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■ 近代マネジメントの到達点『ビジネスポリシー』

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。バーナード、ドラッカー、アンゾフ、チャンドラー、そしてバウアーたちが打ち立てたコンセプトを整理し、世に広めたのが、HBS(ハーバード・ビジネススクール)の看板教授だったケネス・アンドルーズでした。

本書によりますと、
アンドルーズは、34歳の頃には、HBSで「ビジネスポリシー」コース改訂チームの中核となり、彼らが作り上げた、企業戦略論を中核としたビジネスポリシー授業は大成功を収め、その長くHBSの人気科目となったそうです。その内容を、1965年に『ビジネスポリシー:テキストとケース集』に著すと、多くのビジネススクールがこぞって教科書として採用し、彼が整理し、作り上げた考えは、あっという間にアメリカ人エグゼクティブたちの共通認識・共通言語となったそうです。

では、「ビジネスポリシー」とは一体何でしょうか?

本書によりますと、
基本は、「トップマネジメントの果たすべき機能であり責務である」、
その具体的内容は、「企業戦略レベルでの戦略プランニング手法」であり、
基本部分は、
① 「外部環境分析」
② 「内部環境(組織・人)分析」
③ 「戦略構築」
④ 「実行プラン」

というプロセスから成り立ち、どの経営戦略本を開いても、例えば「中期事業戦略の立案」のような解説部分に、上記プロセスがそのまま、アンドルーズのコンセプトであることを明記もせずに、当たり前のように紹介されています。

さらに、アンドルーズの労作について、特筆すべきものは、上記ステップでの作業を、トップマネジメントたちが実践できるように詳細化・具体化したところです。そしてその中で用いた分析ツールから、圧倒的な大ヒット商品が生まれました。それが、経営戦略論を学んだことのある人ならだれでも目にする「SWOT分析」です。

経営戦略(基礎編)_SWOTマトリクス

内部(組織)要因で自社の目的達成にポジティブな要素を「強み(Strengths)」、ネガティブな要素を「弱み(Weaknesses)」、外部(環境)要因でポジティブな要素を「機会(Opportunities)」、ネガティブな要因を「脅威(Threats)」と整理するものです。

本書によりますと、
・The Global Benchmarking Network による22ヵ国450社・団体に対する2008年調査によればSWOT分析の使用率は72%で2位、ちなみに、1位は「顧客サーベイ」(77%)
・SWOT分析のフレームワーク自体は、アルバート・ハンフリーが開発し、オリジナルでは、横軸「目的達成に Helpful か Harmful か」でした。

企業戦略とは、外部環境における「機会」と内部環境における「強み」を組み合わせることにある、とバーナードらは示しました。その考えを、具現化するための分析ツールがこのSWOTマトリックスだったのです。

 

■ 企業戦略とは機械的には決まらない「アート」である

本書によりますと、
アンドルーズのHBSにおける「ビジネスポリシー」の授業自体がすでに「アート」でした。様々な角度からの分析があり、生徒たちがいろいろな意見を述べ、議論が拡散した時に、アンドルーズがものの見事に議論を収束させ、彼の変幻自在の講義リードに出席者は誰もが感嘆し、心酔したと言われています。

最近の例でいえば、マイケル=サンデルの政治学の授業、ハーバード白熱教室のような様(さま)でしょうか。

本書によりますと、
アンドルーズがリードする「ビジネスポリシー」の授業では、企業戦略とは、企業個別の環境や事情にあふれた、定型化などできない芸術作品そのものだったそうです。その非定型な芸術的な講義の虜だったマイケル=ポーターもそこで鍛えられた生徒の一人でしたが、その後、

「経営戦略はパターン化できる」 (コストリーダシップ戦略、差別化戦略、集中戦略)
「戦略構築のための分析はもっと定型化できる」 (5 forces 分析)
「戦略はアートではない!」 (ポジショニング、競争市場での位置取りの問題)

という風に、反旗を翻し、ポジショニング学派を打ち立て、大成功を収めます。

筆者の事業会社での経営企画部門での一連の実務経験の中でも、SWOT分析とBSC(バランスト・スコア・カード)作成、戦略マップの作図は、何度もやりましたし、事業部の企画部門に何度も作成をお願いしていました。確かに、各事業や各部門が直面している市場における課題については、大変良く理解できたと思います。しかし、そこから有効な解決策が機械的に出てきたかどうかについては、懐疑的です。やはり、一連の分析作業を経て、そこから課題を認識し、その課題の解決施策をひとつずつ立案していく、最後に財務的な効用を試算し、施策の優先順位と採択可否の判断を行い、実行結果を事後評価する、一連の作業の突破口に過ぎませんでした。

