎である。……。生存するためには、協働自体が余剰を生み出さねばならない。……。したがって、多くの事情のもとで、調整の質こそ組織の存続における決定的要因である。

4重の経済が計量不可能、数的比較不可能であるがゆえに、だからこそ、管理者のセンス、4重経済のバランスを感知し、創造性を生み出すように管理を行うセンスが必要とされる。」
—————————————–

ここまで、長文抜粋を読んでいただき、ありがとうございました。

結局、会計屋は、バーナードがいう協働意欲を掻き立てるための「効用」「能率」を数字で提供することはできず、経営者の極めてアートなセンスでしか分からないという結論です。

これは、ずっと後世の、ミンツバーグがいう「経営はクラフトワーク」「経営者はある種の職人だ!」というメッセージにつながりますね。実は、筆者も会計屋出身ですが、本心ではそう思っています。(^^;)

かなり長文の投稿となってしまいました。残りの2冊は、機会があればどこかで解説いたしましょう。

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(6)バーナードが「経営者の役割」を示して世界恐慌に苦しむトップを鼓舞した




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