(’17戦略 そこが知りたい)(8)AI競争 勝ち抜くには? 日本IBM社長 ポール与那嶺氏 使い方まで丸ごと提案

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■ AI(人工知能)をテクノロジーではなくビジネスで語ってみる!

経営管理会計トピック

AIが人の仕事を奪う、という警鐘が鳴らされています。その真偽の程はともかくとして、その程度、対象職種、代替速度を真剣に議論し、社会全体で構造変化と技術進歩に伴う不可避的な失業の備えを論じるべきです。そして、AIにまつわる人間の仕事のあり方をもう少し突っ込んでみていく必要がありそうです。

2016/12/31付 |日本経済新聞|朝刊 (’17戦略 そこが知りたい)(8)AI競争 勝ち抜くには? 日本IBM社長 ポール与那嶺氏 使い方まで丸ごと提案

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「人工知能(AI)を事業変革に生かす企業が増えている。日米のIT(情報技術)大手が需要を取り込もうと人材確保や顧客開拓に躍起になるなか、先行するのがAI技術を使ったコンピューター「ワトソン」を擁する日本IBM。競争の最前線についてポール与那嶺社長に聞いた。」

(下記は同記事添付のポール与那嶺氏の写真を引用)

20161231_日本IBM_ポール与那嶺社長_日本経済新聞朝刊

足下のワトソン関連事業の国内での受注状況は、記事によりますと、

・日本航空やソフトバンクなどで本格利用が開始
・収益の大半はワトソンで何をするかを顧客に提案するコンサルティングと開発したサービスの実証実験から得ている
・メガバンクや保険会社を中心に約100社の顧客を抱えている
・2016年2月の日本語版ワトソンの発売以降の契約の途中解除はゼロ

ということで活況そのもの。ワトソンのコンサル部隊の人手が足りず、採用や配置転換により、2017年中に倍の600人体制を目指しているといいます。ここのソフトウェア技術者ではなく、コンサル部隊の増員という点がミソです(詳細後述)。

ほぼ、1年前の同テーマのインタビュー記事から起こした過去投稿は次の通り。
⇒「IBMのAIとIoT戦略はどこに向かうのか? 2016年2月後半の日経新聞まとめ

もうこの時点で、ハコだけあってもダメ。よりもっと多くのデータをワトソンに喰わせないと、という着想はありました。

 

■ IBMのAIへの取り組みは、人類社会のAIとの付き合い方研究の最前線!

同記事で、ポール与那嶺氏が次のようにコメントしています。

「ワトソンはあくまでもトリガー(引き金)だ。道具としてのAIを『はい、どうぞ』と顧客に渡して成り立つほど簡単なビジネスではない。ソフトウエアとしてワトソンを提供するほか、システムを構築し、クラウドの導入や開発したサービスに対応する新組織の編成まで手伝う」

「最近、競合他社の施設を見学する機会があった。確かにAIは素晴らしかったが、経営者に『すごいAIだけど売れないでしょう』と尋ねると『そうなんだ』と言っていた。競争のポイントはAI自体でなく、包括的なサービスにある。コンサルからソフトまで幅広さがIBMの強みだ」

この2つのコメントが意味するところは、AIアルゴリズムをいくら制作して、ただ顧客に提供しても、この分野ではビジネスが成立しない(マネタイズできない)ということです。

(参考)
⇒「(経済教室)人工知能の光と影(上)日米欧、倫理問題 対応急ぐ 様々な可能性 視野に議論 西田豊明・京都大学教授 - 技術の専門家にもノブレスオブリージュを!

上記の過去投稿にて、西田教授が近未来のAI活用時代の人間の立場を次のように分類しています。その世界では、AIは、自然言語を用いた「人型インターフェース」(日本語製ワトソンも同様)として明示化されています。

① 通常の市民(人型インターフェースの一般ユーザ)
②「人型インターフェース」を操作する人
③ AIの製造販売をする立場の人
④ AIの研究開発をする立場の人

①について
通常、内燃機関の機構を知らずに自動車に乗車するように、AIアルゴリズムの内容を知らずに、人型インターフェースを使用することになる一般ユーザは、特定領域におけるAIの情報処理能力がはるかに通常の人間(ユーザ)の能力を超える事態となると、その有効な使い方や悪用への対処法が分からなくなります。

②について
自分自身がアルゴリズムを理解できないAIを積んだ人型インターフェースを操作して、ビジネスを行う担当者(銀行窓口管理者や自動工場でのオペレータなど)は、人知を超えた判断や行動(自動運転など)を行うAIが引き起こす損害賠償や法的責任を引き受けざるを得なくなります。