「戦略マップ」とは名ばかりで、事業が直面する課題や、KPIどころか、最終的な目標値(KGI:Key Goal Indicators 例えば営業利益率の類)のみしか、記述されずに終わったことも多々ありました。なかなか、課題解決性の高い具体的な施策というのは、一朝一夕には考えつかないものだと実感したものです。

 

■ SWOT分析の真実

本書の構成として、アンドルーズの章の前後には、彼の業績に関するコラムがつけられており、著者にとっても、「SWOT分析」に対する思い入れの大きさを窺い知ることができます。その後コラムから、「SWOT分析」が強力すぎる分析ツールであることを垣間見ることができます。

本書によりますと、
スタンフォード研究所のアルバート・ハンフリーが、企業の中期計画がなぜ失敗したかを分析する枠組みとして「SOFT分析」なるモノを考案します。後に、その軸と中身が改善されて、かの「SWOT分析」誕生と相成りました。「SWOT分析」が整理するための、強力すぎる分析ツールとして論理的思考プロセスを大いに助けてくれる効能を発揮しすぎて、社内の企画書・稟議書の類に「SWOTマトリックス」が添付され、そこに簡潔に結論のみが付けられ、企画部門のメンバの思考停止も甚だしい事態が発生した事例まで紹介されていました。

本書によりますと、
「SWOT分析」の応用である「TOWS分析」(サンフランシスコ大学、ハインツ・ワイリック発案)は使えると紹介されています。

経営戦略(基礎編)_TOWSマトリクス

SWOTで出した機会・脅威のひとつずつに、強み・弱みを掛け合わせて、打つべき施策案をいろいろと案出するためのツールにする、というものです。

・機会と強みを組み合わせれば「積極攻勢」策の案
・機会と弱みを組み合わせれば「弱点強化」策の案
・脅威と強みを組み合わせれば「差別化」策の案
・脅威と弱みを組み合わせれば「防衛/撤退」策の案

本書によりますと、やっぱりここからは答え(打つべき施策やそれをまとめた戦略)は自動的にはじき出されず、施策のアイデアが出てくるだけとされています。その理由は、アイデアレベルで案出された施策間の「重み」も「トレードオフ」も示されていないからです。あくまで、事業要素を組み合わせて、施策の案を「少し」拡げるためのツールであると三谷氏は述べています。

さらに、1997年、「SWOT分析:もう製品回収(リコール)」のとき」という衝撃的な論文発表がなされたことが紹介されています。

著者たち(Terry Hill, Roy Westbrook)が調べたSWOT分析利用の20社において、「1社としてSWOT分析の結果を、戦略策定には使っていなかった」というのです。「SWOT分析は、ただのロングリストをつくり、一般的な(つまり無意味な)解釈がされ、優先順位も付けられず、問題点の検証もされていなかった」「だからもう、リコールしましょうよ」という内容でした。

 

■ 人間の脳みその実力の限界とAI(人工知能)の可能性について

ここは筆者の経験則(事業会社での実務、コンサルティング)からなのですが、例えば、TOWSマトリックスを使用して、施策を立案する場合、強み・弱み・機会・脅威のそれぞれに、5要素が考えつく場合、5×5=25の組合せの施策が、TOWSマトリックスにおける4象限それぞれに配置されるので、25×4=100の施策を、相互に優先順位をつけて、評価していくことは大変骨が折れる作業になります。当然、本書でも言及されているように、中には無存在の組合せもあるのでしょうが、「無存在である」という検証作業に係る工数も馬鹿になりません。

アメリカの認知心理学者ジョージ・ミラーが1956年に提唱した「マジックナンバー 7±2」は、人間が短期的に大体7個くらいは記憶できる、というもので、人間の脳みそで、同列に評価できる対象は、だいたい7つというものがあります。これには、賛否両論があり、さらに、2001年にネルソン・コウワンによって否定され、4±1である、という分析もあります。

つまり何が言いたいかというと、100個もの施策を評価することは、現実的ではないということです。経営計画立案にかかる作業時間は無尽蔵にあるわけではありません。よくて2,3ヶ月、しかもそれ専任で作業ができるとは限りません。そして、人間の脳みその実力から、対象物を比較分析できる限界は4~7個。100個の施策など、短期、中期の経営計画立案プロセスで、そもそも考え尽くせる物量ではないのです。

