バフェット氏、不振IBMに見切り 保有株3割売却 – 報道の裏にはバークシャー・ハサウェイの経営実態がある!

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■ 逃げるウォーレン・バフェット、バージニア・ロメッティを走らす!

経営管理会計トピック

「よく分からない、知らない会社には投資をしない」と言明していたウォーレン・バフェット氏。6年前に米IBMやアップル株などハイテク株を取得した時には、事業内容はよくわからないが、ファンダメンタルズが「買い」を示していたから、という理由による取得だったように記憶しています。IBMにとって大株主とはいえ、一人の投資スタンスが大企業の株価を動かし、その動向がニュースになる。未だに世界の耳目を集める当代きっての投資家の面目躍如といったところでしょうか。

2017/5/7付 |日本経済新聞|朝刊 決算短信の簡素化容認 東証方針、17年3月期から 情報開示 後退に懸念も

「【オマハ=山下晃、ニューヨーク=稲井創一】米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、保有するIBM株の約30%を売却したことが明らかになった。約6年間IBM株を保有し続けたが、同氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは17年1~3月期に前年同期に比べ27%の最終減益になった。20四半期連続の減収と反転攻勢に出られないIBMに見切りを付けつつあるようだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「バフェット氏投資後のIBM株はさえない」を引用)

20170507_バフェット氏投資後のIBM株はさえない_日本経済新聞朝刊

同記事は、バークシャーのIBM株保有後の動向について次のようにまとめています。
・2011年7~9月期にIBM株を購入
・その後買い増して2016年12月末時点で8123万株(8.65%)を保有するに至る
・投資を始めた翌年の12年4~6月期からIBMは「減収街道」を歩み始める
・2017年5月4日夜、米経済番組「CNBC」で2400万~2500万株放出(5日時点の株価で4000億円超)を明らかに

ウォーレン・バフェット氏の投資スタンスにはいろいろと特徴がありまして、
① 事業の内容が簡単に理解することができる
② 長期的に業績が良いことが予想される
③ 経営者に能力がある
④ 魅力的な価格である(本来価値よりお買い得になっている)

というのがその主な内容になります。

⇒「〈FT特約〉知恵に欠ける人工知能投資 バフェット氏にかなわず - AIが人間に投資で勝利する意味は、AIが完全義体となる時である

③の経営者の資質について、
「ジニー(バージニア・ロメッティ最高経営責任者=CEOの愛称)はよくやっている」
と同記事でも評価しているのですが、それだけでIBM株の保有を続ける理由とはならないということです。

そのロメッティ氏の同様の大きさは次のように報道されています。
「バフェット氏はCNBCで数週間前にロメッティ氏が「株を売るという噂を聞きつけて電話をかけてきた」とも明かした。米投資業界では「バフェット氏が持っているだけでIBM株は7%ほど高く評価されていた」との声もあり、ロメッティ氏がいかに神経を使っていたかが分かる。バフェット氏の株売却が伝わると5日のIBM株は前日より2.5%下げた。」

ではどこで、IBMは道を間違った(バフェットの投資継続を取り付けられなかったという限定的な場面で)のでしょうか?

「市場での後ろ盾を失ったIBMの苦境は深い。ロメッティ氏は就任から15年までの4年間で計440億ドル(約4兆8000億円)を自社株買いに投じ、バフェット氏ら投資家の期待に応えようとしてきた。だが、バフェット氏の決断は株主還元よりも成長を課題として突きつけた。」

これでは完全にバフェットの信頼を勝ち取ることはできません。従来から、バフェットは、
①ファンダメンタルズ的に割安に放置されてきた銘柄を購入する
②いったん保有した銘柄は長期保有することで複利効果を最大限に享受する

すなわち、「Buy and Hold」戦略。

この投資哲学に沿うためには、持続的な企業成長により企業価値が増殖し続けることが見込める銘柄となります。それゆえ、稼いだキャッシュを成長投資に振り向けるよりも、株主還元に回すことで投下資本の拡大再生産スパイラルに乗らずに、目先の1株当たり価値の維持には魅力を感じず、小手先の自己株取得による株価上昇は、マイルドは「タコ配当」と同様なので、バフェットのお眼鏡に適うわけがありません。IBMはEPS(1株当たり利益)を全社を挙げて管理するKPIツリーの最上位に掲げていましたが、その管理スタンスはついにバフェットと折り合いがつかなかったことを証明しました。

⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず

■ マスコミ報道の時系列分析でおやっと思った瞬間。ワトソン賛歌からそれは始まった!

