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■ ポジショニング派のチャンピオンも、最初はHBSで首宣告一歩手前だった!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。お待たせしました。マイケル・ポーターの登場です。本書から彼の経歴を紹介します。プリンストン大学で航空工学を学んだ後、ハーバードビジネススクール(HBS)のMBAコースでビジネスを学びます。そこでクリステンセンやアンドルーズの講義に感銘を受けるものの、その上のDBAコースは進まず、ハーバード大学経済学部の博士課程に進み、ビジネス経済学のPhDを取得します。ここに、後年、彼がミクロ経済学的素養を持って、産業分析と競争戦略を統合する「ファイブフォース分析(五大要因モデル)」を編み出す素地となったとは間違いありません。彼は、ビジネスや戦略そのものを学ぶより、より学術的で厳密な分析力を磨くことを優先したわけです。

ポーターの博士論文で生み出されたのがあの「ファイブフォース分析(5力フレームワーク、5大要因モデル)」でした。しかし、HBSに戻って後の准教授への昇進判断ではほぼ全員が反対に回る始末。その中で起死回生の逆転ホームランが、「ICA(産業と競争分析)」という新カリキュラム。応募者が殺到して、一躍売れっ子教授の一人に。

彼が1980年に発表した『競争の戦略』がベストセラーとなり、わずか35歳でHBSの正教授に就任することになりました。

 

■ 「ファイブフォース分析」で儲けられる市場を選べ!

経営戦略論の歴史において、ポーターが残した業績が数々ありますが、その功績を経営ツールという形で選べば、

① ファイブフォース分析(5力フレームワーク)
② 戦略3類型(コストリーダーシップ、差別化、集中)
③ バリューチェーン

となります。①②が『競争の戦略』(1980年)で世に送り出され、③が『競争優位の戦略』(1985年)で発表されました。

「ファイブフォース分析」で、ポーターは自身が学んだビジネス経済学の手法を使って、業界構造を明らかにしようとしました。

① 競争戦略を策定する際、もっとも重要なのは企業をその環境との関係で捉えること
② その環境として大切なのは、その企業がいる業界の定義とその構造
③ 業界構造は自社にかかる圧力として理解でき、それには、下記の5種類がある
  1)既存競合(Industry Competition)
  2)買い手(Buyer)
  3)供給者(Supplier)
  4)新規参入者(Potential Entrants)
  5)代替品(Substitutes)
その中でもっとも強い力が、決め手(=競争の最重要要因)となる
(同書P142より)

経営戦略(基礎編)_ファイブフォース分析

①はバーナード以来の主張ですから新味はなく、ポーター独自の新規性は②③にあります。彼は、この5つの力を調べる詳細な約50項目にのぼるリストを作成し、これだけで業界構造は理解できると喝破しました。でも、経営実務の世界で、この「ファイブフォース分析」のフレームワークを借りて様々な業界と競争戦略の分析が試みられているのを目にしますが、ついぞ、ポーター教授に忠実に50項目のリストを網羅的に解析したケースはそうそうお目にかかることはありません。(^^;)

 

■ 「ファイブフォース分析」が外部環境分析ツールとして威力を発揮しましたが、それで?

ポーターは「ポジショニング」を重視しました。本書によりますと、彼の「ポジショニング」とは、

① 経営戦略の目的は企業が収益(利益)を上げることである
② そのためには、「儲けられる市場」を選ぶことが大事である
③ かつ、競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなに企業努力を重ねてもムダである

上記②の「儲けられる市場」であるかのリトマス試験紙として、「ファイブフォース分析」が用いられることになります。「PLC戦略」(→第12回)のように、市場の将来や顧客の変遷を教えてくれるわけでも、「経験曲線」(→第13回)のように競合のコスト構造を推定してくれるわけでもありません。

ここからは脱線ですが、「会計学」では、「収益」と「利益」の語は厳密に使い分けられます。「売上高」のように企業に流入する貨幣価値が「収益」。「収益」とコストの差分で、いわゆる儲けと呼ばれるのが「利益」。経営戦略が支えるべき企業目的は、「収益」獲得ではなく、「利益」獲得なのだろうと思いますが。。。
閑話休題。

しかし、多くの戦略関係者にとって、アンドルーズの「SWOT分析」(→第11回)だけでは心もとない所にこの「ファイブフォース分析」が輝きを持って登場したのです。「SWOT分析」は、外部環境の「機会」「脅威」をどうやって見出すかは曖昧だったため、元来はミクロ経済学にその発祥を持つ産業分析の方法論を取り入れた「ファイブフォース分析」がもたらす、約50項目のチェックリスト(組み合わせればその数はもっと増える!)が明示されたのは、分析好きなアングロサクソン流のMBA経営者・戦略担当者にとっては大変重宝されたのです。

次回は、「戦略3類型」「バリューチェーン」について解説したいと思います。

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(15)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場① - ファイブ・フォース分析はミクロ経済学から誕生した