結局のところ、戦略立案担当者の頭の中で想起される施策案は、せいぜい5つ前後。しかも、記憶に新しい最近の出来事(それが衝撃的であればある程、影響力は甚だしい、しかも、例外的・一時的であることの方が記憶に残りやすいということは、、、)や親しい同僚や上司の言動に左右されるが常です。

筆者も、プレゼン資料を作成する際には、章立てや、箇条書きで列挙する数をできるだけ、7個以下に抑える努力をします。そして、チャートで図解する時は、できるだけ、2×2の4象限で物事を分類することを心がけます。また、因果関係図や、課題と施策の関連図、課題管理表やリスク管理表、施策管理表(To-DO管理表)は、「1:N」関係になるように作図・作表し、「N:M」関係は、最後の手段としています。

経営戦略(基礎編)_ものごとの相関関係

上図にある通り、「N:M」関係にある各要素の、事前の優先順位づけ、事後の結果・効果検証において、「N:M」関係では、その因果関係を明らかに説明することができません。

結論といたしましては、そういった物量と時間制約の中で知的作業を遂行するためには、もはやAI(人工知能)の力を借りるしかない、という考えに至りました。冗談ではありませんよ、本当の本当にマジです。AIなら、高い処理能力で、短期間に100施策ぐらいの相対評価は可能でしょう。そして、人間が陥りやすい、「ハロー効果」「アンカリング効果」の類の認知バイアスにかかることもないでしょう。

そして、アンドルーズの章で是非、最後に語りたかったのが、経営は「アート」か「サイエンス」か? AIに散々、サイエンス的アプローチで検討案を絞り込ませて、確率と共に、提案してもらった後、人間が最大4,5個の選択肢の中から、直観で経営判断を下す。これが現時点で考え得る最強の思考プロセスと思えるのですよ。

つまり、経営とは「アート」である!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(11)アンドルーズは「戦略プランニング手法」を広めたが戦略自体はアートだと信じた