一連の株価騒動が明らかになる直前からの日本経済新聞の報道を時系列で追ってみます。

2017/4/16付 |日本経済新聞|朝刊 AI「ワトソン」年1兆円稼ぐ IBM、初期市場で先行 業務改善、GM・イオン採用

「【ニューヨーク=稲井創一】米IBMの人工知能(AI)型コンピューター「ワトソン」を使ったサービスやソフトウエアの関連売上高が日本円換算で年1兆円に達したもようだ。技術開発で先行し、顧客の業務改善を促すコンサルティングのツールとして使うことでAIビジネスの初期市場で圧倒的な存在感を放つ。ただ競合の追い上げは激しい。先行者利益をどこまで保てるのか。」

(下記は同記事添付の「IBMはワトソンの用途を広げている」を引用)

20170416_IBMはワトソンの用途を広げている_日本経済新聞朝刊

同記事では、
「米マイクロソフトなど世界のIT(情報技術)大手が一斉にAIの活用に乗り出す中、IBMがビジネスで先行するのは「伝統」によるところが大きい。」
というふうに、1997年にディープブルーがチェスの世界チャンピオンを破り、2011年にはワトソンがクイズ番組でトップに立つなど人間と同等以上の能力を持つAI開発の先駆けとなり同市場をけん引し、2014年からは本格的に事業化し、強い営業力と相まって同分野で大きなプレゼンスを示しています。

(下記は同記事添付の「ロメッティ氏はワトソンにIBMの成長を賭ける」を引用)

20170416_ロメッティ氏はワトソンにIBMの成長を賭ける_日本経済新聞朝刊

もっとも、IBMはAIではなく、「コグニティブ・コンピューティング・システム」と表現し、「与えられた情報を処理する単なる機械ではなく、人間のように、自ら理解・推論・学習するシステム」であるという位置づけで考えられています。人間と対立するAIではなく、人間をサポートする機能を提供するというスタンスです。

(出典:コグニティブって知ってる?AIとは違うIBMの目指す世界とは|IBM

「ただ、浸透した本当の理由はIBMがIT構築を軸にしたコンサルティング会社というところにある。政府組織、金融、小売り、製造業などあらゆる業種で幅広いITサービスを提供しているため顧客と話し合いながら使い勝手のいい仕様に調整しやすい。IBMはワトソンを使った事業売上高を公表していないが、16年12月期に1兆円を上回ったようだ。全体の1割を大きく超えている。」

というコグニティブ領域でのビジネス拡大は結構ですが、
「通常のITシステムの提供やコンサルサービスがワトソン経由に置き換わったものもあり、純粋な売上高の増加とはいえないが、初期市場の獲得で先行している」
という指摘はまさに正鵠を得ており、コンサルティングサービスが市場拡大に大きく寄与しているのと反面、既存サービスをカニバッているのも事実です。これぞ、典型的な「イノベーションのジレンマ」といえましょう。

■ マスコミ報道の時系列分析でおやっと思った瞬間。やや遅れて決算発表が公表!

その後、IBMの2017年第1四半期の決算内容が明らかになります。

2017/4/26付 |日本経済新聞|夕刊 (ウォール街ラウンドアップ)虎の子躍進も浮かばぬIBM

「20四半期連続減収――。IBMが18日に発表した2017年1~3月期決算では、売上高は181億5500万ドル(約2兆円)と前年同期比2.8%減だった。減収決算を発表した翌19日のIBM株は5%下落。20日もダウ工業株30種平均が1%高と反発するなか、IBM株は小幅高にとどまった。」

「クラウド時代では、顧客が自前でサーバーやソフトなどを購入しなくても、安価にITを活用すできる。IBMの収益を支えてきたメインフレーム(汎用機)や従来型のコンサルなどが不要になる。そのクラウドでIBMは決定的に出遅れた。」

同記事では、クラウド事業で急伸するアマゾン・ドット・コムと対比させるコメントを寄せています。

「今年に入り、クラウドと人工知能(AI)型コンピューター「ワトソン」の部隊を一体運営とした。クラウド分野の挽回策として、虎の子のワトソンを全面活用する。
「株主総会でワトソン導入をアピールしたい。なんとかならないか」
こんな要望が寄せられるほど、足元では企業のワトソンへの関心が高まっている。長年にわたる技術の蓄積により、ビジネス現場でのAI活用ではワトソンが先行。IBMにとってワトソンは「切り札」だ。」

IBMもクラウド事業での対遅れを挽回すべく、「ワトソン」との連携で市場に切り込みたいとする思惑。まあ、IT専門家でも意見が分かれるところに、バフェットがIT独特の嗅覚を持ち得るものでもなく(誰もそんなことを期待もしていないと思いますが)、冒頭の保有株放出の結果となることは自然な流れであるとも言えます。

持ち上げておいて落とす。もしくは、20四半期連続減収の決算発表前の株価浮揚のアドバルーンだったのか。いずれにせよ、IBMの広報担当と経済紙の取材記者との間の闇は大衆のあずかり知らぬところです。(^^;)

■ バークシャー・ハサウェイは意外にも純粋な投資ファンドではなかった!

