経営戦略概史(22)ハメルとプラハードの未来に向けた成長戦略「コア・コンピタンス」 - ついでにコンピテンシーとケイパビリティの違いも考えてみる

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■ 実行可能な成長戦略を示した『コア・コンピタンス経営』

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、「コア・コンピタンス経営」を世に送り出したゲイリー・ハメルとC・K・プラハラード師弟を取り上げます。

経営戦略と括られる論説は、その時々の好況不況や各国の産業の競争状態等、諸処のタイミング次第で流行り廃れ、ヒットするかしないかが左右されるきらいも確かに存在すると思います。経営思想はそれが流行する・多くの人に受け入れられる時代背景が必ず存在するというわけです。前回触れた「リエンジニアリング」は、米国産業の1991年を底とする不景気とバブル崩壊前後の日本企業が直近で一番輝いていた時期に、事業縮小と人員整理の道具に使われた節もあります。

その後の120ヶ月、10年にも及ぶ「アメリカ史上最長の景気拡大」(本書P193)の波に乗ったのは、後ろ向きの策に使われたリエンジアリング(またはリストラクチャリング)ではなく、拡大志向・成長志向の「コア・コンピタンス経営」の方でした。

既存の基盤事業にこだわりながらも、そこからの成長戦略を唱えた「コア・コンピタンス戦略」は、攻めの姿勢に転じていた人々に、どの方向に進むべきか、の指針を与えた
(本書P194)

2000年前後のITバブル崩壊まで、好調を続けた米国経済では、大企業が積極的にM&Aを展開し、大きく企業規模を拡大させます。そのM&Aも、従来の多角化を目指すのか、それとも同業種の中でのシェア拡大を目指すのか、投資機会をどのように利用するのか、米国の大企業は投資先選定の基準を求めていた時機を丁度捉えることに成功したのです。

ハメルとプラハードによる「コア・コンピタンス」を支える概念とは、次の通り。

・企業が収益を生む源泉は、事業のポジショニングにも、業務の効率性にもない
・その中間に位置する「コンピタンス」が大切であり、その中でも競争力やニーズ対応力の素になっているものが「コア・コンピタンス」
(本書P194)

ポジショニング学派の大家である、M.ポーターとの論戦の中で、「企業にとって大事なものが『コア』という主張は全く持って循環論である」という批判も浴びました。しかし、ポジショニング学派が唱える「持続可能的な競争優位をもたらす要因」の一要素として、一般には、「コンピタンス」「コンピテンシー」という経営用語が用いられていることは、両学派の激しい論戦をHBR誌面上で興味深く読んでいた筆者にはとても懐かしく滑稽でもあります。(^^)

 

■ コア・コンピタンスを実例と構造で理解する

本書P195には、3社のコア・コンピタンスが事例紹介されています。

● ホンダ
「エンジン技術」
これを軸にバイク、自動車、芝刈り機、除雪機にまで展開

● シャープ
「液晶技術」
これを強みにして液晶ディスプレイ、家庭用ビデオカメラ(ビューカム)、PDA(ザウルス)、薄型テレビ(アクオス)と展開

● フェデラル・エクスプレス
「荷物の所在追跡能力」
物流企業としての教職力の源泉。バーコード技術などはその構成要素。

コア・コンピタンスは、市場でのポジショニングと個別業務の間に入り込み、業務の強み(オペレーショナル・エクレセンス)を育んだり、市場での地位の確立に寄与したりと、業務や市場での地位と相互作用をする何か秘密の玉手箱のような扱いをされていました。

経営戦略(基礎編)フェデラル・エクスプレスのコア・コンピタンス

当時はIoTという概念も、ECやネットといった各種ICT領域のテクノロジー、RFID他センサー類や自動配送・仕分機器も十分なものは存在していませんでした。そこに着目して、小荷物配送市場でリーダーとなったのは、まさに慧眼でした。

コア・コンピタンスは特定の技術でも、販売チャネルやセグメンテーションされた一部の顧客層への強みでも、無形の知的財産でも、優秀で高度なスキルを有している人材でも、それがレバレッジを効かせて、企業成長を多角化でも、同業種の中での規模的拡大でも、解く各企業成長させてくれる要因ならば、なんでも、「コア・コンピタンス」と呼ぼうというものです。