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経営戦略概史(11)アンドルーズは「戦略プランニング手法」を広めたが戦略自体はアートだと信じた- SWOT分析はここから始まったhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭経営戦略(基礎編)SWOT分析,TOWS分析,アンドルーズ,ジョージ・ミラー,ビジネスポリシー,マジックナンバー 7,三谷宏治,戦略プランニング,経営戦略,経営戦略全史,認知バイアス■ 近代マネジメントの到達点『ビジネスポリシー』 「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。バーナード、ドラッカー、アンゾフ、チャンドラー、そしてバウアーたちが打ち立てたコンセプトを整理し、世に広めたのが、HBS(ハーバード・ビジネススクール)の看板教授だったケネス・アンドルーズでした。 本書によりますと、 アンドルーズは、34歳の頃には、HBSで「ビジネスポリシー」コース改訂チームの中核となり、彼らが作り上げた、企業戦略論を中核としたビジネスポリシー授業は大成功を収め、その長くHBSの人気科目となったそうです。その内容を、1965年に『ビジネスポリシー:テキストとケース集』に著すと、多くのビジネススクールがこぞって教科書として採用し、彼が整理し、作り上げた考えは、あっという間にアメリカ人エグゼクティブたちの共通認識・共通言語となったそうです。 では、「ビジネスポリシー」とは一体何でしょうか? 本書によりますと、 基本は、「トップマネジメントの果たすべき機能であり責務である」、 その具体的内容は、「企業戦略レベルでの戦略プランニング手法」であり、 基本部分は、 ① 「外部環境分析」 ② 「内部環境(組織・人)分析」 ③ 「戦略構築」 ④ 「実行プラン」 というプロセスから成り立ち、どの経営戦略本を開いても、例えば「中期事業戦略の立案」のような解説部分に、上記プロセスがそのまま、アンドルーズのコンセプトであることを明記もせずに、当たり前のように紹介されています。 さらに、アンドルーズの労作について、特筆すべきものは、上記ステップでの作業を、トップマネジメントたちが実践できるように詳細化・具体化したところです。そしてその中で用いた分析ツールから、圧倒的な大ヒット商品が生まれました。それが、経営戦略論を学んだことのある人ならだれでも目にする「SWOT分析」です。 内部(組織)要因で自社の目的達成にポジティブな要素を「強み(Strengths)」、ネガティブな要素を「弱み(Weaknesses)」、外部(環境)要因でポジティブな要素を「機会(Opportunities)」、ネガティブな要因を「脅威(Threats)」と整理するものです。 本書によりますと、 ・The Global Benchmarking Network による22ヵ国450社・団体に対する2008年調査によればSWOT分析の使用率は72%で2位、ちなみに、1位は「顧客サーベイ」(77%) ・SWOT分析のフレームワーク自体は、アルバート・ハンフリーが開発し、オリジナルでは、横軸「目的達成に Helpful か Harmful か」でした。 企業戦略とは、外部環境における「機会」と内部環境における「強み」を組み合わせることにある、とバーナードらは示しました。その考えを、具現化するための分析ツールがこのSWOTマトリックスだったのです。   ■ 企業戦略とは機械的には決まらない「アート」である 本書によりますと、 アンドルーズのHBSにおける「ビジネスポリシー」の授業自体がすでに「アート」でした。様々な角度からの分析があり、生徒たちがいろいろな意見を述べ、議論が拡散した時に、アンドルーズがものの見事に議論を収束させ、彼の変幻自在の講義リードに出席者は誰もが感嘆し、心酔したと言われています。 最近の例でいえば、マイケル=サンデルの政治学の授業、ハーバード白熱教室のような様(さま)でしょうか。 本書によりますと、 アンドルーズがリードする「ビジネスポリシー」の授業では、企業戦略とは、企業個別の環境や事情にあふれた、定型化などできない芸術作品そのものだったそうです。その非定型な芸術的な講義の虜だったマイケル=ポーターもそこで鍛えられた生徒の一人でしたが、その後、 「経営戦略はパターン化できる」 (コストリーダシップ戦略、差別化戦略、集中戦略) 「戦略構築のための分析はもっと定型化できる」 (5 forces 分析) 「戦略はアートではない!」 (ポジショニング、競争市場での位置取りの問題) という風に、反旗を翻し、ポジショニング学派を打ち立て、大成功を収めます。 筆者の事業会社での経営企画部門での一連の実務経験の中でも、SWOT分析とBSC(バランスト・スコア・カード)作成、戦略マップの作図は、何度もやりましたし、事業部の企画部門に何度も作成をお願いしていました。確かに、各事業や各部門が直面している市場における課題については、大変良く理解できたと思います。しかし、そこから有効な解決策が機械的に出てきたかどうかについては、懐疑的です。やはり、一連の分析作業を経て、そこから課題を認識し、その課題の解決施策をひとつずつ立案していく、最後に財務的な効用を試算し、施策の優先順位と採択可否の判断を行い、実行結果を事後評価する、一連の作業の突破口に過ぎませんでした。 「戦略マップ」とは名ばかりで、事業が直面する課題や、KPIどころか、最終的な目標値(KGI:Key Goal Indicators 例えば営業利益率の類)のみしか、記述されずに終わったことも多々ありました。なかなか、課題解決性の高い具体的な施策というのは、一朝一夕には考えつかないものだと実感したものです。   ■ SWOT分析の真実 本書の構成として、アンドルーズの章の前後には、彼の業績に関するコラムがつけられており、著者にとっても、「SWOT分析」に対する思い入れの大きさを窺い知ることができます。その後コラムから、「SWOT分析」が強力すぎる分析ツールであることを垣間見ることができます。 本書によりますと、 スタンフォード研究所のアルバート・ハンフリーが、企業の中期計画がなぜ失敗したかを分析する枠組みとして「SOFT分析」なるモノを考案します。後に、その軸と中身が改善されて、かの「SWOT分析」誕生と相成りました。「SWOT分析」が整理するための、強力すぎる分析ツールとして論理的思考プロセスを大いに助けてくれる効能を発揮しすぎて、社内の企画書・稟議書の類に「SWOTマトリックス」が添付され、そこに簡潔に結論のみが付けられ、企画部門のメンバの思考停止も甚だしい事態が発生した事例まで紹介されていました。 本書によりますと、 「SWOT分析」の応用である「TOWS分析」(サンフランシスコ大学、ハインツ・ワイリック発案)は使えると紹介されています。 SWOTで出した機会・脅威のひとつずつに、強み・弱みを掛け合わせて、打つべき施策案をいろいろと案出するためのツールにする、というものです。 ・機会と強みを組み合わせれば「積極攻勢」策の案 ・機会と弱みを組み合わせれば「弱点強化」策の案 ・脅威と強みを組み合わせれば「差別化」策の案 ・脅威と弱みを組み合わせれば「防衛/撤退」策の案 本書によりますと、やっぱりここからは答え(打つべき施策やそれをまとめた戦略)は自動的にはじき出されず、施策のアイデアが出てくるだけとされています。その理由は、アイデアレベルで案出された施策間の「重み」も「トレードオフ」も示されていないからです。あくまで、事業要素を組み合わせて、施策の案を「少し」拡げるためのツールであると三谷氏は述べています。 さらに、1997年、「SWOT分析:もう製品回収(リコール)」のとき」という衝撃的な論文発表がなされたことが紹介されています。 著者たち(Terry Hill, Roy Westbrook)が調べたSWOT分析利用の20社において、「1社としてSWOT分析の結果を、戦略策定には使っていなかった」というのです。「SWOT分析は、ただのロングリストをつくり、一般的な(つまり無意味な)解釈がされ、優先順位も付けられず、問題点の検証もされていなかった」「だからもう、リコールしましょうよ」という内容でした。   ■ 人間の脳みその実力の限界とAI(人工知能)の可能性について ここは筆者の経験則(事業会社での実務、コンサルティング)からなのですが、例えば、TOWSマトリックスを使用して、施策を立案する場合、強み・弱み・機会・脅威のそれぞれに、5要素が考えつく場合、5×5=25の組合せの施策が、TOWSマトリックスにおける4象限それぞれに配置されるので、25×4=100の施策を、相互に優先順位をつけて、評価していくことは大変骨が折れる作業になります。当然、本書でも言及されているように、中には無存在の組合せもあるのでしょうが、「無存在である」という検証作業に係る工数も馬鹿になりません。 アメリカの認知心理学者ジョージ・ミラーが1956年に提唱した「マジックナンバー 7±2」は、人間が短期的に大体7個くらいは記憶できる、というもので、人間の脳みそで、同列に評価できる対象は、だいたい7つというものがあります。これには、賛否両論があり、さらに、2001年にネルソン・コウワンによって否定され、4±1である、という分析もあります。 つまり何が言いたいかというと、100個もの施策を評価することは、現実的ではないということです。経営計画立案にかかる作業時間は無尽蔵にあるわけではありません。よくて2,3ヶ月、しかもそれ専任で作業ができるとは限りません。そして、人間の脳みその実力から、対象物を比較分析できる限界は4~7個。100個の施策など、短期、中期の経営計画立案プロセスで、そもそも考え尽くせる物量ではないのです。 結局のところ、戦略立案担当者の頭の中で想起される施策案は、せいぜい5つ前後。しかも、記憶に新しい最近の出来事(それが衝撃的であればある程、影響力は甚だしい、しかも、例外的・一時的であることの方が記憶に残りやすいということは、、、)や親しい同僚や上司の言動に左右されるが常です。 筆者も、プレゼン資料を作成する際には、章立てや、箇条書きで列挙する数をできるだけ、7個以下に抑える努力をします。そして、チャートで図解する時は、できるだけ、2×2の4象限で物事を分類することを心がけます。また、因果関係図や、課題と施策の関連図、課題管理表やリスク管理表、施策管理表(To-DO管理表)は、「1:N」関係になるように作図・作表し、「N:M」関係は、最後の手段としています。 上図にある通り、「N:M」関係にある各要素の、事前の優先順位づけ、事後の結果・効果検証において、「N:M」関係では、その因果関係を明らかに説明することができません。 結論といたしましては、そういった物量と時間制約の中で知的作業を遂行するためには、もはやAI(人工知能)の力を借りるしかない、という考えに至りました。冗談ではありませんよ、本当の本当にマジです。AIなら、高い処理能力で、短期間に100施策ぐらいの相対評価は可能でしょう。そして、人間が陥りやすい、「ハロー効果」「アンカリング効果」の類の認知バイアスにかかることもないでしょう。 そして、アンドルーズの章で是非、最後に語りたかったのが、経営は「アート」か「サイエンス」か? AIに散々、サイエンス的アプローチで検討案を絞り込ませて、確率と共に、提案してもらった後、人間が最大4,5個の選択肢の中から、直観で経営判断を下す。これが現時点で考え得る最強の思考プロセスと思えるのですよ。 つまり、経営とは「アート」である! (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します