一方で、ある意味IT音痴を自称するバフェットですが、アップル株は増やし、アマゾン株の買い場を失ったことを後悔していることも明らかにしています。

2017/5/7付 |日本経済新聞|電子版 バフェット氏「失敗した」 アマゾン投資機会逃し後悔 86歳、今年も質疑応答6時間

「【オマハ〈ネブラスカ州〉=山下晃】「(IBMの投資は)間違っていた」。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏(86)は6日、同氏が率いる投資会社の株主総会でIBMへの投資を悔やんだ。一方で、足元で投資規模を増やしたアップルは「消費者向け企業」として捉えて評価。アマゾン・ドット・コムの経営を評価するなどテクノロジー企業への言及が目立った。」

(下記は同記事添付の「ウォーレン・バフェット氏は6日、同氏が率いる投資会社の定時株主総会に臨んだ(米ネブラスカ州オマハ)」を引用)

20170507_ウォーレン・バフェット氏は6日、同氏が率いる投資会社の定時株主総会に臨んだ(米ネブラスカ州オマハ)_日本経済新聞朝刊

アップルへの言及は、
「IBM株については圧縮を迫られたがバフェット氏がITハイテク分野から再び遠ざかるわけではない。バークシャーはアップル株を今年になって大幅に買い増し約180億ドルを保有している。「IBMとアップルは評価の仕方が異なる」とバフェット氏は指摘。アップルは「消費者の企業」で、顧客の定着性が高く、コカ・コーラのような企業に育つと見ている。」

アマゾンへの言及は、
「一方でIBMのクラウド分野のライバルとして立ちはだかったアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏を称賛し、投資してこなかったことを悔やんだ。「人に質問をするなどいろんな方法で自分の幅を広げることができたはずだ。(アマゾンなどへの投資機会を逃し)失敗した」と述べた。」

こういう発言を聞いていると、確かにバフェットは卓越した投資手法を持ち得た賢人の名にふさわしい銘柄選別のセンスを持ち合わせています。ですが、純粋な株式投資の目利きだけでフォーチュン誌の富豪ランキング上位に毎年名を連ねているわけではありません。

一方で純投資については、発言が適時(ころころと?)変わります。それは、純投資というスタンスから来るごく自然なものとして受け止め、これを変節漢と非難するには当たらないでしょう。

バフェット氏、今後2年でIBM株売却より購入の公算=CNBC

[ニューヨーク 2日 ロイター] – 米投資会社バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェット会長兼最高経営責任者(CEO)は2日、今後2年でIBM株を売却するよりは購入するする公算が大きいとの認識を示した。

バフェット氏はCNBCに対し、IBM株の原価を1株当たり170ドル近辺と想定しているとしつつも、その水準でも売却する意向はないとし、「時間の経過とともに決定することになるが、今後1─2年で売却するよりは購入する可能性の方がはるかに高い」と語った。

バフェット氏の昨年末時点でのIBM株保有比率は8.59%。

●出典:バフェット氏、今後2年でIBM株売却より購入の公算=CNBC|ロイター

⇒「バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み

上記の過去投稿で引用した日本経済新聞社の記事:

2015/8/18|日本経済新聞|朝刊 バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み

に添付のあった説明図を2つ引用

巨大複合企業を形成するバークシャー_日本経済新聞朝刊_20150818

バークシャーの利益構造_日本経済新聞朝刊_20150818

これを見るに、バークシャー・ハサウェイ社の利益は8割超が事業投資、すなわちきちんと経営権を取得した企業運営から得られた果実であり、純投資から得られる利益は2割にも満たないという事実です。バフェットは、割安株を買うだけでなく、これはと思った企業の支配権も握り、経営にコミットして初めて巨額の利益を得るのです。

冒頭紹介した記事にあった、
「バークシャーの経営戦略も変化している。重視するのは傘下に収めた企業の業績で、1~3月期は保険事業の不振が減益の要因だった。値上がり益を狙った株の売買は優先順位が低下し、上昇する兆しが見えないIBM株を手放すのは自然な流れだった。」

つまり、バークシャー・ハサウェイにとっては、主力の傘下企業の業績悪化から、純投資として購入していたIBM株を利益調整に売却しただけの事。それが投資対象だったIBMにとっては減収決算発表に重なり、株価水準切り下げに大きなインパクトを与えてしまいビッグニュースになった、そういう落ちでした。これを言いたくて5000文字以上の投稿をした筆者も酔狂というしかありませんね。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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