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経営戦略概史(15)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場① - ファイブ・フォース分析はミクロ経済学から誕生したhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭経営戦略(基礎編)ポジショニング,三谷宏治,経営戦略全史,経営戦略,経験曲線,SWOT分析,バリューチェーン,PLC戦略,マイケル・ポーター,ファイブフォース分析,競争の戦略,競争優位の戦略,戦略3類型,コストリーダーシップ,差別化,集中,既存競合,買い手,供給者,新規参入者,代替品■ ポジショニング派のチャンピオンも、最初はHBSで首宣告一歩手前だった! 「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。お待たせしました。マイケル・ポーターの登場です。本書から彼の経歴を紹介します。プリンストン大学で航空工学を学んだ後、ハーバードビジネススクール(HBS)のMBAコースでビジネスを学びます。そこでクリステンセンやアンドルーズの講義に感銘を受けるものの、その上のDBAコースは進まず、ハーバード大学経済学部の博士課程に進み、ビジネス経済学のPhDを取得します。ここに、後年、彼がミクロ経済学的素養を持って、産業分析と競争戦略を統合する「ファイブフォース分析(五大要因モデル)」を編み出す素地となったとは間違いありません。彼は、ビジネスや戦略そのものを学ぶより、より学術的で厳密な分析力を磨くことを優先したわけです。 ポーターの博士論文で生み出されたのがあの「ファイブフォース分析(5力フレームワーク、5大要因モデル)」でした。しかし、HBSに戻って後の准教授への昇進判断ではほぼ全員が反対に回る始末。その中で起死回生の逆転ホームランが、「ICA(産業と競争分析)」という新カリキュラム。応募者が殺到して、一躍売れっ子教授の一人に。 彼が1980年に発表した『競争の戦略』がベストセラーとなり、わずか35歳でHBSの正教授に就任することになりました。   ■ 「ファイブフォース分析」で儲けられる市場を選べ! 経営戦略論の歴史において、ポーターが残した業績が数々ありますが、その功績を経営ツールという形で選べば、 ① ファイブフォース分析(5力フレームワーク) ② 戦略3類型(コストリーダーシップ、差別化、集中) ③ バリューチェーン となります。①②が『競争の戦略』(1980年)で世に送り出され、③が『競争優位の戦略』(1985年)で発表されました。 「ファイブフォース分析」で、ポーターは自身が学んだビジネス経済学の手法を使って、業界構造を明らかにしようとしました。 ① 競争戦略を策定する際、もっとも重要なのは企業をその環境との関係で捉えること ② その環境として大切なのは、その企業がいる業界の定義とその構造 ③ 業界構造は自社にかかる圧力として理解でき、それには、下記の5種類がある   1)既存競合(Industry Competition)   2)買い手(Buyer)   3)供給者(Supplier)   4)新規参入者(Potential Entrants)   5)代替品(Substitutes) ④ その中でもっとも強い力が、決め手(=競争の最重要要因)となる (同書P142より) ①はバーナード以来の主張ですから新味はなく、ポーター独自の新規性は②③にあります。彼は、この5つの力を調べる詳細な約50項目にのぼるリストを作成し、これだけで業界構造は理解できると喝破しました。でも、経営実務の世界で、この「ファイブフォース分析」のフレームワークを借りて様々な業界と競争戦略の分析が試みられているのを目にしますが、ついぞ、ポーター教授に忠実に50項目のリストを網羅的に解析したケースはそうそうお目にかかることはありません。(^^;)   ■ 「ファイブフォース分析」が外部環境分析ツールとして威力を発揮しましたが、それで? ポーターは「ポジショニング」を重視しました。本書によりますと、彼の「ポジショニング」とは、 ① 経営戦略の目的は企業が収益(利益)を上げることである ② そのためには、「儲けられる市場」を選ぶことが大事である ③ かつ、競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなに企業努力を重ねてもムダである 上記②の「儲けられる市場」であるかのリトマス試験紙として、「ファイブフォース分析」が用いられることになります。「PLC戦略」(→第12回)のように、市場の将来や顧客の変遷を教えてくれるわけでも、「経験曲線」(→第13回)のように競合のコスト構造を推定してくれるわけでもありません。 ここからは脱線ですが、「会計学」では、「収益」と「利益」の語は厳密に使い分けられます。「売上高」のように企業に流入する貨幣価値が「収益」。「収益」とコストの差分で、いわゆる儲けと呼ばれるのが「利益」。経営戦略が支えるべき企業目的は、「収益」獲得ではなく、「利益」獲得なのだろうと思いますが。。。 閑話休題。 しかし、多くの戦略関係者にとって、アンドルーズの「SWOT分析」(→第11回)だけでは心もとない所にこの「ファイブフォース分析」が輝きを持って登場したのです。「SWOT分析」は、外部環境の「機会」「脅威」をどうやって見出すかは曖昧だったため、元来はミクロ経済学にその発祥を持つ産業分析の方法論を取り入れた「ファイブフォース分析」がもたらす、約50項目のチェックリスト(組み合わせればその数はもっと増える!)が明示されたのは、分析好きなアングロサクソン流のMBA経営者・戦略担当者にとっては大変重宝されたのです。 次回は、「戦略3類型」「バリューチェーン」について解説したいと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します