③について
これはハコとしてのAI自体を製造・販売する人(IBMなど)と、AIを用いたサービスを提供する人(金融機関や物販会社、サービス会社など)とでは立場が異なりますが、後者とした場合、損害賠償責任やPL法による製造者責任を規定する法を改正すると共に、実際に提供したサービスが引き起こす不具合について迅速に対応する体制を構築する必要があります。

④について
これは、IBMなど自身の問題なので、ここでは取扱いを割愛します。

つまり、AIを使ったビジネスが本格的になってきた現在、アルゴリズムを積んだハコとしてのAIマシンをそのまま販売しても、怖くて誰も買ってくれません。まさに、世の中の商売の基本がプロダクト売りからソリューション売りに移行し、「所有」から「シェア/利用」にマネタイズの基本が移っていったのに合わせて、どのようにして、AIを使いこなし、AIが引き起こす損害や法的責任を処理するか、その知恵がサービス価値を生んで、利益の源泉となっているのです。

それは畢竟、AIと人間の付き合い方そのものの実験でもあるわけです。

 

■ それでもIBMのワトソンの一人勝ちにならない理由とは?

同記事によるポール与那嶺氏のコメントはまだ続きます。

「消費者のデータを持つグーグルや米マイクロソフトは脅威だ。だが我々は金融から自動車まであらゆる業界向けにシステムを提供し、その知見がある。企業向けでは断トツだと思う」

このコメントを、グーグルやマイクロソフトが、AIのマーケットの主戦場を「BtoC」、IBMが「BtoB」を選択して棲み分けしていると短絡的に理解することは早計です。「BtoB」の先の真の顧客はCですので、実際には、「BtoBtoC」の構造、すなわち、「お客様のお客様」のニーズや感知してくれる付加価値を真に理解しないと、ビジネスにはならないわけです。

つまり、第3次ブームの渦中にあるAIは、「ディープラーニング(深層学習)」に代表されるビッグデータの統計的処理が生命線であり、より賢く、より適切な正答を引き出すには、より多くのサンプルデータに当たる必要があるのです。それゆえ、膨大なネット上のデータを保有している、グーグルやマイクロソフトが、①膨大なデータを活用した独自のAIをサービス提供する、②その他のAI開発会社に対して、データ提供で儲ける、という2点の競争優位がある、とポール与那嶺氏も暗に認めているのです。

ただし、「BtoB」の領域で、実際のビジネス現場における知見が、その現場で発生するビッグデータの効率的な収集とAIへの効果的な喰わせ方に一日の長があるとも考えており、その点において、グーグルやマイクロソフトへの対抗措置となる、その知見を現在豊富に持っているのがコンサルタントである、という文脈につながるのです。

ビジネスの現場で現役のコンサルタントを生業としている筆者も、AI全盛時代に何がしかの貢献ができるのでしょうかね。それは、そもそもITリテラシーに乏しく難しいようですが。(^^;)

 

■ AI活用のリスクをどう管理するか? ユーザと開発企業を公的認証制度で守る!

同日の日経朝刊に関連記事が掲載されていました。
(単発記事をこうして関連付けてひとつの方向性を提示するのも本ブログの編集方針のひとつとしています)

2016/12/31付 |日本経済新聞|朝刊 AIに公的認証 総務省方針、利用者の責任限定

「総務省は企業が開発する人工知能(AI)に公的認証を与える制度を立ち上げる方針だ。安全性やセキュリティーなどを評価する。「認証済み」を使う企業や個人で事故が起きた場合の責任の範囲を抑えて利用しやすくする計画だ。AIは急速に進歩しているが、暴走して人間に危害を加える恐れがあり、認証制度を通じて安全性を高めて開発・普及を促す。」

(下記は同記事添付の「公的認証の評価ポイントと普及策」を引用)

20161231_公的認証の評価ポイントと普及策_日本経済新聞朝刊

おあつらえ向きに、同記事は次のように言葉を続けています。

「公的認証の対象は米IBM「ワトソン」のようなコンピューターから、そうしたコンピューターを搭載したロボットまで幅広く想定している。今は研究開発の特別な規制や指針はない。」

こうした規制や公的評価制度の背景には、マイクロソフト製AIの「「Tay(テイ)」がSNSでユーザと会話しながら、自動学習していく公開研究目的の試用中に、ヒトラー礼賛の言葉を数多く学習したために、現在の人類社会では間違ったとされるヒトラー等、その他の差別的発言を繰り返し、試用停止に追い込まれた事件も意識されていると思われます。