それでは乱暴すぎるので、やや形式的にあえて言葉を用いて特徴を挙げて定義するならば、

① 顧客に何らかの利益をもたらす自社能力
② 競合相手に真似されにくい自社能力
③ 複数の商品・市場に推進できる自社能力

①は、顧客からの認知を重要視する立場を表しています。いかに、優れた技術を有していても、素晴らしい着眼点や戦略眼を持っていても、それが顧客に認められて、高い価値の対価として高い価格で購入されるように、バリュー・プロポジションを示さないと意味がないということです。つまり、顧客に対する訴求力の源泉となり得るか、ということです。

②はいわゆる「模倣可能性」が十分に低いものかどうかを指しています。どんなにすばらしい技術や、新奇の顧客接点であっても、それが容易にコンペチタ―に模倣されてしまえば、持続的な競争優位を築くことはできないからです。

③は複数の商品や市場に対しても応用できる汎用性を求めるものです。そもそも、コア・コンピタンスは、企業成長の素としての「何か」を意味するものとして捉えられているので、異なる用途や市場に投入できる新製品を生み出す技術、あるいは同一市場において、常に最先端の製品をどこよりも早く投入できる体制を築いていること。これが企業成長のための必要条件とされたからです。

 

■ 自社のコア・コンピタンスを見極めることは自社の未来を見通すこと

その後、RBV(Resource-Based View:資源ベース戦略論)を唱えたバーニーによる経営資源が持続可能な競争優位の源泉となる4つの条件(のちにVRIOフレームワークとなる)を示したことから遡及して、コア・コンピタンスの構成要件も次の視点から評価・整理されるようになりました。

① 模倣可能性 (Imitability)
② 移動可能性 (Transferability)
③ 代替可能性 (Substitutability)
④ 希少性 (Scarcity)
⑤ 耐久性 (Durability)

まあ、まねされにくいけど、他の市場・製品に展開可能な、希少価値があるがその価値がかなり長持ちするもの。それが「コア・コンピタンス」というわけです。

自社の中で、このような条件を有している要素を見つけ出して、それを有効活用できれば、市場で有利な立場になれる(競争に打ち勝つことができる)というのが、ケイパビリティ学派の主要なテーマとなりました。

それを本書(P196)では、次のような言葉で表しています。

業界分析が戦略の要などというのは神話に過ぎない! まずは自社と未来の競合相手をよく見比べて、自社のコア・コンピタンスを見極めよ。その上で、それが効きそうな、未来(5~10年先)の顧客・市場・サービスを見つけ出して自ら市場を開拓せよ

つまり、「ケイパビリティが先、ポジショニングは後」と言い切り、M。ポーターとの激しい論戦の火ぶたが切られたのでした。

 

■ (コア)コンピタンスとケイパビリティはどう違うのか?

「Competency(コンピテンシー)」と「Capability(ケイパビリティ)」は、事業企画や経営企画の実務では類義語として扱われているので、筆者などは好きに呼べば? と感じているのですが、念のため、語義を明らかにしておきます。

「Competency(コンピテンシー)」は、「能力」の他に「適性」「適格者」「技量」「力量」「特質」と訳され、「一定の水準を満たす源泉となっている力」というのが経営用語としての意味。

「Capability(ケイパビリティ)」は、「能力」の他に「性能」「才能」「可能出力」と訳され、「何かを遂行することできる能力」というのが経営用語としての意味。

企業内にたくさん存在するケイパビリティをひとつ、または複数を束ねて、他社との競争戦略上、持続的に優位に立つことができる経営能力がコンピテンシーという関係になっていると一般に理解されています。

彼らの著作が出た1994年は、本書(P197)でも触れられていますが、商用インターネットの開設直後で、Webブラウザー製品の隆興が、モザイク→ネットスケープ・ナビゲーター→インターネット・エクスプローラーとトップシェアの移り変わりが激しく、とても将来を見通せるものではなかったと少々皮肉的にまとめられています。また、本書(P198・199)のコラムで、味の素の「アミノ酸」技術をテコにした多角化をビジネスケースにした、HBSでの授業で、学生たちはこぞって味の素の多角化戦略(甘味料、加工食品、飼料用アミノ酸、医薬品など)を「集中と選択が足りない」として撤退すべきとして断じましたが、結果は皆さんのご存知の通りです。

ひびきの良い言葉による、ふわふわとした概念を振りかざして、きれいなストーリーやロジックを描いても、会社の将来を見通し、企業を成長させる要因を探すことは、また別の才能が必要なようです。(^^)

経営戦略(基礎編)経営戦略概史(22)ハメルとプラハードの未来に向けた成長戦略「コア・コンピタンス」 - ついでにコンピテンシーとケイパビリティの違いも考えてみる

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