公的認証のポイントとして同記事では、下記のようにまとめられています。
① 人間が必ず制御できるようにする
② 人間や他のAIが常に状況を監視して、非常時は停止や修正ができる仕組みにする
③ サイバー攻撃を受けても簡単に操られたり情報を抜き取られたりしない高度なセキュリティーを求める
④ 個人情報の取得を制限したり、取得してもすぐに匿名化したりするなど、プライバシーへの配慮を求める
⑤ 安全性の面では不必要に強力なモーターを搭載しないなど、暴走しても被害を最小限にとどめる安全設計を求める
⑥ 事故を起こしたときには可能な範囲でAIの判断・動作の理由を説明するよう開発者に求める

当然、AIサービス提供側への認証手続きを中心とした安全規制の一方で、

「ロボットが人を傷つけるなどの事故を起こしても、利用者側の責任を抑える仕組みを導入する。AIは学習した結果が判断や動作に影響するため、利用者も一定の責任を問われるリスクがある。総務省は特別法を制定することで、利用者は安全性の高いAIを使っていたことを法的に位置づけたい考えだ。ただし法曹界との調整も必要だ。」

ということで、ユーザ側の法的責任の権限や責任範囲の明確化を行うと共に、公的認証を得た開発会社の賠償責任が重くなりすぎないよう配慮し、
① 新たな賠償責任保険制度の立ち上げ
② 政府や地方自治体などがAIを導入する際には、入札で有利になるような基準を設定

という政策で迎え撃つとのこと。

厳格な公的規制を導入すると技術進化を妨げる可能性もあり、欧米では開発企業による民間団体がすでに立ち上がっており、そこで官民総出で議論されています。規制がかかっている中でも自然と、安全性が高いものが市場で選ばれやすくなるような制度が望ましいと言えますが、日本政府がお好みの護送船団方式・官製規制中心主義で、グローバル競争にさらされているこの分野で、日本企業がリーディング企業として生き残るか、少々不安な所も無いでもありません。(^^;)

 

■ AI活用のリスクをどう管理するか? 最後は人間の知恵の問題となる!

筆者の本心として、最後の最後は、法制度や規制で何とかなるモノではない、と諦観しています。言ってしまえば、一人一人の自覚の問題。さてさて、トランプ旋風やブリクジットも世論のなせる業。来るAI時代に我々はどう立ち向かうべきか? まあ、肩の力を抜いて、新年早々、落ち着いて考えてみると。。。

2016/12/13付 |日本経済新聞|電子版 AIが奪う仕事に未来の芽 野口 功一(PwCコンサルティング パートナー)

「人工知能(AI)がビジネスの世界ではポピュラーになっている。人間の最大の特徴である「知能」を「人工」にしてしまうというすごいことが実現されているわけである。2045年にはAIが人間を超えるという説もあり、テクノロジーが進化すると人間の仕事が奪われるという話もよく耳にするようになった。
AIが進化したら、人間のやることとして、一体何が残るのであろうか。」
[初出:日経産業新聞2016年12月13日付]

(下記は、同記事添付の野口功一氏の写真を引用)

20161213_のぐち・こういち 主にイノベーションを起こすための社内組織・風土の改革のコンサルティングを行っている。スタートアップ企業や地方創生の支援にも取り組んでいる。海外の事例にも詳しい。_日本経済新聞電子版

野口氏が同記事で大変面白い指摘をしてくださっています。

ネット上での検索など、最もAIが力を発揮するビッグデータ解析だと一般的には思われがちですが、

「ウェブ検索は、情報や知識を取得するためになくてはならない重要なテクノロジーである。だが、検索ワードを考えるのも入力するのも人間だ。自分が欲しい情報を最短で的確に取得するために検索ワードを考え、その設定によって情報の精度が上がる。つまり、検索ワードを考える能力が必要ということである。」

最適な検索ワードを駆使して、最適解を導くためには、検索タームを選択する人の知識や教養、人脈、得意分野などに左右されます。それゆえ、その人の人生そのものが検索結果の精度における格差や違いを表出させることになります。

第3次産業革命までの従来のテクノロジーの役割は、大まかにいうと人の作業を支援する「省力化」技術が中心でした。これからAIがその力を発揮する第4次産業革命以降は、AIを代表とする未来のテクノロジーの役割が代替化や創造性などにシフトすると、それは支援ではなくいわば人間と一体化して価値を創造することになります。テクノロジーの役割が人間に近くなればなるほど、単純に道具として使いこなすだけの器用さだけではダメで、人間の持つ経験や構想力、デザイン力、判断力、そしてヤル気や情熱といった生身の人間そのもの人生(経験や哲学など)が重要になる世の中となるでしょう。

最後に野口氏の言葉で締めくくります。
「今はAIがブームになってもてはやされているが、そのうちに様々な問題が起きてAIへの批判が始まるかもしれない。そのとき、AIにはできない仕事をこなせる、ピカピカに磨かれた人間の存在感は大きくなる。大事なのは、やはり人間なのである。」

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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